メールマガジン
分権時代の自治体職員
第53回2009.08.26
インタビュー:矢巾町役場上下水道課 吉岡 律司さん(上)
全国の自治体は多様である。政令市のように大きい市もあれば小さな町もある。小さな町の職員でも色々なことを計画し、起案し、実行に移している非常に元気のいい人たちが全国のあちらこちらに存在する。そういう人の噂は私の耳にも入ってくる。
その内の1人が、今日、登場いただく岩手県矢巾町の吉岡さんである。
水道事業・水道経営関係では、全国的な知名度を有する吉岡さんは、斬新な企画を次々に提案し、それを実行しておられる。
稲継 本日は岩手県矢巾町にお邪魔しまして、矢巾町役場上下水道課の吉岡さんにお話をお伺いします。
吉岡さん、どうぞよろしくお願いいたします。
吉岡 よろしくお願いいたします。
稲継 吉岡さんが役場に入庁されたのは何年でしょうか?
吉岡 平成元(1989)年です。
稲継 平成元年に入庁されて、今で20年目に入っているのですね。
入庁されて、1番最初に配属されたのはどういう仕事だったのでしょうか?
吉岡 1番最初に配属されたのは、農林課です。農林振興係という係に配属になったのですが、そこでは主に米穀担当をしていました。
稲継 米穀担当とは、具体的にはどのようなことをする仕事だったんでしょうか?
吉岡 生産調整、当時は水田の転作として減反政策がとられていたので、それをどれだけ配分するかといった担当をしていました。
稲継 それは、机上で減反の計画をつくるだけではなく、実際に農家の方に訪ねていってお願いするという大変な仕事も入っているのでしょうか?
吉岡 当時は減反をお願いしますと言うと、農家の方々は本当のところ不平・不満があっても、矢巾町ではみなさんがそれにならっていただいておりました。ですから、個別にどこかにお願いしに行くということはなかったのですが、現場がとても大事な課ですので、ものすごく人を知ることが出来ました。
お年寄りの方から若い方まで農業に携わっている方々にいろいろ教えていただいたなと思います。
稲継 教えていただいたというのは、つまり住民の方にいろいろ教えていただいたということでしょうか?
吉岡 そうですね。住民の方からいろいろと教えていただいたということですね。まぁ、『人』にしてもらったということでしょうか。
稲継 農林課には何年いらっしゃったんでしょうか?
吉岡 3年です。
稲継 その次に異動されたのは?
吉岡 税務課です。
稲継 税務課ですか。そこではどのような仕事を担当されていたのでしょうか?
吉岡 税務課では賦課係という係で、主に住民税の担当をしていました。
稲継 住民税の賦課、これは割と嫌われる仕事ですよね。
吉岡 そうですね。嫌われますね(笑)。
ただ、非常にやりがいがのあることも確かで、自主財源を確保するためにはどのようなことをしていったら良いかということとですね、やはり、適正な課税、公平な課税という視点からは、かなり重要な仕事だと感じておりました。嫌われるのと比例するような感じで、その分やりがいがあったと思っています。
稲継 やりがいもあるということですが、当時は90年代前半なので、まだ、三位一体の改革もありませんし、地方分権改革も、まだ声がちらほら聞かれた頃なので、自主財源といっても、当時はなかなか限られていたのではないですか?
吉岡 確かに今ほど財源に関して、どうこう言われた時期ではなかったのですが、首長が自主財源確保ということをきちんと明確にしておりましたので、個人にしろ法人にしろ個別調査等も行ったりして適正課税に努めていました。
吉岡 律司さん
稲継 この税務課には4年ほどおられたということですね。
吉岡 そうですね。
稲継 4年おられて、異動になって配属されたのが水道事業所、今の上下水道課にあたる所ですね。
吉岡 はい、そうです。
稲継 この水道事業所に配属された平成8(1996)年ですけれども、当初はどういう仕事に携わっておられたのでしょうか?
