メールマガジン
分権時代の自治体職員
第72回2011.03.23
インタビュー:相馬市総務課 主任主査兼職員係長 伊東 充幸さん(下)
先月号(第71回)から相馬市総務課の伊東さんのインタビューを掲載している。本インタビューの収録は平成22(2010)年12月に相馬市役所で行った。伊東さんのみならず相馬市役所のたくさんの職員の方々とお会いし、また懇親会にも参加し、職員の皆さんの前向きな思考・行動に心打たれた。
平成23(2011)年3月11日、東北地方太平洋沖地震により、多くの方々の命が奪われた。未だ行方不明の方、安否確認がとれない方も多い。さらに、不便な避難所生活を余儀なくされている方々も多い。心からお悔やみ・お見舞い申し上げます。
相馬市においても海岸部を中心に数多くの犠牲者が出た。また、市民の多くが避難生活をされている。そのような大変な状況下で、相馬市役所の皆さんは、市民生活を守るために奮闘しておられる。私も相馬市にすぐにでも駆けつけたいが、今は、相馬市役所の皆さんと市民の皆さんの底力を信じて遠く見守るしかなく、忸怩たる思いである。
相馬市をはじめ被災地の一日も早い復興を願っております。
※伊東さんをはじめ今月号に掲載している「チーム絆」の職員の皆さんはご無事で、災害対応にご尽力されております。
OJLソングを流すことにより、職員の意識が変化し、ポジティブシンキングが広がったことを実感したという相馬市役所の伊東さん。たった1曲、毎朝始業前に歌を流すという小さなアクションが、職員の間に意識変化を起こしたという。
稲継 一方で、市役所で、市歌とか君が代ではなく、一般の流行曲などを流すという発想自体、「おまえ、何をやってるんだ」というような声も多分あっただろうと思うし、反発なんかもあったと思うんですが、いかがでしたでしょうか?
伊東 おそらく流す曲がイージーリスニングのようなBGMだったら、あまり抵抗はなかったのかもしれないですが、いわゆるポップスを役所の中で流すことに関しては、最初は理解を得られなかったです。また、音楽がかかっているという状況に耳が慣れるまでは、皆さんは違和感を感じていたと思います。あとは、朝早くお客さんがいらっしゃって、対応しなきゃいけないのに、「音楽が流れているよ」みたいな事態もありました。OJLソングも人によって受け止め方は様々なんです。
今は色々な意見があっても、継続してやっていますが、本当を言うと、私もどうしようかなと思ったことがあったんです。4月とか5月に流している曲があったとします。ある職員からは、「あの曲がもう1回聞きたい」と言って、リクエストをもらって流します。すると、一方で、人事異動でいきなり新しい仕事を担当して、苦労していたときに聴いていた音楽がもう1回流れると、フラッシュバックしてしまうなどの意見が寄せられたりもしたんです。音楽を流した行動すべてがプラスに働いているわけではないということも取り組みの中では見えてきたんです。そこで「何かやばいんじゃないの」と言われて折れてしまっては、取り組みは成就しないので、「とりあえず継続する中で改善しなきゃいけないことは、改善していきますので、しばらく様子を見ていただけませんか」ということで継続していきました。
そして、1ヵ月しないうちに、そういったクレームがこなくなったんです。浸透したんだと思いながら、同じ曲を2ヵ月間ずっとかけていました。すると、「飽きた。変えてくれ。他の曲はないのか」という動きが職員の中に出てきたんです。実は、それを狙っていたんですよ。
