メールマガジン
分権時代の自治体職員
第29回2007.08.22
インタビュー:人材育成型人事考課制度~ 大阪府岸和田市広報公聴課長・小堀喜康さん(下)
前回は,岸和田市の人事考課制度のうち,能力評価の部分について答えていただいた。今回は実績評価の部分について尋ねるとともに,その運用の実際について答えてもらった。
稲継 岸和田市さんでは、能力評価は簡易コンピタンシー、実績評価は目標管理でしておられますが、その目標管理による実績考課で、特に重要なポイントというのはどういうところになるでしょうか。
小堀喜康氏
小堀 私どもも目標管理は当初から複雑で難しいと思い、コンサルタントにノウハウを提供いただいて制度設計を行いました。最初の職員研修もコンサルタントに協力いただいて行ってきましたが、実際やってみると想像以上に難しかったというのが実感です。
まず個人目標についてシートを書くにしても、目標がなかなか設定できない。行政の組織は課単位になっていますから、課単位の目標というのは従来から設定するということに慣れていました。ただそれをより具体的に個人レベルの目標に設定し直すということになるとみんなとまどいがあって、なかなか難しいということになりました。しかもそれが自分自身の成績として点数になってくると大変緊張すると同時にとまどいがあるというのが実感です。
それともう一つは、実際にシートを作成して、目標設定をしてもらいましたが、目標管理の場合、目標連鎖が重要です。組織ですから当然ですけど、市のトップの方針が、部長レベルでは、いわゆる政策的な目標として設定され、課長レベルでは施策的なレベルの目標として設定され、係長の場合は、私どもでは担当長と呼んでいますが、担当長レベルでは事務事業レベルのもう少し更に具体的な目標として、整合性が取れた目標が、設定されないと組織としては、一つの方向に力を結集して仕事に取り組むということができません。
ただそれは、日常の打ち合わせとか、様々なコミュニケーションを通じて行われているわけです。我々はコミュニケーションがある程度取れている、部長は課長と一致している、課長は部長と、あるいは係長と一致していると思って仕事をしていますが、実際に個人レベルの目標を設定してもらってシート化してもらうと合いません。バラバラです。そこで私どもも目標の共通認識を形成することがいかに大事かということに気がつきました。
今申し上げたように、我々自身の仕事の進め方について、コミュニケーションが取れている、お互い理解できて同じ方向に進んでいると思いながらやっていますが、いわゆるツメが甘い。ですから、7~8割ぐらいのところまでは一致していても、一番重要な最後の決定をする1~2割の部分のツメが甘いものですから、どうしてもズレが生じるということがわかったことが初年度実施した成果です。
部長、課長の管理職の方々もそのことに気づかれて、2年目からはシートを作成する前に十分ミーティングをすると同時に、そのシートを照らし合わせて具体的に、課長であれば部長のシートのコピーを受け取って、係長のシートのコピーも受け取って、自分のシートと3つ並べてそれぞれが重要課題としているものが一致しているのかということを点検することを始めました。それによってかなり、今言った目標連鎖というものが実現できるようになったと思います。
また、私どもは2枚のシート(組織目標設定シート、個人目標管理シート)を使っていますが、通常は個人目標を設定して、それの達成基準を書いて、どれだけ達成できたか、何%達成できたかで評価しています。個人の実績評価としては、それだけで十分だと思います。
目標設定シートだけで実施されている企業、あるいは自治体は通常多いのですが、今申し上げたように目標連鎖を達成するためには、それ以前に組織目標を明確にするという作業が必要だと思います。
そこで、もう一枚組織目標設定シートを作って、部長は部レベルで、組織課題を整理し、課長は課レベル、係長は係レベルで組織目標を整理する。このシートを先程申し上げた部長のシート、課長のシート、係長のシートを3枚並べて組織での重要課題が一致しているかを点検するというようなことを行っています。
この目標連鎖を実現するために組織目標シートを使うことは、聞いてみると「なるほどな」と思いますが、意外と知られていなくて、案外使われていないツールです。簡単なツールですが、これを使うことが非常に重要なことではないかと思います。
稲継 民間企業でも目標管理が失敗しているところというのは個人個人がバラバラの目標を立ててしまっていて、それに基づいて評価するために組織全体としては整合性がとれていない。あるいは、同じ方向に向かっていない。というようなことがよく言われているわけですが、岸和田市さんの場合は、それを同一目標にしていこう、組織力を高めようということでシートを2枚にして、コミュニケーションをとってお互い打ち合わせをする時間を持つということをやっておられるわけですね。
