メールマガジン

第42回2008.09.24

インタビュー:おおさか市町村職員研修研究センター 上浦 善信さん(下)

 池田市における人材育成のための様々な取組みを、倉田市長のもとで改革を進めた上浦さんは、マッセOSAKAへ再び派遣される。通常なら、派遣期間が終わると、元の所属団体に戻るのがルールだが、このときは違った。マッセOSAKA側からのラブコールがあり、池田市を退職して、マッセOSAKAのプロパー職員となってくれないか、というオファーがあったのだ。
 悩んだ末、上浦さんは、そのオファーを受け入れることになる。


稲継 マッセOSAKAへの再度の派遣が副所長兼研究課長として2年間たったわけですが、2年終わったときに、本来は池田市に戻ることになっていたわけですよね。それを、池田市を完全に退職してマッセOSAKAに転職されたわけでしょうか。

上浦 そうです。

稲継 それはどういう自分の思いというかきっかけだったでしょうか。また、それには障害とかがあったのでしょうか。

画像:上浦 善信さんの写真
上浦 善信さん

上浦  マッセOSAKAに対しては、開設時に係わったということもあり、強い思い入れがありました。マッセOSAKAを改革してさらに次のステップに持って行こうという時期であり、その改革のレールをうまく引いてゆきたいという思いで、決断いたしました。
 副市長や市長に、話をしましたときは、ありがたいことに、引き止めていただきましたが、最後は、池田市で培った能力を大阪府内市町村のために、うまく活用してくれというようなことで、円満に送り出していただいたというところでございます。

稲継 なるほど。そうしますとマッセOSAKAの方から上浦さんに対してもう池田市はやめてこのマッセOSAKAに残ってくれとのオファーがあって、それを上浦さんとしては、上司である市長や副市長と相談しながら、オファーを受け入れたと、このように考えればいいわけですね。

上浦 そうですね。

稲継 結構、池田市役所というのを辞めるというのは、今までの長年の勤めのこともあっただろうし、相当大きなジャンプといいますか転機だったと思うのですが、その辺どうでしょうか。

上浦 そうですね、これは非常に悩みましたけれども、池田市のまちづくりに参画したくて就職した池田市ですけれども、先ほど経歴を申しましたように、人事関係、人材育成の仕事が、多かったものですから、この際、このキャリアを活かしてマッセOSAKAで自分の力を発揮させたい、また、夢を実現していきたいという思いで決断をしたということです。

稲継 ありがとうございます。
 マッセOSAKAに身も心も完全に注ぎ込んでおられる上浦さんですが、今や全国的に都道府県レベルの自治研修所としては、非常に有名になったマッセOSAKAの特徴とかですね、人材育成の取組といったものがどういったものであるのかについてお聞かせいただけたらと思うのですが。

上浦 マッセOSAKAの果たすべき役割、求められる役割については、研修事業は、先進的な企画に取り組み、常に市町村から相談を受け、そしてアドバイスできる団体にならないといけないと考えております。また、研究事業につきましては、大学やシンクタンクと連携しながら受託研究を手がけられるような団体にならないといけないと、こんなふうに考えているところです。

稲継 受託事業を手がけられるというのはかなり大きな目標ですよね。

上浦 そうですね。
 スタッフは、研修メニューや研修講師、研修手法などについて研究し、市町村が自ら実施する研修企画の参考となる先進的なものを企画しなければいけないというふうに思っております。また、他府県の研修センターと異なりまして、研修研究センターと「研究」という名称を使っているところに特徴がありますので、大学やシンクタンクとの連携を強化して事業を充実していきたいと考えているところです。
 また、研修事業と研究事業の連携が、非常に重要だというふうにも考えておりまして、研修のなかで研究事業につながるテーマや講師がいないか、研究事業から研修事業へシフトできるものがないかなど常にアンテナを張ることも必要で、現在、その連携実績といたしましては、研修事業で実施している公務員倫理指導者養成研修や訴訟対応研修から研究のテーマが誕生し、研究事業で、それぞれのテキストを作成いたしましたところ、2冊とも時事通信社さんから販売していただくようになりました。
 また、公務員倫理のほうは、このテキストの活用法について、DVDにまとめましたので、このテキストを使って庁内講師をする人に配布しています。
 それから、研究事業のeラーニング研究会において、マッセOSAKAにおけるeラーニング研修のあり方について研究し、その報告書にもとづき、平成20年度よりeラーニング研修を導入いたしました。今後は、コース数を増やすとともに、マッセOSAKAの独自のコンテンツを開発していきたいと思っているところです。

