メールマガジン
分権時代の自治体職員
第108回2014.03.26
インタビュー:新庄市 商工観光課 主任 齋藤 一成さん(下)
100円商店街をスタートさせ、これが全国に飛び火することになる。中心となっているのは、普通の市役所の職員である。昼間は市役所職員として働き、勤務時間外にNPOの活動を行うことになる。実際はどのように時間配分をしていたのだろうか。
稲継 AMPの活動というのは本来、新庄市役所にお勤めの齋藤さんが、いわばボランティアでやっておられますよね。NPO理事長としてはお給料をもらっておられないので、全くボランティアとしてやっておられる活動ですね。アフターファイブあるいは土日しかできないような活動だと思うんですが、本来の仕事以外にエネルギーを注ぐというのは、かなり大変です。疲れたから家に帰って、プロ野球でも見てビールを飲みたいと思うのが普通です。それでもやっぱりアフターファイブにそういう活動をされている。この原動力はどういうものなんでしょうか?
齋藤 大体、そういうふうな質問をされる場合は、おちゃらかして答える場合と真剣に答える場合がありまして、おちゃらかす場合は大体、いまさら引っ込みがつかなくなっただけですね、という話があるんです(笑)。
真剣に答えるならやはり、実際に自分の自己満足だけで終わってないということが、自分自身が何よりも嬉しいってことでしょうか。自分をあてにしてもらっているというか、行けば間違いなく成果も上がるっていう。商店街の活性化事業になぞれば、やりました、ただ、人が集まりました。それで終わりました、というよりは、経済活動として、実際に商店街という生き物の体の中に血液が循環するわけですよね。その血液の循環っていうのがお金の授受であって、それが経済活動につながるわけなんですが、実際にそこにある個々のお店の収益が上がっているという状況をつくりだせている、ということが何よりも楽しいという思いがあります。
100円商店街という事業は、ちょうど一昨日、被災地の宮古で第1回目を開催しまして、それで導入した自治体数が108になりました。商店街の数は290ぐらいあるんですが、100円商店街という事業を進化させようと思った人が、仮に1市町村で10人いたとすると、1,080人の脳みそが常にこの事業のことを考えているわけですよね。となると、同じ100円商店街という事業であっても、やはり約10年前のパッと出の事業と比べて、今は格段に事業そのものが進化しています。
そうなってくると、今度は、ただその事業を広めるだけじゃなくて、自分の考えた事業をもっと研究していきたいと。一研究者としての立場から、その地域の商店街の活性化について、もっと効率がよくて、もっと有効な事業はないかということを自分自身が勉強しているという意味もあります。決してよそから強制されながらやっているのではなく、やはり端的に言えば自分自身が楽しんでいます。
稲継 ありがとうございます。ずっと NPO 団体の理事長としてのお話をお伺いしていたんですが、本職は新庄市の職員さんでいらっしゃいますね。ずっと新庄で生まれ育ったと理解をしていいんでしょうか。
齋藤 はい、生まれも育ちも生粋の新庄人です。
稲継 最初はどういうお仕事をされましたか?
齋藤 最初は、地方ではよくある消防団とかそんな所の事務系だったり、その後、税務課に行ったりしたんですが、自分自身の持っているものに「あれ?」と気が付いたのが、その次だったんですね。
新庄市役所
稲継 その次とは?
齋藤 国土交通省が推奨している全国都市緑化フェアという、花と緑の博覧会みたいなものが、ちょうど山形県であって、会場が新庄とサクランボで有名な寒河江の2会場でした。そのために両市と山形県の3者で作った実行委員会がありまして、私が県庁に何年か出向しました。そこで初めて違う自治体の仕事だったり、全く違う組織とふれあったり、また、その時は山形市に住んでいましたので、たまに帰って来たときに、何か「あれ?」という、言葉にはほとんどできないぐらいの地域に対する違和感があったんですよね。
稲継 違和感?
齋藤 たった半年、1年の中で、「えっ?」と何かこう雰囲気が違う。新庄市と山形市はたった60キロの距離ですが、今まで生まれ育った地元から、ポンと外に出てみて、半年後、1年後にまた帰ってきて、それも1日、2日ぐらいでまた戻るんです。「あれ?」と帰ってくる度に若干の違和感があるんですよね。それは何かと言われると、言葉がやはり出てこない。やはり町が衰退していっているような違和感があって、「いや、これは何とかしなければいけない」と何となくそこで気づき始めました。
仕事としては、実行委員会の中で広報を担当していました。花と緑の博覧会のPRキャラバンというか、大きいイベントのプレイベントみたいなものを自分でつくって組み立てて運営するというようなことをやっていたら、それまで本当に事務畑の仕事しかしていなかったはずなんですが、イベントというものに特性があるんじゃないかとそこで初めて気がつきました。県庁勤務が終わって、また新庄に帰ってきても、その二つがやっぱり頭の中でグルグルしているわけなんです。この地域を何とかしたい。何かこれだというイベントがあれば、何となく組み立てることができるんじゃないか、みたいな。そこで、それまでは全く知らなかった、よそから新庄に帰ってきていた若い連中と知り合って議論をしているうちに、何かやってみようということで生まれたのが100円商店街という事業だったんです。
稲継 なるほどね。県庁から戻られてつかれたセクションというのは、どういうセクションなんですか?
