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第112回2014.07.23

インタビュー:ロサンゼルス郡庁 Myers Yokoさん(中)

 アメリカのカリフォルニア州の南部にあるロサンゼルス郡庁で働いておられるYokoさん。GISの専門家という事でその分野で活躍しておられる。
米国のカリフォルニア州は人口3700万人、面積は41万平方キロと日本よりもやや広い。 GNPも高く、国レベルに並べると世界第9位か第10位にランクインしてしまう。州を「県」と訳す人もいるが、この規模を見るとむしろ国家と呼んでもよいほどの規模である。カリフォルニア州内には58の郡があるが、ロサンゼルス郡は人口900万人以上と他の郡よりもずっと大きい。
 郡役所の中でどのような人事異動が行われているのかについて聞いてみた。


画像:Yoko氏
Yoko氏

稲継   アメリカの中で人事異動というのが、どういう風に行われているかという事を、たぶん日本の自治体の方は、ほとんどご存じないと思うんです。日本の場合には、ご存じのように、4月1日だとか定期的な日を決めて一斉に人事異動をすると。

Myers そうですね。

稲継   その2~3カ月前から、人事課が何か缶詰めになって駒の動かし方を考えているというイメージで、異動の直前になって「お前、ここ行け」とか、「あそこ行け」とか辞令を出されて、「ああー。今度はここか」っていうのが日本の自治体、それから会社においても、人事異動の普通の形だと思うんですけど、こちらにおける人事異動っていうのは、どういうものですか。

画像:Yoko氏
ロサンゼルス郡庁

Myers まったく違いますね。まず、最初に、自分が動く時っていうのは自分の意思で動きます。誰かに動かされるという事は、ほぼないです。私は、異例の経験があり、組織の統合で別の部署に変わった事はありますが、基本的には自分の意思だけです。

稲継   ああ。なるほど。

Myers 例えば、今、私が働いている所から「じゃあ、次は、あなたは公共事業の部局に行って、いろんなGISの仕事があるからGISのお仕事をして」っていうのはないですね。自分で申し出をしないといけないです。上に上がるのも、すべて試験を受けて上がっていくだけですね。基本的には「時間が来たから次のレベル」っていうのはないです。

稲継   時間が来たから、勤務年数が長いからとりあえず係長にしてあげよう、という日本の様なものはないのですね(笑)。先ほど、試験とおっしゃいましたが、これはどういう試験ですか?

Myers 試験は、自分の「アイテム」に特化した試験です。アイテムというのは、自分の職種です。かなり細かく職種がありますので、その職種に合わせた試験があるんです。基本的には、最初レジュメ(稲継注:履歴書のようなもの)に似た書面の試験回答を提出します。その中で人事課が合格基準に合うかどうか判断するんです。それに合格したら口述試験、インタビューがあります。

稲継   それは誰が試験官ですか?

Myers 募集している部署に現在所属する人で、募集されている職より高いレベルの人が試験官です。そこでインタビューをして、合格したら、その後に、いわゆる「リスト」に載る訳です。このリストの中でさらに試験の結果で「バンド」と言われる枠に分類されます。この枠は「口述試験結果が90から100はバンド1で、80から90はバンド2で」って分けるんです。募集先の部署はこのバンド1から引き抜く事になります。また募集をしている部署以外の所も、よい人が見つかれば、そのバンド1から「この人いいから、私も欲しい」って採れる様になっています。そこで、また第二段階のインタビューがあります。第二段階のインタビューでは実際の仕事に興味があるか、あとチームワークはどうかとか、特殊なスキルがいる所なんかは、合っているかどうかをチェックします。
 それで、試験受ける側と欲しい側でお互いに合意すれば、そこで次の部署に行くという感じですね。

稲継   なるほど。こちらの給料表っていうのは、たぶん日本でいう課長とか係長とか係員毎に、全然違うランクの給料表になっている。日本の場合は、わりと給料カーブの重なっている場合が多くて、年を重ねていけば、係長でも係員でも、そんなに給料が変わらないっていうのが、日本の給料表ですけど、こちらは上のランクに上がる事によって、だいぶ違いますか?

