メールマガジン
分権時代の自治体職員
第135回2016.06.22
インタビュー:砥部町会計課 課長補佐 田中 弘樹さん(下)
砥部町役場で公会計を担当することになった田中さん。資料がほとんどない中でのスタートだったが、近隣自治体の協力も得て徐々に数字を整理し、改訂モデルでの公会計をスタートするための様々な努力をした。さらに一歩進めて資産台帳の整備も進めていく。エンジニアではなく、プログラムソフトもほとんど知らない中で、徒手空拳でシステムを構築していった。国はモデルを提供せず、先進事例となる自治体もなかった。そんななか、自学自習でシステムを整備していく。
田中 最初は悩む時間が多くて、ネットで何十、何百ぐらいの文献を読んだり、古い情報であれば図書館に行って調べたり、新しい情報がほしいときには本屋に行ったり、というのをずっと繰り返して、最初のころは時間がかかっていましたね。
稲継 そうですか。平成18年、19年に資産台帳を整備されましたよね。そういうのが反映されるのが、平成20年ぐらいからですね。
田中 そうですね。資産台帳の情報が載ってくるのが、20年度決算の21年度ぐらいからですかね。
稲継 これは、たぶんプロから見ると「すごいものを作ったな」と、よく分かるものだと思うのですが、庁内の反応はどうですか? あるいは町民の反応というのは?
田中 まず、内部の反応は特になかったですね。住民に関してもまず質問はゼロということで、とりあえず公表はしていますが、誰か見ている人がいるのかどうかは分からなかったですね。
稲継 ***砥部町ホームページ→財政情報→公会計砥部町の取り組み→「新たなフェーズ使う公会計へ」を見て(以降、この資料に沿って話しが進む)***
「公会計砥部町の取り組み」ページ
http://www.town.tobe.ehime.jp/soshiki/8/koukaikeitobechounotorikumiyori.html
「新たなフェーズ 使う公会計へ」PDFファイル
http://www.town.tobe.ehime.jp/uploaded/attachment/11993.pdf
これ、究極の情報公開ですよね。どれだけ町が持っていて、どれだけ足りなくて、バランスシートでいうとどうなっているのか、全部明らかにしていく書類だと思うのです。なかなか普通の自治体はこれをやってないので、実際のところ20年後どうなるのとか全然分からない状況なのに、砥部町は、分かる状態にしてあるというのは、大変大きなことだと思いますし、もっとアピールしたらいいと思うのですが、どうですか。
田中 そうですね。ホームページでは公表していますが、マスコミなどが取り上げてくれることもないですし、アピールと言ってもなかなか難しいです。あと「ハイライト」という少し簡単・シンプルにした資料もあります。
私は、財務諸表の情報を出してもこれだけではやはり不十分で、公共施設の更新といった問題までも盛り込んだ中長期財政計画をセットにして話をしていかないといけないと思っています。本町の中長期財政計画を見て貰えればと思いますが、シナリオを3本つくっています。まず、このまま投資活動を何もしなければどうなるかというシナリオ(基準シナリオ)。次に、耐用年数がきた時点で公共施設をすべて更新していくと仮定したシナリオ(上限シナリオ)。最後は予算が組めるラインまで公共施設の更新を優先順位の低いものからあきらめていくシナリオ(順当シナリオ)です。これは、採算ラインみたいなイメージですかね。
稲継 3本のシナリオを描かれる。
田中 そうです。上限シナリオで15年後までを見てみますと、だんだん財政状況が悪化していきます。累積赤字が40億円、それから基金30億円程度が枯渇してしまうだろうとの推計です。もちろん、耐用年数が到来した時点ですべての公共施設を更新するわけではありませんが、どうなるかという仮定ですね。また、優先順位の下の方から、どんどんあきらめていって、予算が組めるまであきらめていったらどうなるかという順当シナリオ。
自治体は、上限シナリオをできるだけ順当シナリオを近づけていかなければならない訳ですから、この二つのシナリオは、言わば行財政改革の幅と言うことができるかもしれません。こういうのを見せるのも大事ですね。
