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執筆者:跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授 鍵屋 一

第14回2018.05.21

危機管理と自治体職員

自治体は危機管理が苦手

自治体職員のみなさん、危機は危機管理部署が対応すべきで、自分の仕事ではないと考えていませんか。

自治体は、「日常」をもとに仕事を決め、それに必要な組織、職員を配置します。もともとが危機を考えての組織ではありません。一般の仕事に求められるのは正統性、継続性、安定性ですから、法律や手続きが重視されます。文書主義、先例重視で画一性や形式が優先されることから、原則として特別な判断をしてはなりません。

さらに「日常」は予測可能性が高いため、マニュアルなどで詳細に仕事の内容を決められます。細かく決めれば決めるほど、融通が利かなくなります。したがって、仕事も危機を想定したものではありません。

ところが、危機が発生したときは、臨機応変に対処を求められます。「非日常」はその内容、程度、過程が極めて多様で、マニュアル化にも限度があります。それでいて人命にもかかわる場合があり、職員の判断、責任はぐっと重くなります。それがわかるだけに、「日常」が忙しいので「非日常」の危機管理に取り組む余裕はない、と避けているのでしょう。

危機に強くなるには

危機管理の行動が、あらかじめ規則や文書で示しにくいとすれば、どうすればよいのでしょうか。

私は「知識」「判断力」、それに「人格」が鍵だと思います。

危機管理には、一定の知識は不可欠ですが、これで大丈夫というレベルはありません。一生をかけて身に付けていくというタイプのものです。一方では、知っているか知らないかというレベルでは測ることのできない「人間の質」が問われます。逆にいえば、判断力と人格にすぐれた職員ならば、優れた危機管理ができる可能性が高まります。事実、危機の現場では普通の人が英雄的な行為で危機を脱出する多くの事例があります。

そうはいっても「非日常」のことですから、次に何が起こるか、そのときどうするのかなど、最小限の知識は必要です。知識がなければ関心が生まれず、関心がなければ意欲や具体策が身につかないからです。

判断力を鍛える

危機管理を行なうものにとって中核的な資質は判断力です。これを高めるためのポイントについて述べます。

(1)予測力

 思ってもみない事態に直面すると、人はあわてたり、焦ったりするものです。そうなると判断を間違えやすい。焦りは人が実力を発揮できない大きな要因です。

一方で、「先が見える人」といわれる人がいます。経験知が豊富で、物事を予測する習慣を身につけているはずです。予測をして、その範囲内の出来事であれば、事が大きくなる前に処理したり、被害を最小限にとどめる対応ができます。

(2)大局観

危機的な事象が発生したときは、最初にそれが大体どうなっているかを調べることが肝要です。マスコミや首長などに状況を伝える際にも、前段に大体の骨子を素早く説明します。危機対応で時間がないときは、影響力の大きい人に間違いなく理解してもらうことが、極めて重要です。物事の大小を見極め、大きなところから知らせます。

(3)優先順位

不思議なことに優先順位の高いものをやっているうちに、小さな問題は自然に解消したりします。ただ、危機時は状況が変化しやすいので、常に優先順位を考えながら対応する必要があります。

人格を高める

各地のシンポジウムなどに呼ばれると、地域の方が事例発表やパネリストをしてくれます。しばしば、どうしてこれほど素晴らしいのかと感嘆する方に出会うことがあります。その方々には、共通して次のような特徴がみられます。

(1)人に優しく自分に厳しく

人に対する話しかたや表情が極めて温和です。一方で、自分のことや身内同様の人には厳しく接しています。

幕末の儒学者、佐藤一斎は「春風を以て人に接し、秋霜を以て自ら粛(つつし)む」と述べています。人に接するときは春風のように穏やかに接し、自分に対しては秋の霜のように厳しさをもちなさいという意味です。自分に厳しく、は難しいかもしれませんが、人に優しく接することを心がけたいものです。もったいをつけずに、優しさのシャワーを浴びせる気持ちでちょうどいいかもしれません。

(2)大きな器量

 こういう方は、身体全体からオーラが出ていて、なんともいえない威厳が感じられます。

仕事でも、人望のある人が発言すると通る案件が、そうでない人が発言するとひと悶着したりします。仕事は一人ではできませんから、特にポジションがあがるにつれ、人の話を素直に聴き、良いものは受け入れて、器量を大きくすることが大切だと思います。

(3)志を立てる

王陽明は「それ学は志を立つるより先なるはなし」「志立たざれば天下に成るべきの事なし」と述べています。学問を身につけたい、大きな仕事をしたい人は、必ず「志」を立てるものです。

志があればこそ、身を惜しまず努力を重ね、多くの困難を乗り越えて、信じる道を進んで行けます。志のない人の成功は、単なる偶然でしかありませんが、志を立てた人の成功は必然です。

人格を高めることはもちろん簡単ではありませんが、自分なりのモデルを見つけることが重要です。わが国には良寛和尚や西郷隆盛のように、今でも敬愛される人物もおりますが、モデルとするにはちょっと敷居が高いかもしれません。これまでの人生で出会った素晴らしい人、たとえば学校時代の恩師や、立派な上司をイメージすると近づきやすいでしょう。