メールマガジン
分権時代の自治体職員
第117回2014.12.24
インタビュー:三島市産業振興部商工観光課 地域ブランド創造室長 小嶋 敦夫さん(上)
地域ブランド創造はいまや自治体にとって極めて重要な課題となってきている。そのための特別の部署を作り活動をしている自治体職員も少なくない。今回お話をお聞きする三島市の小嶋さんもその一人だ。
小嶋 敦夫氏
稲継 今日は、三島市にお邪魔して、地域ブランド創造室長の小嶋さんにお話をお伺いします。どうぞよろしくお願いします。
小嶋 よろしくお願いします。
稲継 小嶋さんは、今、商工観光課の地域ブランド創造室長ということですが、ここはまずどういうところでしょうか?
小嶋 この4月にできたばかりなので、こういうことをやっています。とまだ言いづらい部分もあります。地域ブランドっていうと皆さん「特産品ブランド」を想像されるでしょう。もちろんそれも担当していまして、三島らしいおみやげ物を一からつくろうというようなプロジェクトも立ち上げてやっています。
そういう特産品ブランドづくりがまず1つです。また、観光面でのブランディングも図っていかなければいけないということで、「観光ブランド」をつくっていこうと。どちらかというと、交流人口を増やしていこうみたいな形ですね。
取材風景
3つ目は、このまちに住む人たちの「暮らしブランド」を大事にしたいと思っています。三島に住むということについてのブランディングを図っていくような。この3つのトライアングルをしっかりと有機的に結びつけてやっていきたいと思い、今いろいろなことに手を出してやっている最中です。
稲継 なるほど。
小嶋 そうは言いながら、市として力を入れたいなっていうようなところを、特命的に「おまえ、やれ」という感じで話が上から降ってくる事もあります。例えば、スポーツを切り口としたスポーツコミッション的なものを三島だけじゃなくて伊豆半島全体、静岡県東部でつくる枠組みがあります。
あとは、ガーデンシティという、三島の誇る水と緑に花の彩を加えたまちづくりのソフト事業ですね。そういったところも僕の担当になっていまして、その他、健康づくり課が中心になって進めている「スマートウエルネスみしま」という、健康をキーワードとしたまちづくりの地域活性化とか、産業振興にかかわるような部分も私の部署の担当ということになっています。
稲継 なるほど。
小嶋 それと、手段としての大学生の活用も大きなテーマです。三島市のような人口10万規模の地方都市に日大と順天堂大学と2つの大学があるって奇跡に近い話だと僕は思っています。ただそういったリソースをこれまで活用できてきたかというと必ずしも十分ではなかったと。なので、学生さんたちの力を借りて、何か地域おこしができないかというところも今、力をいれているところです。
僕、若い子と話をするのが好きなんです。変な意味じゃなく(笑)、単純に考え方とか発想とかが、とても面白い。そこで今年からソーシャルデザインコンテストというのを始めておりまして、この前、予選会がありました。11チーム30人以上の学生さんがエントリーしてくれて。市内だけじゃなく、東京とか、一番遠かった子は北海道から参加してくれました。高校の友達と一緒に、東京にいるお友達と一緒にということでしたけど。
比率としては、市内、県内の大学が半分で、あとは首都圏を中心とした県外の大学の方が半分くらいで、予選会で6つに絞り、今度11月に本選会というようなかたちにしていくという。
稲継 これは、どういうコンテストですか?