稲継 行財政改革の幅を示すというのはとても重要なことですよね。これを示さずに進められているところがあまりにも多い。
田中 そして公共施設の更新優先順位は、いくつかの項目ごとにそれぞれの施設に得点をつけて行きました。総合得点が低いと優先順位が低いということになります。ここでは、客観的な視点のみで、政治的なものは織り込まれません。
さて、本町の財政計画で15年程度先を見てきましたが、実は、30年先まで公共施設の更新推計をしてみると、15~30年後にも施設更新の大きな山がやってきます。つまり、体力を全部使い切って今後15年を乗り切ったのでは不十分で、15~30年後にやってくるもう一つ山を乗り越えられるよう、体力を残してこの15年を乗り切らないといけないのです。体力の維持をしたまま、この15年は乗り切るというのは非常に厳しい状況ですね。
財政健全化法の実質公債費比率や将来負担比率で見ると、砥部町は愛媛県内でも非常にいい状態です。それでもこれくらい厳しくなるよ、というところです。
稲継 うーん。厳しいですね。砥部町ですらこうなる。もっと財政ひっ迫しているところは、もっと厳しくなるけれど、そういった将来予測をデータに基づいて行っていない自治体があまりにも多いと思います。
田中 財政は9年おりまして、このようなことをやっていました。そして、公会計の担当を平成27年の4月から会計課に移したのですが、それに伴って私も会計課に異動になりました。あと少し、公会計に携わる機会を得ましたので、最終の目標といいますか、公会計の集大成になるかと思うのですが、やっぱり私が思うのは「住民に伝えること」なんですね。
稲継 私もそう思います。
田中 バランスシート探検隊、これは2014年ですから、一昨年ですかね。町職員と大学生とが一緒になって、財務諸表や中長期財政計画とか、施設別、事業別財務諸表を勉強して、実際の施設を巡り、問題点などを整理したあと報告書を町長に提出しました。報告書提出と同時にインタビューも実施しました。30分もあれば十分かなと思っていたのですが、実際にインタビューが始まると、例えば砥部焼などに関して「原材料の仕入価格がちょっと高騰している問題についてどう思うか」、「もっとほかに仕入ルートはないのか」、「もっと安くなる方法はないのか」、「販売ルートはもっと広げられないのか」、「ネットで海外向け販売をもう少し広げられないか」など多くの質問が飛び出しました。さらに、「若い人が農業に参入する障害は何か」とかいった話題まで。これは、まさにまちづくりなのですね。そういった質問が実に1時間半ずっと続いたのです。
あのときに思ったのは、しっかり公会計を勉強していけば、学生であってもまちづくりの意識や選挙マニフェストを理解する力がつくのではないかということです。
稲継 このバランスシート探検隊について、もう少し詳しく説明をお願いしたいんですけれども、大学のゼミと組んでいるということですよね。
田中 はい。松山大学の溝上ゼミさんと連携しています。平成26年度の探検隊は、動画がありますので。
<動画> ***平成26年度探検隊動画を見る***
ナレーター 8月19日と20日の2日間、砥部町内の各所をバランスシート探検隊が巡りました。これは、まちの財政の状態を示すバランスシートを見ながら、実際の収支の現場である公共施設を視察するものです。この日は松山大学経営学部で、会計や簿記を学んでいる溝上ゼミの学生や松山商業高校の生徒、砥部町の若手職員などおよそ30人が参加しました。
A もともとは千葉県の習志野市、千葉大学が協働で行ったバランスシート探検隊という事業です。これを砥部町の方でもやってみよう、ということになりました。公会計、会計的な話はなかなかとっつきにくい部分があるかというふうに思うのですが、バランスシート探検隊、これは学生、高校生や大学生の方が、公共施設を巡ることで、まちの財政、それから、公共資産や負債の状況、それから、コスト、こういったものまで含めて、いろいろ考えるような事業をやってみたということです。
総務省の方で公会計の新しい基準というものが議論されておりまして、3年程度で全国の都道府県、市区町村でまったく新しい基準で統一されたものになろうかという動きで進んでおりますので、それの前段階というようなところもあります。
