メールマガジン
分権時代の自治体職員
第97回2013.04.24
4月号 インタビュー:西宮市研修厚生課の皆様(上)
あるきっかけで、西宮市の研修への取り組みが積極的であることを知り、研修厚生課の研修チーム係長丹上さんと連絡をとりあった。いろいろいいお話をお聞きできたので、メルマガのインタビューをお願いしたところ、「私だけでなく、研修厚生課の皆を取り上げてほしい」という要望をいただいた。このメルマガでのインタビューはこれまで、どこかの自治体の1人をターゲットとしてきたが、今回は、チームインタビューを行うことになる。
西宮市研修厚生課の皆様
稲継 今日は西宮市役所にお邪魔して、研修厚生課の皆さんにインタビューします。初めに、西宮市の研修については、ここのところ全国的に注目されているところですが、いくつかのポイントがあります。メンター制度、ステップアップ研修、国内先進事例研究研修ということで、それぞれの担当の方にお話をお聞きしたいと思います。まず、メンター制度について、榊原さんにお尋ねします。メンター制度というのは、どういうものでしょうか?
榊原 メンター制度は、新入職員が入所後、目標を持って意欲的に業務に取り組んでいけるように、同じ職場の若手職員が指導育成者(=メンター)となって、業務の中で仕事の仕方などを指導する制度です。西宮市では2つのシートを使ってこの制度を実施しています。1つは新入職員が自ら目標を設定し、その目標の達成度を定期的に振り返る目標管理のシート、もう1つは新入職員とメンターが交換日記方式でやりとりするシートです。メンター制度は、この2つのシートを軸として、新入職員には自学力を、メンターとなる若手職員には指導力を養ってもらうことをねらいとして実施しています。
稲継 交換日記というのは非常に懐かしい響きを持っていますが。
一同 (笑)。
稲継 中学生とか小学生のときに、友だち同士や恋人同士、あるいはグループで交換日記のようなことを。私も高校のときに、6人ぐらいのグループの中で交換日記をして、当時の青春、悩み多きいろいろなことを書いて交換した記憶がありますが、その交換日記というのは具体的にどういう感じで進んでいくのでしょうか?
榊原 「新入職員コミュニケーションシート」というシートを使って、基本的には1週間に1回、新入職員が仕事の中で気づいたこと、感想、質問などを記入し、それに対してメンターがコメントを返すという形で進めます。
研修チーム副主査 榊原紗緒里氏
稲継 具体的に、どんなことを書かれることが多いんでしょうか? 直接見られることはありますか?
榊原 はい。約3カ月間の制度終了後、研修厚生課にシートのコピーを提出するよう、新入職員にあらかじめ伝えていますので、提出されたシートはすべて読んでいます。書かれている内容は、例えば、「電話で聞かれたことにうまく答えられなかったのですが、どうしたら上手に答えられるでしょうか?」といった一般的な質問もあれば、技術職の新入職員からは「設計図面上で考えてもわからなかったことが、現場に行って自分の目で見てわかるようになった」といった感想などもあり、本当に様々です。それぞれ新入職員の個性も出ていて、とても興味深いものになっています。
稲継 普段聞きにくいことでも、書くことは、わりと容易だという場合もあるし、それに対してフィードバックがあるということは、新人としては非常に教えてもらいやすい仕組みとも言えますよね。
榊原 そうですね。交換日記方式で基本的に1週間に1回というペースにしていますので、例えば業務中に聞きそびれてしまったことを質問する機会にもなっており、「新入職員コミュニケーションシート」が、新入職員とメンターとがコミュニケーションをとる際の一つの大事なツールになっているのではないかと思います。
稲継 なるほど。もう一つおっしゃっていた、目標シートとはどういうものか教えてもらえますか?
榊原 「新入職員自分磨きシート」と呼んでいるシートでして、新入職員は、まず「1年後どんな職員になっているか?」という大きい目標を記入します。次にその職員像に近づくための5つの具体的な目標を設定します。続いて、自分が「これは得意だ」と思っていることを書き出すことで、目標達成を効果的に進められるようにしています。
稲継 実際にそれを実行されて、どういう効果を感じられますか?
榊原 そうですね。業務に追われると、どうしても目標を忘れがちになりますので、定期的な振り返りを促すため、具体目標については、月に1回、5段階評価の星取り表で自己評価を行います。この振り返りによって、設定した目標にどこまで近づけているのか、自分の中で確認できるようにしています。短期目標と長期目標の両方があることで、新入職員のより高い成長が期待できるのではないかと考えています。
稲継 自分磨きシートは、自分つまり新入職員と、メンターと、あとはどういう人がご覧になるんですか?