小嶋 大学生に三島のまちづくりにつながるようなソーシャルデザインのアイデアを提案してもらう、ビジネス化ができるような、ソーシャルビジネスみたいなものでもいいですと。最終的にはそのどちらかのタイプに集約されてくると思います。そういったアイデアを提案してもらい、実際にいいものは実現していきたいと考えています。
公共寄りのソーシャルデザインのほうは、例えば市の委託事業、どこかの団体に補助支援してやる、NPOとつないでやってもらうっていうようなこともあるでしょうし。そういう部分と、あとビジネス寄りのソーシャルビジネス的なプランに関しては、企業2社から協賛を受けていまして、商業ベースに乗せれそうなものに関してはビジネス化を図っていく等の支援を企業として、していただく。
上手くいけば、学生が作った会社に企業が出資したり、企業が新規事業として立ち上げたり、ということもあり得るのかなと。あとは、現状では、なかなかこの地域にそのまま定住して仕事をしてくれるっていう学生が少ないので、地場の面白い企業を知り、三島で働くこともありかなみたいなふうになってもらえるといいなと。そんな意図でやっているコンテストです。
稲継 なるほど。先ほど、トライアングルとおっしゃった「特産品ブランド」、「観光ブランド」、それから住む人の「暮らしのブランド」でいうと、ソーシャルデザインコンテストは、この住んでいる学生、あるいは今いる学生がここに定着する可能性も考えつつ仕掛けているような、そういうコンテストでもあるわけですね。
小嶋 はい。地域の活性化というと、すぐに交流人口、定住人口を増やしましょうっていう話になってしまいます。もちろんそれは大事です。僕は、その前にもともといる人たちの活動人口、いわば市民の熱量を上げていくと、自然と人口は増えるだろうと思っています。人は人に引きつけられるじゃないですか。
稲継 そうですね。
小嶋 だから、来てくれ来てくれとお願いしなくても、良いまちなら勝手に人が来るだろうと僕は思っていて。最初から交流人口、定住人口を増やしたいと言ってしまうのは、僕は恥ずかしいんです。
稲継 なかなか面白いね。(笑)
小嶋 そこがブランディングだと思っているので、外から見て、いいよねと評価してもらえる自分たちをつくらなければいけないなと。
稲継 そうですね。
小嶋 僕らが「三島、嫌だな」と思っているのに「来てください」なんて言ったって、来てくれるわけないじゃないですか。
稲継 そうだね。
小嶋 だから、もう少しそういう市民の熱量を上げたいと思っていて、その1つが大学生の力を借りるということ、あともう1つは、「みしまびと」という市内のいろんなまちづくりに携わっている方々がつくった団体が、映画制作を通じてひとづくり、ネットワークづくりをしていこうという活動を始めていまして、そこを支援していくなんていうこともやっています。
フィルムコミッションとか、そういったことではなく、三島が舞台だということをまず前提にして、脚本も何にもないところからちゃんとしたプロの手による映画をつくろうと。
稲継 ゼロスタートですね。
小嶋 はい。そういう映画の作り方をされているファイアーワークスという会社があり、彼らが作った『ふるさとがえり』っていう岐阜県の恵那市が舞台になっている映画があります。知る人ぞ知るという感じですが、とてもいい映画です。
通常の映画館でロードショーという形ではなく、例えば、どこかの文化会館とか、会議室とかで上映会をやるというかたちで広げていくスタイルをとっています。その映画が全国1,100か所以上で、それこそいろんな地域で上映会をもう3年ぐらいずっとやられているという。
稲継 そうですか。
小嶋 その上映会を三島でも何回かやったことがありました。そんな面白いことをやっている監督が、みしまびとの会長をやっている方とつながりがあって、何回か来ていただいている内に話が盛り上がって、じゃあ、いっそのこと三島で映画つくっちゃおうかみたいな話になって、今やっているのがこのプロジェクトですね。
取材風景
稲継 脚本も最初は何もないというところから?
小嶋 そう何もないところからです。ちょうど昨日もその脚本づくりのため、三島の魅力って何だろうとか、三島のエピソードを洗い出すみたいな座談会を、脚本家さんを招いてしたところです。
稲継 それは、市民の人と一緒に。
小嶋 はい。
稲継 ワークショップみたいな、そんな感じですね。
小嶋 はい。朝から3回に分けてやって。また9月末にやりますけど。そういうことをやったりしながら、今年はみしまびとの活動紹介ムービーをつくろうと準備をしているところです。
稲継 なるほどね。
小嶋 要は、映画をつくるといったって何が何だか分からないじゃないですか。
稲継 うん、何したらいいか分からないね。(笑)
小嶋 夢みたいなことを言っているなと笑われて、相手にしてもらえないことも多いですね。僕も役所の中で笑われていますけど。(笑) だから、プロジェクトの取り組みを紹介する映画仕立ての短編を今年度中につくろうと、みんなで作戦を練っているところです。
稲継 なるほど。
小嶋 あとは、任意団体なのでこれからNPOにしていこうよとか、寄付も、かなりの額が必要になりますので、それを一生懸命集めようとか。
稲継 なるほど。
小嶋 僕は、半分市の職員で、半分そのメンバーみたいな感じでやっていますけど、立ち上がりの時は、まだ僕は健康づくり課の所属だったので、仕事とは関係ない一市民の立場で関わっていました。ですが、何だかよく分からないうちに、今年の4月からは担当にもなって。
稲継 なるほど。
小嶋 再来年が市制75周年なので、その目玉事業のひとつになったらいいなと思っています。
稲継 なるほど。
小嶋 このプロジェクトも最初はショートムービーみたいな、今、携帯とかでもすぐ撮れるじゃないですか。そのコンテストをやったら面白いじゃないかって、安直なところから始まりました。けど、なんかそれじゃつまらないよねとなって。あれよ、あれよという間に映画をつくる話になり...。
稲継 なるほど。今、フィルムコミッションをいろんな市でやり始めているし、あるいは熱海市なんかはADを。
小嶋 あ、例の「ADさん、いらっしゃい!」ですね。
稲継 そう。ADさんに焦点を当てた...
