メールマガジン

第103回2013.10.23

インタビュー:高鍋町健康福祉課 課長補佐 守部 智博さん(上)

 私(稲継)は、サーフィンをやったことがない。憧れたことはあるが、この年齢まで経験がないので、今後サーフィンをすることもないと思っていた。しかし、高鍋町の話を聞いて考えが変わった。まだ、やれる。
 宮崎県の高鍋町では、「高齢者にサーフィンを」という取り組みをしている。経験のないお年寄りにサーフィンに挑戦してもらって、健康づくりを目指している。
この取り組みをはじめ、面白い取り組みを進めている守部さんにお話をお聞きする。


稲継   今日は高鍋町の守部智博さんにお話をお聞きします。どうぞよろしくお願いします。

守部   よろしくお願いします。

画像:守部智博氏
守部智博氏

稲継   守部さんは今、健康福祉課というところで働いておられるんですけれども、お年寄りにサーフィンをさせるような、そういう仕事をやっておられるということを聞いたんですけど、それはどういうことでなんでしょうか。

守部   今、高鍋町も全国と同様に4人に1人が高齢者という超高齢化社会です。私は以前、財政の担当をしていましたが、その際、年々医療費や介護に係るお金が増えていって、財政を圧迫する原因になっていました。医療費は若い方でも大きい病気にかかると上がりますが、介護にかかるお金というのは、私はコントロールができると思っていますし、コントロールしなくちゃいけないと思っています。
 例えば高齢化率が5%ずつ伸びていけば、普通に考えれば介護にかかるお金も5%、もしかすると10%、15%と伸びていきます。しかし、高齢化率の伸びが5%であったとしても、介護にかかるお金を1%とかに2%とかに押さえていけば、結果財政的にも負担が減っていきますし、何よりも、高齢者の方が毎日健康で生きがいを持って生きていくということが、一番大切なことだと思っています。そのためには健康づくりと生きがいづくりが重要で、高齢者の方にいろんなことを体験していただきたいと思っています。
 高鍋町には1年中、北海道から沖縄まで全国から多くの方がサーフィンに来ます。また、高鍋町には若いプロサーファーがいます。このプロサーファーの方が、非常に地域愛があり、地域のために何かをしたいという思いを持っていましたので、「高齢者にサーフィンを教えてもらえませんか」という話をしました。当然予算を伴うものですから、町議会では、「けがをしたらどうするのか」とかいうクレームがありました。私にしてもプロサーファーにしても大きなチャレンジでした。
 反対する意見もありましたが、やってみようということで挑戦したところ、現在、5名から7名の方が、ほぼ毎日サーフィンを楽しんでいます。
 70歳のこの方は、最初はサーフィンボードに乗れませんでしたが、今では普通に乗れるようになっています。

画像:サーフィンを楽しむお年寄り
サーフィンを楽しむお年寄り

 このお二人は、若い頃からサーフィンをやりたいという思いがあったそうです。お一人の方は小学校の先生で、もうお一人の方は会社員で、なかなか現役世代の時には、忙しくサーフィンに挑戦する暇もありませんでした。一度はやってみたいと思っていたところ、この話があり「じゃあ、チャレンジしてみようか」と挑戦してみたら、こういうふうに立てるようになりました。
 この女性の方は、まだボードに立てません。この方はかなりメタボですが、一念発起して挑戦しました。もともとアレルギー性鼻炎があって、サーフィンをするときもずっとマスクをしていましたが、サーフィンを始めて、鼻炎がなくなり、病気が治って病院へ行かなくなりました。体重もスリムになりました。実際にこの方については病院代が減って、メタボも少しずつ改善されて、何よりも毎日が楽しいとおっしゃっていただいています。こういう方が増えていけば、後に続く方々もチャレンジしやすくなるでしょうし、そこを目指して、高鍋町でできるサーフィンに今取り組んでいます。
 あとは、ノルディックウォーキングというのも、高齢者のスポーツとして、こういった形で月に2回ほど集まって取り組んでいます。東日本大震災の被災地で、引きこもりの方が増えてきており、日赤だったと思いますが、2,000本ぐらいノルディックウォーキングのポールを買って、20ヶ所の仮設住宅に100本位ずつ配備したそうです。
 特に、男性がどうしてもアルコールに依存したり、テレビばかり見たり、動くのはトイレに行く時ぐらいで、健康上も精神衛生上も良くないという事で、ノルディックウォーキングをきっかけにして外に引っ張り出して、瓦れきがなくなった平地を歩いているそうです。そこを歩くことで、震災のことを話して、これまで話せなかったことを話せるようになったりして、心のストレスも取れて、健康になっているということです。

