メールマガジン

第62回2010.05.26

インタビュー:八代市企画振興部情報推進課 小林 隆生さん(下)

 人と人とをつなげるようなサービス、地元を中心にしたソーシャルネットワークサービスを立ち上げた小林さんは、GISとSNSとの連携についても検討し、実現に取り組み始めた。


稲継 ところで、さきほどGISの話も出ましたけれども、このGISとSNSとの連携のようなものもやっておられるということですが、これは、具体的にどのようなことなんでしょうか。

小林 ごろっとを作り始めた当時の議論の中で、GISがウェブ上でツールとして使えるよね、という話になったんです。今でこそ、グーグルマップとかありますけれども、構築を始めたときは、ウェブ上でコミュニケーションできる地図のツールというのが、ありませんでした。たまたま、建築課時代からずっと作ってきたシステムがあったので、この中で地図を付帯した形でコミュニケーションサービスをやろうという、そういうことをやりました。例えば、地図上にお店マークなどを作ったりだとか。
 現在、掲示板の替わりにコミュニケーションをGISを使って行うケースがあるんですが、どこもあまりうまくいっていないんです。むしろ、人が求めているのは、そういう掲示板をGIS上でやるというものじゃなくて、人とのつながりなんですね。もっと人のつながりを求めたいというのが、根底にあるので、GISを中心に持っていくのは間違いだろうと。むしろ、SNSとかのコミュニケーションツールを中心にしたものにGISが情報整理するような仕掛けとして付帯させた方が、もっと使い手があるんじゃないのというそういうところから、GISを付帯したコミュニケーションツールのあり方の提示みたいな感じで入れてみたんです。

画像:画像:小林 隆生さん
小林 隆生さん

稲継 それは、うまくいきましたでしょうか。

小林 これは、結構うまくいきましたね。単に場所を登録してもらうやつなんですけれども、その中で、例えば八代の市街地だとか、どの付近にあるとかというのがあからさまに情報の量で見て取ることができます。システムが動き出して、まだ5年くらいしか経っていないんですが、昔はこういうところでこういうことをやっていたんだなと、そういう発見だとかが、徐々に出てくるようになるかと思います。

稲継 平成16年くらいからリニューアルした"ごろっとやっちろ"がスタートして、それをバージョンアップする形でやられたこととか何かありますでしょうか。

小林 実は、今年(平成22年)の1月にリニューアルする予定だったんですが、データの移行に絡むトラブルが発生してうまくいきませんでしたので、現在その問題の解消中です。
 リニューアルするときの目玉ですが、まず、面倒くささをなくすような仕掛けを作ろうかということですね。リアルタイムにパソコンのタスクバーとかにちょこんと、端っこの方で"ごろっと"の情報を通信監視するような仕掛けだとか作って、それが自分の替わりにいろんなことをやってくれたりだとかそういう仕掛けだとかを入れようかなと、そういうことを考えています。
 平成16年にSNSを始めまして、結構、いろんなメディアさんも取り上げていただいて、そんな中で、一番大きかったのは、ちょうど総務省で地域ICT事業というのをやっていまして、そこのシステムワーキングの委員なんかに行かせていただいて、その中でSNSの地域の活用みたいなものの可能性があるんだなと勇気付きました。やっぱりmixiだとかとは別の方向に進んでいくのが一番いいんじゃないかなと。

稲継 総務省の研究会の枠の中に入っておられたんですよね。

小林 はい。

稲継 東京で会議があって、そこでは、どういうことを議論しておられましたか。

小林 システムに絡む部分です。
 システムの方では、いろんな機能が各地域で追加できるようなそういう仕掛けを作ろうだとか、いずれ、いろんな地域でSNSが出てきたときに、お互いにSNSをつないでいこうという、そういう議論であったりですとか、そういうことをやってました。

稲継 話題がちょっとそれるんですが、どこかの市がOpen SNPを使っているとか、昔、ちょっと聞いたことがあるんですが、それは、どういったやつですか。

小林 ベースのプログラムがいくつかあってですね。八代市で構築している"ごろっとやっちろ"で、"open-gorotto"という名前で、これは総務省の方に提供しました。他に、"OpenPNE"という、オープンソースのエンジンと、もう一個、これも民間さんなんですけれども"Open SNP"という、そういうエンジンがだいだい3つくらいあるんですけれども、どれを使われるかは、それぞれのシステムの特性によります。

稲継 本題にもどりますが、じゃあ、"open-gorotto"というのは、要するに日本中にどうぞ使ってくださいといって提供したシステムなわけですね。もう使っておられるところもあるんですか。