吉岡 私は、主に経理の仕事です。そのほか、経営計画や財政計画の企画・立案なども担当しています。
稲継 経理を担当しておられたということですね。
吉岡 そうですね。通常は経理を日々の業務としてやっているんですが、随時、経営改革や財政計画の企画・立案を担当するという形です。
稲継 それは、当時は、水道担当になって間もない頃ですから、吉岡さんが何かを企画してどんどん変えていくというところまでは、まだいかなかったということでしょうか。
吉岡 そうですね。当時は...というか、いつも日々勉強なのですけれども、決算書をつくるので精一杯だったという記憶があります。決算書をつくるために、5月、6月はいつ家に帰れるかなという感じで残業していた記憶があります。
稲継 なるほどね。水道事業、まあ公営企業ですね。公営企業の決算書というのは、役場の決算書とはまたちょっと違いますよね。
吉岡 そうですね。みなさんも知っているとおり水道事業は複式簿記が採用されているということが大きな違いです。
稲継 新しいことを覚えなければならないし、それを、実際の数字を当てはめて全部帳尻を合わせなければならないというところで、やっぱり新人というか、水道の新人にとっては大変だったんではないかと。
吉岡 大変です...。ただし、これは私に限らず、どこでも問題視されているんですけれども、いきなり配属されて決算書をつくれと言われても本当はムチャな話です。決算書をつくるというのは非常に難しい作業なんですよね。一般会計みたいに歳出歳入の動きを見るのではなくて、会計事実、会計慣習、会計判断からなる総合的所産といわれるものです。だから、一定のルールや基準を理解していなければ十人十色の決算書になってしまう心配があります。
稲継 ほう。そうなんですか。
吉岡 はい。例えば減価償却等の会計慣習とか、引当金等の設定という会計判断がきちんとされていないと、同じ決算情報でも、実は違う内容だったりするということが起きてしまうんです。
稲継 では、年度によって出来方が違ってくるということなんでしょうか?
吉岡 継続性の原則というルールがありますので、一度採用した方法は継続して適用していかなければならないんですけれども、やはり担当者によっては、習熟していないと間違ってしまうこともあるかもしれません。
稲継 この業務係で決算書の作成を担当しておられて、何年か経ったときに広域の自主研究のグループに参加しはじめられたというふうにお伺いしたんですが、その辺りの経緯をちょっとお教えいただけませんでしょうか。
吉岡 勉強会に参加するきっかけは、コンビニ収納を始めたことです。当時、収納代行会社を使ってコンビニ収納を行ったのは、町村レベルだと矢巾町は全国で2番目だったんですね。
稲継 そうですか。
吉岡 そういう関係で、「どのように取り組んだのか知りたいから、お前来て話せよ」ということで、その広域の勉強会に入らせていただいたということになります。
その広域の勉強会には、水道だけじゃなくてさまざまな分野の方が、当然、集まっていました。また、そのメンバーが非常に意識の高い方々なので、私もすごく刺激を受けました。水道を担当するにしても、いろいろな視点から物事を考えるようになったのは、この勉強会が基礎になっていると思います。
稲継 なるほど。考え方のベースのバラエティが出来たということですね。ここに参加しておられるのは、いろいろな近隣の自治体の職員の方ということですね?
吉岡 そうです。近隣の自治体の職員ですね。それ以外には、岩手県立大の先生方が参加されていました。
稲継 なるほど。この勉強会に参加してからの吉岡さんなりの仕事に対する考え方とか変化がありましたでしょうか?
吉岡 ありましたね。日々の仕事をただ繰り返していても、本当に住民のためになっているのだろうかと疑問を持つようになりました。当然、従来のやり方を大切にすることも重要なことなんですけれど、社会環境は常に進化しながら深化していますから、常に手段を評価しながら対応していかなければなりません。それには、自分だけで考えていてもどうにもなりませんから、みんなに賛同してもらい組織で課題に対応する必要があります。
何かを変えるためには、相手に納得してもらわなければなりません。そのためには、ただ「頑張ろう」と言っていただけじゃ駄目なので、みんなに賛同してもらうためには、どのようにしたら良いのか考えるようになりましたし、説明責任をどう果たすのか常に意識するようになった気がします。
稲継 こういう自主研究グループにも参加される一方で、水道事業所が上下水道課に組織変更になった平成13(2001)年頃からいろいろな取組を、矢巾町の上下水道課は始められましたよね。その辺のところを教えていただけますでしょうか?
