メールマガジン

第121回2015.04.22

連載から10年

 平成17年4月、このメルマガ連載「分権時代の自治体職員」はスタートした。それからまる10年、今回は連載第121回となる。
 この連載は、研修講師としてJIAMを訪れた際の、教務部長さん(当時)との昼食時の雑談がきっかけだった。「JIAMの広報媒体であるメルマガの読者数がもう一つ伸びないのです。何か連載で書いてもらえませんか。毎回1,000字程度でいいので」。現在、某県の副知事をしておられるその人は、JIAMという研修機関がどういうミッションをもつべきなのか、分権時代においてどのような人材育成をすべきなのか、自治体における人材育成とはどうすればよいのかを真剣に考えておられた。
 その方の真摯な依頼にこたえるべく、他方「1,000字程度なら」という軽い気持ちもあって、連載をスタートさせた。

引き受けるは易く書くは難し。
 いざ書き始めてみると、毎回四苦八苦であった。通常論文を書くときは、先行研究をまず読み、そこからヒントを得て、何らかの知見を加える努力をするのが一般的である。この時もそのように考え、「自治体の人材育成」というジャンルで書かれたものを片っ端から集めた。しかし自治体職員の人材育成を実務も踏まえて書かれているものは少なかった。
 学者が欧米の文献を翻訳するような形式で書かれた人材育成論は多くあったが、日本の自治体現場とは合わないものが多かった。
 コンサルタントが書いたものも、民間での成功体験をそのまま表紙だけ付け替えるものが多かった。また外部の目で見て書かれているものが多い点が致命的で、現場の職員からは反発を受けそうな表現も散見された。
 自治体の人事担当者が書いたものは当時ほとんどなく、あったとしても地方公務員法の逐条解説であったり、人事関係規則のモデル例を示したりしたものだった。それはそれで存在理由があるのだが、法律や規則がどうあれ、法律で規定されない部分が多い自治体の人事運用において、また制度と実態が乖離している中で、どのように人材育成を考えるのかという視点は欠けていた。
 元役人や元自治体職員の書いたものも少なからずあり、ヒントとなるものが書かれていることも稀にあったが、多くは精神論に走る傾向があった。
 結局いくつかの先行研究を念頭におきつつも、自分の頭で考えて(そして自分自身が自治体で人事実務をしていた時のことを思い出しながら)執筆を進めざるを得なかった。
 第1回は、自治体職員のA様とB様を対比させる形で書いた。(当時、テレビの深夜番組で金持ちA様貧乏B様、というのが放映されており、それをたまたま見たときにヒントを得た。目的意識を持って仕事に前向きに取り組む自治体職員A様、でもしか公務員とレッテルを貼られるような自治体職員B様である。
https://www.jiam.jp/melmaga/bunken/newcontents1.html
 当時は、B様のような自治体職員も多くおり(種々のアンケート調査結果)、彼らの育成もまた重要課題だった。

人材育成
 人材育成は採用にはじまる。どのような人材をどのようなスクリーニングで獲得するのか。筆記試験至上主義が1990年代までの自治体採用試験だったが(そしてそれは、縁故採用があった1970年代までの悪しき慣習を打破する目的を持っていてそれなりに理由があったが)、分権時代に求められる自治体職員の能力が大きく変容している中で従来タイプの採用試験でよいのかを考えた。A様を獲得するにはどうすればよいか。
https://www.jiam.jp/melmaga/bunken/newcontents2.html

 採用後の人材育成はOJTとOff-JTとの組み合わせである。職員の現有能力と求められる能力とのギャップをそれらで埋めていく。では分権時代の自治体職員に求められる能力とは何か。霞が関の手足として働いていた大昔は事務処理能力だけで十分だったかもしれないが、自ら地域の問題に対峙し問題を発見し解決していくためには、それだけでは足りない。前例のないことも多い。そこで課題設定能力、問題解決能力の重要性を指摘した。
https://www.jiam.jp/melmaga/bunken/newcontents5.html

「自学」というキーワード
 そのような能力を伸ばすためにはどうしたらよいか。どう人材育成をすればそれが可能なのか。育成者側から考えると百家争鳴の感があったが、職員側から考えると答えは集約された。追い込まれたとき、一段高い仕事を任されたとき、部下に指導しなければならない立場になったとき、伸びたという実感を持つ人が多い。結局、人的資源開発をするのは職員自身であるという意味で「人は自学で伸びる」という言葉を思いついた。
https://www.jiam.jp/melmaga/bunken/newcontents8.html
 これはその後、連載2年目に入ったころに出版した本(『自治体の人事システム改革-ひとは「自学」で伸びる』)のサブタイトルになり、その後の私の人材育成論の基幹となった。
 当時はこのような言葉は一般的ではなかったし、自治体でもそのような言葉を見ることはなかった。だがその後、(1998年頃に制定した)人材育成基本方針の改定時期が到来し、多くの自治体で基本方針が改定されたものの中に「自学」という言葉が使われている例が多く見られるようになっていった。私のところに事前に連絡のあった自治体は少なく(笑)、何かの機会に自治体を訪れたとき人事課長さんに「先生の自学という言葉、基本方針で使わせてもらいました」と事後報告を受けることが多かったが、いずれにせよこの言葉が自治体に普及していったのはうれしいことである。

