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第132回2016.03.23

インタビュー:福岡市財政局財政部 財政調整課長 今村 寛さん(上)

 どこの自治体でも金と人を握っているところが一番強い。一般的に財政や人事の仕事は大変きついが、優秀な人がそろっていて将来の出世コースであるであることが多い。そして、一般的なイメージとしては「とても威張っている」というのが通例であった。
 今回インタビューをさせていただいた福岡市の今村さんは財政課長であるがまったく威張っていない。自分から現場へ出かけて行って予算の仕組みをわかってもらうような出前講座を続けている異色の財政課長である。



今村 寛氏

稲継  今日は、福岡市役所にお邪魔しまして、今村さんにお話をお伺いします。どうぞよろしくお願いいたします。

今村  よろしくお願いいたします。

稲継  今村さんは、最近「明日晴れるかな」や、「財政出前講座」、「SIM2030」に取り組んでおられると、いろいろなところでお伺いするのですが、「明日晴れるかな」というのは、どういうものでしょうか?

今村  「明日晴れるかな」というのは、福岡市の職員でやっているオフサイトミーティングです。普通、勉強会や学習会というのは、何かテーマを決めて、それをみんなで勉強する場なのですが、われわれのオフサイトミーティングは、どちらかというと、ただ話をする場所ですね。職場から少し離れて、職責、立場を離れて、市の職員同士で自由に語れる、対話ができる場です。平成24年5月に始めて、もう3年ちょっと経ち、100回以上やっているところです。

稲継  24年5月に始められたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

今村  それが、お恥ずかしい話なのですが、先生、福岡市で「禁酒令」が発令されたのはご存じですか?

稲継  何か聞いたことがあるような気がします...。

今村  全国ニュースにもなったんですけれども、市職員の飲酒に関する不祥事、飲酒をしてけんかをするとか、飲酒運転だとか、そういった飲酒にまつわる不祥事が多発いたしまして、市長が業を煮やして「市の職員は1カ月間、自宅の外でお酒を飲んではならん」という、いわゆる「禁酒令」を発令しました。その「禁酒令」が発令されたのが平成24年の5月21日です。その頃、「禁酒令」が発令されそうだという噂を聞いて、市職員だけのFacebookのグループがあるのですが、そのグループでの投稿が「禁酒令」の話題で加熱し、炎上してしまいました。「禁酒令が出るらしい」、「えっ、どういうことかいな」といった感じで炎上し、「禁酒令はいい」「禁酒令は悪い」と意見する人もいれば、「禁酒令が出されるぐらい自分の組織が駄目なんだ」と思う人がいたり、「どうしたらいいだろうか」とプラスに考える人もいたりしました。そういった、ごちゃごちゃしているのをバーチャルでばたばたしていてもしょうがないので、「一度、集まりませんか?5月21日の月曜日に、私、会議室取りますから、時間外に少し集まってお話ししましょうよ」と声をかけました。それは、全くの思い付きです。衝動的に言い出して、会議室を取ると言ってしまったので、職員研修センターの会議室を取ったところ、その日に十数人、来られたんです。職場も全然違う、お互いに知り合いでもない人たちが十数人来られて「市長の禁酒令って、あれ、どうよ」みたいな話をしたのが最初のきっかけでしたね。
 1カ月間、「禁酒令」が出ていたので、その間は飲み会もなくて、夜、暇じゃないですか。1回目の「禁酒令」のオフサイトミーティングをやったということを職員専用の掲示板やFacebookに書いたら、「俺、行きたかったけど、行けなかった。もう1回やってよ」みたいな人たちがいて、2回、3回と続けていくうちに、1カ月間で6回......

稲継  1カ月間で6回。じゃあ、週2回の日が?

今村  そうですね、週に2回やった週もあります。

稲継  そうですか。

今村  6回やっていくうちに、「禁酒令」の話や職員不祥事の話をみんなしなくなりました。7時から9時までの2時間と時間を決めていたのですけれども...

