メールマガジン

第20回2016.11.30

分断された世界をつなぐのは誰か?

 イギリスのEU離脱とアメリカ大統領選でのドナルド・トランプ氏の勝利。2016年は「世界が分断に向かうきっかけとなった年」と後世に評価される日が来るかもしれないと、本気で心配している人も多いのではないでしょうか。しかし私はそうは思いません。2つの大きな出来事のあと、報道や各地で展開されている論調を見る限り、私たちの世界は冷静に物事を分別できる能力を持っているのではないかと感じます。

 移民や女性などを差別する発言を繰り返したトランプ氏の当選を受け、ニューヨークの街頭でインタビューを受けていたある高校生たちの発言が、とても印象に残りました。「私は黒人でゲイでユダヤ教徒だが、アメリカを愛している」と彼は泣きながら語りました。さらに傍らにいた同じ高校から来たという白人の女性が、「彼のような存在を誇りに思うし、彼を受け入れてきたアメリカを誇りに思う」とインタビューに答えていました。私はとくに後者の、白人女性の発言が大切だと感じました。

 アメリカの大統領選挙でもイギリスのEU離脱を問う国民投票でも、若い世代は結果と異なる方へ投票していた傾向が見られるようです。若い世代は子どもの頃から移民と接し、ともに学び、ともに遊んで育ってきました。国境を越えて人や情報が移動することを当然の前提として育ってきた世代と、それ以前の世代とでは世界の見え方が異なるのかもしれません。移民やマイノリティ当事者だけでなく、ともに育ってきたマジョリティの意識も変化しているという点が、これからの分断された社会をふたたび紡ぎ直していくうえで、とても重要だと私は思います。

 日本では、中学校で「技術・家庭科」の授業が男女共修となった今の30代前半より下の世代と上の世代とで、家事や育児、就労についての性別役割分担に関する考え方が異なる傾向が見られます。日本で暮らす外国人が増え始め、子どもの頃に日本語学習が必要な同級生とともに時間を過ごした人が増えるのも、ちょうど同じ世代からです。最近、日本で暮らす外国人のことを取材する新聞記者やテレビ局のディレクターのなかにとても鋭い視点で質問してくる人がいて、その記者やディレクターになぜこのテーマで取材するのかを尋ねると、「小学生のときの親友がブラジル人で、家族ぐるみのつきあいをしていた」と答えてくれたり、通訳をめざしているという学生に理由を聞くと「日本語がわからずに苦労していた同級生のことがずっと気になっていた」という答えが返ってくることが増えているように感じます。日本でも若者を中心に、意識の変化が進んでいるのではないでしょうか。

 多文化共生というと、課題に直面する外国人の子どもや家族への支援ばかりに目が向きがちですが、異なる文化背景を持つ人とともに地域で暮らすことがもたらす、地域社会全体への影響についても、もっと評価していいのではないかと思います。開かれた社会で多様な価値観に触れながら成長した子どもたちが大人になり、分断された社会をつなぎなおして、ふたたび豊かな世界を創出していく。将来、分断に向かいつつあった世界が共生社会へと転換した年として、2016年が記憶されることになればいいなと願っています。