榊原 メンター制度は、基本的には新入職員とメンターがメインとなりますが、この2人だけで完結する制度にしてしまうと、メンターに責任が重くのしかかってしまいます。そのため、新入職員とメンター以外に所属部署の係長(または課長補佐)と所属長も巻き込んで、職場全体で新入職員を支えるという点が、この制度の大きな柱になっています。係長(または課長補佐)、所属長にも「新入職員自分磨きシート」・「新入職員コミュニケーションシート」の両方をご覧いただき、新入職員とメンターが共に成長する過程を見守ってもらうようにしています。
稲継 なるほど。メンターさんや、係長、課長補佐、あるいは課長、といった指導育成責任者といった人たちの役割も重要になってくるんですが、研修厚生課としては、この人たちに対してどういう導きをやっておられますか?
榊原 制度をスタートさせる前に、メンターと所属部署の係長(または課長補佐)を対象とした「新入職員受入研修」を実施しています。
この研修は、冒頭で制度の概要やねらいを説明した後、外部講師による講義の中で、メンター制度を効果的に進めるために不可欠なOJTの手法を学ぶというものです。この研修も、メンターだけに育成の責任を負わせるのではなく、職場全体で新入職員をフォローする体制をつくるための仕掛けの一つです。係長(または課長補佐)には、メンターが指導について悩んだり、困ったりしたときの良き相談役になってもらえたらと考えています。
稲継 なるほどね。メンターは、新人を育成するという重要な役割があるけど、教えている中でメンター自身も成長するということもありますよね。
榊原 そうですね。メンターを担当する若手職員が、いずれ管理職となった時、人を指導するスキルは必要不可欠ですので、若手職員には、メンター制度を通じて指導育成力を体得してもらえたらと思います。
稲継 はい、どうもありがとうございました。次に、ステップアップ研修について、お伺いします。空中さん、よろしくお願いします。
空中 お願いします。
稲継 西宮市のステップアップ研修について、教えていただけますでしょうか?
空中 はい。ステップアップ研修とは、入所2年目から11年目の若手・中堅の一般職員を対象にした研修です。これまでの階層別、例えば入所5年目研修とか10年目研修といった形の研修ではなく、2年目から11年目の職員の方々が、今現在求めているニーズのある科目、あるいは職場の状況に応じて必要な科目を受講でき、また、長期的な視野に立って計画的に受講できる、選択型の研修です。
稲継 昔の階層別研修というのは、どちらからというと義務的な、これとこれと必ずこの日程で受けろということでしたが、ステップアップ研修というのは、今おっしゃった、選択型というところに特徴があると考えたらいいんでしょうか?
空中 はい、そうです。ただし、すべて選択にしてしまうと、本来受講すべき必要な科目が受講されない恐れがあるので、その中でも必須科目と選択科目の2つに分けて、実施しております。
稲継 選択科目を選ぶ際に、受講者の皆さんは、自分の弱みを強化するためにこれを選ぶとか、あるいは自分の興味のあるところを伸ばすとか、それぞれが自分の興味に従って、あるいはニーズに従って選ぶことは可能でしょうか?
空中 はい、基本的に可能でございます。ただ、選択の際に所属長と相談するようにこちらから促しておりますので、所属長が「実際、こっちのほうがいいんじゃないか?」ということであれば、課の中で当然そのような動きはあるかと思いますが、基本的には受講生が受けたいと言ったものは受けられる仕組みになっております。
稲継 なるほどね。特定の研修に人が集中することはないですか?
空中 実際のところは、それはございます。やはり、研修によって人気科目、あるいはあまり人気でない科目というのがありまして、傾向を見ますとスキル系と言われるような、今日学んだものをすぐに明日に使える研修というのは、やはり高倍率になってまいりますし、マインド系といいますか、今日学んだことは明日には役立たないけれども職員として必ず持っておかないといけないといった研修になると、やや人気が下がる傾向にあるというのが、担当として感じているところです。
稲継 その高倍率になると、抽選か何か? どうやって決めておられるんでしょうか?