大学生の隊員の方は、砥部町に住んでおられない方もいらっしゃるんですけれども、これから、皆さんが住まれる町、出身の町、砥部町だけではなくて、そういうところの財務諸表が統一された基準でどこも出されるようになるかと思います。それを見て、自分の町の財政状況とか資産の状況がもっと分かるようになっていただければうれしいなと思っています。
B 普段、何気なく通っている橋なんですけど、町のお金に関することだったり、耐用年数のことだったり、その裏側を知るということで、見方が変わって、通るときにこの橋は、あと何年後には検査があって、この検査に通らなかったら、いくらかかるとか、そういうことを考えて通ることができるので、また、建造物とかを見るときも、そういうふうな見方ができるようになりました。
C 実際の伝統産業会館などの場所などの観光地は行ったことはあるんですけど、そういう場所でもバランスシートを見てみると、意外と赤字があったりだとか、普段見えない視点で見てみると、すごく分かってくることがあって、企画展とかすることで、少しは来場者が増えたりとか、そうやって、工夫することで来場者を増やしたりして、赤字が少しでも減ればいいなと思いました。
D 砥部温泉に行ったんですけど、話を聞いたら常連さんも毎日20~30人ぐらいいて、入館料が安かったので、もうちょっと上げても、たくさんお客さんは来ると思うので、赤字は防げると思いました。
ナレーター 今回の体験は学生たちにとって、社会に目を向ける貴重な経験になったようです。
田中 このような感じですね。実際、インタビューでもちょっと出てきていたんですけど、もう少し値上げしてみてはどうかというような案も出たりして、これがそのまま本当に影響したかどうかは別として、実際に少し値上げをした施設もありました。
あと、一部過疎地域のところに小学校が3校あるのですが、探検隊が2014年と2015年の2年度にわたって、過疎地域の小学校のあり方についても触れていました。こちらは、直接影響があった訳ではありませんが、それでも3小学校の統廃合の方針ができる段階に探検隊も少し関われたのかなと思っています。
稲継 普通、学校の統廃合というと、地元から強い反対が必ず起こるものです。今回、学生たちが率直に公平な基準で見た場合に、統廃合をした方がまちのためにはいいのではないか、という提案をしてくれたわけですね。それは普通に役場の財政課や教育委員会が提案する場合に比べて、軋轢というのは少なかったですか。統廃合をすることに住民の理解が......、
田中 そうですね、学生たちの提案がきっかけになった訳ではないのですが、素直に考えれば統廃合も考えなくてはならないという提案はでてきていたということですね。学生だけではなく一般の住民の方とかからも感想などをもらっていましたので、それは学校担当に送りました。
稲継 これも、探検隊が来るということで、町の職員も学生とペアになっているとか、ついてみたいなことがありますよね。そうすると、少なくとも学生に付く職員はバランスシートを理解していなければ、質問されたときに答えられない。彼ら自身の自学自習のきっかけにもなるということですね。
田中 はい。それと、新人職員の研修としても総務課に位置づけてもらっていますので、新人職員は必ずこれに参加するようになっています。公共施設を巡って老朽化の話も出るし、財政の話も出ますので、自治体財政について大枠で理解できるというようなこともあります。新人職員の研修としては、非常にいいのではないかなと思っています。
安心・安全とか防災・減災にターゲットを絞りまして、上下水道、道路、橋梁、こういったところで災害があったときにどうだろうということですね。結局、まちの財政運営をしていく上でも、命に関わるインフラ、ライフラインが最優先になります。ここをどうするかによって、ほかのところにも大きな影響が出ますので、とても大事な分野になります。特に27年度探検隊はここに焦点を絞って実施しました。防災・減災、国土強靭化、危機管理などの分野でも取り上げて欲しいところではあったのですが・・・。
稲継 習志野市が後援となっていますが、どういう関係なんですか?
