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第24回2007.03.28

職員研修―9

研修の効果測定
 職員研修でどれだけ効果があったのかを測定する手法として、様々なアプローチが開発・提唱されてきたが、比較的広く知られているのが、カークパトリックの4段階評価である。これは、ドナルド・カークパトリックによって40年以上前に主張されたもので、その後、研修の効果測定モデルとして広く研修業界で利用されていると言われる。
 彼は評価には4つの段階があり、それぞれのレベルで適切な評価方法を採用しなければならないという。
 レベル1:Reaction=反応
 レベル2:Learning=学習
 レベル3:Behavior=行動
 レベル4:Results=業績
(カークパトリックの4レベルについては,次の本を参照。Donald L. Kirkpatrick & James D. Kirkpatrick, Evaluating Training Programs: The Four Levels: 3rd ed., Berrett-Koehler Pub, 2005

レベル1
 通常、研修を実施した後、受講者へのアンケート調査をとることが多い。研修への満足度などを調査項目としてあげている。これが、レベル1の段階である。

 一般的な,受講者アンケート調査は,次のような項目からなっていることが多いだろう。
 ・総合的な満足度 5~1
 ・講義は今後役立つ内容だったか 5~1
 ・講義資料はわかりやすかったか 5~1
 ・講師の進め方はどうだったか  5~1
 ・講師の説明はわかりやすかったか 5~1

 受講満足度が高ければ、一応研修がうまくいったとの推定ができるかもしれない。ただ、受講者が好意的な反応を示しているからといって研修がうまくいったということには必ずしもならない。お笑いタレントを呼んで漫才をしてもらったら、満足度がすごく高かったという笑えない話もある。
 逆に受講者満足度が低かった場合はどのように考えたらいいのだろうか。講師の能力不足(講師の責任)と割り切れるのだろうか。そもそもカリキュラム自体に問題があったり、講師にミスキャストがあったり、あるいは、キャストには問題はなかったものの受講対象者の特徴や能力等を十分に把握し講師に伝えることを怠ったことが原因だったり、研修機器についての特徴を講師に伝えていなかったり(PPTプロジェクターの照度が低いために部屋を暗くしなければならず結果として受講生がノートを取れない場合がある。これを予め伝えられていれば、その講師はPPTを使わなかったかもしれない)、といった原因も考えられる。講師の能力不足の場合以外、いずれも研修担当者の責任である。

レベル2
 研修は、受講者が何らかの知識やスキルを獲得することや、あるいは何らかの理解を深めること、発見をすること、きっかけづくり、などが目的である。そこで研修の範囲を達成したと言うことを示す必要があり、これがレベル2の学習の段階の評価である。この段階では、事前と事後の評価、観察、テスト等で評価が行われるとされる。一般には、知識やスキルがどれだけ身に付いたかのテストによることが多いだろう。ただ、自治体研修の場合、このレベル2が実施できる科目は限られているようにも考えられる。知識付与型の科目なら可能だが、それができない科目も多い。だが、目標達成度を測定するといった工夫でこれを把握しようと努力している自治体研修所もある。S自治体では、無記名のアンケート調査と、記名式の受講調査票との2種類を用意している。
 受講者アンケート(無記名)は、次のような項目で、一般的に多くの自治体で行っているものである。
 1.受講して気づいた点、ご意見(講師・講義内容、演習等の進め方、研修の運営等について)
 2.職員研修全般について研修所等に希望すること

 受講者調査票は、次の票のようなものを用意している。

受講調査票

レベル3とレベル4
 レベル3は、受講者が、実際の業務においてどの程度、研修で得たものを用いることができているのかを評価する、と言われる。しかし、言うは易く行うは難し。各職場の上司や同僚などに対するインタビュー調査を行う必要があるなど相当の手間暇がかかり、自治体業務においては、現実問題として実施することがかなり困難であろう。
 レベル4は、さらに困難である。業績があがったことが、研修によるものかそれ以外の要因であるのかを確定することはほぼ不可能に近いからである。

 研修ビジネスの世界では、このカークパトリックモデルを使っての売り込みも多いようであるが、現実問題として、自治体現場においては、レベル3,レベル4の厳密な効果測定は困難であろう。
しかしながら、レベル1,2については可能なものは測定しておく必要があると考えられる。また、第19回で触れた、種を蒔く、芽を出す、畑をきれいにする、というのは、やはりレベル3やレベル4の測定ということになるのかも知れない。要は、このような視野を持って、研修プログラムの作成や改訂に取り組む必要があるという点だけは、否定できないようである。

J. フィリップのモデル
 カークパトリックのモデルの他にも、多数のコンサルタントや学者によるアプローチが提案されているが、その中でも日本語翻訳が出版されているフィリップの5レベルアプローチを紹介しておこう。
 レベル1:Reaction&Action Plan=反応と行動計画
 レベル2:Learning=学習
 レベル3:Job Application=職場での適用
 レベル4:Business Result=業績結果
 レベル5:ROI (Return on Investment)=投資対効果

 この場合、レベル1では、反応だけではなく実施に対してどういう計画を作ったのかまでを見る。レベル2は、スキル・知識・態度の変容を評価する。態度までを含めている。レベル3では、実際の仕事面でどれだけ応用できたかを測定する。レベル4では、業績を見る。そして、レベル5として、投資対効果を測定することとしている。(ジャック・フィリップ『教育研修効果測定ハンドブック』日本能率協会マネジメントセンター、1999年
 理念的には理解できるもものの、自治体の現場での適用にはかなりの困難がつきまとうのも事実であろう。