吉岡 はい。それまでの水道事業所から、上下水道課に組織の改編がおこなわれました。上水道と下水道を同じ課で一緒にやっていこうということになったのですが、まず、課を再編するということで、住民にどんなメリットがあるのかというところを考えました。ただ一緒になっただけじゃなくて、一緒になることで住民に対してどんなサービスを提供出来るか、何回も検討を行いました。
ただ、それまでも業務の見直しを組織間で横断的に行っていたので、一緒になったからといって、なかなか改善案が出てきませんでした。結果的に上下水道課になって、はじめて取り組んだのは、サービス面で出来るだけ窓口サービスをワンストップでやっていこうということでした。同じような申請手続は1つの窓口で完結してやっていけるように、工夫しております。
稲継 なるほど、そういう工夫をされたということですか。それでこの年が業務再構築元年と位置付けられたんですか。
吉岡 新しい課になって、みんな新しいスタートラインに立ったような気がしていました。そこで、ここから変えていこうということで、この年を業務再構築元年と位置付けました。
再構築っていうのは、まさしく今までのものをスクラップ&ビルドして-スクラップを3回くらいしているのかな。スクラップ・スクラップ・スクラップ&ビルドくらいの感じでやって-その時に業務棚卸法という手法を使いました。政策体系を可視化しながら、重点項目を作戦図みたいな形にして、どんなところを頑張っていこうかというのをまずやりました。
稲継 水道事業全体について、業務棚卸をしたということですね。
吉岡 はい、そうですね。業務棚卸をして、まず、政策体系図をつくりました。
稲継 これは、いわゆる静岡県で始まった業務棚卸の手法を持ってきたということですかね。それを水道事業全体を業務棚卸されたわけですね。これを活用して、水道事業のあり方をどのように見直されたのでしょうか。
吉岡 業務棚卸自体は、評価の手法ではないんですけれども、それをやるためには、業務を一括りにしてから体系化したり見直しをするので、そこでおおよそ無駄が省かれます。これはプログラム評価を行ったのと同じような形になろうかと思います。
実際、今までの業務委託についてよく検討してみたら、1つに括ったらもっと効率良い委託が出来るようなものが結構ありました。
あと、スケールメリットをつけるために、水道事業だけではなく同じような業務委託を全庁的に一括りにして、同じような施設は全部一括で契約して、発注コストを安くする工夫も行いました。上下水道課がやった業務棚卸が全体に波及して、契約を見直したりというような形につながったことになります。
稲継 役場組織全体の業務見直しにもつながっていったということですね。役場組織全体の業務見直しの起爆になったのが、上下水道課で始めた業務棚卸だったということになるんですか。
吉岡 そうですね。現在、契約の見直しがなされ、全庁的に組織を横断して行われていることからすれば、上下水道課が発信したと言っても過言ではないですね。
稲継 業務棚卸の政策体系図というのを拝見させていただいているんですが、この中には、ここについて少し工夫したら何とかなるんじゃないかとか、いろいろなヒントがありますよね。
その中で附帯事業についてちょっと見直しを考えられたということなんですが、その辺りを教えてもらえますでしょうか。
吉岡 附帯事業に取り組んだのは、まさしく、経営資源を見直して水道料金以外の収入をもって財政基盤を強くしようという発想なんですが、検針票を広告媒体として行う附帯事業は全国で2番目だったんですね。
やろうと思ったのは、多分、1番目だったと思うんですが、政策法務の視点から、政策主体としての法的根拠を整理するのに時間がかかり、2番になってしまいました(笑)。これは平成12(2000)年の地方分権一括法施行による地方自治法の大改正以降の事業なので、行政実例は法的な根拠とはなりません。それ以前であれば、広告掲載料を徴収することは、地方自治法225条と227条の使用料・手数料の範ちゅうに入らないから私法上の契約と解されるとする行政実例が根拠になっていたんです。
ただ、平成13年に行ったものですから、有権解釈者として法的根拠をいかに持たせるのか、大変苦労しました。それを考えている間にどこかの自治体が1番最初にやってしまって...(笑)。で、その自治体では、プレスリリースした時の法的な根拠が、まさしく、その行政実例となっていました。「地方分権の時代なのになぁ」と思いながら、結局、うちはそういうことで後塵を拝してしまったんですが、かなり思い入れがある事業で、みんで集まって知恵を絞りながらやりましたね。
稲継 附帯事業ですけれど、これは、具体的にはどういう事業なんでしょうか?