田中 バランスシート探検隊というのは、習志野市と千葉大学さんの協働事業なんですね。まず、探検隊の中心的な役割を担う千葉大学の大塚教授がうちのホームページを見て、千葉から砥部町にまで情報交換に来ていただきました。そこでいろんな話をさせてもらいました。その後、総務省の固定資産台帳の整備の委員をしたときに、もう一人中心的な役割を担う習志野市の宮澤さんと一緒になりました。「探検隊って面白そうですよね。うちでもぜひやりたいんですよ」と言ったら、あっという間に話が決まっちゃいまして、そこからですね、うちでも開催するようになりました。私は、かねてよりまちの財政状況を聞きたいという住民が一人でもいるのであれば、住民向けIRをいつでもやりますと、当時の財政課では伝えていました。しかし、なかなか聞いてくれる人もいないだろうということで実現には至ってなかったのですが、探検隊というイベント的なものでやるのであれば実現できるだろうと考えた訳です。
稲継 この「新たなフェーズ使う公会計」という資料の中で早稲田大学のパブリックディスクロージャー表彰があって、「公会計改革推進シンポジウム2015」で努力賞を受賞しました。2015年はそういうことがありましたということですね。こういう取り組みをやっているのは、習志野市と砥部町だけですかね。
田中 鹿児島県の和泊町で三例目が実施されました。
稲継 住民なり学生なり、素人というか役所以外の人に興味を持ってもらって、外の目で見てもらうというのはものすごくいろんなアイデア出しの宝庫というか、ベースになりますよね。これはすごいなと思います。
田中 次に、もう2年以上になるのですが、役場の若手を中心に公会計プロジェクトチームといって、いろんな勉強会を月1回、時間外とかに勉強してきています。その中で、福岡の財政調整課長の今村さんという方がやっています「SIMふくおか2030」というものがありまして。これは、参加してくれた人が福祉部長や建設部長、財政部長になりまして、どんどん財源が減って行く中で、何を優先して自治体に財政運営をしていくかというのを各部長役と話し合いをしながら決めていくというイベントをやりました。例えば、何か事業をあきらめることができずに、財源が無かった場合は借金をすることになるんですけど、借金が増えすぎた場合はゲームオーバーとか。あと6人1組のチームが行政側と議会側に分かれて、行政側は議会側にちゃんと説明できるか、議会側はいろいろな視点からこれで良いと思えたか、そういうやりとりを交代でやっていきます。実際のゲームでは、行政側が上手く議会側に説明できず予算が否決されることも2度ありました。面白いですね。このゲームを通して、町の財政運営の難しさみたいなものを分かって貰えればいいなと思います。
稲継 住民も参加してですか。
田中 これは、予算を使わない事業だったので参加者の方から参加料をいただいて開催しました。そのため、一般の住民はほとんど来ませんでした。しかしながら、自治体職員とか議員さんについては県内からもかなり来ていただいたのと、あと神奈川、埼玉、愛知、岡山など、かなり遠くからもたくさんの方に来ていただきました。自治体職員や議員さんは、かなり興味を持っている人が多いんだなと実感しました。
そして今年の夏に考えているのが、探検隊とSIM2030のほか本町の付箋仕訳ゲームを合体させてイベントを実施できないものか、考えています。
これが実現すると、公共施設の老朽化や少子高齢化問題、将来財政のこと、あと、土地を購入したとかいう取引が財務諸表のどこにどう記載されているのかを理解して貰えます。その知識をもとに施設別、事業別の財務諸表を見ながら、公共施設を巡った知識を生かして、みんなで何をどれほどあきらめていくかを考えます。優先順位が低くても必要としている住民は必ずいるので、その人にどう説明をして納得してもらうか。それも考えながら何をあきらめるか決めていきましょうということで、このコラボイベントは、自治体が考えていかなくてはならない、伝えなくてはならない、いろいろな情報が全部凝縮されたものになるのではないかなと思っています。一歩進んだ財政の見える化、という感じですごくいいものになるのではないでしょうか。
稲継 それは何月ですか?このメルマガが出るのが6月の末なんですけど。
田中 開催できるとしたら、8月の予定です。
稲継 それは一般の方も、他の自治体の方も参加できるのですか?