稲継  どんな話をするのですか?

今村  職員の「こんな職員あるある」みたいな話や「組織のここを直したらいい」、「自分は、こういうふうにしたらいいと思う」という建設的な話、他には愚痴など、何でもありですね。居酒屋で話している話を、アルコール抜きで話しているみたいなイメージです。

稲継  でも、職場が全然違う人で、全く知らない人も混ざっているわけですよね?

今村  そうです。

稲継  それでも、特定のテーマについて話が盛り上がることになるわけですか?

今村  そうですね。最初は、ファシリテーションのスキルを持った職員がいるので、ワールドカフェみたいなことをやったり、特定のテーマ、お題を出して、みんなで話をしたりしたのですが、徐々にそういったルールも関係なしになりました。みんな、わいわいやり出して、6回もやっているうちに、お互いに少しずつ打ち解けて仲良くなり、新しい人が来たり、途中休んだりもしながら。6回のうちに「なんとなく時間外に集まって、ただ話すのって、いいよね」という話になりまして、6月21日以降もやろうということで、7月以降に「明日晴れるかな」という名前を付けて、それからずっと続いています。大体、月に3回ぐらい......

稲継  月に3回?今までですか?

今村  そうですね。大体月に2~3回、多いときは5回ぐらいやっています。不定期ですけれども、大体月に3回ペースぐらいでいこうということでやっています。

稲継  今、何回目ぐらいになりますか?

今村  117回が、おととい終わったところです。

稲継  すごい回数ですね。何か統一したテーマがあるわけではないと、さっき、おっしゃいましたが、そのときどきの雰囲気で勝手に話し出すところがすごいですね。

今村  そうですね。ずっと集まっていると、「今度、この話をしようよ」とか「誰かを呼んで話を聞こうよ」ということがあったり、ゲームをやったり、「テーマを決めて人を呼ぼう」ということを誰かが言い出して、「それ、面白いね、次やろう」ということになり、ときどき企画物がはまるんです。でも、企画物ばかりやっていると、ネタ切れになったときにオフサイトミーティングを続けづらくなってしまうので、なるべくネタとネタの間には通常バージョンの、ただのフリートークを入れてずっとやっています。

稲継  お見えになる方の年齢層や職場はどういう感じですか?

今村  20代から50代まで、幅は広いですね。ただ、私より上の、部長とか局長の層はあまり来ないですね。やはり係長さん以下、若手の職員、30代ぐらいが一番多いですかね。

稲継  30代の方。どういう職種の人ですか?

今村  職種は、事務職、技術職、いろいろいます。それこそ、学校事務の方が来られたこともありますし、現業の職員さんが来られたこともあります。

稲継  よく出る話というのは、どういう話ですか?

今村  やっぱり、愚痴が多いですね。

稲継  そうですか。

今村  組織の愚痴。例えば、今の時期だと、予算編成をやっていると、財政に辛く当たられるといった話や、勤務評定をどう書けばいいんだといった話、選挙があったら選挙事務はどうして区役所だけでやるんだろうといった話など、組織の中でいつも思っていて、なんとなくしっくりこないことを、職場じゃないところだから気軽に話せる、そういうのが多いですね。

稲継  なるほど、3年半ぐらいですか。今までやってこられて、今村さんなりに感じることや考えることは何かありましたか?

今村  最初にやろうと思ったときには、何か成果を出してやろうとは考えてなかったので、続いていること自体が成果なのですけれども、大きいのは、一つは、そこに参加している若手職員を中心に、「職場を離れてコミュニケーションをつくることがいいことだ」と、「それが自分の成長にも組織のためにもなる」ということを意識付けられた職員が、すごく増えたことです。オフサイトミーティングに来て「こうやって、ただ、だらだら緩く話すのっていいですね」という職員に対しての作用ですね。それともう一つは、後でお話をしますけれども、外とのつながりですね。外というのは二つあって、一つは公務員と公務員以外という世界。もう一つは、福岡市とその外ですね。この二つが、今、見事につながってきているなというのを実感します。

稲継  公務員と公務員以外というのは?

