メールマガジン

第113回2014.08.27

インタビュー:ロサンゼルス郡庁 Myers Yokoさん(下)

 先月号でお話し頂いた様に、米国自治体における人事異動の仕方は日本とは相当異なる。給料カーブもすぐに「寝てしまう」。つまり、数年経つと頭打ちになってしまう。より高い給与を受け取ろうとすると、より高いポジションの募集広告に応募して勝ち抜かなければならない。個人の選択により上位ポストへ応募しない人もいるが、その場合には給料はそこで頭打ちになり役職者にもならない。日本との違いを見ると様々なことが想起される。
 上位のポストに上がるためには、日ごろの職務に精励し、スキルアップを図ると共に、研修等へも積極的に参加する必要がある。研修への取り組みは自分の昇進や給与の上昇に直結することなので、どの職員にとってもその意欲は尋常ではない。


画像:Yoko氏
Yoko氏

Myers 研修は、一般的に、2種類あります。
 まず組織独特の研修っていうのもありますよね。例えばリーダシップを付けようとか、どちらかというとソフトな面の研修。これは、どちらかというと強制的というか、人事課の方から「あなたも、この研修を受ける時期だから、これを受けてください」という研修が一つ。
 もう一つはスキルに特化した研修。これは、もちろん外に行かないと無理ですね。郡庁独自でやったりもするんですけど、私の場合GISの仕事だと、ソフトウエアに関する、やっぱりプログラミングですとか、あとはデータベースとか、そういったことは外の団体(会社)が実施している研修を受けることになります。
 みんなが受けたいのは、どちらかというとこのスキルアップの研修です。

稲継   外の研修。

Myers やはり、それが本当に自分のスキルに直接関わってきますし、自分の仕事に、本当に直接関わってきますので。例えば、ここで学んだことは次のプロジェクトに生かされたりします。
 ただ、研修というのは、やはり、お金がかかりますよね。

稲継   そうですね。

Myers なので、予算が厳しい時期は、やっぱり研修の予算は全部カットされましたね。

稲継   ああ。なるほど。

Myers ESRIの国際ユーザー会議がサンディエゴであるんです。それに毎年、GISの職員が行っていたんですけど、2012年、2011年はその研修の予算はすべてカットで、「行きたいなら出張として認めるけど、ホテル代とか交通費を全部出して、自分で行きたければ行け」という時期もありました。
 それでも、やっぱり、行きたい人は行くんですよね。

稲継   ESRIがやっておられる研修なんか、結構、自分で払うと金額も張るんじゃないですか?

Myers 張りますね。

稲継   どれぐらいかかるんですか?

Myers 郡庁はライセンスがありますので、その会議に参加するのは招待という扱いです。だから、その招待パスを貰えば、会議に参加するだけは無料です。それで、行きたい人が行くって感じですね。パスがないと、たぶん、1,200ドル位じゃないかなと思います。

画像:ロサンゼルス郡庁
ロサンゼルス郡庁

稲継   すごいな。それは何日間位ですか。

Myers 5日間ですね。

稲継   5日間で1,200ドル。12万円かかるということですか?

Myers はい。

稲継   それを、やっぱり、希望して行くわけですよね?

Myers そうですね。

稲継   向上心のない人は手を挙げずに、研修を受けない。そのへんも、だいぶん強制的に研修に行かされる日本とは違う感じがしますね。

Myers そうですね。

稲継   今、やっておられるGISの仕事、それから郡庁の組織のお話を中心にお伺いしました。元々Yokoさんは県庁にお勤めだったっていうことをお聞きしておりますけれども、今のお仕事に至るまでの経緯をちょっと教えてもらえたらなと思います。

Myers そうですね。私は、県庁に勤めていたということで、一般的には公共の仕事には、かなり興味はあったんです。県庁に5年勤めている間に、やはり、ちょっと別の世界を見てみたいということで、UCLAのMaster of Public Policy(公共政策修士課程)で、政策がいかにインパクトがあるかどうかっていう、そういう分析に、興味を持ったんです。そこの中で、出会った分析ツールの中にGISがあったんです。例えば、もちろん統計なんかを、みんな使うんですけど、最近はGISも、そういった政策の分析をするときのツールとして使うようになってきて、UCLAのクラスの一つにあったので、それを取ってGISの部門に入ったんです。
 そこで、どっぷりとはまって(笑)。

