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第02回2015.05.27

インバウンドと多文化共生のシナジーを

2014年に日本を訪れた外国人は1,300万人を越えました。政府は2020年までに2,000万人を目標としていますが、もっと早く実現するかもしれません。各地で訪日外国人を対象とした「ビジネス」が盛んに議論されるようになりました。

これまでは、外国人観光客を対象とした取り組みと、外国人住民を主な対象とする多文化共生施策とは、あまり重なることなく進行してきたように思います。前者は利益を生むが、後者はコストがかかる、と考える自治体もまだ多いかもしれません。しかし、インターネットの普及で母国とのコミュニケーションが容易になり、またLCCの普及で航空運賃も安くなったいま、観光と定住の境目が見えにくくなっており、両者の施策上の重なりも増えているように思います。

アジアの経済発展で海外旅行に行く中間層は増え続けていて、日本への旅行も「一生に一度」というものではなくなっています。リピーターも多く、滞在日数も増えています。集団でホテルに滞在し、観光名所を駆け巡る団体旅行だけでなく、小規模なゲストハウスに長期間滞在し、日本の生活文化に触れる個人旅行へと、訪日外国人のニーズもこれから多様になっていきます。例えば「ごみの出し方」や「病院で受診するには」といった情報は、住民向けだけでなく、1週間、1ヶ月滞在する外国人観光客にも必要です。住民向けの施策が充実していれば、観光客にとっても滞在しやすい地域と感じられます。

この5年ほどで、国境を越えた人の移動のハードルがぐんと低くなっています。1週間滞在してみて、気に入ったら今度は1ヶ月、次は仕事を探して暮らしてみたい、というふうに、訪日外国人向けのいわゆる「インバウンド」施策と、外国人住民との共生をめざす「多文化共生」施策とを、切れ目なくつないでいくことができれば、人口減少に悩む地域にとって新たな選択肢が開けます。

その場合に重要になるのが、すでに地域で暮らしている外国人住民による情報発信です。地域の魅力をそれぞれの母国の目線で評価し、発信してもらいましょう。訪日外国人が「クール」と感じるポイントは、外国人に喜んでもらえると日本人が考えているポイントとは、残念ながらずれていることが多いです。多文化共生施策をより充実したものとし、外国人住民にとって暮らしやすい地域を創造することが、地域の魅力を世界に発信し、観光客や新たに定住する外国人が増える地域になることと直結します。

訪日外国人の増加という流れを受けとめて、これまでの多文化共生施策を推進する歩みをさらに充実させ、魅力あふれる地域づくりへと発展させていく地域が増えていくことを期待しています。