今村  このオフサイトミーティングは、元々は市職員の閉じた場所として始めたのですが、「禁酒令の1カ月の間、この悶々としている市の職員を外の人はどう見たんだろうね」ということを誰かが言い出しまして、6月20日、「禁酒令」が開ける最後の日に外の人とオフサイトミーティングをやりました。これを「ひと月たったその後に」というタイトルでやったのですけれども、そのときに「明日晴れるかな」というタイトルで初めてやったのです。自分の民間人の友だちを一人連れてくる。ホームページで公募とかしたら、どんな人が来るか分からないというのがあったので、自分の親しい民間人の友だちを一人連れてきてオフサイトミーティングしようと。そこで「市の職員、1カ月間、お酒を我慢したけど、外からどう見えた?」という話をして、結構辛辣なことを言う人や「いや、市の職員だけが悪いわけじゃないよ」とか、いろいろな意見がありました。そこは結論を出す場ではないので、ぐだぐだになりましたが。
 そこで「外の人と一緒にやるオフサイトミーティングというのも、面白いよね」という話になり、それから3年やっていますけれども、ときどきオープンイベントというのをやっているのです。「今日はオープン」といって、「外の人も来ていいですよ」、例えば、ゲストスピーカーが来る時に、「すごくいい話をする人なので、これはオープンにしよう」とか。あるいは、周年イベントと私は言っていますが、毎年5月21日の近くになったら「あれから1年経ちました」、「あれから2年経ちました」というのをやっています。それはオープンで「1年経って、福岡市がどう変わったか、みんなで話そう」という感じで、ときどき外に開いてやっている。そこで出会った人で、面白そうな人がいたら、今度はその人と一緒にオフサイトミーティングの企画をする。例えば、NPOの人と知り合って「NPOの人って意外に行政の職員のことを知らないのですよね。私たちも、実はNPOの人のことを『NPO』って十把一絡げで見ています」みたいな話がありました。「今度、お見合い会みたいなことをします?」と言って、NPOが行政の職員の生態を知るという企画を、講座形式でやりました。NPOだけで真ん中に座談会的にグループを作り、それを役所の人間が外で、フィッシュボールで見て、NPOだけで「行政職あるある」をやってもらうんですよ。今度、攻守交代で、行政職員だけが真ん中へ行ってNPOが外へ行き「NPOの人あるある」というのをやり、「こんな人いるよね」とか「こういうNPOは困る」というのをやってもらいます。その後、混ざって、みんなでグループトークをやるというのをやりました。これは、大受けでしたね。
 あとは、「混ざる」というと、これは、結構、あちこちで真似されているんですけれども「公務員を語る。公務員と語る」というタイトルのミーティングをやっています。後でお話しする出前講座とも絡むのですが、西南学院大学という福岡市内の大学に財政の出前講座に行ったときに「財政の話よりも、市の職員さんと話をしたい。市の職員のことをもっと知りたい」と、公務員志望の人が、市の職員と話をしたいというオファーがあったので「じゃあ、うちのオフサイトミーティングに来ますか」と誘って来てもらい、話をしたのが最初の「公務員を語る。公務員と語る」でした。学生さんと公務員でペアになって「公務員って何だろう」というのを話すものです。これは、もう3回ぐらいやっていまして、今年やったのは50人ぐらい集まって、すごく大きなイベントになりました。しかも「公務員を語る。公務員と語る」というのが面白いということで、あちこちで真似されていて、熊本県や東京の中野区でも真似していただきました。あとは、山形県酒田市では東北公益文科大学と一緒になって、実際の授業でもやられてます。それが、関東に来て、埼玉の小関さんたちがやっている「公務員キャリアデザインスタジオ」になっているという、真似されながらどんどん進化している企画なのです。オフサイトミーティングの場を使って、民間の人と一緒に話す場を時々やっています。