稲継   (笑)。

Myers だから、GISにかかわる仕事をしてみたいと思って、その公共政策のプログラムにいる間に、LAUSD(Los Angeles Unified School District)でインターンシップをしていたんですね。そこで、いろんな教育にかかるリサーチをする部署にいたんですが、スクールセーフティーのプロジェクトを受け持っていたんです。学校の生徒なんかの安全にかかわる、例えば、ここでけんかが起こったとか、ここでドラッグをやっている生徒がいるとか、そういうのを全部GISのデータに落としこむ仕事をしていました。そこで、またGISにどっぷりつかりました。
 その後、卒業してから「じゃあ、仕事を探そう」っていうことで探し始めたら、たまたま郡庁の都市研究というところでGISの仕事を募集している。たまたま、LAUSDでやった仕事に結構よく似たような調査の仕事ということで、それで郡庁に入ったっていう感じですね。
 郡庁の中でも、最初は、どちらかというとGISアナリスト、GISを使っていろんな分析をすることが中心の仕事をしていたんですけど、そこからIT Departmentに変わって、今はもっとインフォメーションテクノロジー寄りの仕事をしているという感じです。

稲継   なるほど。県庁におられたときは、どういう仕事をやっておられたんでしょうか?

Myers 今もあるかどうか分からないですけど、岐阜県庁の中には、事務職の一般職の中に国際職っていうのを別に作っていたんですね。私は、その国際職として採用されていました。最初は市町村課で、定員管理など典型的な役所っぽい仕事をしていました。
 そこで仕事を1年間やったんですけど、その後すぐに、1年後には、国際課に異動しました。岐阜県では当時、いろんな物産品を海外に出そうですとか、いろんな海外向けの仕事をしていたので、そういうプロジェクトベースの仕事をしたりしていました。
 あとは、岐阜県知事がかなり海外に目を向けていた方だったので、いろんな外国の方が県知事に表敬訪問に来ることが結構多かったんです。そのときの通訳の仕事なんかもしていました。

稲継   ああ。そうなんですか。じゃあ、入る前から、英語で仕事をするようなことに憧れていた部分があるんですか?

Myers そうですね。

稲継   入るときに国際職という区分で受けて。

Myers 基本的には事務職と同じなんですけど、国際職の採用試験だと、例えば、国連の組織がどうなっているかとか、ちょっと国際関係のことが試験内容にあったのを覚えています。英語の試験が同じかどうかは、ちょっと、私も分からないんですけど。でも、基本的には事務職なので、グルグル回されるときは、同じように回されるんですけど。

稲継   (笑)。

Myers 国際課ですとか、あとは、物産品を海外を含め外に出すっていう産業振興をする部署などには国際職の人がいました。

稲継   うん。なるほど。日本の自治体もアメリカの自治体も、どちらも経験された非常に貴重な日本人だと思う(笑)。

Myers (笑)。

稲継   私は、ほかに知らないんですけども。非常に貴重な日本人として、アメリカの自治体と日本の自治体と比べたときの違い。特に働き方、給与システム、あるいは、そのほか、何か、色々教えてもらえますでしょうか?

Myers そうですね。働き方という所では、日本の方は基本的に、やっぱり、よく働きますよね?

稲継   うーん。

Myers こちらも、もちろん働く人は働くんですけど、ただ、法律的な面で残業が出来ないという制限があります。日本のときには当然のように毎日毎日、残業していたんですけど、こちらでは、残業をするときは2日前に申請をしないと認めてもらえないんですね。例えば「プロジェクトがすごく忙しいから残業を認めてくれ」って言っても、「予算がないから駄目。帰りなさい」っていって帰されることも結構ありますね。
 だから、残業は逆に「恩恵だと思え」って、ボスに言われたことがあります。そのへんは、ちょっと日本と違うなって。やっぱり決められた時間内に終われないのは、プロジェクトの管理の責任。自分に与えられた時間内に終わらせないといけないっていう考えだと思います。
 あとは、そうですね......。育児休暇についてですね。今、私には1歳半になる子どもがいるんですけど、日本では3歳まで育児休暇があったりしますよね。

稲継   はい。はい。

Myers こちらには、出産休暇っていうのはあるんですけど、育児休暇っていうのがないんですよね。

稲継   産休はどれくらい?

Myers 産休は、最高で4カ月ですね。

稲継   4カ月。

Myers 産休は前後で4カ月なんですけど、FMLAっていう休暇で、いわゆる育児休暇にすることができます。FMLAはFamily and Medical Leave Actというもので、子どもだけじゃなくて、例えば病気の両親などを介護するための休暇です。そのFMLAを使って産休育休を取ったんです。FMLAは最高で3カ月なんです。

稲継   じゃあ、4カ月プラス3カ月までってことですね。

Myers それが、また法律が複雑なんですけど、その4カ月と3カ月を足すことができないんですよね。だから、基本的には4カ月がマックスで、それ以上取りたい場合は、自分の有給休暇か無給休暇を取って休むんですね。
 なので、私は基本的には、出産の1カ月前からお休みを取って、産んだ後3カ月で仕事に復帰しました。3カ月で復帰っていうと、母親には、「3カ月でもう職場に戻って、子どもはどうするの」って言われたんですけど(笑)。現在、デイケアにお願いしています。3カ月で職場復帰というのは、普通のパターンですね。

稲継   そのへん、日本とだいぶ違いますよね。

Myers そうですね。

稲継   あと、働き方の時間というか、その辺の違いを教えていただけませんか?

