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分権時代の自治体職員
第16回2006.07.25
職員研修―1
各自治体が、人事課や人事課附設(あるいは独立)の職員研修所などで職員研修を行うには、様々の費用が発生する。
教材の購入費用、教材の印刷・製本費、事務用品等各種消耗品費、講師に支払う謝礼等の報償費、講師との打ち合わせなどに伴う旅費、職員が県単位の自治研修所や全国レベルのJIAMやJAMPへ研修を受けに行く際の派遣旅費、研修関連の各種協議会等に支払う年会費等の負担金、自主研究グループに対する補助金、会場等を借り上げる場合の使用料、通信運搬費等の役務費、研修用の教具等を購入するための備品購入費、研修を一部外部委託をしていればその委託料、などである。
一般的には、(款)「総務費」(項)「総務管理費」(目)「職員研修費」又は「研修所費」などとして予算計上されていることが多い。自治体の研修概要にはこれらの費用について掲載することが望ましい。市民に対して、人材育成のためにどのような予算が使われているのかについての説明責任を果たす一つの方法である。
次に掲げるのは、架空自治体X市の職員研修予算である。
報償費 | 1,230 |
旅費 | 2,503 |
需用費 | 650 |
委託料 | 3,840 |
使用料及び賃借料 | 250 |
備品購入費 | 310 |
負担金補助及び交付金 | 1,820 |
合計 | 10,603 |
自治体によってそれぞれの項目の規模はかなりバラエティに富んでおり、職員研修予算が極めて少ない自治体もある。(ただ、その中でも、内部講師や県の職員を講師とした集合研修を実施するなどして、できるだけ費用を少なくする工夫をしている小規模自治体もある。)
一般的に、各自治体で研修費用として計上しているのは、上記のような諸項目であるのが通例である。自治体によっては、職員研修概要の中でさらに詳しく、集合研修にいくら、派遣研修にいくら、自己啓発支援や自主グループ支援にいくら、といったように分けて予算を示している自治体もある。さらに進んで、各研修ごとにかかった費用等を算出することも可能であろう。例えば、新規採用研修にはいくら、JST研修にはいくら、などといったように、である。
市民が負担している研修費用
さて、以上にみてきた研修費用には含まれていない「市民が負担している費用」がある。
まず、第1に、職員研修に携わる職員の人件費である。「職員研修所」の「項」を別途設けている場合には、その中に「職員研修所職員の給料及び職員手当」を計上している場合もあるが、総務部や人事課の人件費予算の中に一緒に組み込んでいて、研修所の職員人件費としては別途計上していない場合もある。つまり、独立した職員研修所を設けておらず、人事課の職掌の範囲内で研修に携わる職員の人件費を計上している場合には、研修にかかる費用が実は明確でない。
例えば、上記例のX市において、人事課の職員のうち、職員研修に携わっている職員が2人いるとすれば、附帯人件費も入れて900万円×2=1,800万円の費用がかかっていることになる。上の表に計上されている1,063万円よりもずっと大きい金額が、実は他の予算項目の中に埋もれてしまっている。
このような「研修に携わる職員の人件費」の問題は、まだわかりやすいし、多くの自治体でも最近認識されはじめている。
2番目に、(小さなことであるが)研修に自前の施設や庁舎内の専用スペースを使用している場合は、その費用等が計上されていない。施設建設時には当該費用が計上されていることも多く、また自治体によっては研修費用の中に、研修会場の改善を行うための「工事請負費」を計上している場合もあるものの、関連施設の減価償却費が計上されることは現行の会計方式のもとでは期待できない。
民間の同等スペースを借り上げた場合どれくらいの費用が発生するのか、あるいは、逆に、研修施設を民間に貸し出した場合、どれくらいの収益をあげることができるのか、そういった計算を一度してみることも必要であろう。
これらの研修担当職員の人件費や施設関連の費用をも含めたフルコスト計算が、今後、必要になってくるかもしれない。
研修受講者の機会費用
さて、以上指摘してきた費用のほかに、一番見落とされがちな、きわめて大きな費用が、研修のたびに発生している。実はこれが、研修に際して「市民が負担している費用」のうち、もっとも大きなものである。
それは、研修受講者の「機会費用」である。機会費用とは、「ある生産要素をある特定の用途に利用するについて、それを別の用途に利用したならば得られたであろう最大の貨幣額のこと」である。代替費用、ともいう。
休日に研修が行われる例は珍しい。研修に参加する者は、休日に参加することは例外(注)で、殆どは勤務時間中に実施される。そのため、本来なら勤務についていたであろう人件費が、研修に使われていることになる。職員の人件費単価は、給与によって差がある。新規採用職員の人件費を時間換算[(年収総額+附帯人件費)÷年間労働時間数で算出]すると2千円未満だが、管理職クラスになると、4千円、5千円というのがざらにいる。
研修にかかる直接費用(会場費用や講師謝礼)は数万円に過ぎない場合でも、研修参加者の機会費用(職務免除をされている時間×当該参加者の平均人件費時間単価×参加人員)は100万円以上である場合が多い。
例えば、200人の中堅職員を集めて半日行われる研修においては、講師費用や教材費が10万円程度であったとしても、職員の人件費時間単価3000円×4時間(研修場所までの往復時間もカウント)×200人=240万円、の費用を別に使っている。これは「市民が負担している費用」である。
1回の研修には、軽く100万円を超える費用がかかっている。研修所側にも、職員側にも、この点の認識がなされていないケースが圧倒的である。そのため、講義中に居眠りをするなどという、市民の意識では考えられない行動に出ても、研修所は目をつぶっていることがある。勤務時間中に居眠りをしている状態を市民が見ればどう感じるのだろうか。市税で給与を支給してもらいながら、職務を免除してもらって講堂で一生懸命学んでいるはずが、実は殆どを居眠りに費やしていた、という実態があった場合、市民はどう感じるだろうか。
(注)岸田和市では管理職リーダー研修~土曜講座~を数年来実施している。これは、部長・課長全員を招集して、市長・助役以下管理職全員が一同に会して研修を実施するものである。特に業務上の必要がない限り欠席が認められない。参加する管理職にとってはせっかくの休日がつぶれて大変だとも思うが、平日だと管理職全員が集まると言うことはほぼ不可能に近くまた機会費用も多大についてしまう。その点をうまく考慮した研修であると思う。