稲継  なるほど。

今村  それから、福岡市と外とのつながりの話を。すみません、私ばかり話してますけれども...。

稲継  どうぞ、どうぞ。

今村  福岡市と外とのつながりの話は、今、東北OM(東北まちづくりオフサイトミーティング)のまねごとで、九州OM(九州まちづくりオフサイトミーティング)というのを2年前から始めています。その九州OMが立ち上がったのも、うちのオフサイトミーティングのメンバーが外とつながり始めて、山形の後藤好邦さんと知り合いになり、後藤さんが福岡に来るタイミングで九州OMをやりますという話になりました。福岡で第1回の交流カフェをやるときに、うちのオフサイトミーティングのメンバーが企画、運営をやって、そこで知り合った人が、今度は、2回目は諫早、3回目は熊本というふうに、どんどん広がっていく中で、九州各県のいろいろな自治体の人とお友だちになりました。だから、私もFacebookの友だちがもうすぐ2,000人に達しますけれども、全国のOMメンバーとネットワークがすごくできてきて、私自身もそうですし、うちのオフサイトミーティングに参加している若いメンバーも、外の人、民間人や他県の人とお友だちになっています。

稲継  そうですか。これは、ある意味、すごい成果ですよね、ネットワークができるというのは。

今村  ええ。ただ、何かを話すという場をつくっているだけで、それがネットワークになっています。後で話す「SIM2030」のパンデミック、大流行につながっていくのです。

稲継  先ほど、公務員と公務員以外、最初は民間人を一人連れてきて、その後、割と自由に民間人も参加できるようになったのですよね?

今村  はい。

稲継  その中で、民間人から見た場合の公務員というのは、どういう意見が出ることが多いですか?

今村  そうですね。やっぱり、杓子定規に物事を進めすぎるというような、型にはまったような民間人からの公務員像の話もあります。けれども、公務員一人一人って、普通に人間として接したら、別に変でも何でもない、公務員という括りではない見方がたくさんできるので、「ここに来て、こんな公務員さんもいるということが知れて良かったです」と言って帰られる方が多くいらっしゃいますね。

稲継  なるほど、そうですか。ありがとうございます。この「明日晴れるかな」は、今までに117回開催されて、多分、今後もずっと続いていくんですよね?

今村  そうですね。

稲継  「明日晴れるかな」は、そもそも、平成24年の6月20日に初めて名前が付きましたけれども、どういう趣旨から、この「明日晴れるかな」という名前が付きましたか?

今村  これは、私、サザンオールスターズの桑田佳祐の大ファンでして、桑田佳祐のソロのシングルで『明日晴れるかな』という歌があるんですね。禁酒令が1ヵ月間あり、その間は「なんとかしたい人全員集合」というタイトルでオフサイトミーティングをやっていました。けれども、ちょうど1ヵ月経ち、6月20日に民間の人も参加するイベントをやろうということになった時、「もう、『なんとかしたい人』じゃないだろう」という気がしたものですから、何か違うタイトルを付けようと思いました。その時、ふと「明日晴れるかな」というのが思い付いて。『明日晴れるかな』の2番の歌詞に、「奇跡のドアを開けるのは誰?」という歌詞があるのですね。「奇跡のドアを開けるのは誰 微笑みよもう一度だけ 君は気付くでしょうか その鍵はもう きみの手のひらの上 」その歌詞を思い出しまして。
 結局、「禁酒令」があったときに、どうしたらこの問題が解決できるのだろうと、最初、ものすごく困惑したんですよね。もう、どうしていいのか分からないという状態。それが1カ月話しているうちに、なんとなく紐解けてきて。結局、自分たちの中に解決の答えがあったんだなと。誰かから教えてもらうわけでもないし、みんなで何かを考えたわけでもないけれども、1カ月間、ただ思うままに行動してきたことで、対話することそのものが重要だし、自分たちはこの解決策を見つけたということで、その歌詞にすごく共感するものがありました。自分たちのまだ気が付いていない手のひらの上の鍵っていうのをずっと意識して、それを見つける場所、あるいはそれを育てる、守る場所として「明日晴れるかな」というのをずっとやっていこうと、そういう気持ちです。