小林 あります。

稲継 あるんですか。その元をこちらで開発して...。

小林 そうですね。それで総務省のWGで再構築して、その中でさらに議論して、機能を追加したりだとかしていただいています。

稲継 これは、売っていないんですよね。

小林 売っていないです。売っていませんが配ってます。

稲継 タダで提供して、「皆さんどうぞお使いください」と。小林さんが、何か月もこう頭のなかを巡らせながら一生懸命作ったやつを、無料で皆さん使ってくださいとは、気前のいい話ですね。

小林 というか、若干思想も違うんですね。
 "ごろっと"の場合、全く予算をかけずに作っているもので、あまり費用対効果が求められないんですよ。その中で、得られてくる効果だとかは、後追いしてくればいいやという軽いノリで運用してます。
 けれども、総務省さんとかが配っているものというのは、どちらかというと費用対効果を求められます。当然、ソフトウェア自体はフリーなんですけれども、それを運用するには、お金がかかったりだとかそういうことになりますんで、結果的に効果を重視せざるを得なくなってきます。だけど、運営側が効果を求め過ぎると、住民の方というのは逃げていくことが多いので。ちょっとそこで、システムの中の仕掛けというんですかね、ちょっと違うんですね。
 "ごろっと"では、やりたい放題で運用しています。でも、こっちの方は、災害なら災害に役立つような情報を集めてくれるような仕掛けを作ったりしています。 "ごろっと"と総務省さんとかが配っているものとには、そういう違いもあります。

稲継 今、ちょっと災害の話もでましたけれども、独立行政法人防災科学技術研究所の客員研究員を今やっていらして、これは、どういうことを...。

小林 今は、もう辞めているんですけれども、被災時にも利用できるコミュニケーションプラットホームを構築しようという話なんですね。"open-gorotto"の基盤システムがあったんで、それを持って行ったという形です。
 総務省の住民参画ICT事業システムワーキンググループの委員長を務めていた先生に誘われて参加させていただきました。

稲継 そうなんですか。防災科学技術研究所の研究というのはどうでした?おもしろかったですか?

小林 うーん、そうですね。いろんな課題ができたことが成果でした。例えば、情報をいっぱい羅列しても、あんまり人というのは、あんまり寄ってこないとか。

稲継 多すぎるということですか。

小林 そうです。逆に情報が多すぎるんですね。そんな中から、自然とピックアップさせるようなそういう技術もいるよねという気づきだとか、そういったものがあったりしましたね。ちょうどそれが今やっている"ごろっとやっちろ"にフィードバックするような考えですね。
 「プラットフォームにするぞ」と言っても、本当になるのかといったら、運用になったら、別の問題があります。たとえ、システム的にはおもしろくできていたとしても。そういうところのバランス取りというのが、いろんな、そういった委員会だとか研究所だとかの役に就かせていただいて、いろんな勉強をさせていただいたんですけれども、もっと軽いノリでやらないと、定着しないということですね。
 そのバランス取りというのは難しいじゃないですか、役所が運用していくにあたって。あんまり軽くしてもまずいし(笑)。

稲継 要するに総務省とか防災研だとかのやろうとしていることは、ちょっとお堅すぎるということですか。

小林 どうでしょうね。そういうのもおこがましいですが。もっと、自然に集まってきて、そんな中で、自然な会話がなされているのを、若干、後押しするぐらいの、そういうノリでしないといけないかなと感じています。
 地域SNSという名前自体はわーっと出ていますけれども、地域SNSを導入したからといって、うまくいくとは限らないですよね。運用のやりかたによっては、そのバランス取りという点でうまくいったり、うまくいかなかったりで。自分自身の"ごろっと"の運用経験から、そことはやっぱり違うなと思うんです。

稲継 "ごろっと"の運用経験と今おっしゃいましたけれども、経験上、今まで、どんなことが言えますか?市民との関係でいいますと。

小林 よく、市役所と市民との間って、なんとなく壁ができがちじゃないですか。

稲継 そうですね。

画像:小林 隆生さん
小林 隆生さん

小林 "ごろっと"に参加している役所の人間って結構いてですね、そういう人間がそういう市民の人たちの中へ、うわーっと入っていってですね、しばらくしてから「あぁ、あなた公務員だったの?」みたいな感じになって。だんだん知っている職員と市民で、壁がだんだん薄くなっている。いろんなことが言えます。

