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第15回2006.06.28

「自学を促す」ためには

本連載の執筆をお引き受けしたときは、5回程度で終了するつもりだった。しかし書き進むうちに様々なテーマにそれなりの字数を使う必要もあり、また、読者の方々から取り上げるべきテーマについてご意見を多数頂戴したりして、いつの間にか1年を超えてしまった。
 本連載で一貫して主張してきたのは、分権時代の自治体職員の能力開発には、「自学」が重要であるという点である。これからの自治体には、「人材」しか財産がない(「人財」)。しかしそれは、物や金と違って、実に伸縮自在な素材であって、同じ100人の人材でも150人分の働きをしてくれることもあれば、70人分の仕事しかしていない場合もある。いかに少ない人員で多くの仕事を柔軟に回していくかが問われている。
 他方で、一般の民間企業と異なって、自治体の場合は、地方公務員法というしばりや、各自治体に長年根付いてきた様々な「経路依存」(注)的な慣行も継続している。しかし、90年代以降の大激動期にあって、従来から当該組織の中で根付いてしまった様々な慣例については、一から問い直すべき時期に来ている。意識改革という言葉で片づけることはたやすいが、実はシステムそのものを根本的に洗い直す時期に来ている。

 (注)英文タイプライターの文字配列がいつの間にか、左上から右にかけてQWERTになっているが、これは人間工学や言語学の観点からもっとも使いやすいかどうかの検証を経たものではない。しかしいつのまにかこの配列をもとにタイプライターが生産され、そしてパソコンのキーボードもそのような配列が世界標準となってしまった。

 このような大激動期にあって、伸縮自在な人材を伸ばすための方法は、実は従来考えられてきた「研修」という固定的な観念から解き放たれる必要がある。人は押しつけられた研修で伸びることはない。人が伸びるのは自分自身伸びようという気持ちが起きるからである。繰り返しになるが、人材育成の基本は「自学」(自ら学習する、自己啓発)である。自分で学ぼうとしなければ、自分で育とうとしなければ、人は育たない。職場や組織ができるのは、その自学のプロセスを刺激することである。
 人事評価もそのための重要なツールであると、筆者は認識している。いかに自学を刺激するような制度を構築できるかが、大きなポイントである。(人事評価についてさらに詳しくは、拙著『自治体の人事システム改革』(ぎょうせい、2006年)を参照されたい。)

 1980年代半ば、どん底にあったアサヒビールに乗り込みスーパードライをヒットさせ、奇跡の復活をなしとげた樋口廣太郎は、「人間とは熱気球のようなものだ」という。「熱気球は自力で空高く上昇しようとするが、重しがついていると飛び立てない。人間も同じで、他人に『飛べ』と言われなくても、自分で上昇しようとする能力と意志を持っているものだ。周囲の人間に手助けしてあげることができるのは、重しを取り除いてあげることであり、それが環境を整えるということだ」と。

 人は育てられない。育つのを助けることができるだけである。

自学を促す研修制度について

自学を促す人事給与システム

 すでに繰り返し述べてきたように、さまざまな人事諸制度が、自学の刺激につながるのである。図に示した、様々なシステムが相互に連動しながら、自学を刺激していくものと考えられ、ひいては、能力開発・人材育成へとつながるのである。研修制度はその中のひとつに過ぎない。
 上の図でいうと、研修制度もジョブローテーションや人事評価と同じく、自学を刺激し、それにより能力開発を行っていくものである。では自学を促す研修制度というのはどのようなものなのであろうか。
 従来の研修制度はどのように評価され、それはどのように変化させていく必要があるのだろうか。
 次号からは自治体職員研修について検討をしていきたい。

宿題:「自治体の職員研修について、あなたの考えることを自由にお書きください。一般論でも特定の自治体に関することでも結構です。
 また、現在の研修所研修、府県単位機関の広域研修所研修、全国レベルのJIAM・JAMP・自治大学校などの研修所に関して、あなたの考えることを自由にお書きください。」

宿題2:「研修担当の方々へ。現在、あなたの職務上抱える課題や悩みについてお知らせください。」