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第122回2015.05.27

インタビュー:寝屋川市 総務部長 荒木 和美さん(上)

イギリスやアメリカの地方自治体を訪問して人事部長や人事課長に会うと、その半分以上は女性であり、日本における光景と違うことに驚く。近年、日本の地方自治体においても採用者数に占める女性比率は5割を超えていることも多いが、管理職登用となるとまだまだ英米には程遠い。
 安倍内閣は女性の活躍促進を呼び掛けており、昨年の中央省庁の人事異動では、女性の局長も多く誕生した。だが、寝屋川市では平成24年の第2次安倍内閣発足前から女性の総務部長を誕生させている。


画像:荒木 和美氏
荒木 和美氏

稲継  今日は、寝屋川市にお邪魔して、総務部長の荒木さんにお話をお伺いします。どうぞよろしくお願いします。

荒木  お願いいたします。

稲継  荒木さんはいま(平成27年3月取材)総務部長ということですが、大体どういう仕事を担当しておられるのでしょうか。

荒木  本市の総務部の所管は、総務課、契約課、人事室、選挙管理委員会で、いわゆる官房系のところをやっています。ただ、他市でよくあるような、税を持っているわけではありませんし、財政があるわけでもありませんので、総務部長といっても、どちらかというと人事部長的な位置づけが強いかなと思います。

稲継  なるほど。今、幾つかお仕事を挙げてもらいましたが、この中で大変な順番に順位付けしますと、どういう順番になりますか。

荒木  総務部長に着任した時と今とでは印象が変わっていまして、総務部長になったときに一番大事なのは人事だと思っていました。もちろん、人事の仕事のボリュームも大きかったのですが、今、密かに、非常に大事な仕事だと思っているのは契約と法規です。

稲継  それは、また、どうしてですか。

荒木  契約は、地味な仕事のように見えるのですが、役所の仕事を回す上で、ここが緩くなってしまうと役所のコンプライアンスが崩れるところがあります。また、ここのところのノウハウがあるとないとでは、行政マンの基本が断然変わってくるというか。契約の事務というのは、行政マンの根幹だなという思いを強くしています。それに連動して、法規も当然そうなんですけれども、ここを押さえている職員は非常に強い職員だという気がいたします。
 最近、政策立案や政策法務が取り上げられる時代になってきてから、契約事務や法規を一番に言われることが少なくはなってきているんですけれども、本当はそうではないんだなということを改めて思います。

稲継  なるほど。契約というと、一昔か二昔前は随意契約が基本で、入札というのは指名競争入札があった時代から、1990年の終わりぐらいから、がらっと変わりましたね。

荒木  そうですね。

稲継  その辺のことを、ちょっとお聞かせ願えますか。

荒木  まさに、ご指摘のとおりで、官製談合の様々なことがあり、分権一括法前後の頃から、契約の手法は随分見直されてきたと思います。本市は、平成16年から電子入札を導入していまして、これは1市だけで入れていたのではなくて、府内の何市かと協議会をつくって導入してきた経過があります。その創成期に関わっていた団体として、大阪府内の中でも非常に早い時期から電子入札をやってきました。それから、併せて、予定価格や最低制限価格の事前公表をやっています。この事前公表制は、国土交通省の見解では、価格が低く抑えられる可能性があるので、適正な競争を生み出すためには事後公表がいいということも言われますが、官製談合を回避する、さまざまな談合事件を回避するために、そういった取り組みを先進的に進めてきたところがあります。

稲継  なるほど。契約事務というと法規も関係しますけど、コンプライアンスの問題がすごく重要ですね。

荒木  大きいですね。

稲継  いろいろな自治体で起きているのが、契約に関わる係長さんとか主任さんとかが業者と癒着するみたいな話が、戦後70年ずっと繰り返しあったわけです。それを防ぐために、寝屋川市さんとしてはどういう取り組みをしておられますか。

荒木  一番大きいのは、制度として予定価格、最低制限価格の事前公表をしていることだと思います。競争性を守ることで、そこは一番いい方法かどうかという議論はありますが、正直なところ、事前公表制を取ってからは、いわゆる価格の漏洩問題の心配は一切なくなったところがあります。一方で、競争性を担保することから、事前公表制に対してはいろいろなご意見があることも事実ですので、今後寝屋川市としては、業者さんの育成という観点から価格競争性を保つことと、談合防止をどういうふうに両立させていくのかが課題かなと。

稲継  ありがとうございます。先ほど、法制実務だけでなく、政策法務も加わってきたとおっしゃったんですけれども、昔からの法規と、何か変わってきていますか、その辺のところを教えてもらえたら。