稲継 先ほどから研究事業と出ています。マッセOSAKAの大きな柱といたしましては、研修事業研究事業とあるわけですね。研修事業というのは府内市町村の職員を対象としたさまざまなメニューを用意しておられるわけです。 研究事業というのは、他の自治研修所にはない機能だと思うのですが、この研究事業というものを、先ほどいくつか出てきましたが、もう少し詳しくどういうものがあって、どういうことを目的としているのか教えていただけますでしょうか。

画像:「事例から学ぶ住民訴訟」「公務員倫理を考える」
「事例から学ぶ住民訴訟」
「公務員倫理を考える」

上浦 研究事業には、共同研究、特別研究、研究紀要などがあります。共同研究は、市町村職員が、大学教授などに指導助言をうけながら、月2回、8ヶ月研究します。研究成果を市町村の政策や具体的施策の中に活かすことが第1目的で、この研究活動を通して研究手法を身につけたり、職員間のネットワークの広がりなどが、今後の行政を推進する上で大きな力となることが第2目的です。特別研究は、研究課の職員が事務局となり、大阪府内の市町村職員、大阪府職員、そして大学の先生などと一緒に研究する事業で、まさしく政策提言、施策提言を目的として実施しています。そして、研究紀要は、市町村行政に関する研究論文を6~7人の大学教授などに執筆いただき発行しています。

稲継 その研究事業のなかから、いろんな研究成果、先ほど既に本になって販売されるようなものがでていますが、マッセOSAKAのホームページを見てもらうとさまざまな研究成果が既に出ていることがわかります。そのほかにもたとえば論文公募とかそういったこともやっておられるのですね。

上浦 そうですね。市町村の職員が論文を書く機会や公表する場は非常に少ないと思います。稲継先生にご指導いただきました「公募論文の書き方」、こういったもので勉強していただいて、年1回、公募論文を募集しております。最優秀に選考された論文については、自治大阪や研究紀要に掲載しています。

稲継 研究事業としても研修事業としてもさまざまな取組をやっておられるマッセOSAKAの副所長兼研究課長の上浦さんにお話を聞いてまいりました。
 最後に、このJIAMのメールマガジンというのは、市町村の職員、特に研修担当の方とか人事担当の方が多く読んでおられます。皆さんに送るメッセージのようなものがありましたら、何かお願いしたいと思います。

上浦 プロ野球はより良い新人を採り、トレードで補強し、そして現有戦力を計画的に指導し、選手もまた、必死に練習しております。自治体もより良い人材を採用し、育成していく必要がございますし、職員も夢をもって自己を磨いていく必要があると思います。人材育成というのは、喫緊の課題であり、永遠の課題かもしれません。マッセOSAKAは大阪府内の市町村の人材育成のための応援団です。うまく活用していただき、人的ネットワークも構築していただきたいなと思います。
 研修は、動機付けであり、意欲や能力を発揮させることが、大きな役割です。しかし、研修担当の仕事は、研修の名を借りて、企画部門のすべき仕事もできるダイナミックな仕事であることも認識してほしいと思います。政策形成型の研修をうまく活用して施策提言させたり、改善提案をさせたりすることが可能です。研修担当の皆さんの工夫で研修所あるいは研修担当課が見えざるシンクタンクというのでしょうか、シンクタンクという名前のつかないシンクタンクとなってくれれば非常にうれしいなと思います。

稲継 ありがとうございます。
マッセOSAKA副所長兼研究課長の上浦さんにお話をお伺いしました。どうもありがとうございました。

上浦 ありがとうございました。


 自治体職員のキャリアパターンは様々であり得る。福祉→土木→財政→住民課といったように3年サイクルで回る場合もあれば、上浦さんのように、類似の業務に長年月携わることもあるだろう。
 異動がなかなかなくて、類似業務を長年命じられて、マンネリを感じてくさってしまっている職員もいれば、逆に、その専門性をどのように活かすことができるのかを、考え続ける職員もいる。
 上浦さんは間違いなく後者のパターンだ。彼自身はその後携わった「人材育成基本方針」の中で、10年で3職場ということを強く主張したように、長年同じ職場に塩漬けにするのは本人にとって良くないと考えておられる。しかし、自分自身は結果としてそのような同一職場、類似業務に長年携わることになってしまった。それを、活かす形で転職し、マッセOSAKAの中核人材として活躍しておられる。分権時代の自治体職員の1つの形が見えてくるようである。