メールマガジン
分権時代の自治体職員
第26回2007.05.23
職員研修―11
研修体系の見直し
ある会合の後の懇親会で、某自治体の職員研修所の方から、「先生はどのような研修体系が理想的と思われますか」という質問を受けた。研修体系見直しの特命を受けたその人はおそらくせっぱ詰まって筆者に質問されたのだろう。しかし、この「問い」は、あまりにも漠然としすぎている。
研修体系を考えるにはそれぞれの組織の特性を十分考慮する必要がある。どのような職員構成になっているのか、組織風土はどのようなものであるのか、人事システムはどのようになっているのか(係長昇任試験があるのか、人事評価はどうなっているのか、自己申告制度などはどのような内容となっているのか、などなど)。また、年功序列がある程度続くのか、それとも、若い時期から試験制度などによる抜擢人事があるのかによっても、キャリア開発の仕方も相当に異なってくる。さらには、組織の形態として、グループ制を導入しているのか否かによっても、階層別研修のあり方なども変わってくるだろう。このように、諸システムが異なると、望まれる研修体系もまったく異なるものになってくる。質問者の「漠然とした問い」には、これが理想だ、と答えることは不可能である。
要は、それぞれの組織環境の中で、個々の職員の能力開発・人材開発にはどのようなトータルシステムを構築するかという点にかかっていると思う。
研修体系見直しのチェックポイント
ここでは、それぞれがおかれた状況下において、研修体系を見直す際のチェックポイントを考えておきたい(参考:桐村晋次『人材育成の進め方(第3版)』日本経済新聞社)。
(1)人材育成基本方針を具体化したものであること。
そもそも論理的に考えて、どのような職員を求めるのか、それをどのように育成するのか、という人材育成基本方針がなければ、人材育成体系の一環を担う研修体系自体が成立しないはずである。しかしながら、今まで数多くの地方自治体で、「人材育成基本方針がないのに研修体系が(まがりなりにも)存在する」という状態が続いてきた。これは、地方公務員法第39条に「研修に関する計画」(改正前の第3項。現在の第3項および第4項)と書かれていることから、とりあえず「研修計画」ということが先に来ていたことが原因であろう。しかし、通常の組織として考えるなら、経営理念やトップの基本方針がまずあって、それにマッチする人材育成基本方針があって、さらにそのための研修計画がくる、という順序になるはずである。
1997年に自治省の通知が出されて以降、ようやく各自治体においても人材育成基本方針策定済みのところが増えてきた。ただ、規模の小さな自治体では未策定のところも多い。研修体系の見直しにあたっては、まず、人材育成基本方針を策定するところからはじめる必要がある。
(2)職員各自の自学を促進し、能力向上への動機付けを行っているものであること。
これまで何度も指摘してきたように、能力開発の基本は自学である。研修は、自学を促進して能力を開発するためのきっかけづくりであることを自覚する必要がある。第19号でも指摘したように、研修は、「芽を出す、種をまく、畑をきれいにする」といった重要な役割をもっている。
(3)それぞれの研修の目的を明確にし、他の研修との関連づけをはっきりとするものであること。
研修は相互に深いつながりを持っている。それらの間で相乗効果をはかることが肝要である。そのためにも、それぞれの研修の目的の明確化が必要であろう。
(4)組織や人事諸制度との連携をはかる。
研修・能力開発と、組織・人事諸制度は相互補完関係にある。研修の効果を上げるためには、両者の連携に自覚的である必要がある。研修は単独で存在するのではない。この点については、今まで何度も指摘してきたとおりである。
(5)生涯能力開発という観点から考えて、職制上の地位に対応した一貫した階層別コースを設けること。
日本の地方自治体職員は、基本的に20代で採用され、60歳の定年まで勤務する。その間、段階を経て地位が向上したり、ポジションが変わったりしていく。生涯を通じた能力開発が必要になってくる。(この点は、中途採用・転職が当たり前の、英国の地方自治体職員などとは大きな違いがある。ここでは、短期的に習得する知識研修などが研修のメインとなる。)
階層別研修には、その不要論も存在する。しかし、自治体における働き方として、大部屋主義でチームワークを大切にするという点が変化していないため、階層別研修が本来持っている意義は失われてはいない。要は、その中味が問題なのである。
(6)職場や職員の研修ニーズを反映したものであること。
職場が渇望している研修テーマ、職員が望んでいるテーマを取り上げたときに、その研修効果は向上すると考えられる。職場へのヒアリングや職員に対するアンケート調査は欠かせない。しかし、これを実行している自治体は、今のところ少数派である。
(7)集合研修だけでなく、職員個々人の個性や適性の開発にウエイトをおいた個人別キャリア形成のプランも盛り込むこと。
第10号で紹介した静岡県のCDPは、これを実践しているものといえるだろう。
(8)能力開発の推進機関が明確に定められ、責任と権限が明示されていること。
人材育成は最終的には個々の自学がポイントである。ただ、それを刺激する役割を担っている人々がおり、機関がある。職員研修所(職員課の研修担当)もその一つであるが、能力開発が職場で行われる(OJT)ことが多いことから、各職場のリーダーである課長などをその推進機関として定めて責任と権限を明示し、それを検証することが必要である。単に、OJTのマニュアルを配付しただけでは、OJTはうまくいかない。
各自治体の研修担当者は、以上のような点を満たしているかどうか、それぞれの研修体系をチェックしてみられてはいかがだろうか。