画像:ノルディックウォーキングを楽しむ様子
ノルディックウォーキングを楽しむ様子

 高鍋町においてもノルディックウォーキングを、今後一人暮らしの高齢者の方を外へ引っ張り出すツールとして使っていきたい。もう一つは、宮崎県も今、南海トラフ地震の発生による津波災害が非常に心配されています。万が一、地震が発生した際、足腰の弱い高齢者の方を高台に避難させるときに、このノルディックのポールを使って避難していただきたいと思っています。今日もこちらへ来る際に歩道を通ってきましたが、ノルディックのポールかなと思ったら、普通の杖を両方持って歩いているおばあちゃんがいて、普段は健康づくりとして、災害が起こった時には、ポールを使って避難してもらうという切り口で、一人暮らしの高齢者の方や家に閉じこもりがちの高齢者の方を引っ張り出したいということで、今取り組んでいます。

稲継   お年寄りを元気にすることによって、医療費も抑制できるし、介護のさまざまな費用も削減できると。町としても非常にプラス、財政としてもプラスになるし、お年寄りにとっても幸せな町、人生のプラスですよね。家に引きこもらないで外に出る機会をつくる。例えば、サーフィンだとかノルディックウォーキングだとか、公園に何かそういう健康器具を設置するとか、そういうことに積極的に取り組んでおられる、ということで理解したらいいんですかね。
 最初にサーフィンをするお年寄りの写真を見て、非常に私は驚いたんですが、今のように説明いただくと大変よく分かりますね。

守部   そうですね。やはり高齢化社会――高齢化社会と言っていますが――これは人口構造上の問題ですので、ここ2~3年、私たちがどんなに頑張ったって、人口構造の問題を解決することはできません。しかし、問題は高齢化社会の中身だと思っています。どうしても高齢化すると社会の活力がなくなるとか、医療費が増えるとか、マイナスなイメージしかありません。
 お年寄りが増えると医療費や介護のお金が増え、おまけに年金も増えていき、消費税を上げなくてはいけないという議論になってしまう。高齢者の方が悪役ではないのですが、社会の中で長生きしてはいけないような存在になっていく、というのは悲しいですね。人口構造上、絶対に高齢者が増えていくわけですから、いい意味でも悪い意味でも主役になるのであれば、ヒーロー、ヒロインになってほしいと思っています。
 そうしたときに、元気で生きがいがある高齢者が増えれば、間違いなく世の中の活力がかえって増えていくと思いますし、私たち現役世代も元気な高齢者、例えば日野原先生みたいな方がどんどん増えていけば、年を取るのは悪いことじゃないなというふうになっていくかなと。例えば、「高鍋の高齢者は元気だな」となると、財政的に負担が軽くなり、その分、未来を担う子ども達の教育や農業、商工業などにお金がかけられるようになってくる。
 財政課の時に感じたのは、結局、本来お金を使わなくてはいけない子どもたちの教育予算を削ってしまっている。扶助費が増えていくから仕方がないみたいな感じで。そのしわ寄せが子どもたちに行ってしまうのが、一番悲しいことだなと思っていました。最終的に高齢者にかかるお金が抑制されていけば、教育の予算につけられますから、そうなると50年後100年後もいい世の中になっていく。また、そうしていかないといけないなというところがあり、できる、できないは別にして、私たちはチャレンジしていかないと、子どもたちに希望も残せない、という思いがあります。それから、高齢者の方が本当に毎日楽しいと笑顔でおっしゃっていただけることが、財政的な問題とは別に、そこに幸せを感じています。