齋藤 その当時、全国持ち回りのイベントというものに見舞われていた時期で、次の年には、山形県内の全ての市町村を会場として行う国民文化祭というのがありまして、新庄市の国民文化祭の担当として配属されました。
稲継 国文祭。
齋藤 国文祭です、はい。
稲継 大変ですよね、持ち回りもね。
齋藤 そうなんですよ。
稲継 どんなことをやりましたか、新庄市は?
齋藤 新庄市は、合計四つほど事業があったんですが、私が振られたのが、越中おわら節から始まって、さんさ踊りやら地方に伝わっているいろいろな踊りの「民謡民舞の祭典」という事業の担当でした。しかし、開催1年前からの転入生ですから、メインというよりはサブ的な部分で広報をやっていたんです。その会場となる新庄市の市民文化会館はキャパが1,000人しかないので、入場整理券は当然抽選になる訳です。それで公募したところ、1,000人のキャパに9,000人ぐらいの応募が来るぐらいの人気でした。要は、8,000人ぐらいのお客さんが、見ることができない計算になるんですよね。それと、全国各地からはるばる起こしいただく踊り手の方々なんですが、踊りですから1団体4人~5人ということはなく、少なくとも1団体に20~30人です。そういった団体が何十団体も。費用対効果ではないんですが、そういう方々にかかる経費を考えた場合、そこにかかっている経費は、そもそも何なのかという部分から、より有効に使いたい、もったいないという思いもありました。そこで、市民文化会館は民謡民舞の祭典ですが、急遽、新庄の駅前通りで、「全国民舞パレード」というようなものをやりました。外でやってしまえば、箱の中にお客さんを入れる必要はありませんから、見たい人間はいくら来てもいいよという感じでやったんです。
その事業が後々大きな意味合いを残していくことになったんですね。そのパレードですが、何分で踊りながら進んでいけるというのは読めないので、警察に申請していた時間よりも大幅にオーバーしてしまいまして、警察に怒られながら、最後尾について規制解除しながら歩いていたんです。特にうちの駅前の商店街は歩道の幅がかなり広いのですが、団体が通過するまではお客さんが両側の歩道にみっちり、約1キロにわたって全部詰まっているんですよ。「うわあ、これはすごいな」と思いながら、しばらく進んで後ろを見ると、本当に蜘蛛の子を散らすという言葉がぴったりくるような状況で、お客さんがきれいにいなくなっちゃっているんです。終わって通過してすぐにそういう状態ですから、通過した5分後なんかはもう完全に閑散としているわけです。そこで、やはりこの事業をやった意味は一体何だったんだろうと。先ほどもお話しした100円商店街というものと、いままでのイベントが主体となっていた商店街の活性化事業との違いというものの、原点がそこだったような気がしますね。
稲継 なるほどね。そういう蜘蛛の子を散らすような状態を見て、イベント型というのはやはり蜘蛛の子が散ってしまう可能性があるということを学んだのですね。
齋藤 そうですね。決してイベントという物自体を否定しているわけではなくて、そのイベントが求めている本当の目的というのがあるはずです。その目的に対しての手法があくまでイベントだと思っています。事業の先にある目的というのは何なのかを考えれば、必ずしも手段、手法としてはイベントというものが絶対ではないな、ということを学んだのはそこでしたね。
稲継 なるほどね。で、国文祭が終わりました。そしたらどこかへ異動するわけですね、
齋藤 異動しましたね。大体そういう目玉事業的なことをやらされると4月1日には異動できないサイクルにハマるんですよね。
取材の様子
稲継 ああ、年度途中ですね。
齋藤 この途中異動というのはまた選択肢がないんですね。ペーパー1枚でとんでもないところに次々と飛ばされるんです。その次に市民プラザです。
稲継 私は先ほど行きました。
齋藤 あそこで市民団体やボランティア団体の活動を支えるような部屋の立ち上げのときに携わりました。その次は、新庄の民俗資料館みたいな歴史センターというところに配属です。そこに行って、新庄出身の人間国宝の方がいらっしゃるんですが、その名誉市民の方の特別展示室みたいなところに携わって。その後、その当時の新庄市というのは、家庭から出る生ごみを堆肥化して、それを還元しようという......
稲継 コンポスト?
