メールマガジン
分権時代の自治体職員
第36回2008.03.26
インタビュー:大阪府高槻市人事室長 西岡博史さん(下)
高槻市では、団塊の世代の大量退職に伴い、彼らが就いていた管理職ポストにどのように人材を貼り付けるか、また、それを育成するかという大きな課題に立ち向かっている。
また、行革の観点からも、退職者と同数を新規採用することはできず、新規採用者数を絞って、従来の業務に数多くの非常勤職員を充てている。非常勤といっても、正規職員と同等以上の業務能力を持つ職員も多い。そのあたりをどのようにバランスをとるのか、新しい課題にも直面することになる。
稲継 試験を受けて入ってこられるとおっしゃいましたが、非常勤の職員についても試験をしておられるんですか。
西岡 そうです。公務員試験のような内容ではないんですが、事務能力試験というようなものを実施しております。一定のことができるような人ということになりますので、また、応募者200名の内、採用15名とか、かなり競争倍率が高い中で採用されますので、かなりレベルの高い方がこられています。そういう方がテキパキと事務処理をされて、窓口応対も銀行さん風の応対をされています。
稲継 昔、銀行に勤めておられて、子育てなどで辞められて、また非常勤としてこちらに勤めておられるという方がたくさんおられるわけですね。
西岡 ですから、市民課とかの窓口は、かなり好評でして、市民への応対のまずさで怒られることもかなり少なくなってきていると。ですから、今は貴重な戦力になってきているという状況です。
稲継 10年か15年くらい前の市役所の窓口というのは、どこもそうですが、住民課の窓口は比較的応対が悪く、それに対して住民のクレームがよく出てきたというのが現状だったと思うんですけど、まあ、どこの自治体も今は努力しておられますが、それを非常勤でというのは、かなり逆転の発想ですよね。
西岡 そもそも、そうなるという予測のもとでやったわけではないと思うんですけど、財政抑制であったり、定数抑制であったり、できることは何かというところから始まったんだと思うんですね。それが逆に市民の方でそれだけのポテンシャルがあったということです。そういう方々に役所に入ってきてもらって、窓口改善につながったということですね。
ちょうどその頃に、平成15年から社会人採用を始めたんですけど、社会人採用で採用したある職員がもともと販売会社で働いていた女性の職員でして、私どもも市民課の窓口改善も含めて、接遇や応対を期待して採用したんですけど、その職員が中心となって、非常勤職員も含めて研修をして、今は市民課、支所だけで接遇の研修を内部でされ、マニュアルを作られてですね、かなり高い評価を得ています。ですから、社会人採用と非常勤採用と相まってやったんですけど、振り返ってみると恥ずかしい話、結局役所の人間は何をしていたんだということになるんですね。ですから、役所にとっても一つのターニングポイントかもしれません。20いくつで役所に入ってきて、40年間勤めあげているノウハウというのは、窓口の改善一つもできなかったのかなと、社会人採用での職員と非常勤職員で窓口が良くなるというのは、なんだろうと疑問ですね。
稲継 忸怩たるものということですね。
西岡 職員研修を担当している室長としては、そう思いますね。
高槻市役所 窓口
稲継 確かに私も先程ここに来る前にミステリーショッパーズになりまして、市民課の窓口でキョロキョロとしていましたら、「何かお探しでしょうか」と窓口の向こうから声をかけてくださって、まさに非常に応対のいい銀行に来たような印象を受けましたね。そういう意味では満足して、非常にすばらしいなと思います。でも同時に今おっしゃったように忸怩たる思いをされているということで、非常勤職員がそれだけ頑張っていると、それ以上に給料をもらっている正規の職員が頑張らなければならないと。その辺のバランスをどうするかということが今後の課題になってくるかと思いますが。
西岡 本市の非常勤制度から話をすることになると思うんですが、どこの市もやられていると思うんですけど、1年ごとの任期です。ここで本市は少し違いまして、更新しても5年までです。だから、5年で一旦打ち切ります。そしてまた再度役所で働きたい時は、採用試験を受けていただいて、それもまったくオープンの試験になりますから、競争試験で入ってもらってからになります。同時に昇給制度などは持っていませんので、5年間勤めあげてきた方がこられても前と同じ給料です。ただこれは待遇面でどうだと職員組合からも言われていますし、非常勤職員の方も仕事をバリバリされる方は余計にそう思われますが、それは自然なことだと思うんですね。
私どもも非常勤制度についてのあり方を来年度に本腰を入れて、どういう方向性がいいのか、考えていこうと思っているんですけど、今申し上げましたように、非常勤職員の方もかなり高いレベルをお持ちなんで、仕事の業務範囲を広げれば、例えば、今市民課では窓口だけを担当してもらっていますけど、内部の事務も担当してもらえれば、たぶんできると思うんですね。ただそうすると正規職員とどう違うんだと、正規職員と非常勤職員の役割分担はどこに線を引くのがいいのか、線を引かなくてもいいのかどうかも含めて、考えなければならない時になってきていると。