小嶋 はい。あれ、面白い切り口のシティプロモーションですね。
稲継 ええ。そういうことをやっているところは結構増えてきました。けど一からゼロスタートでつくるって、市民参加とか、エキストラとかそういったことじゃなく、脚本までワークショップで考えると。私聞いたことないんですけども、非常に珍しい巻き込み方ですよね。
小嶋 そうですね。昨日もその企画のいろんなアイデアを出そうとワークショップをやりました。結構突拍子もないことを言い出す人もいて、なかなか面白いです。
稲継 なるほどね。
小嶋 これから、市民が大切にしているそれら1つ1つの素材をつなぎ合わせて、プロの脚本家が脚本をつくっていってくれるってことなんですね。
稲継 なるほどね。やっぱり、市民だから分かる、その、突拍子もない話が多分出てくるのはあるんでしょうね。プロだと分からないようなものがあったりとかね。
小嶋 そうですね。そうした段階を通じて市民の熱量がうまく上がればいいなと。だから、僕らメンバーは単なるシティプロモーションのための映画じゃないんだっていうふうに位置づけているんです。
稲継 じゃないんだっていうのが面白いですね。(笑)
小嶋 はい。地域の映画というと大体の人はCMが長くなったようなプロモーションビデオ的なものをイメージしがちだと思います。当然、三島のいいところっていうのは情景として入ってくるとは思います。けど、そこは完成後、間接的にそういうところにもつながればいいなという感じで、制作のプロセスを大事にしてこそいい映画ができると思うんです。むしろプロセス自体が価値といってもいいかもしれません。
稲継 なるほど。
小嶋 ただ、やっぱり、三島にとことんこだわってつくるんですけど、何か普遍的なテーマみたいなものも......。要は、ほかの地域の人が見ても自分ごととして感じられるような映画になるといいよね、と話し合っています。
稲継 なるほど。
小嶋 まあ、どんなものになるかわからないですけど。
稲継 いやいや。わからないところが面白いじゃないですか。このソーシャルデザインコンテスト、それからみしまびとプロジェクトなんかをやっておられるわけですけれども、今年この地域ブランド創造室が新設されて、いきなりもう走り出しているわけですよね。
小嶋 そうですね。
稲継 この室に来られる前、23年度から25年度、3年間いらっしゃったのが健康づくり課、健幸政策室。ここも新設の室だったんですね。
小嶋 はい。
稲継 ここではどういうことを。そもそも「健幸」って何なのですかね。
小嶋 そうですね。分かりづらいですけど。(笑) 僕、その前までは秘書課にいましたけど、秘書課の最終年の時、市長が代わりまして、健康っていうものを保健センターで、限定的にやっていても限界があるということで、もう少し広い視野でとらえてやっていきたいというイメージのことを市長は考えておられて。市長は、前の年の12月に代わって、4月に僕はその新しい部署ができて、最初は「健康増進企画室」っていう名前で。
三島市役所本館
稲継 なるほど。
小嶋 そこができて、「おまえ室長で行け」って言われて。行って衝撃的だったのは、室長とかいいながら僕しかいないんです。
稲継 (笑)
小嶋 劇団ひとりみたいな感じで。(笑) 仕事も、「何か新しいことをやれ」っていう抽象的なお題しかないし、これは困ったなと。そこで、いろいろ調べまして...。スマートウエルネスという健康を核としたまちづくりにいきついたんです。これは、三島が考えたわけではなく、筑波大学の久野教授という先生がいらっしゃって、その先生は、今いったような健康というのを広い視野でとらえてまちづくりにつなげていこうというコンセプトで全国の同じ意思をもった首長さんを集めて研究会をやっておられるんですね。
その話をキャッチして、市長と相談し、じゃあ、方向性も一緒だし、面白そうだから入ってみようとなりまして、「スマートウエルネスシティ首長研究会」っていうんですが、そこに加盟をしたのが23年の10月です。そこからスマートウエルネスという1つのコンセプトで、三島のまちづくりの柱に位置づけてやっていこうということになり、今に至ります。