結局、一つの取り組みをして、「ずっとそれでいい」ということはないと思うのです。「飽きた」という職員に、「飽きたなら、じゃあ、あなたが現場を変える提案をしませんか?」と言ってあげる。そういう部分を当初から目論んでいまして、黙って2ヵ月間同じ曲をかけていました。
稲継 じゃあ、狙いどおり、ちゃんとクレームが来たわけですね。
伊東 充幸さん
伊東 はい。それで、「いや、推薦してもらっていいんだよ。何か、元気の出る曲はない?」と聞いたんです。「何でもいいのか」ということになりまして、「はい、何でもいいです」と。
ただ、個人が推薦した曲を流しますと、その曲があまり受け入れられなかったときに、個人が攻撃されるんです。それはやっぱりあってはならないし、せっかく推薦した個人が、周りから「なんだ、あの曲は」と言われては、芽を摘むことになるので、個人の推薦はやめましょうと。その代わり、個人が所属長に「これを流したいんだ」と言って課内で話し合ってもらって、「課として推薦する曲であれば、もちろん常識の範囲内ですが、どんな曲であろうと、尊重して流すことを約束します」と皆さんにお話しました。こちらで余計な判断をして「こんなの駄目だ」とか「これならいいよ」ということをしては、推薦した人たちの意向を汲めませんし、推薦させる意味もなくなってしまいます。
そうすると、いろんな課の方から、「じゃあ、こういう曲をかけたいんだけど」という提案が、たくさん出てきました。これはOJLの中で言う、いわゆる「システム思考」というもので、どんな小さなアクションでも、それが周囲に伝播し、それが共鳴し合い、組織を動かす力になっていく・・・「ミクロの動きが共鳴し合いマクロの動きを制す」ということが、この取り組みで見受けられたということです。
稲継 流したOJLソングのリストを見せていただいているのですが、Mr.Childrenとかアンジェラ・アキなどの最近の歌から、ロッキーのテーマなどの映画の曲と、様々ですね。
伊東 どの分野でも聴くと元気がもらえる曲が推薦されてきました。うれしかったのは、陰ではいたかも知れませんが、「何だ、この曲は」と言う人は表立ってはいなかったんです。
流す曲については、庁内LANに必ず課の推薦書と歌詞をpdfにしたものを載せるんですね。「今月のOJLソングは、上半期は○○○という曲で、下半期は□□□という曲です。それぞれ△△課と☆☆課から推薦していただいています」というように掲載し、推薦書には、推薦者がどこを聴いてほしいのか、歌詞のどこに自分は共感したのかなどを書いていただいています。それを見ることによって、見た職員が「ああ、そうだよね、ここいいよね」と共感してもらえる。あとは、そういうことを職員に周知することによって、「単なる音楽かけじゃないんだよ、意味があってやってるよ」ということを伝えていきたかったので、ずっと続けてやっています。推薦する側も、「この曲が単に好きだから流して」というよりも、推薦書を書くことによって「自分が何でこの曲が好きなのか、どうして元気付けられるのか」などの理由も振り返ることができたり、自分の中で噛み締められる部分もあって、継続できていると思います。
稲継 このOJLソングっていうのはつまり、On the Job Learning Songということですよね。そもそものOJLというのは、どういうものなのかを教えていただけますか?
