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第06回2005.09.29

自治体組織の人材育成―1

 地方公共団体を分権型社会にふさわしい組織に変容させていくためには,組織の担い手である地方公務員自身の意識改革と能力開発を効果的に実施する必要がある。ところが実際は,自治体職員の多くが旧来の業務のやり方に追われ,能力研鑽の機会が得られないでいる。また,能力開発をしようとするインセンティブそのものが与えられていないことも多い。
 地方分権改革に関する首長アンケート結果では,権限の移譲が不十分であること,財源の移譲が殆ど行われていないことについての不満に関する指摘が多いが,自由回答の中には,もっと多くの権限や財源が移譲された場合に,果たして,現在の職員で対応できるのか,不安を持っている回答も寄せられている(日本都市センター『地方分権改革が都市自治体に与えた影響に関する実証的研究』報告書,2005年)。
 そこで任命権者は,「人材育成」とのかけ声をかけることになる。

「研修」:任命権者の意識
  地方公務員法第39条第1項には,「職員には,その勤務能率の発揮及び増進のために,研修を受ける機会が与えられなければならない」とされ,第2項では「前項の研修は,任命権者が行うものとする」と定められている。さらに,2004年6月には地方公務員法改正がなされ,同条第3項に「地方公共団体は,研修の目標,研修に関する計画の指針となるべき事項その他研修に関する基本的な方針を定めるものとする。」との規定が追加された
 この「研修」という言葉からは,職場外研修(Off-JT),とりわけ,各自治体ごとに設けられた職員研修所での合同研修がイメージされる場合が多く,任命権者もそれを重視していることが伺われる。
 例えば,「地方公共団体における職場研修の推進方策に関する研究会」が行ったアンケート調査結果(47都道府県,12政令指定都市,194の市・特別区が回答。1997年)によると,「貴団体における職員の人材育成施策の柱は何ですか。」(複数回答可)との問いに対して,92%が「研修所における研修等の職場外研修」と答えており,「職場研修」の76%,「職員の自覚的・主体的努力による自己啓発」の66%を大きく上回っていた。
 また,「地方公共団体職員の自己啓発の活性化方策に関する研究会」が行ったアンケート調査結果(47都道府県,153市[全指定都市含む],23区,47町村が回答。1998年)でも,「Q1。貴団体の現状として,研修の3つの形態のうちのどれにウエイトをおいていますか。ウエイトをおいている順に1,2,3と記入してください」との質問を行っているが,これに対する回答として,第1順位にあげられているものは,「職場外研修」(72%)が7割を占め,「職場研修」(20%)や「自己啓発」(6%)を大きく上回っていた。

公務員研修の発展の過程
 多くの任命権者がイメージする職場外研修は,地方公務員法が制定されて以降,徐々に充実してきたものであった。少し,その変遷を振り返ってみよう。
(1) 研修定着の時期(昭和20年代~昭和30年代)
 この時期は,地方公務員法に研修が規定され,各自治体が研修を実施することに取り組み始めた時期である。中心をなしていたのは,新規採用研修,新任監督者研修であった。前者は講義中心に編成され,後者は,人事院が体系化したJST(人事院式監督者研修方式)を取り入れていくことが中心となっていた。その他の定型的研修も徐々に整備充実していくこととなる。
(2) 環境の変化に対応していく研修の時期(昭和40年代~昭和50年代)
  この時期,高度経済成長やその歪みへの対応,とりわけ環境問題や住民運動など行政の複雑化・高度化・多様化に対応するため,研修そのものを,環境変化に対応するものを実施するようになっている。上記の新規採用研修,監督者研修以外の,職層別の研修の体系化が図られてきた。採用後5年後,10年後の研修,管理者研修,専門研修などの充実がはかられていくことになる。
 研修の進め方としては,まだ講義中心のものも多かったが,徐々に,研修参加者に主体性をもたせた参加型研修が模索されていくことになる。
(3) 人材育成研修の時期(昭和60年代以降)
  その後,安定成長下,低成長下で,公務員研修ニーズにも大きな変化が起こった。行財政改革に対応するための研修が企画され,実施されていく。
さらに,平成年間に入ってからは,政策法務研修など,課題解決型の研修を模索する自治体も増え始めている。
 任命権者側は職場外研修を中心に人材育成を図り,そしてその内容も時代環境に対応するべく,徐々に充実させてきた。その努力やつぎ込まれてきた予算は莫大なものである。
 だが,ほんとうに「職場外研修」(Off-JT)(だけ)で人は育つのだろうか。次号では,働く側の意識を見るなかでこの点について考えてみよう。
  その前に,宿題。
次の質問を考えておいてほしい。
「自治体職員であるあなたは,今まで、どのような時に一番成長しましたか?どのようなことがあなたの能力を向上させたと思いますか?」
このコーナーでは皆様からの活発なご意見,ご感想,ご質問をお待ちしております。些細な事でも遠慮なくどうぞ。