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第23回2017.02.22

トランプ時代の到来と多文化共生都市

 2016年は、欧州で難民危機が深刻化し、ブリュッセルやベルリンなど主要都市でテロが起きた一年でした。そうした中、英国が国民投票でEUからの離脱を決定し、米国ではドナルド・トランプ氏が大統領選挙に勝利しました。どうやら、欧米諸国では、外国人や移民・難民の受け入れに消極的な新しい時代が始まったようです。

 一方、日本では、リーマンショック以降、景気の急速な悪化や東日本大震災の影響で在留外国人が減り、中国や韓国への国民感情の悪化の影響もあり、多文化共生社会づくりは、「冬の時代」を迎えていました。しかし、2013年以降、技能実習生や日本語学校の留学生を中心に在留外国人が増加を続け、労働力不足が深刻化する中、2016年には技能実習制度の拡充や国家戦略特区の推進などによって、「外国人材の活用」が本格化の兆しを見せるとともに、外国人の就労・生活環境整備への関心が高まりました。

 実は、欧米諸国でも、自治体レベルでは、共生社会づくりに向けた取り組みが活発で、そうした自治体のネットワークが広がっています。欧州評議会が2008年に始めたインターカルチュラル・シティはその代表例で、現在、欧州を中心に100を超える自治体がこのプログラムに参加しています。もう一つの欧州都市のネットワークであるユーロシティーズも2006年から移民統合の課題に取り組んでいます。また、米国では、2013年に移民を歓迎する自治体の全国ネットワークであるウェルカミング・シティーズ・アンド・カウンティーズが設立されました。現在、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴといった大都市を含む80近い自治体が参加しています。一方、カナダには、シティーズ・オブ・マイグレーションというウェブサイト(2009年開設)があり、北米と欧州を中心に都市の優良事例の情報交換を通じて、移民統合の手法の改善を行うことを目指しています。

 日本の自治体も負けてはいません。浜松市や愛知県豊田市など多文化共生を進める基礎自治体が参加する外国人集住都市会議(2001年設立)は、国に外国人政策の改革を求める提言を毎年行い、国の政策づくりに一定の影響力を発揮してきました。今年度、愛知県豊橋市長が座長を務め、25市町が参加しています。また、東海地方を中心に7県1市が参加する多文化共生推進協議会(2004年設立)も、広域自治体の観点から国に提言してきました。

 欧米の都市ネットワークは、いずれも外国人や移民・難民の存在を積極的に捉え、多様性を都市づくりに活かすことを唱えています。一方、日本でも浜松市の多文化共生都市ビジョン(2013年)を皮切りに、長野県多文化共生推進指針(2015年)や東京都多文化共生推進指針(2016年)など、多様性を活かした地域づくりを謳う自治体が増えています。外国人集住都市会議も、2015年度に同趣旨の規約改正を行っています。こうした動向を受けて、総務省は、2016年度中に地域活性化やグローバル化への貢献など、外国人が活躍する地域づくりを含めた多文化共生の事例集を作成する予定です。

 浜松市は、世界最大の自治体の国際的ネットワークである都市・自治体連合(UCLG)に加盟し、欧州のインターカルチュラル・シティと日韓の多文化共生を進める自治体の交流をめざした日韓欧多文化共生都市サミット(2012-2013年)にも参加するなど、外国の自治体との政策交流に積極的で、新年度にはインターカルチュラル・シティへの加盟も検討しています。韓国や台湾でも共生社会づくりに取り組む自治体が増えている中、日本の自治体が多文化共生の成功事例を積み上げ、欧米やアジアなどの自治体と連携し、地球的規模で多様性を活かした社会づくりに貢献することを期待したいと思います。

Intercultural Cities http://www.coe.int/en/web/interculturalcities/
(参考:多文化共生社会に向けて_第43回

Eurocities http://www.eurocities.eu/
(参考:多文化共生社会に向けて_第72回

Welcoming Cities and Counties https://www.welcomingamerica.org/programs/member-municipalities

Cities of Migration http://citiesofmigration.ca/

外国人集住都市会議 http://www.shujutoshi.jp/

多文化共生推進協議会 http://www.pref.aichi.jp/syakaikatsudo/kyogikai/kyogikai.html