Myers 私は、今、フォー・フォーティ・スケジュール。フォーというのは週4日間で、1日10時間働いて、週のトータルで40時間にするっていうスケジュールで働いています。それ以外にも、普通はファイブ・フォーティ、週5日で1日8時間勤務っていうのも、もちろんあります。あと、もう一つ。ナイン・エイティっていうのがあるんですね。1日9時間働いて、隔週の金曜日か月曜日に1日お休みして、2週間でトータルで80時間にするっていう、選択肢が3つあるんですね。
 そこの中で、自分で選択できるんですけど、ただ、その選択が完全に自由かというと、そうでもないんですよね。同じ職場の中で、Aさんが金曜日お休みのときは、Bさんが必ずいないといけないっていう、職場を空にすることが出来ないわけです。
 その辺で完全に自由選択ではないけど、そういうオプションがあるっていうことになっています。

稲継   フォー・フォーティ、週4日勤務なんですね。

Myers そうですね。

稲継  日本の自治体の人は憧れる(笑)。

Myers そうですね。

稲継   1日8時間週5日勤務だけど、毎日、10時間以上は働いているよっていう日本の公務員も多いです。日本の自治体で残業が多い職場の人に比べると、かなり働きやすい環境ではありますよね。

Myers それは、本当にそう思います。子どもを持つ様になって、よく分かったのが、私の場合は金曜日ですが、平日に休暇が1日あるっていうのはすごく重要です。土日はお医者さんも休みなので、定期検診に連れて行ったりできますので、金曜日がかなり重要です(笑)。

稲継   ああ。なるほど。
 残業も2日前に申請しないと取れないので、だいぶ規制されているっていうのは、それは日本とは全然違う。あと、働く日数をかなり短縮して、圧縮労働っていうんですかね?

Myers そうですね。

稲継   そういうのとか、今、お話ししていて、これはヨーロッパでもそうなんですけれども、アメリカでもフレキシブルワークがかなり進んでいるなっていうイメージを受けましたね。

Myers なるほど。そうですね。それは、完全に一般的にいうフレックスワーク、例えば、時間が何時から何時まででもいいから8時間働いてとか、私の職場はそういうことはできないですね。8時から17時までの間は必ずいなくちゃいけなくて、その間で10時間にしたり、9時間にしたりとかは出来るんですね。

稲継   ああ。なるほど。

Myers ただ、それは部署によってかなり考え方が違うと思うので、そのへんは何とも言えないんですけど、ただ、私の所属している部署はそういう風になっています。

稲継   なるほど。ありがとうございます。
 Yokoさんは、こちらに来られて7年っていうことです。日本でも5年働いておられたということで、このメルマガの読書の多くは、今、日本の地方自治体で頑張っておられる方です。その方々に向けて、何かメッセージがありましたらお願いしたいと思います。

Myers はい。そうですね。日本の県庁で働いているときと今と比べて、どちらがいいかと聞かれても、私はどちらでもないんですよね。プラスとマイナスが両方ありますので。ただ、自分が置かれた状況の中で頑張っていくっていうのが、私のスタイルなので。皆さんも、同じように自分が選ばれた道を頑張っていかれたらなと思います。
 こちらに来てわかったことですが、日本の自治体は、組織として、分かりやすい組織です。ですから道筋が明確だと思うんですよね。そういったなかで、それぞれに自分の道を目指していかれたらいいんじゃないかなって、私は思います。

稲継   はい。今日は、ロサンゼルスでMyers Yokoさんにお話をお聞きしました。どうもありがとうございました。

Myers ありがとうございました。


 アメリカの自治体で活躍されている元日本の自治体職員のYokoさんに3回にわたってお話をお聞きした。日米の自治体における異動の仕方の違い、上昇志向、研修への取り組みの熱心さの源泉、残業の極端な制限など、驚かれた部分も多いと思う。圧縮労働週、つまり1日10時間を週4日間勤務するというのは、見方によれば週休3日制とも見れるわけで、ワークライフバランスを大事にしたい公務員の方々には垂涎の話だろう。
 他国の自治体との違いを見ると色々考えさせられることも多い。(本インタビューは2014年1月末にロサンゼルスにて行いました。)