稲継  なるほど。ありがとうございます。今「明日晴れるかな」の話をずっとお伺いしたんですけれども、「財政出前講座」というのは、最近、よくあちらこちらでお聞きします。これは、どういうものでしょうか?

今村  財政出前講座は、今、他都市に出張に行くのが出前講座のように思われていますけれども、もともとは福岡市の職員に対して、財政調整課長の私が出向き、市の財政状況や、行革の必要性を説明して回るという出前講座です。全国の自治体の財政課長で、自分が出向いていって話す人は、私以外、多分、ほとんどいないと思うんです。

稲継  ゼロです。今村さんを除いていないと思います。

今村  私が何でこんなことをやっているかというと、私は平成24年4月に、今の財政調整課に来たのですけれども、その前にも5年ぐらい係長でやっていた時代がありました。そのときは市役所の中央で一番ふんぞり返っているのが財政課だったという印象があるのですが、自分がそこに少し違和感を持っていたこともあったので、自分が帰ってきたときには、もうちょっと各現場、各局で自律経営、自分で財政のことを考えて、自分で事業を見直したり、新しい財源を生んだりということにならないかなと、ずっと思っていたんですね。それが、平成24年に戻って来たときに、1年間で行革プランをつくれというスケジュールになっていたのですが、その行革プランを作っていく中で、市長の指示で元三重県知事の北川先生を座長に据えた有識者会議をつくることになりました。その委員会の議論の中で「ビルド・アンド・スクラップ」という言葉を頂きました。要は、やりたいことをやるために見直すという考え方。福岡市の財政状況はどこにどうお金が足りないのかについて、有識者会議向けにプレゼン資料を作り、我々、財政サイドとしては頭の中が整理できていたので、それをなんとかみんなに理解してほしいなと思い、当時はまだ私も考えが浅かったのですが、職員専用の掲示板にeラーニングという形で掲示をし、それを読んで答えてもらうことで、福岡市の財政状況を理解してもらおうというのをやりました。ただ、これが不評で。要は、資料を見ただけじゃ分からんと。

稲継  難しいですよね。


財政出前講座の様子

今村  ええ。見ただけじゃ分からないのは、有識者会議のプレゼン資料をそのまま貼っているだけなので、プレゼンテーションを聞けば分かる資料なのですが、見ただけじゃ分からない。区役所の職員に文句を言われたので「ああ、それは、見ただけじゃ分からないでしょうね、これ、プレゼン資料ですから」と私が返したら「じゃあ、説明が聞きたいです」と言われました。当時「明日晴れるかな」のオフサイトミーティングをやって1カ月以上経っていたので、私もいろいろなところで、職場を離れて自分の立場で話すことに少し慣れてきた時期でもありました。たまたまオフサイトミーティングで知り合った職員から、そういうことを言われ「今村さん、今度、区役所でしゃべってくださいよ」と言われたので「いいよ。じゃあ、会議室を取って、人を集めてくれたら、俺、行くから」と言って、始めたのが、平成24年8月ですね。そのとき私が「じゃあ、出前に行きましょうか」と言ったので、「出前講座」という名前が付いているんですよ。
 もともと「出前講座」という名前は、福岡市の場合は市民に対して出前する出前講座という仕組みがあって、各所属が市民向けにお話しできるメニューをつくって、広聴課に置いたりしているのですけれども、こっちのほうは市民から福岡市の財政のことを知りたいという出前の注文は全然来ないのですけれども、職員向けの出前講座は、1回やって、「こんなことをやりました」というのを私が職員用の掲示板に記事を上げたら、結構いろいろなところから、「どうやったら来てもらえるのですか」という問い合わせがありました。最初の年は、全部、組織の仕事じゃなくて、今村個人が請け負っているという形でやっていました。でも、だんだん拡大してきたので、25年度からは「財政調整課として、これをやります、やっています」と、職務のミッションとして掲げるようになり、24、25、26、27で4年目になっています。基本スタイルは、呼ぶ人が会場を抑える。呼ぶ人が人を集める。呼ぶ人がレポートを書いて、掲示板に上げるというスタンスですね。呼ぶ人がレポートを書いて上げるというのがみそで「今村課長が来てくれて、こんな話をしてくれました。面白かったです」と、みんな書いてくれるのですよ。それが職員用の掲示板に上がると「ああ、私も聞いてみたい」って思うんですね。私が「ここに行って、こんな話をしました。受けました」と書いても駄目で。やっぱり聞いた人に書いてもらうと口コミ効果があって、これが、もう80回。

