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第05回2005.08.31

自治体職員に求められる「能力」

 前回まで,テクニック合戦になっている採用試験で,いかに「良い人材」を採用するか,という点について議論してきた。今回からはすでに自治体職員となっている者について、その人材育成をどうするのかという点について順に考えて行きたい。
 古くから言われるように、二人以上の人間が石を動かそうとする時そこに組織ができる。民間企業も、公益法人も、市役所や町役場といった自治体組織もその点では変わらない。目的が「石を動かす」のか、「車の売り上げを上げる」のか、「○○の充実を社会に広める」のか、あるいは、「地域住民のためのサービスを向上する」のかという点が異なってくるだけである。
 その意味からは、組織を構成する構成員に求められる能力というものも、ベースの部分には、共通項がある。(公務員の場合は、国民の奉仕者としての意識など、プラスアルファ部分ももちろんある)
 一般に組織で共通に求められる能力として、次のものが挙げられることが多く、これらの能力育成が人材育成ニーズになると言われる。
(1)組織の共通の目的(組織や部門の方針)を理解し,行うべき目的を自分で設定できる課題設定能力。
(2)その目的を達成するための職務遂行能力。
(3)他の人と協力して目的を達成するための対人能力。
(4)目的達成の際に起こる問題を克服する問題解決能力。
 この共通項部分については、自治体の職員についても本来同じである。しかしながら、20世紀の終わりに至るまで、課題設定能力(1)や問題解決能力(4)の能力の育成ということが声高に叫ばれることは少なかったように思われる。
 これは、日本の地方自治の仕組みが憲法上保障されたものであるにもかかわらず、機関委任事務など種々の国の各省庁の出先機関的役割も持たされてきたことと関係がある。
 自治体現場では、1980年代に至るまで、日々の業務の多くが国の業務を請け負うものであった。戸籍をはじめとする機関委任事務に限らず、景気対策としての公共事業や、地方債を発行してのリゾート開発や箱物施設の建設など、多くは国策としての政府各省庁の業務を現場で実行する実行部隊となっていることが多かった。
 機関委任事務をはじめとする業務については、各省庁からの通達が細かく出され、それにどれだけ慣れ親しんでいるか、解釈できるかが、自治体現場では問われた。各省庁や各省庁の各局が発行している○○六法が常時手元にあり、上司や他課から問われれば即座に条文や通達の存在を答えられる職員が優秀な職員であった。地域で生起する独自の問題も徐々に増えては来たが、それに独自に取り組むことよりも、それを県庁や各省庁に伝え、県庁や各省庁からの回答を待つというタイプの職員が多かったように思われる。独自の政策を始めようとしても、国の側からの種々の締め付けがあったこともその原因となっている。
 しかしながら、1990年代以降の分権への流れは、機関委任事務の廃止(2000年)をはじめとする種々の大きなうねりを引き起こした。財政構造改革は現在進行中であるが、早晩、財政自主権も高まる方向へ動くことは間違いない。
 地域で生起する問題を自ら考え解決することが、自治体職員には求められるようになってきているのである。自治体としてのミッションを十分に理解し、その組織内で自分のセクションが何を行わなければならないのかを考える課題設定能力(1)、目的達成の際に起こる問題を克服する問題解決能力(4)が、ますます問われるようになってきている。(2)(3)の能力ももちろん必要である。)
 従来の優秀な職員は、今は優秀ではないかも知れない。優秀な職員とは、「場の目的にどの程度貢献しているか」という基準をもって人を評価した表現である。自治体という「場」の目的とそこから派生する評価基準は、常時変化している。1990年代以降の「場」の変化は従来の自治体職員の想定範囲外ともいえるほどの動きである。分権改革、NPM、IT化の進行、情報公開の徹底、住民意識の向上・・・・・「場」が変化すれば評価基準は変化し,個人は「優秀な人材」から「優秀でない人材」へ,逆に「優秀でない人材」から「優秀な人材」へと変化する。
 さて、このような時代に入って、求められている能力と現在職員が有している能力とは一致しているだろうか。国や県庁の出先機関として日々のルーティン業務を淡々とこなしてきた職員の中に、(1)(4)の能力があまり高くない職員が存在するとすれば、その職員が有する能力と、いま自治体職員に求められる能力との間のギャップを埋めるにはどうしたらよいだろうか。
 この問題はどの自治体も直面している大変大きな課題である。次号以降、この問題について数回にわたって考えていくこととする。
 このシリーズでは,「分権時代の自治体職員」「人材育成」というキーワードで,自治体職員のポテンシャルの向上,人材育成について皆さんとともに考えていく予定です。