稲継   先ほど話に出た日野原先生というのは、聖路加病院の医師をしておられる、101歳でしたか。

守部   101歳ですね、今。

稲継   まだ現役ですね。

守部   現役です。

稲継   教えてもいるし、診療もするし、講演もするし、という、ああいう元気なお年寄りが増えてくださるといいと思うんですけどね。寝たきりではなくて活躍してくださるお年寄りがどんどん増えれば、日本にとってもプラスになると思いますね。ありがとうございます。
 守部さんは、現在、健康福祉課に所属しておられるんですが、オフといいますか、本来の勤務以外の仕事、仕事というんですか活動として、「たかなべ希望のまちづくり」というグループを立ち上げていろいろと活動をしておられるということなんですが、これについて詳しく教えてもらえますでしょうか。

守部   そもそもこのグループを作ったきっかけが、健康福祉の仕事と一緒なんですけど、私たち役人のすべての仕事について言えることだと思いますが、住民を幸せにすることが目的だと思っています。
 けれども、そうしたときにどうしても縦割り行政の弊害といいますか、健康福祉課の仕事に関する部分にはかかわれますが、それ以外の分野について「高鍋町をこうしたい」という部分にかかわろうとしたときに、どうしても「それはおまえの仕事じゃない」みたいなところがあります。それを財政課に行った時に、非常に強く感じました。
 やはり行政はものを作ることだけをやっていて、そのあとのことは、住民にやりなさいよ、みたいな感じで非常に切り分けがはっきりしているといいますか、うちの町も協働という言葉をまちづくりの中でうたっていますが、どうも協働していないというところがあります。結局、役割分担をすることが協働みたいなところがあります。本来の協働というのは、最初から最後まで住民の方と一緒にやって一緒に喜ぶというのが本来の形ではないのかなと思っています。健康福祉課以外の問題にかかわるためには、どうしたらいいかと思い、いろんな方に相談しました。その結果、グループを作って就業後とか、土日で活動するしかないという結論に至り、今から2年前にたかなべ希望のまちづくりを作りました。
 一つ、このグループの中でルールがあります。現在、私は43歳ですが、私以外のメンバーは、20代前半から30代前半までの若い職員ばかりです。これには理由があって、同年代の人間とやった方が私自身も活動がしやすいですし、やれる仕事も大きいと思いますが、私もあと定年まで20年ありません。われわれの世代だけが盛り上がっても、結局町にとってはどうなる、というところがあります。

画像:取材の様子
取材の様子

 いわゆる係長という役付になると、いい意味でも悪い意味でも、その人間のキャラクターができてきます。また、各々のキャラクターを出していかないと仕事も回していけないというところがあります。ですから、役付けになっていない若い職員と一緒にやることで、私が定年退職した後も彼らはまだ40代、50代で役所の中でも中心的な役割を担ってくれると思います。また、そういう若い職員が育たないと、やはり町にとっては、結局プラスにならないことだと思っています。結構、いろんなことを教えないといけませんから、手はかかりますし、若いだけあって知識はそこまでないですが、吸収したいという思いは強いので、思ったよりも成長してくれて、大きな活動はできているという実感はあります。

稲継   具体的にはどういう活動をしておられるんですか。

守部   私は、今まで自学というところで、1人でまちづくりについていろんな勉強をして来ました。その中で、一番影響が大きかったのが、隠岐の島の海士町というところでした。以前、財政を担当しているときに本当にお金がなくなって、こういう財政改革推進計画というのを作って3年間で9億3,400万円という財源を捻出しないと、夕張市まではいきませんが財政破綻をしますよ、という本当にどん底の財政状況を経験しました。その時にどうしたらいいか悩んで、たどり着いたのが隠岐の島の海士町でした。町長さんをはじめ職員が人件費をカットして産業を興して人口が増えて財政危機を克服した、というのを知り、実際に海士町へ勉強に行きました。