稲継  80回ですか!

今村  80回。一番参加人数が多かったのは、先日、中央市民センターで200人を超す人数でやりました。これは学校事務の方に対してやったのですけれども、それも含めて全部で1,800人ぐらいの人に、今までお話を聞いていただいております。

稲継  これは、みんな職員の方ですか?

今村  基本的には職員を対象にやっています。そうやってお話をすると「財政のことが少し分かったから、自分の職場で何かできないかな」といった声を聞きます。あと、うちは枠予算という仕組みでやっており、枠配分で配分された少ない枠を自分たちで考えて最大効率化するという仕組みを持っているので、「あとは、枠予算の中でしっかり考えてください」と終わることができ、すごく好評です。3年間で、枠予算の仕組みを使って本当に行革も進んできているし、みんなの意識も高まってきています。

稲継  それが他の自治体からも、呼び声が掛かっているんですね?

今村  そうなんですよ。九州OMで知り合った人たちから「今村さん、出前講座みたいなのをやっているの?面白そうだね。うちも来てくれない?」と言われて、最初に行ったのが長崎県の諫早市です。初めて諫早に出前に行ったときは、こちらも諫早市職員向けのコンテンツが何もなかったので「福岡で話している話を、そのまま話すけれども、いい?」と聞きました。当然、諫早の財政事情なんて、私、知りませんから、「それでいいんだ」と。そこで、福岡市では福岡市の職員に対して福岡市の財政課長がこんな話をしているというのを、そのまま見せたんですよ。そうしたら、財政にまつわる悩みというのは、どこの自治体でもあまり変わらなくて、私が話している財政構造の話もほとんど変わらないんですよね。「扶助費が伸びて、アセットマネジメント経費が伸びて、義務的経費が増えるから、投資的経費が減ります」みたいな、どこの自治体でも同じなので、そういった構造の話をしたら、「すごく面白かった、分かりやすかった。うちはどうなんだろうね」という話になり、ちょうど諫早の財政課の職員が来ていたので「今度、諫早市バージョンでやろうよ」みたいなことになっていく。
 それを、平成26年の秋に初めて諫早でやり、翌27年、今年がちょっとすごかったんです。これは山形の後藤さんに仕掛けられて、大分でやったんですけれども、そのときのことを後藤さんがFacebookで「今村さんという人が、こんなことをやっています」と書いてくださり、全国から引き合いが来て、行けるところは全部行くような形になり、今年は10カ所でやりました。大分、東京、別府、延岡、諫早、酒田、横浜、人吉、砥部、春日です。

稲継  そんなに?

今村  ええ、10カ所。全部で400人ぐらいの方が私の話を聞いてくれたと思います。

稲継  そうですか。その場合のコンテンツは、やはり、福岡市の財政状況ですか?