稲継 市民の中にも、市役所の職員の顔が普通に見えるようになってきたし、考え方も、頭の中も見えるような形になったと。

小林 ざっくばらんな会話もできるしですね、そういう環境が出来上がったことが、運用経験上おもしろいと思います。

稲継 市役所職員と市民との間の今は、"協働"だとかなんだとか難しい言葉を使いますけれども、それがもう、ネットの中でずっと自然にできちゃっているということですね。

小林 まあ、ネットの中だけでもないんですよね。それを使われている人がハブになって、いろんな人とくっついて。
 実は、"ごろっと"のサイトの中に街づくりの研究会というのがあるんです。主宰しているのは、若手の職員なんですけどね。最初は、職員たちの組織だったんですけれども、その組織にだんだん市民の方も入ってきてですね、なんか官民協働の街づくり勉強会みたいな感じで。
 今、実際にイベントをやったりだとか、そういったことをやり始めるようなきっかけにもなったんで。そういうゆるいつながりが、役所と市民の壁を壊しながらも、プラスの方向に持っていっているなというのが、見ていておもしろいなと。

稲継 従来の官製というか官のつくるネットワークというかそういうイメージではなくて、自然発生的に新しい公共空間が生まれ出るというんですかね。今、政権の方で、新しい公共についてなんか考えようとしていますけれども、それのいわば先走りみたいなところもありますよね。

小林 そうですね。まぁ、ネットだけで終わらないということですね。地元だからこそできるサービスだと思います。
 要は、とある地元情報に興味がある人は、どんな手段を使っても、情報を他に流していくじゃないですか。例えば、噂だとかクチコミだとかそういったものですね。どんどんどんどんと。
 それで、参加されている方は、どういうことで来たのかなというと、ネットだけじゃなくてあの人から聞いたとか、そういう一般の人が集まってきているので、そういう点でですね、自分が八代を好きになったのと同様に他の人もそう感じているんじゃないかなという気がしていますね。

稲継 他に情報推進課に行ってから取り組まれたようなことがありますでしょうか。

小林 Webサービスの方でいろんなことをやっているんですが、そうですね、たとえば、防災メールを作ったりだとかですね。その情報源は防災危機管理課と八代広域行政事務組合の消防本部なんですが、火災があったときだとか地震があったときにメールでばばっと配信する仕掛けなんです。これは、"ごろっとやっちろ"から始めたものなんですけれども、それが便利だという話になって、それなら市の本格的なサービスとして動かそうという話になってそういう仕掛けを作りました。
 選挙の時とかはですね、Webサービスを使って事務を効率化する仕掛けを作りました。それまで、中間速報だとかそういったものを各投票場から電話をもらって全部入力して、集計して、それで県や選管本部に報告していたんですけど、合併してですね、投票場が100を超えるようになってしまいました。毎時間10分少々の時間に状況報告するための電話連絡が殺到し、数値をまとめる時間がとれないということになってしまったので、携帯電話からWebの仕掛けを使って、速報を全部自動的に取りまとめられるようにしようということをやりました。
 あと、最近は、メディア関係のことをやっています。八代のいろんな素材を集めて、いろんなメディアさんに提供できるような、地域ブランドを作ろうみたいな動きが役所の中にありまして、それの、ちょうど八代にこういうものがあるという、そういう地元のよさをPRできるようなそういう仕事を行ったりしています。

稲継 話がまた"ごろっとやっちろ"に戻るんですが、地域活性化ということを日本で色々と言われています。それで、そのためには、現場に行って、足を運んで、相対して、顔と顔とでということを必ず言われるわけなんですけれども、SNSによる地域活性化というのは、かなり新しい概念だと思うんですね。これについて小林さんの考え方を教えてもらえたらなと思うんですけれども。

小林 もっと、簡単にならなきゃいけないと思うんですよね。今、パソコンを持っている人しか"ごろっと"の中に入れなかったりしますよね。

稲継 はい、そうですね。

小林 ディジタルディバイドを何とか解決したいなと想いがあります。
 複雑な機械を使わなくてもできるような仕掛けというものを作ろうかなと。もともと電子だとか情報だとかをやっていたんで、それなら、簡単な端末から作ろうかなみたいなことを考えています。端末というか、プログラミングできるちっちゃなマイコンがあるですけれども、これを使って300円とか500円とかで端末を作って、それをインターネットにつないで、コミュニケーションができるようなプラットホームを作りたいなというのを研究中です。
 基本的にたくさんの情報は要らないと思うんですよ。あの人が今日遊んでいるだとかそういう漠然とした情報だけを送受信できるような、そういう仕掛けを作れば、それを使って、市民の方がきっとおもしろいことをやってくれるんじゃないかなと。

稲継 そうすると、限りなく広がりますね。

小林 ええ、広がりますね。そういうデバイスがすごく安く手に入るようになったんで、1個300円とかで手に入りますんで、それで、ちっちゃな端末を作って、試しに実際に配ってみようかなと思います。