吉岡 検針票の裏面の全面に、広告を出しています。
私どもの検針票広告は、水道関連業者などは一切抜きで、本当に広告の媒体として扱っていただけるような方に採用していただいています。新しく起業される介護タクシーの経営者が、自分たちを知ってもらいたいから広告を出したいとか、旅行会社の方ですとか、本当にみなさんお付き合いでなく、戦略的に使っていただいています。検針票を持ってきたら、何円割引きとか工夫している広告主もいらっしゃいます。
稲継 普通こういう附帯事業というか裏面広告などは、交通局がやられる場合には交通○○団体とか関連企業とか、職員が天下りしているところに無理矢理引き受けてもらうようなことが結構多いんですけど、矢巾町の場合には全然関係ないですよね。
吉岡 全然関係ないですね。
稲継 予防医学協会とか、福祉輸送会社とか、大手旅行社とか、全く関係ない所が、向こうの方も戦略的にここにお金を投資した。それと、附帯事業から何らかの収益を上げるという矢巾町の思いがうまく合致したという形ですね。これを分権一括法が施行された以降に始められた。
この頃、近隣の市町村で組織しておられる岩手紫波地区水道事業協議会とのお付き合いのやり方とかいうのをちょっと変えてきたというふうにお伺いしたんですけれど、その辺を詳しく教えてもらえますか?
吉岡 私が水道事業所に異動してきたときに苦労した点が、決算書をつくるというところだったんです。
稲継 おっしゃってましたね。
吉岡 「実は、どこもそうなんだよ」というお話もしました。
みんな同じことで困っているのであれば、一緒に勉強しようじゃないかという発想で、勉強会をしました。これも、ただ、集まって愚痴を言い合うだけじゃなくて、専任のアドバイザーの先生をお願いして、2か月に1度、先生に来ていただいて、先生が来ない月は、自分たちで集まって作業グループをつくって作業して、それに基づいて、また先生に指導していただくという形をつくりました。
この勉強会のおかげで、近隣の市町村では会計規程の統一が図られていて、どこも同じような勘定科目や予算科目を体系的に使っています。どこかの町でベテラン職員が異動になって、分からないことができても、電話で「こうこうやれば良いよ」という感じでみんなで教え合うことが出来るようになっています。
稲継 近隣っていうと、どれぐらいの数の自治体ですか?
吉岡 7市町村です。
稲継 7市町村で、統一フォーマットになった。それまでは、結構、自治体によって、かなりバ ラバラであったということですか。
吉岡 バラバラでしたね。バラバラだったので、どこがどういう仕事をしているのかよく分からなかったんです。
稲継 バラバラであったのを、統一フォーマットにして自治体間の連携を図っているというか、水道の決算書に関して統一基準をつくったということですね。
吉岡 そうです。水道事業会計の統一基準というのは実はなくて、個々で作成したものが基準となっています。統一基準をつくるということは、さまざまな自治体が集まっていますので、大変なことではあったんですけれども、構成するメンバーの利害が一致したことで実現しました。人事異動で私のような素人がいきなり来て、決算書をつくらなきゃならないといったときに、同じ仕事をしている仲間が多くいるというのはとても心強いし、7市町村すべての担当者が一斉に異動するということは、まず、ないと思うので、こういう関係が築かれていることは、とても意義深いと思います。
大きい自治体であれば人的資源を沢山抱えて、同じ係の中で分からないことを教えてあげるといったこともあろうかと思いますが、小さな自治体の場合は、それを1人で担当していく場合が多いと思うので、視点を変えて、7市町村を1つの同じことをしているチームみたいなイメージにしたわけです。
稲継 じゃあ、そこの研究会というか協議会ですか、それがお互いが教え合う、学び合う場になって...。これは現在も続いているんですよね?