伊東 いわゆる「学習する組織」という考え方とおおよそ重なっているところがあると思います。業務の中で自分が疑問に感じたりとか、なぜこれをやっているのかということを常に仕事の中で振り返りましょう、ということがOJLの原点だと思います。
OJT(On the Job Training)の方は受動的に学ぶものでしょうが、Learningはどっちかというと能動的に学ぶ。常に能動的に仕事に取り組みましょう。指示待ちでは駄目だよという部分を推奨してくものです。OJLを深く突き詰めてしまうと学者的になって、分かりにくくなってしまうかもしれません。
稲継 OJLに関してはたくさんの論文が出ていますからね。
伊東 「OJLにそこまでの知識は必要ないよ。こういう気持ちで仕事に取り組んだり、そういう感覚を持ってみたらどう?」ということを伝えたくて、OJLという言葉を皆さんに説明をさせてもらっているんです。共感するとか自律的になるとか、あとは仕事の中で自己成長させていくと言いますか、そこがOJL的な考え方、取り組み方なのかと思います。
稲継 その共感とか自律を助長したり、自己成長をアシストするような様々なツールがOJLにはあると思うんですが、その中の一つとして、まずは、OJLソングを朝に流すというところからスタートしたんですよね。小難しく「OJLはこうだよ」という研修をするよりも、環境が目に見えて、耳に聞こえて、変わるというところからスタートしたことは、非常に画期的なことだと思うんです。
伊東 「役所でこんなこと難しいと思うようなこと」をやることによって、改革ほど大げさではないんですけど、ちょっとしたことで改善はできるという、きっかけを示したかったんです。これまで、私より前にOJLの研修を受けてきた先輩が、30名ぐらいいたんです。その方々にも「あの研修を受けてきて、何にも感じないで帰ってきたんですか」とお聞きしたんですよ(笑)。
稲継 なかなか鋭い質問ですね(笑)。
伊東 そしたら、「いや、感じてきたよ。俺も何かやりたいと思ったよ」と、みんな口をそろえて言うんですよ。「でも、どういうふうにやったらいいか分かんないし、こんなことって言われるのが、怖くて実行にも結びつかなかった。今回、お前が音楽をかけたことで、ああやりゃあできんのかみたいなことが分かったよ」と、その先輩にも言っていただけたんです。
実は、OJL研修を受けた人全員にメールをしたんですよ。「こういうことをやりたいんです。ただ、一人で今までやってきたんですけど、なかなか思うように進まなくて、皆さんが賛同していただけるのであれば、その賛同のメッセージをいただけませんか」と。この研修を受けた人は誰一人として「そんなことをやっても無駄だよ」という人がいなかったんですよ。それで「OJLソングを流すことに賛同するよ」という返信をガッともらって、「個人」ではなく「一同」の意見として進めていけたのです。
あの研修が、気持ちを前向きに向けてくれる研修であることを感じましたし、同じ研修を受けた職員に、自分がやろうとしたことに対して、それを否定する人は誰一人としていなかった。みんな何かを変えたかったし、やりたかった。でもやり方が分からない、そういう先導に立つのは恥ずかしい。それだけだったんですよ。「じゃあ、みんなやりたいと思っていたのであれば、私の発案じゃなくてOJL研修を受けた一同として発案しましょう」と、みんなに話をして実行したんです。
私は現場に「変化の種」をまきたかった。私がたまたま実行したことは「歌を流す」という行動であって、もっと他のツールでできれば、それでも良かったんだろうと思います。
ただ、一つ、うんと抵抗のあるものをクリアする。そのクリアする過程において色々なことを学べたんですよ。人的とか物的とかそういった壁っていうのは、交渉力とか根回しとかも必要になりますし、改革っていうのは一人じゃできない。一人だけ突っ走って、「こうだ、こうだ」って声高に叫んでも、後ろを振り向いたら誰もついてこないのでは、改革にはなり得ない。多くの同調者というか、共感してもらえる仲間を作りながら、1人で100歩進むよりも、100人で1歩進むというスタイルで市役所を変えていきたい。それが、このOJL研修を受けた時に、自分の中で思ったことだったんです。
歌をかけることに躍起になっていた時は、1人で突っ走っているわけですよ。ただ、壁にぶつかって、非難されて、さっさと他の仕事をしろというような話をされている中で、「ああ、やっぱり自分1人では限界があるな。じゃあ、どうしようかな」と考えた時に、「1人の意見は潰され易いが、一同の意見は潰しづらい」そう思ったんです。「この研修を受けた人みんながそう思っていますよ」ということを示せたときに、組織の対応が変わったんですね。
稲継 なるほどね。一同っていうのは、なかなか提案としては、すごく強みがありますよね。しかも同じ研修を受けた人たちが、皆同じく感じていたことを提案することは、すごく強みがありますよね。
先ほど変化の種という言葉があったんですけれども、よく意識改革を叫ぶことが多いんですが、空回りしているケースが結構あるんですよね。そんな中で、今、おっしゃった1人で100歩進むんじゃなくて、100人で1歩進んだ方がよっぽど大きな力になるんだ、ということが非常に真実をついていると、お聞きしていて思いました。
このOJLソングからまずスタートして、これを次につなげていくわけですよね。次はどのような取り組みをされたのでしょうか?