研修チーム副主査 空中陽輔氏
空中 まず、こちらのほうから、受講生、職員に対して研修の募集をかけまして、一斉に募集を受け付けます。その後に、定員に対し募集人数が超過する科目は、研修内容とその受講生の業務との結びつきの度合いや採用年数の浅い人などを優先順位としてフィルターをかけて、実際にこちらで取りまとめを行っているという現状です。
稲継 なるほどね。階層別研修からステップアップ研修に変えたことによって、どういう変化が起こったのか教えてください。
空中 階層別研修からステップアップ研修に変えたことで、採用年度の異なる職員同士の横の繋がりが以前よりもできたと感じております。私自身も研修を受講したことで他部署の先輩や後輩と知り合えて非常によかったと実感しているところです。なお、ステップアップ研修は平成19年度から行われ、今では職員の中ですっかり定着しています。
稲継 2年目から11年目の方に選択をしていただくということですが、この研修を取ったら何ポイントとか、そういうポイント積み重ね方式になっているんですよね。
空中 はい、そうです。大学の単位を想像していただければわかりやすいんですが、20ポイント取ると修了となり、だいたい1科目1ポイントまたは2ポイントが付与され、選択科目で10ポイント、必須科目で10ポイントの合計20ポイントで修了となります。
稲継 20ポイント取ると何か特典というか、いいことがあるんですか?
空中 それだけ人間が成長したということで、自分自身で再確認していただくことになります(笑)。
稲継 人事記録カードには、それが載るんですよね?
空中 はい、こちらで記録は取っております。
稲継 そうすると、上の職層に承認するときには、ちゃんと20ポイント取っているかどうかを人事のほうでチェックをして、取っていなければ「足りませんよ」という警告が出されるとか、そういうことでしょうか?
空中 はい、実際のところ、そのポイントを取っていることは必須条件ですので、もし取っていない方がおられたら、当然こちらから報告する必要があるんですが、実際のところ、そういった方はほとんどいらっしゃらなくて。
稲継 みんな、頑張って取る?
空中 はい。その「取る」という流れが自然と定着しておりますので、今はこのままでいこうかなと思っています。
稲継 そうですか。どうもありがとうございました。
三つ目に、先進事例研究という研修があります。もともとは政策形成研修というものから発展したようですが、この点について、藤井さんにお聞きします。
藤井 はい。
稲継 この先進事例研究についてご説明いただけますか?
藤井 目的としては、自治体を取り巻く環境が変わってきて市民からの要求も多様化している中で、今までと同じことをやっていたり、もしくは上から言われたことをやっていたりするだけでは対処できないことがあり、自分で問題を解決していこうとか、こうしたらもっと仕事が効率よくできるのではないかとか、そういった課題解決や業務遂行能力のアップを目指して行っております。
内容としては、対象職員は全職員ですが、自分たちで職場に関するテーマや、広く業務に活かせるテーマの中から「これについて調べます」というテーマを設定して、そのテーマについて先進的な事例を行っている自治体などに実際に視察に行き、見聞きして、その研究したものを報告書にまとめるという内容になっております。
稲継 具体的な流れ、ある年度の中で月を追ってご説明いただけたらありがたいんてすが。
研修チーム副主査 藤井千恵氏
藤井 はい。まず5月に募集をかけまして、6月に受講者を集めてオリエンテーションのような形で、自己紹介と、このメンバーで半年間頑張りましょう、という説明会を開きます。その後7月に、外部の講師をお招きして、事前研修を2回行っておりまして、そこで本当に自分たちが設定したテーマが解決すべき真の課題なのか、原因は別のところにあるのではないかというテーマの再確認と、その設定したテーマについて、半年間どういう段取りを組んでいったらいいかというものを作成する、という研修を2回行っております。その後は8月から10月ぐらいまで、自分たちの業務の合間を縫って、実際に視察先に行っていただき、視察が一段落したあたりの10月頃にまた受講者全員が集まって、意見交換会を開催しております。そこで、自分たちの進捗状況を報告し、他のチームからも進捗状況を聞いて、自分たちは、ちょっと他より遅れているとか、もうちょっと調べないといけないとかいうような刺激を受けたり、他チームからアドバイスをもらったりして、さらに磨きをかけてもらって、11月に最後報告書をまとめて出してもらうという流れになっております。今日は1月8日ですが、もう2週間後には、自分たちが調べた内容をみんなの前で発表するという発表会を開催しまして、発表会ですごくよかった3チームには、最後市長の前で発表してもらうという流れになっております。
稲継 なるほど。市長の前で自分たちの調査結果を報告する機会はなかなかないと思うんですが、それは彼らにとって非常にインセンティブになりますよね。
藤井 そうですね。特に若手の職員とか。今回は、下の方で2年目の職員も入っているんです。そういった若手職員が市長の前で自分たちの研究成果を報告することは、普通ではほぼないと思うので、研究内容も頑張ってすごいものをつくっているので、出てもらえたらなという個人的な思いはありますね。
稲継 なるほど。テーマとしては、例えばどういうものがあるんでしょうか?