吉岡 そうですね。平成13年からずっと続いています。ほぼ、毎月開催しているんですよ。
稲継 ずっと続いているから、この7市町村の方々はちょっと分からないことがあったら、別の町の誰かに聞くと、そうしたらこうだよと教えてもらえる、そういう互恵性があるわけですね。
吉岡 はい、そうです。教え合う関係性が定着していると思います。7市町村で会計の勉強をして、正しい決算書をどんなふうにつくっていくかという研究をしましたが、出た答えというのは、まさしく決算情報ですので、住民の方みなさんに見ていただくことになります。今は、同じような基準でつくっているので、横並びできちんと比較も出来ますし、多分、他の地区の決算書よりも遥かに透明性が高い、明瞭な決算書になっているんではないかなと思います。
そして、決算がきちんと出来るようになると、それをいかに道具として使って、次はどうマネジメントしていくのかという具合にだんだん発想が変わっていくんです。
稲継 マネジメント方法ですね。
吉岡 はい、そうです。
稲継 Plan・Do・Seeのマネジメントサイクルと言いますけれども、決算書というのは、まずSeeですよね。Seeからスタートするプランということなんですね。
矢巾町役場
吉岡 矢巾町の場合、教科書的なPlan・Do・Seeのマネジメントサイクルではなく、Seeから始まるマネジメントサイクルになります。まず、自分たちをきちんと評価して、自分たちが今どんな状況なのかということを把握しなければ、Planも出来ないですし、Planが出来なければ、当然、実行も大したことは出来ないですよね。
今、自治体間に閉塞感があるのは、計画もよく分からないし、じゃあ自分たちの目的が何なのかっていった時もそれもはっきりしない。結果的に目的意識もはっきりしないので動きが止まっているのかなあと思うんです。
逆に、自分たちの評価をきちんとすれば、良い計画も出来るだろうし、まず、自分自身がどんな目的で仕事をやっているのか、まずそこを明らかにすれば、どんな計画を立てていったら良いのかというのが必然的に分かるわけですよね。
稲継 じゃあ、そのSeeのところをとりあえずきっちりやると、透明性を高くしてやろうと、しかも、担当者が変わってもすぐ分かるように自治体間協力をして、勉強してやろうということを始められたんですね。
何か聞くところによると、最近はもっと大きな市とか政令指定都市とかが、「ちょっと聞かせてくれ」とか言って、参加される研究会になっちゃっていると聞いたんですが。
吉岡 時々、政令指定都市も参加します。昨日も実はその勉強会があったんですが、遠くは長野県からの参加がありました。
稲継 長野からこちらまで?そうなんですか。
吉岡 はい。長野県の自治体の参加がありました。
稲継 それはみなさんが、そういう情報に飢えているというか、そういう統一基準が、自分のところも勉強したいということで学びに来られるんですね。
吉岡 昨日は会計というより、水道料金の未納問題に関する勉強会を開いたんですが、やはり関心が高いテーマです。
何より、ここの勉強会は自分たちの問題意識を基準にしているので、どこか机の上で企画された研修のための研修ではなくて、自分たちが実務において困っていることを、どう解決しようかってところに着眼しているので、大きい自治体であれ、小さい自治体であれ、同じ問題を抱えていれば参加してみたくなるのではないでしょうか。また、継続してきたことによって、研修会を行う主体として認知してもらえるようになってきたことも参加者が増えてきた要因だと思います。
稲継 私は日頃、自治体職員に求められる能力というのは法規解釈とか、それは必要だし、昔からの事務処理能力も当然必要だけれども、これからはそれにプラスαで、昔のような前例踏襲ではなくて、新しい課題にぶつかったときに、それをどう発見し、どう自分の物にし、どう解決するかっていう能力が問われているんだよということを、あちこちで書いたり喋ったりしています。まさに今おっしゃった、現場で抱えている課題からスタートしているということで、問題意識をみんな共有出来るわけですよね。それでどうやって解決したら良いんだろうという勉強会をするということは、全国の自治体の方々にとって是非参加したいと思われるような勉強会ですよね。
吉岡 そうですね。今、水道の勉強会というか協議会では、日本で多分1番有名なんじゃないかなと思っています。注目されることで、構成メンバーの意識も高くなるし、自信にもつながるんですよね(笑)。
稲継 正式名称は何ていうんですか?
吉岡 岩手紫波地区水道事業協議会です。
稲継 その岩手紫波地区水道事業協議会が、参加者が長野から来たり、政令指定都市から来たりということになっちゃってるわけですね。それってすごいことですよね。
吉岡 すごいことだと思いますね。自分たちの問題意識から始まっているので、みんなの関心は高いですよね。ただ、気をつけていることがあるんです。個別の問題や解決策を単純に積み上げても、その積み重ねが必ずしも正しい方向にいくとは限らないと思うんですね。なので、自分たちが目指すべき大きな目的とは何なのかといった総論についても、勉強会を開催してブレのないようにする工夫をしています。
『実践なき理論は空虚』でしょうし、『理論なき実践は暴挙』だということでしょうか。自分たちをきちんと評価しながらやったがために、自分たちの進むべき方向性も、常に射程に入れながら勉強出来ているのかなと思います。
『実践なき理論は空虚』でしょうし、『理論なき実践は暴挙』・・・学者にとっても耳の痛い話である。実務と理論の架橋をいかにはかるか、吉岡さんの取組は続く。