伊東 充幸さん
伊東 OJLソングをかけ始めた頃に、早稲田大学マニフェスト研究所(以下、マニ研)で開催している人材マネジメントのシンポジウムに、興味があるから行きたいという職員がおりまして、これに参加してもらったんです。
その感想を聞いたところ、「これ(マニ研)は、今の我々の職場にどうしても必要なことだ。ぜひ取り組ませてほしい」という話を受けました。内容を聞くと、いわゆる組織風土の改革、自分の組織に課題や問題点を見つけ、それを深堀りして解決するための行動をしていく。しかも、それを誰かにやってもらうのではなく、自らが革新者となって行動していく。という内容のものです。
まさに、「自ら行動する」「自分を変える」「組織変革の旗をあげる」と言う面が、私が取り組もうとしていたOJL的要素に重なるところがあり、その職員のやる気も受けながら、とにかく「これは今、我々組織が取り組まなければいけないことなのでぜひやらせてほしい」と上司を説得して、予算化していない研修に無理を言って、3人の職員を派遣することになったのです。
今振り返ると、相馬市にとって人材育成の面から見ても、組織風土の変革と言う面から見ても、またOJLという面からみても、相馬市が学習する組織へ転換するターニングポイントが、まさにここがきっかけだったのではないかと振り返っています。
稲継 ターニングポイント。組織が変わろうとするきっかけになったと。
伊東 歌を流すということは、自分にとっては「変化の種をまく」という重要な行動だったんですけれども、職員サイドにとっては、どうでもいいことなんです(笑)。「歌を聴くことによって・・・」というもっともらしい理由をつけて放送していますが、それが終着点ではなく、「そんなこと役所らしくない」「しない方がいい。出来るはずがない」という思い込みを破り、「『やってみてどうよ』と問う姿」を見せること、それにより、自分の職場の中に問題意識を持ってくれた職員が、今までは声に出せずにいたが、声に出せるようになった。それがこの取り組みの目指していた終着点であり、きっかけであり、大きな変化であり、組織風土変革のスタートだったと思います。
稲継 なるほど。マニ研の具体的な取り組みとしては、どういうものがあったんでしょうか?
伊東 マニ研メンバーが「ポジティブミーティング」というものを提唱しました。職場の中でいわゆる報・連・相の部分もなかなかうまくいっていない。ギクシャク感は、コミュニケーション不足からくるものだということを、マニ研メンバーが組織内の問題として掘り下げまして、「とにかく良好なコミュニケーションのためには何をしたらいいか。やはり、話し合いでしょう。ダイアログですよね」ということで、「朝、ミーティングをしましょう」と取り組みを始めました。
稲継 これはどのようなものでしょうか?