田中 私としては、誰でも、どこからでも来てくださいとは思っています。砥部町のことだけでなく、公会計の推進という意味でも、ほかの自治体さんや議員さんなどにも参加して欲しいですね。いつか砥部町にもメリットとして返ってくるものもあるでしょうし。もちろん、住民の方が優先ですが、出来るだけ多くの方に参加して頂きたいですね。
あとはもう一つだけ、そういう住民向けのイベントを開催していくのと同時に、昨年の6月から、全戸配布の広報紙に公会計の話を連載しておりまして。
稲継 え、広報誌で毎月公会計を扱っているのですか?
田中 最初の6月(昨年スタート)が8ページの特集。その後は、毎月1ページずつぐらいで連載しております。
稲継 (資料を見て)すでに19ページにもなっていますね。広報紙で公会計をこれほど熱心に住民に知らせる自治体って、私はあまり知らないです。
田中 おそらく、少し説明をしてホームページに挙げたらだいたい終わり、というようなところが多いのではないでしょうか。私としてもとにかく住民の方にできるだけ伝えるというのが、一番難しいけどやらなくてはいけないところだと思っています。痛感するのは、やはり、興味を持ってもらうには時間が掛かるということです。会計という言葉を出すだけでも、だいたい拒絶。内部でもそうですけど。
稲継 数字は勘弁してほしいと。
田中 はい。そうならないために、ある程度若いうちに1回でも2回でも会計的な話に触れておくと、免疫ができるのではないか、と考えます。今考えているのは、小学校、中学校の授業の一貫でこういう話をさせて貰えないかなということです。今年初めか去年の暮れぐらいだったかな、校長先生の校長会に出席させてもらって、こういう話をさせてもらったところ、興味ありということで複数の学校の校長先生から手を挙げてもらっています。「自分の学校探検隊」みたいな、「どれくらいお金がこの校舎や体育館にかかっているんだろう」というようなことを小学校の授業として1回やってみたいなと思いますね。
稲継 身近だし。
田中 そうですね。実際少しでもそういうことをしていると、本当にその後、会計とかいう話がでてきたときに、拒絶ではなく、どんどん知識を吸収できる機会が増えるのかなと。あと、松山大学の法学部でも一昨年、公会計の話をさせていただいています。この6月にもまたオファーが来ていますので、公会計の話をさせていただこうかなと思っています。やはり学生のときに、一回聞いておくとずいぶん違うんじゃないかなという気はしております。
***資料を離れる***
稲継 そういう啓発活動を地域でやると同時に、総務省の委員など、専門家としてアドバイスを求められてもおられますね。どういう委員をやっておられますか?
田中 一番最初が平成20年ですね。こちらが地方公会計整備促進に関するワーキンググループという委員をさせていただきました。
稲継 それはどのような?
田中 ちょうどこのときに、基準モデルや改訂モデルが出てきた段階でしたので、それを進めていくにはどうすればいいかとか、そのような話をそこでしています。
稲継 その次が平成25年?
