メールマガジン
分権時代の自治体職員
第116回2014.11.26
インタビュー:玉野市人事課の皆様(下)
玉野市は職員の育成に注力する。スーパー公務員養成塾へ人事課職員を送り込んだり、他の市役所と水平的な人事交流を行ったりしている。いずれも多様な人材を育成したいという思いから来ている。採用試験の改革も矢継早である。
稲継 先ほど2号の増田さんのお話の中でスーパー公務員養成塾に行ったときに、「採用試験のことで」とかちょっと言いかけられました。その辺の話、もう少し教えてもらったらなと思います。
増田 浩子氏
増田 大阪市とか大阪府の方の採用試験の日程がゴールデンウィーク前後という話を聞いて、その時期にやっている自治体があるなら、玉野市でやったらどうなるのかなと考えるきっかけになりました。そのときに、稲継先生が、岡山市、倉敷市の日程と受験生の数の実績を出してくださって、もし玉野市が岡山市、倉敷市と同じ日にしたら、受験生の数がどうなるかという予想をされて、「玉野市は、岡山市、倉敷市と一緒になっても戦えるんじゃない」と言われました。
研修が終わって、すぐ三ノ上に報告をしたのを覚えています。
稲継 それは確か1月ぐらいに大阪府の方が、
増田 そうですね。
稲継 採用試験の担当者が来て話をしてくださったときに、「こういうふうに試験日程を前倒ししました」という話をされたんです。当時はA日程というのは6月末型。これは県庁、政令市がそこでやると。で、B日程が7月末でしたか? これが割と多くの市がやっていたと。C日程は9月日程で玉野市は当時、
増田 C日程。
稲継 C日程だったんですね。9月に採用試験をして、その後面接をしてということだったわけですが、それだといい人材をA日程、B日程にとられてしまうということもやっぱり少しは感じておられたわけですね。とられちゃうから、もっと早くしなきゃならない。でも、どうしたらいいか分からないところに大阪府の話を聞いたものだから、じゃ、早くできないかなという話を、聞いたその日にもう三ノ上さんに電話されたと。
増田 研修が終わったら、「研修が終わりました」という報告の電話を必ず入れていたんですが、その電話のときに、「稲継先生から、玉野市は、岡山市、倉敷市と一緒になっても戦えるんじゃないかという言葉をもらいました。」という報告を、その場でしましたね。
稲継 で、「変えようか」って話になったんですか?
増田 そうしたら、三ノ上が岡山市、倉敷市とぶつけるときのメリット・デメリットはどういうことがあるかという資料を、その日のうちに作っていました。翌日出勤したら資料が完成していて、その資料を基に、翌日から具体的にどんどん話が動いていった感じです。
稲継 ぶつけるというのは、つまりC日程をBじゃなくていきなりAに持ってきちゃうということですよね。それって大胆な、とても大きな決断だと思います。よく上層部が納得してくれましたね。期日も迫っているし、その辺はどうだったんでしょう?
三ノ上 創氏
三ノ上 そうですね。期日が迫っていることもあって、早く動かないといけないというのはありました。実はその前の年に、もっと早い日程にできないのかという話が市長からはありました。その当時は、岡山市、倉敷市とか県庁の合格発表よりも前に採用試験をすると、玉野市で内定を出しても辞退する人が多くなるんじゃないかとか、まして同じ日程にすると玉野市を受験する人が半減しちゃうんじゃないかという、まだ自信が持てない状態だったので、日程変更に踏み切れませんでした。
ただ、採用関係のセミナーに参加して企業の採用担当の方と話をすると、もう5月の連休までには決まってしまうのに、9月じゃあまりに遅過ぎますよねという話はよくしていました。われわれとしても、できれば連休ぐらいに試験をして、優秀な人材を確保したいなというのはあったんです。そんな中、稲継先生からの「玉野市だったら勝負できる」という言葉に背中を押された感じで、「それならやろうか」ということで。
稲継 僕はあまり記憶にないんですが......。
三ノ上 本当ですか? その一言で決断したんですけど。それまでFacebookや、いろいろ県内でも目立つことをやっていましたので、そう言われたら勝負できるのかもしれないなということで、翌日上司に相談しました。総務部長も、規模の大きい自治体を受験して不合格だった人が玉野市を受けているという認識は持っていて、できたら勝負したいと思っていたようです。
稲継 それで、いきなりその年に。普通は1年後とか、その年にやるって、つまり6月末型A日程だと試験公告というのが、試験の公を告げる、試験公告をいつぐらいに出すことに?
三ノ上 3月の下旬です。
稲継 3月に出すのを1月に、2月ですか、に変更を考えて、3月に公告を出しちゃったわけですか?
三ノ上 そこは小さい組織でもありますし、いったん決まれば一気に動きました。
稲継 それは、ハレーションはなかったですか? そうやって議会筋から「どうなっているんだ」とかね。
三ノ上 ありましたね。
稲継 ありましたか?