齋藤 はい、それのでかいやつで、市で収集して。
稲継 各家庭じゃなくて。
齋藤 そうなんですよ。でかいプラントをつくろうというプロジェクトがありまして、その当時は財政状況が非常に悪くて、そういうふうな理由から、ちょっと頓挫した経緯があるんですが、その担当をやらされました。
ただ、そこまでにはかなり100円商店街の事業も大きくなって来ていますし、開催地もかなり増えて来ていますから、来てくれと言われる回数も多くなり、ようやくそこで商工観光課に1年お世話になりました。その後、また総務課に出て。1カ所平均2年ぐらいしかいないんですよ(笑)。総務課に行って3.11のときから被災者支援を半年ぐらいやりまして、そこからまた商工観光課に戻って来まして、だから今もまだ丸3年になっていない、3年目という形ですね。
稲継 商工観光課ということなので、お仕事でやっておられることと、NPOの理事長としてやっておられることと、割と同じ方向を目指している部分がありますよね。ちょっと違いますか、その辺はどうですか?
齋藤 今、私は商工観光課の中で、観光部門に配属されていますから。
稲継 なるほど、そうですか。
齋藤 でも、そうですね。課の中の理解はかなり深くなってきて、本当にありがたいです。今、全国的な商店街活性化事業だったり、考え方というふうなものがかなり身近に入って来ますので、今度は市のためにもそういう情報は市にお出ししますし、逆に、市がそういう商店街活性化事業等をやる時にちょっと知恵を貸してくれという話にもなって来ます。
金の流れというのはないんですが、やはり情報というようなものは大切だと思います。
稲継 それは大きいですね。
齋藤 お金に匹敵するぐらい重要だと思っていますので、そういった部分はやりやすいですね。
稲継 市、県にしてもそうですが、町を知ってもらう、来てもらう、見てもらう、できれば住んでもらうのがいいんでしょうが、そういう流れで言うと、観光も商店街の活性化も、同じような集客だとか何とかいう点では似たようなイメージを私は持っていたので、まさにぴったりした仕事をやっておられるなと思ったんですね。
齋藤 そうですね。だから、観光を担当していて、商店街の活性化事業は直接はやっていないのですが、自分がプライベートでやっている商店街の活性化事業を使って観光のほうをやっているみたいなところがありますね(笑)。
稲継 なるほど(笑)。
齋藤 一人二役なのかな、というのはありますね(笑)。
稲継 9時から5時まで働いて、5時からも働いて、ずっと働いて(笑)。ありがとうございました。
今日はずっと NPO 法人の理事長としてのお仕事といいますかボランティアのお話から始まって、そして仕事の話もお聞きして来たんですが、このメルマガは全国の自治体職員の方々がたくさん読んでおられます。その自治体の職員の皆さんに向けて何かメッセージがありましたら、最後に一言お願いしたいと思います。
齋藤 どんな感じのメッセージがいいですか?
稲継 多いのは、私はこれが大事だと思うという人もいれば、割と何かやりたいと思っても、じくじたる思いで何もできずに羽ばたけない職員はいっぱいいるじゃないですか。そういう人たちにちょっと背中を押してあげられるような一言があれば、とってもうれしいんですよね。私は何とかこういうことで道が開けた、みたいな。何でもいいです。
齋藤一成氏
齋藤 言って見て、駄目だったら違うと言ってください。
稲継 あとで書き直してもらったらいいです。
齋藤 とかく役所の方って、役所の中で議論して、議論を尽くした感で満足する場合が多いのですが、そこで議論を尽くして出てきたレベルというのは非常に低いです。本当に地域のことを考えて議論を尽くすべきは、民間の方だったり、役所の外の方とより議論をして、より効果的ないろいろな施策を打っていただければ、それぞれの地域のためには一番いいのかなと私は思っています。
稲継 地域課題を解決するためには、従来は官が何かをやるというイメージが強かったけれども、地域課題の解決のために官も民も協力して、ということで言うと、やはり人の交流も必要だから、自分自身も民の人といろんな場面で、アフター5でも付き合うということも大事ですよね。
齋藤 そうですよね。今の話で思い出したんですが、昔から、今の自分というのは、果たして民間で通用するのかな、という事は常に意識していましたね。そういうところもあったので、知らず知らずに民間の方々といろんな話をするようになっていったのかなとも思います。ちょっとそういうふうに考えてみるのも面白いんじゃないですかね。
稲継 なるほど。今日は新庄市にお邪魔して、齋藤さんにお話をお伺いしました。どうもありがとうございました。
齋藤 ありがとうございました。
補助金がなくても中心市街地を活性化する方法は出てくるという例を、新庄市の斎藤さんは実証してくれた。役所だけではなく、民間の力、NPOの力をいかに動員していくかというのが、これからの地域活性化には不可欠なポイントだろう。