今村  そうです。ただ、今年は諫早だけは2回目をやらせてもらったので、諫早バージョンを向こうにつくってもらって、対話形式でやりました。諫早の財政課の人と私とで諫早の財政事情を見ながら、二人で掛け合いをしながら、みんなに見せていく形式でやりました。あとは、後で出てきますけれども、今年「SIM2030」が出てきましたので、「出前プラスSIM2030」というバージョンをやりました。出前講座は90分なんですけれども、最初の60分で状況を話し、後半の30分で解決策を話します。この状況と解決策の間にSIM2030のゲームを挟んで行います。要は、「お金がない中で、ビルド・アンド・スクラップで事業を選んでいくというのはどういうことか、ちょっとゲームで体験してみましょう」と。全部で3時間半とか4時間ぐらいのコースなのですが、それを今年は3回ぐらいやりましたね。

稲継  いや、すごいな。10カ所、行ったということになりますけれども、それが、行った先で、今度、そこの財政課の人が市の中とか県の中で始めることも考えられますよね?

今村  そうですね。実際、財政課の職員を呼んでいただいたり、あるいは、人吉市は財政課の課長さんと私が友だちなので、直接行って、最後に財政課長本音トークというのを二人でやり、それをみんなに見てもらったりとか。どこの出前でもそうですが、私が行った後は、構造や課題はわかったけどそれをどうしたらいいのかを自分たちで考えようという雰囲気になっています。

稲継  そうですか。先ほど、ちょっと話が出ていた「SIM2030」ですね。「SIM2030」というのは何ですか?ちょっと教えてください。

今村  「SIM2030」は、簡単に言うと予算編成ゲームです。自治体の予算編成の仕組みはご存じかと思いますけれども、財源があって、その財源の中に事業をはめなければいけないのです。簡単に言うと、事業カードというのが何枚かあって、私たちが今やっているのは、10数枚の事業カードが配られていて、あるイベントがあって、イベントのために何かをしなければいけない、新しく財源をつくらなければいけない。そのためには、このカードを1枚切って事業をやめなければいけない。既存事業の中の何をやめますか?それが1枚だったり、あるいは税収が減ったり、社会保障費が増えるという前提条件で3枚カードを切らないといけない。そういうのを幾つかの年代ごとにやります。これを「SIM2030」というのは、熊本で最初につくられたときは、2015、2020、2025、2030と4ステージあって、4ステージのそれぞれで3枚ずつカードを抜いていくというゲームになっているからです。

稲継  どんどん厳しくなるんですね?

今村  そういうゲームなんですよね。そのゲームの中で、限られたものの中から選び取り、その説明を果たしていく、あるいは、選び取る作業をみんなで話して決めるということを学んでいくゲームなのです。これは、熊本県庁の人が開発をしました。私は、Facebookでこのゲームの存在を知り、九州OMの中で普及していきました。財政の仕事をしている私に大変ヒットしまして、私が知ってほしい財政のことをみんなに伝える一番いいツールになると思い、熊本バージョンでは少し長くて重たい「SIM2030」を、福岡バージョンは、もう少し軽くて、一人で持っていけるゲームに変えました。熊本バージョンは、何人かのスタッフがいないとできないのです。

稲継  それほど大きな?

今村  まず、メインのファシリテーターがいます。あとは、6人1チームで一つの自治体、仮想自治体なのですが、そこが制限時間内に議論をして結論を出します。そして、この各仮想自治体の出した結論、予算案を査定をする人たちがいます。われわれは議会役とか査定官と呼んでいますけれども、チームの外から見て「その査定案は妥当か」といったことを審議するという立て付けなので、班の数が多いとこの議会役、査定官がたくさん要るのです。しかも、査定官は、このゲームの経験者でないとできないので、「今度、大阪でこれをやりたいんですけれども」と言われても、「うちから5人行きます」ということがなかなか難しい。なので、福岡版は、一人で持ち運びができるゲームになるよう考えて、査定官は隣の班同士で入れ替えてやるという形式にし、メインのファシリテーターが一人いたら全部できる簡易版を作って、今、やっています。今年は酒田市で簡易版をやって砥部町ではフルバージョンでやりました。当然、福岡市内でもやりましたけれども。

稲継  先ほどの「明日晴れるかな」は基本的に職員の方が対象で、「財政出前講座」も職員の方が対象ということですけれども、この「SIM2030」は職員の方ももちろん入っているんでしょうけれども、市民の方も参加することはありますか?