三ノ上 日程変更の最初の案では、A日程とC日程の両方で募集するという案を作っていました。A日程だけだと高校新卒は受験できませんから。C日程も残しておけば、いろんな方面からの抵抗も少ないだろうという、ちょっとおとなしい案でした。ところが上司からは「どうせ日程を変えるんならA日程だけで勝負しろ」と指示を受けて、A日程に絞ることになりました。やっぱり「高校生の受験のチャンスを奪うのか」という抵抗はありましたけど、そこは上がちゃんと抑えてくれました。
稲継 非常に大胆な改革をされたと。日程のほかにも採用試験の改革はほかにもやっておられるんですよね。どんなのがありますか。
増田 グルグル面接やプレゼンテーション面接、グループワークとかですかね。
二次試験では受験生の方と直接接してお話しする時間をたくさん設けて、玉野市が求める人材に近い方かどうかというのを見させていただいています。プレゼンテーション面接、個別面接やグループワークなどは中堅職員が審査していますし、エントリーシートや作文試験も職員が採点します。
採用試験の他にも、採用説明会では若手職員にもたくさん参加してもらっています。採用活動は人事課だけが行うものではなく、職員全体で採用するもの、という雰囲気ができてきて、みんなで採用した新人職員を大切に育てようという風土の変化に繋がっていると思います。
稲継 はい、ありがとうございます。
岩崎さんは、人事研修係長さんで、人事の研修も担当しているということですよね。研修というものをなかなかどこの自治体の担当者も隔靴掻痒な感じで、これで効果があるのかなとか悩んでいるところだと思います。岩崎さん、その研修の取り組みについて何かご示唆いただけたらなと思うんですけど。
岩崎 康博氏
岩崎 私もまだ悩んでいるところではあります。スーパー公務員養成塾で自学の大切さというのを学ばせていただきました。本当にそのとおりだなと思って、もしその講義を受けていなければ、もうメニューに決められたスケジュールどおりに、研修をこなしていけば担当としてはやっているという形になってしまいます。ただ実際に、それを受けてくれている側の職員がどの程度成長しているのかというのが、本当に効果があるのかなというのは疑問に思うところがあったんです。やはり研修を受けてもらうときに研修担当としてどういう思いでこの研修を組んでいるかとか、どういうことを学んでほしいかというのをその研修の前にきちんと伝えるようにしていますね。あと、研修した後にフォローアップの研修をもう一度やったりとかして、実際に行動に移せているかどうかというのが大切だと思うので、その辺に力を入れている状況です。
稲継 今ずっとFacebookの話から始まって、いろんな人事課の取り組みについてお聞きしてきましたが、今後に懸ける思いがありましたら、人事研修係長の3号、岩崎さんから順番に上っていく形で...。
岩崎 まだ、私2年目で正直、まだまだこれからだなというところがあります。1号と2号がかなり先進的に取り組み、いろいろレールを敷いてくれているところに、まだ乗っかって進んでいるというようなイメージが自分の中にはあります。これから先、採用試験にしてもそうですし、研修にしてもそうですけど、やっぱりもっと良いものを自分なりに考えて実際に行動に移せるようにしていきたいなと考えています。
稲継 ありがとうございます。
増田さん、今後の思い。
増田 私は人事課から異動していますけど、今度は現場で人材育成ができればいいなと思っています。今、自分が採用に携わった子たちが、自分の部下になっています。そのためとても思い入れ深く、どう大事に磨いていくかというか、成長の手助けができるのかなということを試行錯誤しながら考えています。
人事課の経験を通して研修の意義や大切さを伝えたり、研修内容をアドバイスすることができるので、部下の置かれている状況に応じて、適した研修の受講を勧めたりしています。
人事考課での面談など、人材育成の面で大切な経験を私から部下に伝えることで、今の部下たちが、将来、部下を持ったときに、しっかり人材育成ができる人物に育っていくんじゃないかなと思っています。そういうしっかり人材育成ができる人材をどんどん自分の部下の中で増やしていって、その子たちがまた次の部下を育てていくという、いい風土というか組織ができていたらいいかなと思っています。
稲継 いい人材ね。はい、ありがとうございます。
最後になりました、三ノ上さん今後の思い。
三ノ上 私、人事で研修とか採用に携わってもう7年目になります。採用活動の改革をいろいろやってきましたけど、その結果として、さっき増田が言ったような、採用活動にはいろんな職員がかかわるという環境ができました。自分たちと一緒に働く職員を自分たちで選ぶ。自分たちで選んだ新人職員は自分たちで育てる。そういうお互いを大切にするような組織ができてきたと思います。
それと、そうやって職員もかかわりながら、人事があれこれやっているというのを見ています。新しく採用された新人職員も「玉野市の採用っていろいろやっていますよね」と言ってくれています。採用活動はこれからもどんどん変わっていくべきだと思うんですけど、たくさんの職員が、変わり続ける採用活動にかかわりながら、採用以外の、自分たちが担当している仕事も変わり続ける必要があるというイメージを持つようになってくれたらいいなと思っています。
稲継 変わり続ける組織であるというイメージを職員が持ってくれるということですね。
三ノ上 そうですね。
玉野市の皆様
稲継 何かすごく前向きなというか、元気の出る組織のイメージを職員が持ってくれて、元気の出る組織になったらいいなということでしょうか?
三ノ上 はい。
稲継 今日は1号、2号、3号さん、玉野市の人事課の皆さんにお話をお伺いしました。どうもありがとうございました。
全員 ありがとうございました。
通常、採用活動は人事課の仕事と思いがちだが、玉野市の場合、採用説明会に若手職員にも多く参加してもらうなど、「採用活動は人事課だけが行うものではなく、職員全体で採用するもの、という雰囲気」ができてきて、「みんなで採用した新人職員を大切に育てようという風土の変化に繋がっている」という。自分たちと一緒に働く職員を自分たちで選ぶ。自分たちで選んだ新人職員は自分たちで育てる。そういうお互いを大切にするような組織ができてきた。「たくさんの職員が、変わり続ける採用活動にかかわりながら、採用以外の、自分たちが担当している仕事も変わり続ける必要があるというイメージを持つようになってくれたらいいなと思っています。」という三ノ上さんの言葉が印象深かった。