少し話は変わりますが、外国人採用の時に公権力の行使にはつけないという線は引いていますけど、そのようなものに近い線があるのかないのか、そのようなことも合わせて考えなければならない時代になってきていると思っています。
それが、法的なものも含めて本市だけで、なかなか解決しにくいと言いますか、踏み出しにくい問題でもあるのかなということが今一番の悩みでして、単に、5年の雇い止めを10年に伸ばせばいい、15年に伸ばせばいいという、仮に当面はそれでオーケーだとしても、本来はそんな問題ではないだろうという気がしていまして。
また、私どもの非常勤職員は文書の起案者にはなれませんよという言い方をしています。文書の決裁規定の中での「係員」というのは正規の職員ですよという言い方をしていますので、実際に起案者としては、正規職員が起案者のハンコを押しています。しかし、比較的軽易な文書は非常勤職員がパソコンで作ったものを「係員」としては正規職員が精査確認の上、ハンコを押し、起案として回していると。それが本当にいい方法なのか、どうなのか。それであれば、非常勤職員にも「係員」の資格を与えればどうだということも一方ではあると思うんですね。ただ、その文書を起案したことが先々で何かの問題になってきた時に、それでいいのかどうかということも出てきますので、やはり非常勤職員と正規職員の役割分担と言いますか、役割の違いというのは、どこに置くべきなのかが今一番大きな課題で悩んでいますね。
稲継 これについて地公法上は、正規の職員に適用すると、非常勤については適用されない部分がありますよね。そういうこともあって、あるいは、いろいろな要請もあって、昔、6、7年前になりますかね、地方公務員法に関する構造改革特区申請があってそれに刺激される形で、短時間勤務、任期付き任用の新しい制度が平成14年に地公法を一部改正して作ったという経緯があります。
地方からいろいろなニーズを出していかないと総務省では法律改正には動いていかないので、今おっしゃったようないろいろな課題を全国の自治体と共同する形で総務省にぶつけていって地公法改正なり、法改正なりを一緒に考えるような仕組みができればいいなと、今お話を聴いていて思ったんですね。たぶんおっしゃるように高槻市単独で解決できる問題ではないですよね。法的なバリアーとか様々なものがありますからね。
西岡博史さん
西岡 総務省で任期付き職員というものも作っていただいたんですけど、あれが非常に使いにくいですね。いろいろな業務上の制限というか、何年間かで終わるものとかですね、実際に行政の仕事でそうやって終わるものというのはあまりないんですね。国体とか、オリンピックでもしない限りなかなか無いですし、業務時間の延長のために任用してもらったらいいですよということですが、延長し出せばその業務は継続を前提としますから、その間に任期付きで3年ないし5年で職員が変わっていくというのが本当に使いやすいのかと言えば、我々が今5年で雇い止めしているのとなんら変わらない、それで、実際5年で雇い止めをすることによって、その方がせっかく持っている能力も違う方がこられるとゼロから始まるような、ある意味無駄なことをしていると私どもも思っていますので、やはり任期付きの制度というのは、文脈どおり運用すればかなり使いにくい。任期を無視して自動更新しますと、それが法的に適正かどうかと、例えば、誰かが何かを訴え出た時に法的にはまずいだろうなというリスクを感じていますから、なかなかそこまでできないなと思っています。
非常勤職員というのは、ある意味法的にも曖昧な位置づけの職員を使っていると思っています。全国のどこの市でもそういう運用をしておられると思うので、今回、こんな機会をいただいたので、その辺については、逆に他の市から知恵を借りたいなと思います。
稲継 全国のいろいろなところで同じような悩みを抱えておられると思いますので、是非このメルマガにもご意見をいただきたいと思います。
話が少し飛びますが、採用の件でお尋ねします。最近新聞で拝見したんですが、採用試験の前倒しを高槻市さんは考えておられるということなんですが、どういうお話なのか教えていただけたらと思います。
西岡 高槻市は毎年9月の第3週に採用試験をしています。それについて、大阪府下統一の試験日で、統一の問題で試験をしているということなんですけど、昨年の採用試験をしましたところ受験者が半減しました。それまでは競争倍率が最低でも20倍、普通30倍あったのが10倍前後になってしまいました。民間企業の景気が若干上向いてきたり、公務員試験が難しいというようなこともあって、本当に受ける方しか受けないような状態です。なぜ採用試験をするかというと、当然、職員の欠員を埋めるわけですけど、やはりこれからは量より質の時代、より良い人材をということになってきますので、やはり多くの中から選抜したいという思いを持っています。
そういうようなことがありまして、半減したということに危機感を覚えたということです。それで、採用試験は大阪府下で共同でやっていますので、北摂の私どもの市であったり、豊中市さん、吹田市さんといった北摂の大きな市でも同じように半減していることを踏まえまして、大阪府下の採用試験協議会というものを市長会でやっていますので、そこへ議題を持ち込み、大阪府下統一でもっと前倒しできませんかと。せめて7月くらいに持っていけませんかということをお願いして議論をしてもらったんですけど、各市それぞれ事情をお持ちです。大阪の南部ではかなり財政的に厳しい市もありますし、都市の形成過程でやはり北摂は、大阪万博が中心となって、1970年前後から先に大きく開けて、その時に私どもの市と同じように多くの職員を採用した市が同様の問題を抱えています。南部は関西国際空港開港前後から開けてきていることから、年齢構成が北と南で少し違いますね。そのようなことがあって、採用について、南部は、どうしてもそれほど人を採らなければならないというわけではないようなんですね。ですから、温度差がありまして。