田中 はい。今度は統一基準に向けてということで、いくつかあった作業部会の中の一つで、固定資産部門の作業部会の委員ですね。固定資産台帳の整備についていろいろと検討しました。
稲継 それから、翌年にまた新しい研究会。
田中 はい。今後の地方公会計の推進に関する実務研究会です。固定資産の作業部会ともう一つ、財務諸表をどうするか、という作業部会も同時に立ち上げられておりましたので、ここでは両部会から何人かの人が集まって、より詳細な取扱いを定めた要領等の作成に係る実務的な検討を行う実務研究会が立ち上がりました。
稲継 いくつかの総務省の研究会の委員、あるいは作業部会の委員をやってこられて、そこに入られた感想というか、印象というのがありましたら。
田中 小さな自治体が、ほとんど手作業でやっているというようなこととか、田舎の自治体ではこんな感じを持って作業に当たっているとかそういうのを伝えられる機会を貰ったようでとても嬉しい感じでしたね。小規模自治体の実情とか感覚みたいなものをいつも伝えられたらいいなと思ってやっています。
稲継 総務省の方もいろんな研究会とか審議会もそうですけれども、小規模な自治体のことも考えながら設計しなければいけない。ただ、そういう小規模自治体には、総務省の官僚が出向したりしていないから、実態が分からないところが多いんですよね。で、現場の声が聞きたいということになるんですが、現場に詳しく、しかも理論も分かっているという人が非常に少ない中で、田中さんは非常に貴重な存在で、総務省もなかなか手放さないと思いますね。
稲継 今回は砥部町の田中さんにずっとお話をお聞きしてきました。このメルマガは全国の市町村職員、県職員の方々に読んでいただいています。その全国の自治体の方への何かメッセージなどありましたらお願いしたいと思います。
砥部町公会計推進プロジェクト
チームのメンバー
田中 田舎の小さな自治体にいますと、国とかいろいろな場所に行って意見を言う機会はなかなかないと思います。
しかし、自ら積極的に情報を開示してきたことで、必要なときに必要な情報が手に入り、必要なときに必要な人と出会うことができました。学生との活動をとおして住民意見を取り入れることの重要性も学びました。不思議な感じもしますが、立ち止まらずに進んできたからこそ、そういう結果になったのだろうと確信しています。もちろん自治体職員が一からシステム作りをする必要はありませんが、国に言われるまでもなく、先陣を切って何かをやっていく、ということが大変ではありますが非常に勉強になるし職員にとっても組織にとっても成長につながると思います。
公会計に携わってきたこの10年、人との出会いは本当に私の宝となりました。特に今は、SNSなどが発達していて、有効に使えばこれほど素晴らしいものはありませんので、こういったものを活用しながらやっていくといいのではないかなと思っています。
稲継 砥部町の会計課、田中弘樹さんにお話をお伺いしました。どうもありがとうございました。
田中 ありがとうございました。
住民に伝えることが最終目標と断言する田中さん。自治体が扱う公費は税金がもとになっているし、さまざまなデータは住民のものである。ところがそのデータは住民には理解不能になってしまいがちだった。田中さんの目標は、データをわかりやすく伝え、それを基にこれからのまちづくりを考えてもらう素材としていただく、ということだ。まちづくりを決定するのは最終的には住民である。そのために住民や議員や市の職員や首長が共通の土俵で議論できるためのインフラである公会計をきっちりと整備しているのが砥部町である。
このインタビューは2016年3月末に行われたが、翌4月末に、総務省に「地方公会計の活用のあり方に関する研究会」が設置された。公認会計士、大学教授、民間研究員などと並んで田中さんの名前もそこにある。今やこの分野では不可欠な人材となっている。
田中さんの今後のますますのご活躍に期待したい。
【取材後記】
愛媛県松山にはこれまでも仕事で何度か訪問させていただいています。また、愛媛大学で学会や研究会が開催されることも多く、比較的慣れ親しんだ町です。ただ、そこからさらに南にいった砥部町に入るのは初めての経験でした。先月号でも触れましたが、レンタカーで町内をぐるぐる回っていると、「砥部焼」関連のお店や工芸館やらがメイン通りにたくさんあります。メイン通りから細い道に入って、五本松を目指しました。ここは約30の窯元が集まる集落です。途中から車1台がかろうじて通れるかどうかの昔ながらの細い道が続きます。「このまま進んでいっていいのかな」と不安になりながら、トロトロ徐行すると、突然、「村の駅」に出会いました。幹線道路沿いにある「道の駅」ではありません。村にお越しになった方々に少し一息いれてもらうために、茅葺き屋根の古民家をそのまま利用した簡易休憩所のようなところです。
http://home.e-catv.ne.jp/muranoeki-gomatu/index.html
五本松の窯元さん20軒ほどの作品(そば猪口)も展示してありました。ですが、大通り沿いにある極めて大規模な砥部焼陶芸館や砥部焼伝統産業会館などと異なり、本当にこじんまりしていて、村の人と軒先で少し話し込むような不思議な空間でした。
今回は時間があまりなくて窯元さんにじっくり立ち寄るということができませんでしたが、次回は是非、五本松を徒歩で散策したいと思います。
http://home.e-catv.ne.jp/muranoeki-gomatu/murano_map.html