荒木  最近、訴訟が増えているという印象がすごく強いです。境界明示であるとか、そういったことが不動産売買のときにもめる事例が増えてきています。大きな事件だけでなく、一般の市民の方と対峙するような小さな訴訟が随分増えているなという印象があります。

稲継  それに対して、市役所としては法規課で、全部、対応しておられるんですね。

荒木  そうです。基本は法規担当と、それから顧問弁護士と連携して対応していたんですが、25年7月に弁護士資格を有している課長を、特定任期付課長として採用いたしまして、今、総務課の課長として弁護士が座っております。この体制が整ったので、庁内としては随分、職員の安心感につながっているという印象があります。昔はあまり考えられなかったんですけれども、最近は市民の方のお宅にお伺いしたときに、一緒に弁護士さんが同席されているようなケースがあります。

稲継  職員としては、ちょっと萎縮してしまいますね。

荒木  既に、お相手の方が訴訟をイメージしておられて、「弁護士さんも同席させてもらいますから」となると、それだけで職員が萎縮してしまうので。その辺が、本市も特定任期付弁護士課長を配置できたので、そこは随分安心感とか納得感につながっているところはありますね。

稲継  なるほど。職員にとってはすごく信頼できるし、何かのときに頼れるし、ちょっとしたことでも、顧問弁護士ではなくてすぐに庁内に聞きに行けるということで、安心材料になりますね。

荒木  変な話ですが、箸のこけたようなことまで、例えば「こういったことは言っていいのか、どうなのか」「こういったことは文章で整えるものなのか、どうなのか」といった細かいことまで、日常的にすぐ聞くことができるので、それは、体制としては非常にいいなと思っています。

稲継  なるほど。インハウスローヤー(組織内弁護士)というのは、昔は市役所にはほとんどいなかったのですけれども、最近はだいぶ増えてきて、それは僕もすごくいい傾向だなと思うし、どこで聞いても割と心強い味方だという話は実際に聞くので、いい制度だなと思います。
 最近は契約法規が大変になってきたということですが、管財とか総務とか、昔からある課の最近の課題とか、何かありますか。

画像:取材風景

荒木  管財の所管は総務部ではなくて、財務部で資産活用をしています。それ以外に総務課で所管しているものは、議会対応、業務改善、事務改善です。それで言いますと、役所の仕事の変化として、分権一括法の前からあった行革の流れで、仕事のICT化、それから分権一括法の後で徐々に入ってきた行政評価や人事評価という動きがあります。それらが導入されてから既に15年ほど経ちます。その間、行政の仕組みはあまり大きく変わっていないという印象があります。人事評価も平成13年に入れているのですけれども、結局、マイナーチェンジを繰り返すだけで、大きく変わらず今に至っています。そういう意味では、内部の仕組みというか、組織を動かす仕組みを大きく変えるべき時代が今後やってくるという懸念を私は持っています。というのも、職員がそのときから比べてもどんどん減っていまして、今、うちの市でいうと2,500人いた職員が、今年、この4月1日で1,136人です。

稲継  半分以下ですね。

荒木  半分以下です。今後の行政課題の複雑化を考えると、半分以下の職員の役所を、事務の減や民間委託、指定管理者の導入だけでは、まかなえないと思っているので、役所の仕事の仕方を何か変える、根本から変える事務改善の仕組みがいるなと思っていますが、残念ながらその手立てが全く見えない状況だなと思っています。これまでの行革も、ほぼ限界だと思います。

稲継  でしょうね。この2,500が1,136というのは衝撃的な数字で、ほかの自治体ではあり得ない数字ですが、そこまでやってでも、これ以上雑巾が絞れないという状態なので、これが限界だと思うのですけどね。

荒木  ほぼ、限界だと思います。なので、この後、次のフェーズに行こうと思うと、もっと違う行革をしないといけない。それは、窓口の総委託みたいなことになるのかもしれませんが、残念ながらその絵も、今、描けていない中では、業務そのものを個別に、タスクごとにもっと見直す仕組みをつくらないといけないだろうな、そうしないと役所が回らないだろうなという懸念を持っています。
 ちょうど2週間ほど前なのですが、「寝屋川市組織機能強化研究会」というのを立ち上げたのです。これは、総務部長を筆頭にした部内の勉強会です。それはそういう思いがあって、何からしていいのか分からないのですけどね。とりあえず、何が課題で、どこを触れば1,100人時代の役所をつくれるかなというのを、今、考えているところです。

