メールマガジン

第10回2016.01.27

外国人コミュニティの挑戦

前回、私が担当させていただいた第4回ではNPOによる課題解決事例を紹介しました。今回は、NPOと民間企業と行政の協働による事例をご紹介します。

三重県津市は人口282,821人、そのうち外国籍者比率が2.5%(7,195)で、平成19年度から「外国人集住都市会議」に加入しています。国籍別では、ブラジルがもっとも多く1,937人、中国1,831人、フィリピン1,142人と続き、上位3カ国で7割を占めています(平成27年4月1日)。

この地で活動する外国人自助組織、NPO法人日本ボリビア人協会は、1995年の阪神・淡路大震災で被災した在日ボリビア人の互助組織として同年9月に大阪のカトリック教会で産声を上げました。その後、中心メンバーの転居に伴い津市に拠点を移し、東海地域を中心にスペイン語圏の外国人からの生活相談や通訳・翻訳等を行っています。平成27年6月末時点、在日ボリビア人数5,394人のうち約4割が愛知県と三重県に暮らしています。彼らの多くが日系人で、9割が永住者・定住者およびその家族です。同協会は2012年1月にNPO法人となり、新たな事業の柱に「日本語教育」を据えました。すでに多くのボリビア人が滞日歴10年を越えていましたが、日本語で日常会話ができないこともあり地域社会になじめず、不安定雇用を続け、日本で生まれ育った子どもたちとのコミュニケーションも難しくなっていたからです。彼らの声を聞くと、ほぼ全員が帰国予定はなく、老後も家族と日本で暮らしたいと答えたそうです。それを聞いた代表の山田ロサリオ氏は、「このままではよくない。今後のために、少しでも日本語や日本社会のことを学んでもらわないと」と強く思ったと言います。

2012年10月、日本ボリビア人協会は設立以来初めてとなる日本語教室を開催しました。主な対象者が工場労働者のため、平日の夜間に週2回、3ヶ月のコースでした。その約半分の時間を、ひらがな・カタカナの読み書きにあてました。受講者のほとんどが、来日して10年以上経っていても、ひらがな・カタカナの読み書きができなかったためです。教室には、プロの日本語講師2名に加え、地元の日本人ボランティアの協力も得て、さらに毎回スペイン語の通訳も1,2名配置しました。これらはすべて、「平日はもちろん土日でも日中は仕事や家族との用事で教室に通えない」、「以前通った教室で、日本語ボランティアの説明がわかりづらかった」、「教室に通っても日本語が上達しなかった」、「わからないことがあったときに質問ができなかった」、といった学習者の声を反映させた結果でした。本講座は好評で、翌年度も実施されました。しかし、それでも途中で参加しなくなる人が数人いました。それは、一週間ごとに夜勤と昼勤のシフトが変わる労働者と、子育て中で子どもを預ける友人をもたない母親たちからの声でした。ロサリオ氏は、「本当に日本語学習機会を提供しないといけないのは、教室に参加したくてもできない人、続けたくても続けられない人だ」と思ったそうです。

そこで協会では、2014年度から文化庁からの委託を受け、『「生活者としての外国人」のための日本語教育通信講座モデル事業』をスタート。自宅で生活に必要な日本語を学べる仕組みづくりに着手しました。月に一度、受講者の自宅に教材を郵送し、勉強したあと確認テストを返送してもらいます。それを講師が採点し、コメントをつけて次号の教材と一緒に送るというのを半年間行います。その間、3回のスクーリングを設けて、直接講師に質問したり、自宅学習ではできない発音や会話の練習をしたりします。教材は、企業との協働により作成したオリジナルで、日本の年中行事や自治体による多言語サービス等の各種生活情報も豊富に掲載されています。2014年度はモデル事業として三重県内在住の20名が受講し、途中帰国した1名を除いて全員が中断することなくコースを終えました。修了テストでは全員がコース開始前より点数がアップしたことから、日本語能力の向上も確認できました。この噂を耳にした県外在住者から、自分も受講したいとの声が寄せられ、2015年度は愛知県でも実施が決定。郵送する教材に市役所からいただいたマイナンバーの案内や地域行事のチラシ等を同封したり、当該地域の日本語ボランティアさんが確認テストの採点をしてくださったりと、地元の方々の協力を得て、さらに充実した講座を展開しています。

本メルマガの執筆者の一人である、明治大学の山脇啓造教授は、多文化共生の取り組みを従来の"課題解決型"から、"多様性を生かしたまちづくり"へと進展させていくことを「多文化共生2.0」と銘打って推奨されており、私も強く共感しています。その中で、NPO法人日本ボリビア人協会のような外国人コミュニティが主体となって、行政や民間企業、他の市民活動団体と連携した事業を展開していることにも注目したいと思います。同協会では、2月21日に愛知県でこの取り組みの成果報告会を開催するそうです。ご都合のつく方は、ぜひご参加ください。

<参考>
NPO法人日本ボリビア人協会 日本語教育シンポジウム(平成28年2月21日)
http://kokucheese.com/event/index/363693/

株式会社ラーンズ いろは活用事例 vol.41「第6回 日本ボリビア人協会」
http://www.learn-s.co.jp/shop/irohanippon/int_041.aspx

同 vol.42 『家で学べる日本語通信講座(スペイン語版)』の成果と課題
http://www.learn-s.co.jp/shop/irohanippon/int_042.aspx

文化庁 日本語教育コンテンツ共有システムNEWS「生活者としての外国人」のための日本語教育通信講座モデル事業~スペイン語版~
http://www.nihongo-ews.jp/contents/view/%3Fid%3D814