藤井 今年度は12テーマありますが、先ほどお伝えした2年目の若手職員が取りかかっているのは、「口座振替の推進について」ということで、税関係と国保の保険料の関係で、どうすれば口座振替がもうちょっと推進するかといったテーマでしたね。後は、今西宮市では中央体育館が老朽化しており、改築か移転かどうにかしなければいけないという話題が出ているので、教育委員会からは公立体育施設の効果的な更新方法についてなど、自分の業務に直結するようなテーマが出ています。
稲継 ほかの自治体でも、政策形成研修、政策研修とかいろいろやっておられますが、かなりぼやっとした政策形成研修をやっているところがほとんどだと思うんです。こちらの国内先進事例研究の場合には、今、おっしゃったように、自分の業務に直結した、ポイントを絞ったもの、しかも自分でアポを取って先進地に視察に行くことが義務づけられている、など非常に特徴的なところがあると思うんですが、その辺についてももう少し教えてもらえたらと思います。
藤井 はい。業務に直結しているということで、ぼやっとしたものより取り組みやすく、受講者もモチベーションが高まりやすいと思います。もしかしたら自分たちの仕事が効率よくうまく進むのではないかという期待感や、実際に自分でアポをとって、特に若手が外に出て先進地の影響を受けて帰ってくるというのは、職場だけでは得られない、目からウロコのような体験だと思います。研究内容も自分の業務に直結しているので、今までのぼやっとした内容よりももっと詳しく具体的に調べられるというところがあります。あとは、今回、下は2年目の職員から上は課長補佐まで参加されていて、意見交換会などで様々な年代の方が集まってざっくばらんに話す機会はそうそうなく、そういった中で自分の仕事に関して他部局から意見をもらえることもあまりないと思うので、そういったところもすごく効果があるのではないかと思っています。
稲継 国内先進事例研究ということなので、先進地をまず設定をして、そこに直接行って、ヒアリングをしてということですよね。
藤井 はい。
稲継 自治体初の政策革新というのがいろいろなところで起きていて、あるところではものすごく進んだ政策が取られると、別のところがそれをまねるというか、研究をして自分たちの自治体なりに発展させていくというのが、ここ10年程度の全国的な自治体の傾向なんですが、そこでいつもネックになるのが、出張旅費が今はどんどん削減されています。こちらは、出張旅費はちゃんと出るのですか?
藤井 はい。限度1人6万円までなら、1泊2日を限度として何回どこに視察に行ってもいいという内容になっています。
稲継 なるほど。そうすると、本来、自分の所属では出張旅費がほとんど出ないけど、これは研修の一環で研修厚生課のほうで負担していただいているから、各所属にとっても非常にメリットがありますよね。
藤井 そうですね、はい。
稲継 これを始めて、各所属の受けというのはどんな感じですか?
藤井 所属からは視察させてもらってありがたいと言われたことがあります。担当としてうれしいのは、課長の中には、研修参加者が課の課題を調べている時にほったらかしではなく、「視察に行ったときは、もうちょっとこういうことを聞いてきたほうがいいんじゃないか?」などフォローをしてくださる方がいて、「市長の前で絶対、報告行けるように頑張りなさい」とプッシュしてくださることです。どちらかというと、最初は、受講者は嫌々ながら頑張っている感じがあったかもしれませんが、結果的には所属長も含めて上から下まで一緒に課題に取り組む課もでてきたので、よかったんじゃないかと。職場からの受けもいいと私は思っております。
稲継 なるほどね。実際に今、何年目になるんですか?
藤井 2年目になります。
稲継 去年のやつで、何か具体的な成果に結びついたやつはありますか?