先程もお話にありましたが、コミュニケーションは取れているようで実は肝心な部分でコミュニケーションが取れていない。そういう意味ではこの目標管理のための様々なシートはコミュニケーションツールとしてのシートであるとも考えられるわけですね。
小堀 そうですね。実際に4年間運用してきましたが、運用した実感としましては、目標管理はコミュニケーションツールとしては、大変優れたものだと思います。組織マネジメントのためのツール、コミュニケーションツールとして考えた場合、大変有効なものだと思います。
ただ、逆に評価ツールとしては完成度が低く、まだまだ研究や改良の余地があると思います。目標管理は具体的に仕事上の目標を設定し、それが何%達成できたかということで評価するわけですからこれほど客観的なものはない。目に見えない能力を評価するのではなく、実際に行った仕事の成果で評価するわけですから、これほど客観的なものはないと言われますが・・。ここに落とし穴があって、我々の仕事で本当の成果というものは何なのかという基準が定まらない。それと民間の成果主義の弊害で言われますが、点数が給与面の処遇に直接反映されるとなれば、みんな達成できる安易で安全な目標、レベルの低い目標を設定してしまいます。
目標管理を行う場合は、通常「難易度」というものが使われます。設定した目標の困難性です。やはり、困難性の高い、レベルの高い目標を設定した場合、それを達成すれば高得点になる、しかし、簡単なレベルの低い目標であれば、達成してもそれなりの点数にするというようなことをしないと不公平になるということです。そういう難易度を設定する際、この難易度の判断に主観が入る。この辺が今後の研究課題ではないかと思います。
稲継 これまで人材育成型人事考課制度の特徴、その利点、あるいは課題ということについてお伺いしてきました。ここ数年この問題に取り組んでこられてのご感想をうかがえるとありがたいと存じます。
小堀 私も実際、取りかかる当初は、もっと簡単にできると思っていました。事前に職員に拒絶反応があると認識して取りかかったのですが、予想どおり拒絶反応があり、未だに拒絶反応を持っている職員が一部に残っていると感じます。
反面、逆にこういう制度が入ったので、それに刺激を受けて能力開発に取り組む職員もいます。
また、先程言いましたようにコミュニケーションツールという側面があります。評価する際や評価結果をフィードバックする際に面談がもたれますし、目標管理にしても、目標設定する際に、あるいは、その達成度を評価する際に面談がもたれます。やはりそういう面談というのは、日常レベルでの会話、打ち合わせではなく、1対1で、あるいは1対2というような場合もありますが、上司と部下が年に数回ですが、正面から向かい合って真剣にお互いに話をする機会というのは、今までになかったことです。職員にとっては、コミュニケーションを深める上では非常に有効になっている。それがモチベーションを高めるという意味でも、非常にいい刺激になっていると感じます。
稲継 小堀さんは人事課に長年勤めておられたわけですが、今年の4月から広報広聴課長という新たなポストに就かれたわけです。今後の抱負をお聞かせ願えればと思います。
小堀 最初にお話したように、以前広報公聴課にいまして、人事へ異動し、そしてもとの職場へ戻るという形になります。これまでは、人事考課制度を運用する立場でしたが、今度は管理職という形で戻りますので、実際にそれを使って部下を評価して、部下とコミュニケーションを取るという現場の管理職という立場になりました。そういう意味では、本当にこの制度が、どれくらい有効にコミュニケーションツールとして活用できるのか、それによって、部下と一緒にお互いに育ち合えるのかということを実践してみたいということが現在の抱負です。
稲継 岸和田市型の人事考課制度を広報広聴課長としても全国にアピールしていっていただけたらと思います。お忙しいところインタビューにおつきあいくださり,どうもありがとうございました。
岸和田市型の人事考課制度について,3回にわたってインタビューを掲載した。
人材育成型人事考課制度について、その一端を知ることができたことと思う。岸和田市は、人材育成基本方針はもちろんのこと、人事考課シートや、分厚い人事考課マニュアルもすべてホームページで公開している。興味のある方は、ぜひ、ダウンロードして検討して見られてはいかがだろうか。
お知らせ!
小堀喜康さんの著書『元気な自治体をつるく逆転発想の人事評価―岸和田方式・「人材育成型」制度のつくり方と運用法』が,(株)ぎょうせい,から今月出版された。多くの方に読んでいただくよう推薦したい。
次号では,現場で職員研修に取り組む研修担当職員にスポットをあててインタビューを行う予定。