稲継  なるほど。大変に見えるけど、でも、ある意味、ネクストフェーズを考えると、なんかわくわくする感じもしますよね。

荒木  面白かったのは、総務部内の課長級と係長級、内部管理システムに関わるメンバーを集めて話をしました。私がいるので、どうしても私の顔色を見て彼らはしゃべるかとは思っていましたが、その分を差し引いても若手の発想は面白いです。若手がジレンマに感じていることが、われわれがジレンマに感じていることとはまた違っていたりするので、そこを意見交換できたのはとてもよかったと思います。

稲継  研究会をつくられて、若手の発想がいろいろ入ってきて、革新的なことが起こるかもしれませんね。そういう意味で、私は前から寝屋川市に注目しているのですが、そのうちの一つが人事評価です。昨年度の総務省の人事評価研究会のメンバーでもいらっしゃったし、その前からも、いろいろなメディアを通じて発信をしておられているということで、人事評価制度の担当は総務部長でもあるし、その前のポジションであった人事室長の仕事でもありますよね。寝屋川市の人事評価制度について、お話しいただけますか。


取材風景

荒木  はい。人事評価制度は、国や地方公務員法の改正で取組みが始まる前、平成13年から本市は取り組んでおります。それは、平成11年に就任された馬場市長が、行革推進を標榜しておられた市長で、就任当時から成果主義と人事評価制度をぜひ入れたいということで、人事評価制度とともに評価結果の給与反映もトップダウンですぐ始まった制度です。平成13年には課長以上の職で人事評価が始まったわけなのですが、次の年の14年からは課長代理まで広げて行っておりました。そこからずっと給与反映も含めた管理職の人事評価をしていたんですけれども、平成22年からは一般職にもそれを拡大いたしまして、その2年後の平成24年からは給与反映も行ったということで、今は全職にわたって人事評価制度、それからボーナスへの反映と定期昇給への反映の仕組みをつくっています。
 寝屋川市の人事評価は、これも入れたときからのこだわりだったんですけれども、多面評価で行いたいということで、特に部長級については、上司からの評価、部下の評価、それから同僚の評価と、あと斜めの評価とわれわれは言いますが、当時の自治経営推進室長からの評価ということで、四つの評価を頂いて、そのトータルで評価結果を出すという仕組みにしています。360度評価とも言われますけれども、これが寝屋川市の評価の一番の特徴と言えば特徴かなと思います。

稲継  荒木さんは、そうすると、いろいろな人に評価されているわけですよね。

荒木  そうです。

稲継  それは、最終的には調整は副市長がなさるんですか。

荒木  副市長です。はい。

稲継  なるほど。実際に、課長級以上については平成13年からですから、もう14年ぐらいたっているわけですよね。かなり歴史もあるし。地方公務員法自体は昨年5月の改正で、平成28年3月までに施行令が出されて、来年度、平成28年4月からは完全実施ということでして。その際、法律の中に給与反映という言葉も書かれているんですが、それがなかなかできない自治体も多い中で、寝屋川市さんはかなり早くからこれをやっておられる。やってきた中で、何か難しかったことはありますでしょうか。

荒木  管理職について言えば、人事評価の中身と給与反映の分布率などが、肌感覚というか実感としてみんなが思っている評価とうまく合っていたので、思ったよりはスムーズに制度運用がされてきたところがあります。反発が一番大きかったのは、一般職に入れたときがやっぱり大きかった......。

稲継  平成22年からですね。

荒木  はい、そうです。22年から本格的に入れたんですけれども、その前、18年からは試行実施ということで、4年間ほどやっていたんですが、4年間もの試行期間が必要だったというのはあります。加えて、その後に給与反映も入れましたが、一般職について言うと、この給与反映がそのまま職員のモチベーションや、職員の実感としての評価とマッチしていないのかなと思われるようなところがありました。評価対象人数が、管理職だけでしたら大体250人ぐらいが、一般職も全部入れると1,200人から1,300人ぐらいになります。再任用職員も入れますので、1,300人ぐらいになるので、規模が増えたから苦情が増えたということなのかもしれませんが、いわゆる苦情処理機関への申し出が出てきました。なので、一般職に広げてからは、毎年、納得性を上げるのにどうすればいいのかが非常に大きな課題ではあります。

稲継  なるほど。評価者訓練とかそういうのはありますか。

荒木  はい。評価者訓練も、年に1回の研修はレギュラーにしています。その研修のときに、模擬評価みたいなこともやってみたり、面談が大事だということで、面談マニュアルやシナリオとかもいろいろつくってみたりするんですけど、だからといって評価の納得度が、われわれが思っているよりも低いのではというところが、今、一番難しいなと思っているところです。

稲継  なるほど。はい、ありがとうございます。今、ずっと総務部長としてのお仕事についてお伺いしてきたのですけど、荒木さんが入庁されたのは平成......