Myers 私も、そのあたりはちょっとよく分からないですけど、私が日本とだいぶ違うなと思うのは、給料表が職種によってまったく違うという事ですよね。郡庁の中で職種がどれだけあるかって言われると、ちょっと私も数が分からないですけど。

稲継   (笑)。

Myers 今ネットで調べますと、57ページにわたる職種とそれぞれのレベル(たいていひとつの職種には5つくらいのレベルがあります)のリストがあり、それぞれの給料の額が定められています。日本と、だいぶ違うなと思うのは、そのあたりです。でも、日本でも、例えばお医者さんとして働いている方は別の給料表でしたよね。普通の事務員で働いている人は、また違う給料表を使っている。

稲継   でも、せいぜい八つか九つぐらいですね。

Myers そうですね。

稲継   それが何十、百ぐらいあるって感じですか?

Myers そうですね。

稲継   うん。今、自分が手を挙げて異動していくっていう話でしたけど、もし手を挙げなければ、ずっと、その職に留まる訳ですよね?

Myers そうです。はい。

稲継   で、ある一定レベルになると、そこで給料が留まっちゃうって事。

Myers そうです。留まっちゃいますね。

稲継   それで、自分の給料を上げようと思うと、より上の、どこか空いている所に応募しなきゃならないって事ですね?

Myers そうですね。はい。

稲継   募集する場合、例えば、ここのシニア何とかを募集しますっていう公募みたいなものは、その部署の人が郡庁の中だけで募集するのか、あるいは外に対しても募集するのか。

Myers そうですね。それは両方できます。郡庁の中だけで募集する場合は庁内限定の募集の仕方で、例えば人事課のウェブサイトに行ったら、私たちがサインオンすれば両方見られます。郡庁以外の人にも募集している場合と、庁内だけの募集をしている場合と両方あります。

稲継   なるほど。庁外から募集している場合には、よそから応募する人と競争になっちゃうわけですよね?

Myers はい。そうですね。

稲継   庁外から募集する場合は、何ていうか、中にいる人たちとは何か違う方法ですか。

Myers 同じですね。試験は同じなので。もちろん外との競争になってしまうんですけど、やっぱり郡庁の中にいると有利な面があるんです。例えば私は7年務めているので、経験として積み上げた知識もあります。

稲継   なるほど。

Myers いないと分からないことが結構あるので、中にいた方が試験には有利です(笑)。ただ、本当に特別なスキルを募集していて、本当に庁外の人じゃないといけないって採られちゃう時もありますが、郡庁で働く人全員が、最初は庁外募集で採用された訳ですから。

稲継   うーん。なるほど。

Myers 公募か庁内限定の試験かどうかという点に関しては、試験を受ける側としては、何も変わりませんね。

稲継   ああ。そうですか。
 じゃあ、常に、何か公募が出るのをチェックしているっていうイメージですか?

Myers そうですね。ただ、一般的には次のレベルに上がるのに、大抵2年の執務経験がいるんです。だから、その2年間は、どうあがいても上には行けないので。

稲継   ああ。なるほど。

Myers その2年間というのは、まあ、のんびりっていうんですかね。

稲継   (笑)。

Myers その2年間は同じランクにいなきゃいけないって分かっているんです。ただ、2年過ぎると「そうだ。さあ。そろそろ次のレベルに頑張ろうかな」って思うと、やっぱり、いろんな所をチェックし始めますね。

稲継   ああ。なるほど。

Myers うん。

稲継   その、ほかの人との競争ってことになると、同じGISの職種の知り合いとの競争になっちゃう訳ですよね。

Myers そうですね。

稲継   何か日本だと、それは、ちょっと、ぎこちない。

Myers ああ。なるほど。

稲継   競争をもたらすようなイメージを持っている人が多いと思うんですが、そのへんは、働いていてどうですか?