藤井 去年、高齢福祉課の職員が高知市で調べた「いきいき体操」を、今年度西宮版にアレンジしてモデル実施しているようです。地域からは評判が良いようで、来年度以降全市展開していく予定と聞いています。実際に調べた職員は異動で離れてしまったのですが、課長が引き継いで取り組んでくれているようです。他のところはまだ......、ないですね。
稲継 これからですね。
藤井 そうですね、はい。
稲継 まだ、始まったばかりなので。
藤井 はい。
稲継 将来的なことを非常に期待したいと思います。
藤井 そうですね。
稲継 今日は、ありがとうございました。
藤井 ありがとうございます。
稲継 若手の方3人にお伺いしたんですが、ここからは研修厚生課の小郷課長にお尋ねします。若手の方々が研修に非常に積極的に取り組んでおられるというのが、西宮市の特徴かなと思うんですが、その辺を総括して、何かいただけたらと思います。
小郷 そうですね。我々は、先ほど出ていました階層別研修を受けた世代で、研修は義務的に行くものという意識が職員の中にあったんですが、現在は、ステップアップ研修のような形で、研修に対して一定のスパンは自分たちで自由に決めていいんだという土壌が若いときからできているというのが、若手が研修に積極的に取り組んでいる大きな要因だと思います。
昨年の3月、「西宮市人材育成基本方針」を改定しました。従前の方針では、目標は、市民から求められるような職員ということで受動的な方針だったのを、昨年の改定では、自ら進んで目標設定するという方針とし、自ら求めることにしました。
ある先生が言われたんですが、従前は「マスト型」の人材育成基本方針だったのを「ウィル(型)」と、自分の意志で目標設定してやるんだという方針になっています。ステップアップ研修が選択できるのも自分の意志でということになっています。多くの職員が自主的に参加したり、国内先進事例研究にも積極的に関わるようになっているのは、だいぶ若い世代からそれが浸透しつつあることが大きな要因かなと考えています。
稲継 この人材育成基本方針の中には、今、おっしゃったように、目指す職員像として「~が求められる職員」から、「~を常に求める職員」に、というほかの自治体にはない人材育成基本方針なんですが、こういう形の基本方針になったのは、何かきっかけがあるんでしょうか?
研修厚生課長 小郷勝啓氏
小郷 はい。各市ともそうなんですが、地方公務員法が改正され、人材育成基本方針というものを設定しなさいということで平成10年代に各市でとりあえずつくりました。当市についても、深く掘り下げができないまま、とりあえず当時の情勢でつくった、というのがまずありました。
西宮市の場合、全国では珍しいのですが、平成10年代後半から急激に人口が増加しています。従前42万人程度の都市だったのが現在48万人で、全国的には非常に珍しい状況になっております。当然、状況が変わることで、中核市への移行という流れがありました。一方では、人口が増えているから財政的に豊かかというとそうではありません。震災後の被災があったり、だいぶ解消されつつはありますが新たな行政課題もあるという中で、職員数も少なくなっており、従前のやり方が通用しません。
そのような状況に対して答えを見つけるために自ら進んで課題設定をして、その中で職員自身に少しずつ意識改革が芽生えつつありました。そのような状況の中で、昨年、せっかく改定するのであれば、担当課だけでつくるのではなく、企業会計の部門も含めて庁内的に横断的につくった人材育成基本方針の改定委員会の中で骨格を練り上げていくことにしました。さらに、その委員会のメンバーだけですとどうしても偏りますので、求められる職員像とは何だろうということで、具体的に細かいことを各職員に書いていただいて、それをまとめ上げました。それは資料として掲載はしているんですが、あまり細かいことは書かずに、やはり研修でできることは限られているので、職員が自発的に研修できるようなマインドをメインにもっていこうということになりました。一番重要なのは、日々の職場の研修あるいは職場での育成で、そこに課長や係長がおられますので、管理職も含めて、メンター制度も通じて、そのマインドをさらに能動的にもっていけるような研修にするための仕掛けは、うちの研修厚生課でやりましょうという流れで、個人の意志が働きやすいマインドにしようという方針に改定しました。
稲継 なるほど。課長のお話の冒頭に、「我々は階層別研修を受けた世代だ」とおっしゃいました。その階層別研修を受けた世代と、今のステップアップ研修を受けている世代と、違いはありますか?
小郷 はい、やはり受動的か能動的かということが基本的に大きく違います。階層別研修の場合には、仕事があろうが何があろうが、この日にここへ行きなさいという命令で、仕事を放ってでも行けという時代でしたが、それについてはどうしても「やらされ感」的なイメージは非常にありました。当時は今ほど仕事が過密化しておらず、「仕事は職場に残っている者がやるので、とりあえず行け」という状況でしたが、受けるときのマインドが「とりあえず行っているな」という感じでした。
しかし、自分である程度の日程や科目が選べるとなれば、当然自分が興味を持っている度合いがスタート時点で違ってきます。このような点で、今、若い方が研修に参加されている状況は、当時とは大きく違うのかなという感じです。
稲継 なるほど。はい、ありがとうございました。ここからは、小郷課長の下で実質的な番頭さんとして活躍しておられる丹上さんに、お話をお伺いしたいと思います。
西宮市の研修チームを取材して、榊原さん、空中さん、藤井さん、そして小郷課長にお話をお聞きした。次号では、いよいよ丹上さんに登場いただこう。