稲継 危機感が違うということですね。
西岡 それであれば、大卒の事務職や技術職の試験だけは、北摂は先にやらせてもらいますということで来年度の試験からは6~7月に前倒しすることが決まりました。試験日の決定など、現在事務手続きを進めているという状況です。
稲継 前倒しにするということですが、今まで9月に採用試験をして、最終合格が出るのは何月頃だったんですか。
西岡 今までは11月末までには出すということでしたね。
稲継 大学生にとっては、11月末まで採用されるかどうかわからないという不安な時期が続くわけですね。前倒しで7月に試験をすると2ヶ月くらい早まるわけですね。
西岡 そうですね。南部は今までどおり9月の第3週にしますので、それまでには合否を出してほしいということを言われていますので、遅くとも9月の第2週くらいには出すということになりますね。
稲継 それは大学生にとっては非常に朗報で、早めに進路を決定することができるということですね。
西岡 民間が3年生の今の時期(1月)から面接を始め出して、5月までには決まるというようなことを聞いていますので、同じ大学に行っていて、片や決まって来年に向かっていろいろ準備している学生と、まだ勉強していてまだ決まらない学生がいることになります。
稲継 それは精神的にもつらいでしょうね。
西岡 ですから、私どもの市長が、公務員同士の試験での取り合いではなく、民間との人の取り合いだから、とにかく、前倒ししろという意見もありまして、そういう後ろ盾もありましたので、今回は早くできたということです。ですから、平成20年7月にする試験でかなりの受験者が来れば、府下も動くかもしれないなと思っていますので、なんとか受験者を増やす努力をしていく。年齢制限を広げたりしたいなと思っているんです。
稲継 いい人材が来てくれるといいですね。
西岡 やはり、質はある程度数の中から生まれるということもありますから。
稲継 前倒しすることについて、他から反発とかありませんでしたか。
西岡 これまで府下共同で9月にやってきましたから、そこから変化が生まれるということについて、個別にこれがダメだとか、これが良いということはありませんでしたが、変化に対しての漠然とした反対と言いますか、なぜ?というようなことはありました。
稲継 そうですか。
さて、西岡さんの今までの職務経歴から、今抱えておられる課題、特に団塊世代の大量退職から後継者育成、非常勤職員のお話、採用試験のお話をお聞きしてきたわけですけど、何か特に読者の皆さんにメッセージがございましたらお願いしたいと思います
西岡 先程申し上げましたように、私が今一番悩んでいるといいますか、私の役職に与えられた課題なんですけど、やはり非常勤職員の問題と、大きな意味での人材育成、若手の職員をどう引き上げていくか、正規職員と非常勤職員との関係、役割分担とか、その辺については、大阪府下、特に北摂の市は、本市の職員構成に近いですから、同じような悩みもお持ちでしょうし、もう少し広げれば、東京近郊でも都市が広がって、人口が増え、いろいろな悩みを持っておられるところも多いと思いますので、その辺のところで参考になることがあれば、また教えていただきたいと思います。情報交換ができれば一番いいかなと思います。来年度は非常勤職員についていろいろな問題を抱えておられるような自治体にお邪魔することを考えていまして、東京都内のある区は非常勤職員の管理職任用をしておられます。どのような経緯があって、どのような決断をして、管理職にしておられるのか。先程言いましたように、職員の管理職と非常勤の管理職との違いであったり、その辺を組織として、先々も見据えて考えた上での決定なのかどうなのかということもお聞きしてみたいなと思っています。
稲継 職員組合同士は比較的仲が良くて、強固な連結を持っているわけですけど、逆に任命権者である人事課同士は、それほどお互い仲がいいわけではなく、情報があまり行き来していないという現状があり、それがマイナスに影響している面も多いですね。でもこれからは、それをできるだけ解消する形で全国の人事課同士が連携を取れたらと思いますし、是非このメッセージをお読みになったメルマガ読者の皆様にも西岡さんと手を取り合っていろいろな課題に取り組んでもらいたいと思います。
本日はどうもありがとうございました。
西岡 ありがとうございました。
2号にわたって、高槻市の西岡さんへのインタビューを掲載してきた。大都市近郊で、昭和40年代に人口が急増した自治体では、高槻市ほどではないにせよ、団塊世代の大量退職という深刻な問題を共有しているはずである。また、非常勤職員の扱いについては、全国自治体の共通課題ともなりうる。是非、全国の自治体が共同歩調をとって、課題解決に乗り出して頂くことを期待したい。
5月になれば西岡さんも、異動作業が終わって一段落しておられるだろう。「ちょっと一杯やりますか?」