メールマガジン
分権時代の自治体職員
第22回2007.01.24
職員研修―7
研修担当者の仕事
一般に「研修の実施は、イベントの実施とよく似ており、実施に至るまでの事前の準備がきわめて重要である」とされる。(地方公務員人事実務研究会編著『(地方公務員の図説・人事実務シリーズ(3)) 研修 』学陽書房、1993年)
研修実施のための準備事務の流れは、大きく分けて3系列になる。
第1は、カリキュラムの作成、講師の選定・依頼、資料の準備などの流れである。
第2は、受講者の決定、受講者への事前連絡、名簿等の作成といった流れである。
第3は、研修会場の確保、研修機器の準備、会場設営などの流れである。
この3つが、順調にかみ合ってはじめてよい研修が実施できる、とされる。この流れを図示したものが次の図である。
研修担当者は、一般的に、ルーティン業務の中の例外事項に敏感である。例えば、各所属から人を集めて行う研修で、どこかの所属から名簿が出されてこないとしよう(図のの部分での障害)。この場合、研修担当者は、当該所属の庶務担当に何度も連絡を入れて、何とか人を出してもらうように説得しようとする。全所属から最低1名、という基準を設けているのに、例外的に受講者のいない所属があることは耐えられない、と研修担当者は感じる。第2の流れ(図の左はしの流れ)において、この部分で詰まってしまえば、受講者への事前連絡()、名簿の作成作業に移れない。担当者は大きなストレスを感じて、第1の流れ(真ん中の流れ)や第3の流れ(右端の流れ)においてもミスを犯してしまうことにつながる。ルーティン業務のスムーズな流れが第一義に考えられてしまう。
研修ニーズの把握のために研修所から所属に照会をかけて、所属から「こういう研修をしてもらいたい」との提案があった場合にも、研修担当者はまず、費用や研修場所の収容能力、日程などが頭をよぎってしまいがちである。本来、考えるべきは、所属から出てきた研修ニーズをとらえて、人材育成の観点からそれをどのように実現していくのかという内容の吟味であるべきなのに、図の中にある、各ポイント(担当者からみれば障害物と感じるかも知れない)ごとの実務のわずらわしさが頭をよぎってしまいがちになる。
多くの研修担当者が、上の図の中に巻き込まれてしまって、本当に大事なことはやその前段階であるかもしれないのに、それよりも日々のルーティンがスムーズにいくことに注意が行きがちになってしまう。
自治体現場を数多く歩いて自治体行政学を提唱した、東京大学名誉教授の大森彌は次のように指摘する。
行政実務の世界では、各課・各係の分掌事務に即して担当者が滞りなく業務を遂行することが当然の責任となっているだけに、研修を企画し実施する職員もまた、その職務に忠実であろうとする限り、定められた業務をきちんとこなすことが当たり前になる。しかし、特段の問題関心をもたず、従来のやり方を踏襲すればよいと考える研修担当者が、昨年と同じく、あるいは前任者と同様に、それなりのプログラムを、起案し決裁権者の承認を受け実施するのは、さほどむずかしくない。しかし、それでは空しさを感じないであろうか。(大森彌『自治体職員論』(良書普及会、1994年、153頁)
この問いかけは、研修担当者にとって厳しいところを突いている。淡々と作業をこなすだけの職員、前例踏襲能力だけが優れた職員は、もしかすると空しさを感じないかも知れない。しかしながら、どうやって職員の能力開発をはかればよいのか、日々悩み、課題を発見しようとアンテナを張り巡らせ、解決策を模索している職員、やる気のある職員なら、大森が指摘するように、作業の連続だけでは空しさを感じるはずである。
さらに大森の厳しい指摘は続く(以下、次号)。