伊東 「ポジティブミーティング」というのは名前のとおりで、前日を振り返り、業務の中で、もしくは家庭の中で、1日に必ず何か一つは「いいこと」が起こっているはずなんですね。それを振り返りの中で思い起こして、「こんないいことがあった、そのいいことによって、こんな感覚になったとか、やって良かったとか、感動したとか、○○さんのいいことを聞いてうれしかったことなどや、あとは仕事中に、□□さんの応対がすごく丁寧で見ていて、気持ち良かったといった、いいもの拾いをして、それを投げ合うことで、1日のスタートをOJLソングじゃないですけども、ポジティブな気持ちでスタートさせましょう。エンジンのかかった状態で仕事に臨みましょう」ということをメンバーが提案したんです。
でもこれ、皆さん、恥ずかしいんですよね。前の日にあったいいことを、一つ言うってことが、ものすごく恥ずかしいんですね。慣れちゃえば何てことはないんですけど、慣れないうちに、「前の日に何をやったか」から考え始めるわけですよね。何時ごろ、こんな仕事をしていて、あんなことをやっていて、家に帰っても何一ついいことがなかったみたいな中でも、何か一つ探しましょう。ましてやそれを、朝から話しましょうということが、なかなかできないものです。
それは、呑みニケーション不足もあるかもしれません。私が役所に入ったころは、週に3日の飲み会なんて当たり前だったんですよね。でも、官官接待がどうのとか、そういうような騒ぎになってから、なるべく役所の職員が街中で飲むことは避けようみたいな風潮ができて、それからというもの、課の職員同士が飲み会をするなんていうことは忘年会と暑気払いぐらいなんですよ。係単位で「今日、飲みに行こうか」というところは色々あると思いますけど、本当に課全体でとなると、一大イベントみたいなことになっちゃって。
稲継 オフィシャルになってしまってね。
伊東 そういう部分で、呑みニケーションが不足している部分があるので、特に若い職員にとっては、本音を話すとか、言いづらいことを話すことに、慣れていない状態になってしまっているんですね。慣れてない職員を相手にする管理職も慣れてないわけですよ。それをノンアルコールで言うわけですから。
稲継 しかも朝ね。
伊東 そうです。朝です。そういう恥ずかしさが手伝って、なかなかうまく浸透しなかったりとかはあったんですけど、マニ研メンバーが草の根運動的に「どうですか、やっていますか?何が難しいですか?」みたいなことを言いながら、課を歩きまして、今は、50%以上の課でポジティブミーティングなるものをやっていただいている状態です。
稲継 これって、外から見るといわゆる朝礼なんだけれども、話している中身が課長から「君たち、今日はこれをやれ」という命令をしているわけではなくて、集めている数人のメンバーがそれぞれ「昨日、こんないいことがありました」という報告会をやっているわけですよね。それは恥ずかしいですよね。でも、それが1日のスタートのときに、歌を聴いた後にあるということは、その人たちのモチベーションを上げることになるんですね。
伊東 トレーニングにもなってくるんですね。前の日を振り返る。今までは仕事をやりっ放しなんですね。やりっ放しで、次の仕事をこなしていくというスタイルが、ずっとここ何年も続いてきているんです。「前の日、何をやったっけ? 昨日やったことは計画通りいっていたのか」とか「この三つをやるつもりだったのに、二つしかできなかった」とか「三つやるつもりだったけど、四つできた」ということを振り返ることによって、「今日はもっとペースを上げなきゃ」とか「今日はその分余裕ができたからこれに取り組んでみよう」というような、業務の振り返りにもつながります。何気なく過ごさない・・・と言うか。
また、小っ恥ずかしい話を人前でするというトレーニングですね。それは、市民に応対する、接遇の部分にも現れてきますし、何かしゃべらなければいけないっていうことは、それを考えなければいけないですから。トレーニングになると思います。
稲継 なるほどね。OJLの取り組みとして、他にも色々やっておられるのですが、「チーム絆」というものを結成されたとお聞きしたんですが、これは一体どのようなものなんですか?
伊東 「チーム絆」は、OJLの取り組みではないのですが、マニ研という素材でつながった「同志」です。今、相馬市役所内はこの「チーム絆」の熱い志を持った職員から、自分達の組織と言うものを、「ありたい姿」へ変えていこうと、行動が起こっていますので、紹介させていただきます。
稲継 「同志」と言うのがいいですね。組織の中でどういう存在になるのですか?