今村  最初、職員向けにやっていて、今年の4月も市の新人職員研修でやりましたが、職員向けにやっていると、それを私がFacebookに書くので、やってみたいという民間のお友だちがいっぱい出てくるんですよね。それなので、民間人も入れてやりましょうということで、今年10月には、日本ファシリテーション協会の九州支部のイベントでやらせていただきました。それと先日は「明日晴れるかな」のオープンイベントとして「『明日晴れるかな』だけど、今日はSIMをやるから、民間の人も来ていいよ」という形式で開催したら、民間の方が多く集まりました。三十数人来られ、職員が10人ぐらいでしたから、民間人が20人ぐらいいらっしゃいました。

稲継  そうですか。職員の方がつくられる「SIM2030」の結果と、民間の方が入られた場合では、やはり違いますか?

今村  違います、違います。

稲継  どういうふうに違うんですか?

今村  公務員だけだと、説明責任が重要視されるんですよ。われわれにとっては、普通の仕事ですよね。「これを切るとしたら、このサービスを受けている人に何と説明しよう」ということになるのですが、民間の人が入ると「いや、これ、要らないものは要らないでしょう」とスパンと切ってしまうのです。このあたりが、民間とわれわれで、仕事の仕方や価値判断が違う、組織的にも違うということがよく分かりました。けれども、よく考えたら、そういう割り切って捨てていくことも学ばなければいけないし、あるいは、民間の人から「役所の中の人って、こんなに大変な作業をいつもしてるんですね」という話になり、それはそれでお互いに面白いと。
 他に面白いのは、我々が作った「SIMふくおか2030」は、福岡市で実際にやっている事業を少し仮想化した事業名称にしてやっています。だから、全ての事業が実際にやっているのです。この前、高校生にやってもらったら、高校生でも「これ、要らんでしょう」とズバズバ切って「高校生に要らんと言われとる」とかいって、少し面白い傷つき方をしています。

稲継  そうですか。ありがとうございます。「SIM2030」も含めて、平成24年に財政調整課長になられてから、3年半。なんか、突っ走ってこられた感じですね。

今村  そうですね。ちょっと走りすぎて、今、疲れていますね。

稲継  本来、財政調整課長って、無茶苦茶忙しいポジションで、特に、このインタビュー自体、12月、まさに査定の一番大変な時期だと思うのですけれども、それ以外に、勤務時間外にこういう活動をやっておられて、家庭生活とかは大丈夫ですか?

今村  家庭第一でやっていることは、たぶんFacebookのお友達の皆さんはよく知っています。家庭あっての仕事ですから、あるいは家庭あってのオフサイトなので、ちゃんとバランスは取っています。

稲継  なるほど。平成24年が一つの転機で、財政調整課長になられてから、今、おっしゃったように、大きく分けて三つのイベントをずっと突っ走ってこられたんですけれども、そもそも、福岡市に入庁されたのが平成3年。

今村  もう23年、24年前ですね。


 禁酒令が出たときに、自分たちを否定されているようでたいそう困惑したという。解決策はどこか。異なる職場の話したこともない職員同士オフサイトで顔を突き合わせて話すうちになんとなく紐解けてきた。自分たちの中に答えはあった。会って話をする。出かけて行って財政の話をする。これが今村さんの仕事スタイルの基本となっていく。
 この人はどういう職業人生を送ってきたのだろうか。次号では福岡市へ入庁した24年前にさかのぼってみよう。(以下次号)