久野先生が言っておられる「ウエルネス(健幸)」というのは、従来のヘルスみたいな狭い意味での健康ではなくて、もっと大きい概念なので、それを言葉で可視化するには健康の「康」の字を「幸」という、身体の健康だけでなく、心のあり方みたいなところも含めてやっていこうと、「健幸」という言葉を1つのコンセプトにしておられるので、その名前をそのままもらい、室名を「健幸政策室」に変えてもらいました。
稲継 なるほど。
小嶋 健康づくりって、うちの市でいうと保健センターでやっていればいいみたいな。普通はそうですよね。誰もがそう思うじゃないですか。
稲継 ええ。
小嶋 だけど、様々な市の事業、市民の活動も、実は、直接的、間接的に健康づくりにつながっているんだと。例えば、人とのつながりがすごくある地域、そういうソーシャルキャピタルがしっかりしているところの地域って、そこに住んでいる人の健康度が高いみたいなのが、研究成果としてちゃんときちんと出ています。そういうところも含めて、まずは市役所の職員から意識改革を図らなきゃいけない。そちらでやっていることは、実は、ちょっと健康づくりに関係しているんだよ、みたいなのをみんなで共有しましょうと。
僕、計画策定とかあまり好きな方ではありません。そんな暇があったら事業の一つでもやったほうがいいと思うタイプです。でも、とりあえず何か計画をつくるからといえば、人を集めさせてもらえるかなと思い、20課から40人ぐらい若手の職員を一本釣りで集めて。
稲継 それ、いいですね。
小嶋 はい。それで、つくったのがこれです。
稲継 なるほど。
小嶋 これも中身は大したものではないかもしれません。ただ、普通の計画はというと、既にやっていることを羅列して一丁上がりみたいなものも多いですよね。○○市のところだけ変えればほかの自治体でも通用するみたいな。
稲継 うんうん。
小嶋 そうじゃなくて、向こう3年でやることを、新しいことを何か考えようよということにしてつくりました。
稲継 なるほど。
小嶋 その中のアイデアで、例えば、健康づくり課でスマホのまち歩きアプリをつくろうとか。それで実際にやりました。
稲継 ほお。
小嶋 この時から大学生にも入ってもらって。
稲継 これ、自前でつくったんですか?それとも業者委託?
小嶋 実際のつくり込みは業者です。だけどアイデアを出すとか、ある程度の企画、設計のところまでは大学生にも入ってもらって。
稲継 なるほどね。
小嶋 だから、大学生が考えたデートコースみたいなものが入っていたりすると。
稲継 これ、ウォーキングコースがアプリにあるとみんな歩きますよね。
小嶋 はい。
稲継 健康になりますよね。
小嶋 そうですね。
稲継 幸せになりますよね。
小嶋 はい。
稲継 絆も強まりますよね。
小嶋 はい。で、とにかく大学生と何か形になるものをつくるというのを、市民に、また市役所の中にも見せたいなと思って作ったんです。
稲継 なるほど。
小嶋 ちょうどスマホアプリのブームが来たところでしたし、「アプリをつくろう」といったら、学生が面白がってくれるだろうと思いました。実際やっぱり見込みどおりいっぱい来てくれて。
稲継 そういうことですね。
小嶋 はい。いまだにそのつながりがあって、ソーシャルデザインコンテストにもこれにも応募してくれたりなんてことがあったりもするんですけど。
小嶋さんの話の中で、「交流人口、定住人口を増やそうという話の前にもともといる人たちの活動人口、いわば市民の熱量を上げることが重要だ」との指摘は正鵠を射ている。市民の熱量を上げるために、大学生の力を借り、また、脚本なしの映画作りに取り組んでいる。シティプロモーションのための映画じゃないというところが面白い。
地域ブランド創造室長の前は、「健幸」政策室長に任命されていた。この時も、市役所全体を巻き込んだ取り組みをしている。