メールマガジン

第17回2016.08.30

日本再興戦略と多文化共生

 政府の重要文書である「日本再興戦略」の推移を多文化共生の観点から見ると、興味深い変化の兆しが伺える。

 まず、安倍政権最初の日本再興戦略(2013年6月)には、雇用制度改革・人材力の強化として、「高度外国人材の活用」(高度外国人材ポイント制度の見直し)が簡略に言及されているのみである。しかし、翌年の再興戦略(2014年6月)では、日本経済の担い手としての「外国人材の活用」が明確に位置づけられ、「外国人が日本で活躍できる社会」(技能実習制度の拡充、建設・造船分野における活用、国家戦略特区における家事支援人材の受け入れ、介護分野における留学生の活躍)を目指すことが謳われる。さらに、「今後、日本への留学生や海外の優秀な人材が日本で働き暮らしやすくするため、国家戦略特区の活用にとどまらず、中長期的視点に立って総合的な検討を進めていく」、「中長期的な外国人材の受入れの在り方については、移民政策と誤解されないように配慮し、かつ国民的なコンセンサスを形成しつつ、総合的な検討を進めていく」と記された。

 一方、2015年6月の再興戦略でも、「外国人材の活用」は「女性の活躍推進」と並んで雇用制度改革・人材力の強化の一環として位置づけられている。「高度外国人材や留学生が積極的に我が国を選んで活躍してもらえるよう、引き続きその取組を強化するとともに、今後、特に需要増が見込まれる IT・観光等の専門的・技術的分野における外国人材や経済連携協定に基づく介護福祉士候補者の活躍促進に向けた施策を講ずる」とある。そして、「経済・社会基盤の持続可能性を確保していくため、真に必要な分野に着目しつつ、中長期的な外国人材受入れの在り方について、総合的かつ具体的な検討を進める。このため、移民政策と誤解されないような仕組みや国民的なコンセンサス形成の在り方などを含めた必要な事項の調査・検討を政府横断的に進めていく」とある。前年の「総合的な検討」が「総合的かつ具体的な検討」となり、また「調査・検討を政府横断的に進めていく」と一歩踏み込んだ表現になっている。

 そして、今年の再興戦略(2016年6月)では、多様な働き手の参画の一環として、「外国人材の活用」が位置づけられ、高度人材の受け入れや留学生の就職支援など5項目が掲げられているが、注目すべきは初めて「外国人受入れ推進のための生活環境整備」が言及されたことである。「日本の一般的な公立学校においても日本語指導を受けながら学校生活を過ごせるよう、可能な限り早期に日本語指導を必要とする外国人児童生徒の日本語指導受講率 100%を目指すとともに、特に日本語指導の必要な外国人児童生徒の多い地域においては「JSL カリキュラム」における指導が確実に実施されるようにする。...『外国人患者受入れ体制が整備された医療機関』については本年度中に40か所程度へ拡充する」とあるが、外国人の生活環境整備に関する数値目標が明示されたのは初めてといえよう。さらに、「経済・社会基盤の持続可能性を確保していくため、真に必要な分野に着目しつつ、外国人材受入れの在り方について、総合的かつ具体的な検討を進める。このため、移民政策と誤解されないような仕組みや国民的なコンセンサス形成の在り方などを含めた必要な事項の調査・検討を政府横断的に進めていく。」とある。前年の「中長期的な外国人材受入れの在り方」から「中長期的な」が削除されたことが注目される。

 こうしてみると、政府は、一歩一歩、外国人の生活環境の整備を進めようとしていることが伺える。特に、今年度の再興戦略で、教育と医療に関する数値目標が明示されたことは重要な進展といえる。

 2000年代以降、多文化共生に取り組む地方自治体のネットワークとして、国に政策提言をしてきた外国人集住都市会議(座長都市:愛知県豊橋市)と多文化共生推進協議会(事務局:愛知県)は、教育や医療分野で国の取り組みが進もうとする今こそ、同分野のさらなる充実や他分野も含めた総合的な体制整備に向けて提言することが望まれる。特に、今年度末に見直し予定となっている「日系定住外国人施策の推進について」(2014年3月)は、定住外国人全般を対象とした計画に格上げすることを求めるべきであろう。

日本再興戦略2013
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seicho_senryaku2013_old.html#c4

日本再興戦略2014
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seicho_senryaku2013_old.html#c10

日本再興戦略2015
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seicho_senryaku2013_old.html#c16

日本再興戦略2016
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seicho_senryaku2013.html#c21