稲継 その端末でやろうとしているのは、今、話題になっているツイッターみたいなあんな感じのものですか。

小林 それとは、違います。もっと軽いものなんですね。
 たとえば、今、じいちゃん、ばあちゃんの世代と若い世代と世代が分かれてきていますよね。SNSがプラットフォームになって、それぞれの世代にデバイスがあって、じいちゃんが帰ってきたら、若い世代の方にちょっとした情報が行く。お互いの雰囲気というか、いる、いないというのが分かるようなそういう仕掛けというのを作りたいなと思っています。
 昔、とある民間の研究所さんが、とある町で、ふれあい間通信、というのをやったことがあるんですよ。お父さんたちが帰ってくると、じいちゃん、ばあちゃんの方の花壇に植えている花がふわふわふわとなびいて、「あっ帰ってきたな」と分かる。また、「今日、日曜なのになんで動かないの?」「多分出かけてんじゃないの。」みたいな、そういうやりかたがあるんですが、そのプラットフォームとしてSNSを使うというのは、おもしろそうだなという気がしますね。

稲継 安全確認だとかにも使えますよね。

小林 そうです。

稲継 ポットにそういう機械をつけてというのを聞いたことがありますが、あんな感じですかね。

小林 あんな感じです。

稲継 ポットを使えば、使ったというデータが、例えば子どものところに行ったりだとか。

小林 そうです。そういう仕掛けです。それも、結局パソコンがなければ見れなかったりしますよね。まあ、携帯電話はあるんですけれども、携帯電話をいちいちいじるのかというと、また、それもめんどくさい話ですよね。「今日は動いたよ」ってなんか、ふっと、ただ、そこで表示してあったら、ぱっと目にみえますよね。「ああ、いるなあ」って分かる。そういう社会というのが、おそらくユビキタス社会が目指すものなのかなと思うんですね。

稲継 そうですね。

小林 それをちょっと、プラットフォームは"ごろっとやっちろ"を使ってやってみようかなって、そういうことですね。このSNSを使ったプラットフォームというのは、そういう通信自体はおそらく得意とする分野なんですね。それにいろんなそういうコミュニケーションのサービスというのをつないでいって、可能性を試したいなと。

稲継 今、ずっとお話をお聞きしてきたんですけれども、もともとは、八代のことがあまり好きじゃなかったと。でも、だんだん好きになってきたというお話がありました。そのだんだん好きになってきた八代をこれからどういう八代にしていきたいかということと、それと、全国でいろいろ街づくりに取り組もうとしているけれどもうまくいかないんだと悩んでいる方がいらっしゃると思うんですね。その方に何かアドバイスがあればお願いしたいと思います。

小林 まずはですね、多分、八代の市内でも自分のまわりの世界以外の方とコミュニケーションをしたことがないという人たちっていると思うんですね。自分の社会の中だけで、その範囲の中から、通常、出ませんから。
 ただ、まあ、その場所もいいですけれども、他にもこういうおもしろいところがあるんだよと、そういうつながりが生まれてくると、きっと、八代のリソースってどんどん増えていくと思うんですね。「あそこおもしろいよ」だとかこういう意見交換も活発になってきて。そしたら、みんなで「あれやろか」「これやろか」となる。また、それを傍から見ている人もいたりとかするんですね。そういう傍で見ている人たちも結構影響を受けるじゃないですか。そういう人の流れが、うまく目に見えるような仕掛けというかプラットフォームを八代の中でちゃんと動かせるようにしてですね、そして、さらに、情報推進課にいるという今の立場で、八代の街づくりを助けていきたいなと思いますね。
 将来的には、みんなが八代を好きだと思ってくれることですね。自分が元々、後ろ向きな気持ちからだんだん好きになっていって、いまは地元がものすごく好きになっているんで、みんながそういう思いになってくれると、きっと八代っていい方向に行くんじゃないかと思います。
 他のところでも、おそらくいろんな活動をやられているかと思いますけれども、お金がかかると破綻しがちなんですね。低コストで自分たちでやれることはやる、また、やれないことは、インターネットをちょっと検索すればいろんなことが出てくるんで、いろんな情報を見ながら、個人的にやっていく。そしてちょっとづつ広げていくっていうのが一番成功する秘訣なんじゃないかなと気がします。
 手作りすれば、それだけ作った方も、これをやめるのもったいないという気持ちにもなってきますので、そういうところからできればいいのじゃないかなと思います。

稲継 今日は、どうも長時間ありがとうございました。


 技術職員というと、単にテクニカルな面だけでの仕事を淡々と進めているというイメージが強いが、小林さんの場合は非常に柔軟な発想でさまざまな仕掛けを考え、調査し、そしてそれを実行に移していっている。
 "ごろっとやっちろ"、それを汎用性を持たせて、"open-gorotto"という名前で全国に提供する。何か月もこう頭のなかを巡らせながら一生懸命作ったやつを、無料で皆さん使ってくださいと、社会に貢献しているのである。
 考え、調査し、そして行動する職員、分権時代の自治体職員としての姿がそこに見て取れる。