伊東 先ほど「改革とは、1人の100歩より100人の1歩」だとお話させていただきました。これは、自分の実体験から得た一つの持論でありますが、この点について、「チーム絆」を引き合いに、イメージ的に説明させて下さい。
これは、音楽のイコライザーのようなものだとイメージしてください。イコライザーのつまみ=リーダー的存在、と言った感じです。
つまみが一つしかない場合、そのつまみの音を100歩分調整したとしても、その周辺の音に及ぼす影響・効果は、非常に急傾斜で、かつ狭義になってしまいます。100歩進んでも後ろを振り向いたら誰も居ない、もしくは思ったより付いてこないという結果ですね。
こちらは、つまみ(リーダー的存在)がたくさんある状態です。
つまみがたくさんある場合、それぞれのつまみの音を少ししか調整しなくても、その周辺の音に及ぼす影響・効果は、底辺が広く傾斜も緩く、広範囲に及ぶことがイメージしていただけると思います。
OJL的な取り組みを始めた時から、私は役所の中に、イコライザーのつまみとなる、リーダー的存在を作っていきたかった、そういう存在を発掘していきたかったのです。「チーム絆」のメンバーの存在は、相馬市役所にとって、まさに、このイコライザーのつまみなんです。想いを共有する・志を同じにする仲間がいること。幸せだと思います。
今後は、市役所の中にイコライザーのつまみの存在を増やしていくことが、私の使命と思って、業務に取り組んでおります。
稲継 一人で突っ走るのでは無く、仲間とともに共通の認識のもとに物事に取り組む。良い組織にとっては当たり前のことなのかもしれませんが、普通の組織ではなかなか出来ないこと。相馬市では、できつつあるということなんですね。
今日は相馬市の伊東さんにOJLの話を中心にお尋ねしてきました。このメルマガの読者は全国の市町村職員の方がたくさんいらっしゃいます。もちろん、一般の住民の方も読んでいらっしゃいますが、全国の市町村職員の方に何かメッセージがありましたら、最後にお願いしたいと思います。
伊東 はい。どこの自治体さんも、置かれている環境は同じだと思います。これから自分たち地方公務員が置かれていく社会的な動向とか変化に、自らが対応していかないと、これまでの親方日の丸的な環境の中では、いいサービスはできませんし、住民からも置いてけぼりを食ってしまいます。そして、置いてけぼりになった職員を手助けしてくれる周りの職員の余裕もなくなっています。自分を時代に合わせる柔軟さが必要なんだと思います。手一杯な時だからこそ、ちょっとした改善を重ねながら、もっと楽しくとか、もっと楽に仕事ができるような状態にしていかないと、これからは「背負ったが倒れてしまう職員」が増えてしまうんじゃないかと思っています。
自分の働いている環境を良くすることによって、自分自身はもちろん、自分以外の職員も、いい雰囲気の中で仕事をすることで、効率も能率も上がります。何か自分で改善したいと心に思ったことや、きっかけがあるのであれば、ほんの小さなことでもいいので、実行してみる。各々が、その一歩踏み出す勇気をもっていただけたら、少なくとも組織が良い方向へ変わっていくと思うのです。実行した結果、成功しなくてもいいじゃないですか。一度の挑戦で全てを解決することは難しいのですから、また次に思いついたことを実行に移していく。組織改善!風土改革!とあまり気負わないで、同感・同志を持つ仲間を作り、もっと気楽に取り組んでいかれたらよいと思います。
OJLとか学習する組織という言葉に転化してしまうと、小難しくなってしまいますが、要はポジティブに!ということです。
人生の1/3は仕事、1/3は家庭や個人の時間、もう1/3は睡眠です。睡眠は生物学的にどうしようもないでしょうが、残りの2/3をどう生きるかなんだと思います。ましてや仕事がその半分を占めている。その仕事の時間・・・どうせやるなら楽しく充実したものにと、OJL研修を受けて、自分の考え方をそう変えたんです。私の場合、それが行動になって表れ始めた感じですかね。
稲継 ありがとうございます。今日は相馬市の伊東さんにお話をお伺いしました。どうもありがとうございました。
伊東 ありがとうございました。
毎朝、始業前に市役所内でOJLソングが流れている。それを聞いて気持ちを入れ替え、またポジティブミーティングを行って、前日を振り返り、「何かいいこと」を思い出す。そして、今日の仕事が、前向きにはじまることになる。
相馬市の取り組みは、ささやかな試みと思われるかもしれないが、職場での確実なプラス効果をもたらし、職員力のアップにつながっている。
皆さんの自治体でも、取り組んでみられてはいかがだろうか。