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第43回2010.10.27

インターカルチュラル・シティ

移民によってもたされる文化的多様性を、脅威ではなくむしろ好機ととらえ、都市の活力や革新、創造、成長の源泉とする新しい都市政策として、いま欧州では「インターカルチュラル・シティ」という考え方が注目されています。欧州評議会(Council of Europe)が欧州委員会(European Commission)とともに進めているプログラムで、現在、その趣旨に賛同する欧州11都市が参加しています。

インターカルチュラル・シティ・プログラムは、2008年の欧州異文化間対話年(European Year of Intercultural Dialogue)や同年に欧州評議会より刊行された異文化間対話白書(White Paper on Intercultural Dialogue)の刊行を契機に始まりました。

2010年10月、インターカルチュラル・シティ・プログラムの一環として行われたヌーシャテル州(スイス)とレッジョ・エミリア市(イタリア)の視察プログラムに、欧州評議会が国際交流基金の協力のもと、西川太一郎 荒川区長や群馬県高崎市の担当者など日本の自治体関係者を招聘し、私もその一人として参加しました。欧州評議会はEU加盟国27カ国の他、南東欧諸国やロシアなどを含めて47カ国の加盟する汎欧州機関ですが、日本は1996年からオブザーバー国として参加しています。今回の視察には、日本の他、ダブリンやコペンハーゲン、リスボン、ジュネーブなどヨーロッパの主要都市、米国カリフォルニア州やワシントンDC、カナダ・ケベック州、メキシコ市など世界各地から自治体関係者が集まり、インターカルチュラル・シティに対する世界的関心の高まりを感じました。

最初に訪問したヌーシャテル州は、フランス語圏で時計産業が盛んな地域です。人口17万人で、外国人は4万人(24%)です。外国人の主な出身国はポルトガル、イタリア、フランス、スペイン、セルビアです。ヌーシャテル州では1849年から外国人に選挙権があり、2007年の住民投票で、ヌーシャテル市の選挙で選挙権と被選挙権も認められるようになりました。また、1996年にはスイスで初めて統合法が制定され、2002年の州憲法にも移民の統合が位置付けられました。視察先は、博物館や現代美術館や多言語書籍の図書館などでした。

次に訪問したレッジョ・エミリア市はイタリア北部のエミリア・ロマーニャ州に位置する豊かな産業都市で、人口は約16万人で外国人は1万9千人(12%)です。外国人の主な出身国はアルバニア、モロッコ、中国、ガーナです。レッジョ・エミリア市は子どもの創造性を重視したユニークな保育・幼児教育で世界的に有名で、日本の教育関係者からも注目されています。視察先は移民の多い保育園や高校、病院、コミュニティ・センターなどでした。視察最終日には、歴史ある市役所の議事堂で、視察に参加した各都市の取り組みを報告する公開会議が開かれました。

インターカルチュラル・アプローチは、ヨーロッパにおいて同化主義そして多文化主義という二つの統合政策のアプローチがいずれも失敗したという認識に基づいたもので、異なる文化的背景を有する人々の間の相互関係に着目した概念です。「多文化共生」は発展途上の概念ですが、欧州のこの新しい取り組みは大いに参考になりそうです。

インターカルチュラル・シティの公式ウェブサイト
http://www.coe.int/t/dg4/cultureheritage/culture/cities/default_en.asp