メールマガジン
分権時代の自治体職員
第07回2005.10.28
自治体組織の人材育成―2
前号でみたように,任命権者側は職場外研修を中心に人材育成を図り,そしてその内容も時代環境に対応するべく,徐々に充実させてきた。その努力やつぎ込まれてきた予算は莫大なものである。
だが,ほんとうに「職場外研修」(Off-JT)(だけ)で人は育つのだろうか。当の働く側の意識をいくつかのアンケート調査結果から見てみよう。
はじめに,神奈川県職員で構成された研究チームによるアンケート調査結果(対象は神奈川県職員。サンプル数1,652)を見ることとする。質問項目の中で,「あなたは,仕事を行っていくうえで,知識や能力の不足を感じたことがありますか。」という問いに対して,「たびたびある」が37%,「たまにある」が57%だった。年齢,職位別にみると,「たびたびある」は年齢・職位があがるにつれて比率が低くなっているが,30歳代以下と主任クラス以下では,平均より高い比率となっているなど,採用されてからの年限が経過していない者ほど,たびたび知識や能力の不足を感じていることがわかる。
さて,この「たびたびある」「たまにある」と答えた者に対して,「あなたは,そのような不足を感じたとき次のどれに最も期待しますか。一つだけ選んでください。」との回答を求めたところ,いわゆる「研修所での研修,他機関で行う研修等」と回答したのは7%に過ぎなかった。多い順に「自己努力」(44%),「職場内での打ち合わせ・勉強会」(25%),「同僚等の助言」(16%),「上司による個別指導」(6%)であった。後三者は,いわゆる職場研修(OJT)の範疇に入るものなので,これらが47%,自己努力が44%だったことになる。
また,別の設問で,「よりよい仕事を行っていくために,さらに広範な知識,能力を身につけたいと思う」と答えた職員(全体の97%)に対して,「そのようなときに次のどれに最も期待しますか。一つだけ選んでください。」との回答を求めたところ,「研修所での研修,他機関で行う研修等」と回答した者は25%だった。これも多い順に,「自己努力」(48%),「職場内での打ち合わせ・勉強会」(17%),「同僚等の助言」(4%),「上司による個別指導」(2%)となっており,職場研修(OJT)が24%,Off-JTが25%,自己努力が49%という結果であった。
他の自治体における調査でも,類似した結果が得られている。尼崎市職員研修所が行った調査(サンプル数644)では,「あなた自身の能力開発にとってもっとも効果的だったものは何ですか」という質問に対する答えで,最も多かったのは「自己啓発」の37%,次に「上司・先輩からの個別指導」が27%,「配置換え」が21%と続いており,「研修所研修」と答えたものは,9%に過ぎなかった。
岸和田市人事課の行った調査(サンプル数868)では,「職員の能力開発の手段として何が重要だと思いますか(複数回答可)」との問いに対して,最も多かったのが「自己啓発」(70%),次に「職場での実務経験」(44%),「上司・先輩の指導助言」(40%),「適材適所の人事配置」(33%)などとなっており,「実務講習会やセミナー」(24%)を上回っており,「人事課専門研修」(7%),「人事課階層別研修」(4%)に至っては,かなり寂しい数値となっている。
供給と需要のギャップ
以上見てきたように,自治体の研修所に集合して行われる講義形式の研修に対しては,職員の側からの否定的な意見が多く寄せられるのが通例である。このことは,任命権者ないし研修担当機関が考えている「研修」と,職員の側が期待している「能力開発」との間に大きなギャップがあることを意味している。
任命権者等は職場外研修(Off-JT)を能力開発(人材育成)の柱と考えているのに対して,職員の側からはそのようなものとは受け止められていない,あるいは,効果が期待されていないということがわかる。
いや実は,任命権者自身,人材育成に何が役立つかは気づいている。前回見た「地方公共団体職員に自己啓発の活性化方策に関する研究会」のアンケート調査結果では,「Q2。研修の3つの形態はそれぞれ職員の人材育成に欠かせないものですが,これらについて職員の人材育成に役立つとお考えの順に,1,2,3と記入してください。」という質問がなされており,第1順位としてあげられているものに「職場研修」「自己啓発」がともに40%と並んでおり,「職場外研修」(18%)を大きく上回っていた。前号のQ1とあわせて考えてみた場合,各自治体は,人材育成に役立つと考える職場研修や自己啓発などにウエイトを置くのではなく,これらに比べると役立つ度合いがやや劣ると考えている「職場外研修」にウエイトを置くという奇妙な結果になっている。
任命権者としては,明確に人材育成を行っているような外形を提供できるもの,議会や市民に対して説明できる「有形のもの」として研修所研修を利用しているといえなくもない。インプットとしての研修予算の消費は計測でき,また,受講者数等のアウトプットも測定が容易であるからである。
不祥事が発生したとき,首長や人事部長は,マスメディアや議会の質問に対して,謝罪とともに再発防止の誓いを述べる。後者として,より一層の研修の実施,倫理研修の拡充,などと答えるのが通例である。マスコミや議会は,それでしのぐことができることが多い。
しかしながら職員側にとって最も重要だと認識されているものは,自分自身のイニシァティブによる能力開発,自己啓発,そして,それを刺激する,職場における仕事を通じた能力開発であり,研修所研修である。より高次の知識等の修得および異なる自治体職員間の交流促進のための都道府県単位の合同研修所や全国規模の研修所(JIAMやJAMP,自治大学校)、さらには政策研究系の大学院への派遣研修がそれらを補完する
「人材育成」ということを考えるには,従来型の「職員研修所の研修プログラムの改善」という固定観念から大きく発想を転換して,それに限定されずに,採用・人材確保から,勤務評定,異動・昇進,そして研修を含めた人事管理全体の中にどのような形で人材育成という視点を取り入れていくべきかを考える必要がある。総合的なヒューマン・リソーシズ・マネジメント(HRM=人的資源管理)の一環ととらえる必要があるのである。
人材育成のために最も重要なポイントは「自学」(自ら学習する。自己啓発)をいかに促すのかという点である。それを促す仕組みとしての人材育成と連携した人事管理のあり方が重要である。
「人は自学で育つ」
次号ではこの点について考えてみよう。