稲継   それは、このグループみんなで行ったんですね。

守部   私は最初の1回目に行って、その後、他のメンバーも行きたいというので実際に連れて行って、向こうの高齢者の方とか、海士町の方にも若手のグループが発足していましたので、そのグループの方と意見交換をしたり、3日間勉強させていただきました。
 その他にも、柳谷地区(通称やねだん)という鹿児島県の集落へ行きました。これは海士町とは反対に住民主体で地域活性化をしている集落ですが、このグループを作る前に私もそこで4日間研修をさせていただいて、集落のリーダーである豊重哲郎さんに高鍋町で講演していただきました。あと木村俊昭さんというスーパー公務員の方にも来ていただいて、私達のグループと町内でまちづくり活動をしている民間の方々と意見交換会をしました。
 1年目は、若い職員に何の知識もなかったものですから、ひたすら勉強をしたところです。2年目からは、さっき言った話に戻りますが、行政がお金をつくって整備した「四季彩のむら」というところがあるのですが、そこは、昭和30年代の田園風景が残っていて、いわゆる童謡のふるさとが体験できるようなところです。財政課の頃から、担当である農業振興課に「ここはこれだけお金をかけてこんなに豊かに自然が残っているので、もっと何かやろうよ」と言っていましたが、やはりやってくれない。
 "四季彩のむら"は、平成13年から整備をし始めており、その後10年たってだんだん疲弊して、年間何十万円かの補助金を出して「それで活動してくれ」というふうにやっているのですけど......。四季彩のむらというのも、もともあった名前ではなくて行政の方でつくった名前で、集落の住民の方に活動してくれといっても、もともと農家の方であったりするものですから、アイデアもないですし、知識もないです。
 最初のうちは、景観的なもので全国的に表彰もされたりしましたが、10年たって今度はもう仲違いみたいなのが起こってきて、「何かやれって言われるけど、結局おまえが悪い。あれが悪い」だの、だんだんぎくしゃくしてきました。それを見たときに、行政が入ってお金をかけて整備して、それだけでもいいのですが、地域の住民の方の、そういう和みたいなものまで崩してしまっているというところが非常に許せないと感じました。
 毎月定例会がありますので、担当の農業振興課に行って話をさせてくれとお願いし、「こういうグループをつくっているので、ここを何とかしたいので、一緒にやらせてもらえないですか」という話をしました。当然、住民の方は同じ役場の職員ですから、健康福祉課といえども、「いったい、お前は何なんだ」というみたいな話になって。役場の方からもさんざん攻撃されて来て、「こんなになっているのに、おまえはいったいそこで何をやるつもりなんだ」みたいなことを言われました。
 そこには町の造った温泉や四季彩のむら、高鍋湿原というトンボや非常に貴重な生物や植物のある湿原がありますので、この3点セットで地域活性化をしたいという思いが以前からありましたので、そういう話をしました。いろいろ言われましたが、「本気でやる覚悟があるのか」ということで、襟を正されて、「本気でやりたいです」ということで、「じゃあ、やってみろ」となって、2年目から地域振興協会の補助金をいただいて、「彩りのむらづくり事業」に取り組んでいます。今、2年目ですけど、地域の方と一緒になって、そこの地域おこしをやっているところです。


 お年寄りのサーフィン、ノルディックウォーキング。お年寄りを元気にする取り組みで医療費抑制、介護費用抑制を目指す高鍋町。浮いたお金は子供の教育などに回す。お年寄り自身も、元気な生活を送ることができる。
 このような取り組みを進める守部さんは、健康福祉課の仕事以外にも、高鍋のまちをよくしようと様々な取り組みをしている。自主活動グループを作って、海士町の取り組みや、やねだんの取り組みを学んで、地域おこしにも取り組んでいるという。