 「自学」をキーワードに考えると、人材育成論が面白いように展開できることに気が付いた。ジョブローテーションが人材育成に極めて重要なのも、それが自学を刺激するからである。人事評価も、評価結果をフィードバックすることによって本人に気づきをもたらし自学を刺激する。
 そしてOff-JTもまた、自学をいかに刺激するかという観点から組み立てていくことが重要だと考えた。知識付与型研修だけでなく、正解のない研修を行うことの重要性なども書き進めていった。
(例えば https://www.jiam.jp/melmaga/bunken/newcontents20.html

 連載を書き進めるうちに、自治体現場で人事育成に関して非凡な取り組みをしておられる例を紹介したくなった。現場の自治体人事担当者へのインタビューが始まった。インタビューで私自身得られることも多かった。
その後、「分権時代の自治体職員」というタイトルからは、人事担当者に限らず、現場で活躍しておられる職員のことを紹介し、そこから人材育成のヒントを読み取ってもらえないかと考えるようになった。各地に存在するA様を、全国に紹介する試みである。
こうして、連載は、自治体現場へのインタビューシリーズとなっていく。

インタビュー
 これまで取材に訪れたのは、22都道府県40市町(または振興協会)と米国の郡である。たいていは1泊2日の日程で取材地を訪れ、現地の空気を吸い、駅前の様子を見て、地元の商店街を歩き、また、チェーン店でない昔からの食堂で食事をして、それから取材に向かうというパターンである。
 ほぼ2か月に一度、1泊2日の日程をとるのは、雑用に追われる大学教師にとってはなかなかに困難なことであったが、そして取材対象の方々のお忙しさを考えると取材日程調整は困難を極めることも多かったが、JIAMの歴代ご担当者のご努力により、何とか今まで継続することができている。
 これまでのインタビュー先を列挙すると、北は北海道赤平市から南は九州日南市まで全国にわたる。
北海道 赤平市 札幌市 小樽市(農水省)
岩手県 一関市 矢巾町
福島県 相馬市
山形県 新庄市
千葉県 流山市
東京都 豊島区 足立区
神奈川県 秦野市 横浜市
山梨県 北杜市 甲府市
静岡県 三島市 熱海市 富士市 静岡市
愛知県 豊田市
三重県 津市
滋賀県 野洲市 大津市
京都府 亀岡市 京都市
大阪府 八尾市 交野市 高槻市 岸和田市 マッセOSAKA
兵庫県 西宮市
岡山県 玉野市 岡山市
島根県 江津市
広島県 福山市
山口県 宇部市 山口市
福岡県 直方市
宮崎県 北郷町(現 日南市) 高鍋町
熊本県 八代市
ロサンゼルス郡庁

 取材に訪れるたびに、数多くのパワーを私自身いただいてきた。取材に費やす時間コストをはるかに上回る刺激をいつも受けている。
 地方創生の戦略プランを作成する際にも、各自治体で問題発見をし問題解決ができる人材が何よりも求められる。とんがった人材だがしかし時代の激動期には必要な人材である。今後も、そのような人材を発掘し、お会いしていきたい。
 私自身の体力がどこまでもつかやや不安でもあるが、健康である限りはこの取材を続けていきたい。

お礼
 このシリーズを読み続けてくださっている読者の皆様にまずお礼申し上げます。また、取材に応じていただいた各地で元気に活躍しておられる自治体職員の方々にもお礼申し上げます。
 最後になりましたが、この連載を担当してくださった歴代のJIAMの職員の皆様に感謝の意を表したいと思います。自分自身の担当研修が数多く走っている中、それと並行して、毎月のメルマガ発行実務、私の連載に関してはそれにプラスしてインタビュー相手先への打診、日程調整、交通機関の時刻調査、当日のテープどり、写真撮影、帰ってからのテープ起こしなど、山ほどの業務をこなしていただいてきました。歴代のメルマガ担当者は自治体からの派遣職員の方々ですが、派遣元自治体に帰ってからも活躍されています。
 日立市 池田勝さん、東近江市 木村進さん、大阪府 田中良正さん、可児市 川合正徳さん、金沢市 出口利明さん、和歌山市 稲垣隆紀さん、四日市市 原昌弘さん
大変お世話になりました。
引き続き、齋藤幸志さん(湖南市から派遣)、髙岡秀祐さん(袋井市から派遣)どうぞよろしくお願いします。