Myers そうか。うーん。私は、あんまり気にならないですね。

稲継   気にならない。うーん。

Myers 逆に、いい刺激にはなりますよね。例えば「この人が次のレベルに上がったから、自分も頑張らないとな」と思いますし、あとは、やっぱり同じGISの職種の中にも、いろんな得意不得意の分野がありますので、「ああ。この人は、この分野のスキルセットがすごいな」って自分にはない何かを持っていたりすると、やっぱり、その人から学びたいと思ったりします。

稲継   ああ。なるほど。

Myers 自分が受け持ったプロジェクトでも、分からないことは、その人に聞いたりして、自分より一つランクは下であっても、全然、気にせず、何か「これ、ちょっと教えてよ」みたいな......。得意不得意の部分というのは誰にでもあるので。

稲継   うん。うん。なるほど。じゃあ、お互い刺激を与え合って。
 逆に、そういう向上心のある人は別として、もう何かやる気無くしちゃってという場合は。

Myers (笑)。

稲継   ずっと同じランクに留まっている人っていうのも、やっぱりいらっしゃいますか?

Myers いますね。驚きだったのは、郡庁に勤めて30年、40年通して勤めている方でランクは私よりも下という時は、恐らくずっと何年も同じ所に勤めているんだろうと思います。ただ、それは、こちらの感覚でいくと個人の選択です。上に上がれば上がるほど、やっぱりストレスもありますよね。仕事も沢山あって大変だし、それよりも、家庭の方を大切にしたいから、私は、上に上がるよりも、この一定のレベルでそれなりの仕事をこなしていけば大丈夫っていう、そういう所に留まりたいって思ってやっている人も結構いますね。

稲継   個人の選択っていう事か......。

Myers そのへんは個人の選択ですね。

稲継   うーん。そういう所が、やっぱり日本と全然、違う所ですね。

Myers (笑)。そうですね。

稲継   日本では強制的に上にいく。

Myers うん。そうですね。みんな(笑)。

稲継   お前、もう、課長の年だから、ぼちぼち課長になれと。で、なったのはいいけれど、何かストレスで、何かメンタルヘルスになっちゃったり。

Myers そうですね。

稲継   休職になったり、あるいは、もう、降ろしてくれって。まあ。最近、日本では、希望降任制度っていうのが流行っているんですけど。

Myers ああ。なるほど。

稲継   希望して降ろしてくれっていうのがあります。希望して上がるっていうのは、ほとんど日本の場合はないので、そのへんは、個人で選択できるっていうのは、いいことでもありますよね。

Myers そうですね。

稲継   それに、仕事のしんどさと給与も昇格とはセットで。

Myers そうですね。

稲継   混ざってくるっていう事ですよね。

Myers はい。

稲継   なるほど。有難うございます。こちらにおられて、上のランクに上がる為には経験と、それからスキルの向上が必要だという事ですが、日本では職員研修所で研修を受けたりとか、そういう事があったりするんですけど、こちらは、そういう研修などは、どんなものがありますか?

Myers そうですね。研修は、こちらでも勿論あります。一般的に、2種類あるって考えていいでしょうかね。その組織の中に順応していく為の組織独特の研修っていうのもありますよね。例えばリーダシップを付けようとか、どちらかというとソフトな面の研修。これは、どちらかというと強制的というか、人事課の方から「あなたも、この研修を受ける時期だから、これを受けて下さい」という研修が一つ。
 もう一つはスキルに特化した研修。これは、もちろん外に行かないと無理ですね。郡庁独自でやったりもするんですけど、私の場合GISの仕事だと、ソフトウエアに関する、やっぱりプログラミングですとか、あとはデータベースとか、そういった事は外の団体(会社)が実施している研修を受ける事になります。
 みんなが受けたいのはどちらかというと、このスキルアップの研修です。


 人事異動の仕方は日本とは相当異なる。給料カーブもすぐに「寝てしまう」。つまり、数年経つと頭打ちになってしまう。より高い給与を受け取ろうとすると、より高いポジションの募集広告に応募して勝ち抜かなければならない。個人の選択により上位ポストへ応募しない人もいるが、その場合には給料はそこで頭打ちになり役職者にもならない。日本との違いを見ると様々な事が想起される。
 上位のポストに上がる為には、日ごろの職務に精励し、スキルアップを図ると共に、研修などへも積極的に参加する必要がある。