メールマガジン

第17回2006.08.23

職員研修―2

研修所研修に対する職員の思い
 研修所研修には直接費用のみでなく、機会費用という膨大な費用がかかっていることを前回指摘した。だが、研修所研修に関しては毀誉褒貶が激しい。例えば、本連載の第7回で掲載したアンケート結果では、職員自身の期待度が大きくないことが示されていた。
 本メルマガに寄せられた意見の中には、研修所研修に関して、やや懐疑的に考える見方と、積極的にその意義を肯定する意見と、様々なものがあった。

 まず、L県庁のMさんの意見を紹介しよう。

 研修所での研修に魅力を感じなくなっています。
 理由その1。研修カリキュラムの設定が興味をひくものになっていない。
 どのような研修に興味を抱くかは個人間で差があるかと思いますが、研修所の研修スケジュールの都合等で研修内容が「浅く広い」ものにならざるを得ないことや、それが結果として「研修所内での研修」に終わってしまうといったことが、研修に魅力を感じなくなっている理由の1つです。
 また、新規採用職員研修や各階層で受講する吏員研修の研修項目・内容は同じことの繰り返しであることが多く、旧態依然としています。行政経営等に関する最新の話題や手法、行政の世界的または全国的な動きについて学ぶことはできないのです。
 理由その2。受講した研修が職員のキャリアアップに直接つながらない。
 その1とも関連しますが、自治体として求める職員のビジョンが明確でないことが、場当たり的な研修に終始していることになっているのではないでしょうか。分権時代の自治体職員に必要なスキルはどういうものがあって、設定された研修を受けていくことでどのような職員を育てることができるのかといった「職員育成ロードマップ」みたいなものがないことが、大きな問題なのかもしれません。
 理由その3。研修に参加している職員のモチベーション。
 研修が仕事の息抜きになっている職員がいたり、研修内容そのものに魅力を感じて自発的に参加している職員が少なかったりするため、総じて研修へのモチベーションが低く、充実した研修が受講できる雰囲気ではないことも理由として挙げられると思います。
 以上、いろいろ書きましたが、もしかしたらこれらのことは研修を受講する職員の個々のモチベーションによって、如何様にも変えられるのかもしれません。例え場当たり的な研修であっても、「自学」の心やそれを支える「向上心」があれば、自己のキャリアアップの明確なロードマップにその研修を位置づけることができ、自己実現につなげていくことができるのだと思います。
(L県庁Mさん、入庁5年目)

 N市役所のOさんは、次のような意見を寄せてくださった。

 自治体の研修は有料・無料を含め、豊富に用意されていると思う。法律・技術など専門知識から、マナー・応接などのビジネス研修まで幅広く、各自が足りない部分を選んで補えることは良いと思う。
 ただし、それらの豊富な研修が有効活用されているかには疑問を感じる。
 問題と考えることを2つ挙げたい。
 1つ目は、職場が研修受講を推奨する環境であるかである。受講に際しては、土日でない限り自分のこなすべき仕事が周囲の負担になるため、理解と協力が必須である。しかし研修に対する意欲に差があるため、「研修なんてめんどうなだけ」と発言する職員がいると、参加したいと言い出しにくい空気があるのではないだろうか。このため、参加しやすい環境で、かつ意欲的な一部の職員が繰り返し受講するように感じる。
 2つ目は、研修の位置付けである。現状では研修はあくまで自由参加であり、参加後に研修レポートを書く程度で、キャリアや資格として申請する仕組みや明確な評価は付与されていない。もちろん仕事を通じて研修の成果が評価されるのではあるが、結果だけ見るのでは意欲向上は難しいのではないだろうか。ともかく勉強の必要性を痛感する職員が増えて、まず自分が参加したいと思うようになることが解決への一歩になると思う。
(N市役所Oさん、新規採用職員)

 上のメールにみるように、職員研修所研修の問題点を種々指摘する声がある。しかし、上のお二人も認めておられるように、位置づけやカリキュラムの組み方によっては魅力的なものになりうる可能性もある。

 P市役所のQさんは、職員研修所研修の存在意義を強く認めている。

 研修所の主催する研修について、受講する側の職員からよく言われることは、「業務と関係ない」「役に立たない」といったものではないでしょうか。(先生のところへもそうした内容のメールが届いていることと想像します。)
 しかし、研修所研修は業務に「直接」関係ないからこそ意味があるのです。地方分権一括法施行以前に、これからの自治体のあり方を考えた職場がどの程度あったか思い起こしてみてください。公会計制度改革が予定されていますが、そのことを知っている職員がどの程度いるか、そのことによって自治体職員の思考パターンをどれほど変えなければならないかを想像することがあるでしょうか。管理職になることを期待される年齢層のうち、自らリーダーシップや戦略形成について学ぶ職員はどれほどでしょうか。
 研修所研修が扱う内容は、「自分で必要性を認識する可能性は高くないが、自治体職員として知っておいてほしいもの」であり、人材育成担当のそうしたメッセージだと考えるべきです。しかし、実際には研修担当者もそうした意識を持たずにルーティンとして実施していることも多いと思います。そうした状況では研修担当者こそ意識改革が必要であり、自分の業務の存在意義を語れるようになる必要があるでしょう。
(P市役所Qさん、中堅職員)

 そもそも、研修所研修など、職場外で行われる研修(Off-the-Job-Training)には、種々の利点が考えられる。第1に、特定の階層(新規採用、係長昇任者、管理職層など)、特定の職種、特定の部門などに共通する知識や技能を、多人数に同時に教育することができる。第2に、日常業務では習得できない知識・情報を得ることができる。第3に、そこに集まる集団の中で、新たな人的交流が行われ、それがその後の役所人生の財産になることである。

 このような利点があるにもかかわらず、実際の研修所研修については、冒頭のお二人の意見に典型的に示されているように、批判も多い。
 実は、自治体の研修所研修は、自治体ごとに相当バラエティに富んでいる。多くの自治体職員は、自分の所属する自治体の研修所研修が、「自治体研修所研修」の典型例であると考えているが、数多くの自治体を比較した場合、それは極めて多様である。頑なに20年前のプログラムをそのまま継承している自治体もあれば、時代環境の変化に敏感に対応してプログラムの中味や研修体系についてかなり大胆に検討し見直しをしている自治体もある。
 研修所研修を考えていく際に、どのようなポイントに留意すればよいのだろうか。
 次回はこの点について考えていきたい。