荒木  平成5年です。

稲継  平成5年なので、今まで22年。

荒木  そうですね。はい。

稲継  総務部長になられたのが......。

荒木  平成24年ですね。

稲継  24年。勤続19年で総務部長になるって、これは、なかなか。国からの派遣職員とかが2年、3年、勤めているという例はあるんですけれども、プロパーの職員で、一定規模以上の市役所において19年で総務部長にまでっていうのは、私は非常に珍しい例だと思いますし。しかも、女性であるっていうことは、ほかの自治体では、私はあまり知らないんですね。採用されてから、今までの歩みみたいなことをお聞かせいただけないでしょうか。

荒木  平成5年入庁で、入庁当時は社会教育部の教育センターという出先機関に配属になりました。教育センターというのは、同和対策事業で設置された青少年会館でして、そこで人権教育や社会教育の担当をしていたということです。

稲継  ここに何年ぐらい?

荒木  ここに6年半おりました。

稲継  6年半おられたと。その後の市役所職員人生を決める最初の6年半だったと思うんですけども、多分、ここで学ばれたことがすごく生きているんだと思うんですが、どういうことを学ばれたんですか。


寝屋川市役所

荒木  市役所職員というと、最初は窓口業務のようなイメージしかなかったんですね。教育委員会というイメージでも、学校のイメージだったんですけれども、そういうのとは全く違うところで始まりました。まず、人権教育や社会教育ということで、児童館活動のような仕事もしますけれども、さまざまな団体の方や、住民の方々、子どもたちを取り巻く周辺地域の方々であったり、学校関係者の方々とか、いろいろな関係者の方々との仕事があり、話をお聞きする機会がありました。生活改善的なことや子どもたちの学力保障のようなことを仕事にしていましたので、正直、最初はすごくとまどいました。私は、それこそ22~23ぐらいでしたし、一体、何を指導できるのか、何を助言できるのかといったところに迷いも非常にあったんです。それでも、まずは話を聞く、それから、怖がらずちゃんと向き合う。ついつい怒られるのが嫌で足を立てて行くことをしなかったりするんですけれども、市役所の仕事なんて人対人の仕事なので、自分から進んで出掛けていくとか、自分から話し掛けることが大事なわけです。それこそ声の掛け方一つですべてが始まることを実体験として教えてもらったなと思っています。

稲継  荒木さんとお話ししていて感じるのは、すごくアグレッシブなというか、積極的なんですね。それは、多分、最初の6年半のときに身に付けられた感じなんですかね。

荒木  最初は、すごく怒られました。黙っていたら「何しに来たんや」と言われますし。こちらから話し掛けないと、心を閉ざした子どもたちは私に何も教えてくれないし、となると、自分がこうしようとか、こうしたいと思ったときに、それは自分が表現しないと絶対に伝わらないし、つながらないところがありました。行政マンに必要なのは、こちらから「May I help you?」という、感じなんですよね。こちらから「いかがですか?」というか「どう?」というのが出ないと駄目だというのは、それは確かにすごく叩き込まれた気がします。

稲継  なるほどね。普通は受け身な職員が多いんですよね。誰かが来たらそれに対応するのが普通の職員の発想なんだけど、荒木さんはむしろ自分から話し掛けないと先に進めないという経験をしておられるから、それが身に付いたんですよね。

荒木  あと、これは言葉として非常におこがましい言い方かもしれませんが、私は、あえて弱者と言うならば、さまざまな要因があることで社会的に弱い立場だとされる方に寄り添うのはどういうことかを、そのとき教えられた気がします。寄り添うなんて言うとおこがましくて嫌なんですけれども、そのために行政はあるし、そのためには私たちがまずやるべきことは、こちらから行くことなんだろうなというのは、それは確かにすごく鍛えられた気がします。

稲継  平成5年から6年半おられて、平成11年ですかね、異動があって、次はどういう職場ですか。


 平成26年地方公務員法が改正されて人事評価制度の規定が置かれた。平成28年4月からは改正法が施行される。まだ制度試行にとどまっている自治体にとっては平成27年度は大きな試練の年だが、寝屋川市ではかなり早くから人事評価制度を全職員に実施している。先進事例ということで紹介されることも多いし、平成26年度に総務省に置かれた人事評価制度研究会でもメンバーとなっていた。
 荒木さんはあちこちで先進事例紹介ということで寝屋川市の人事評価制度について講じることもあると聞くが、役所生活のスタートは出先機関の教育センターだった。6年半ここで勤務したのちに異動した職場は企画室だった。