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第13回2016.04.27

東京都多文化共生推進指針

東京都が2016年2月に多文化共生推進指針を策定しました。東京都は、全国の都道府県の中で最も外国人住民が多く、人口に占める外国人の割合も約3.3%で全国一ですが、これまで多文化共生に力を入れてきませんでした。今回の指針策定は大きな転機となるに違いありません

東京都は、1990年代に国際政策推進大綱(1994)や国際政策推進プラン(1997)を策定し、外国人都民会議(1997-2000)も設置するなど、地域の国際化を積極的に推進していました。ところが、2001年になると、外国人都民会議を廃止し、国際政策を所管していた国際部も廃止し、その業務は知事本局秘書部外務課と生活文化局文化振興部地域国際化推進課に引き継がれました。その後、地域国際化推進課も廃止され、地域国際化の位置づけは次第に下がっていきました。

その東京都に変化が現れたのが2014年でした。同年2月に舛添要一知事が就任すると、6月の都議会で、多文化共生社会の実現に向けて、多様性への理解と人権尊重の理念を都民全体で共有できるように積極的に啓発に取り組む旨の答弁を行い、7月から8月にかけての定例記者会見で、オリンピック・パラリンピックの主催都市としてヘイトスピーチに反対する姿勢を示しました。12月には、「世界一の都市・東京」を目指した「長期ビジョン」を策定し、「世界をリードするグローバル都市の実現」を唱えました。

2015年4月になると、生活文化局都民生活部に多文化共生推進担当課長、人権部人権施策推進課に多文化共生担当係長を置き、両部署を中心に多文化共生を推進する体制を敷きました。6月には人権部が人権啓発ビデオ「外国人の人権-成熟した多文化共生社会の実現に向けて」を制作し、8月には人権施策推進指針を改定し、外国人の人権擁護のため、多文化共生の意識啓発を重視する方針を示しました。10月に開いた東京都初の大型人権啓発イベントは、メインテーマに「多文化共生社会の実現」を掲げました。12月に策定した「2020年に向けた東京都の取組-大会後のレガシーを見据えて」では、「多様性を尊重する共生社会づくり」の一つとして、「参加型・活躍型の多文化共生社会実現」を掲げました。

そして2016年2月に多文化共生推進指針を策定しました。この指針の最大の特徴は指針の副題「世界をリードするグローバル都市へ」に示されているように、グローバル都市をめざすために多文化共生を推進することを掲げ、日本人と外国人が共に活躍できる都市をつくることを謳っていることです。基本目標は「多様性を都市づくりに活かし、全ての都民が東京の発展に向けて参加・活躍でき、安心して暮らせる社会の実現」です。多様性を活かした都市づくりという観点は、まさに筆者がこれまで唱えてきた「多文化共生2.0」(第2ステージの多文化共生)といえます(拙稿「多文化共生社会に向けて」第92回参照)。

指針のもう一つの特徴として、「世界一の都市」をめざすため、外国の大都市との比較を意識している点です。指針の資料編には、ロンドンやニューヨーク、ソウルなど海外都市における多文化共生の取組状況が掲載されています。自治体の多文化共生の指針や計画に外国自治体の事例が掲載されたのは、おそらく初めてのことと思われます。

今年度の東京都の新たな取り組みとして、外国人住民に生活情報を提供するポータルサイトの立ち上げと外国人向けの生活案内冊子「東京スターターズ・ガイド(仮称)」の刊行が予定されているようですが、今後の東京都に期待したいのは以下の三点です。

第1に、自治体としては、全国で一番大きい組織である東京都庁内の連携です。舛添知事が就任して、人権と多文化共生の指針が策定されました。今後は、教育や医療、労働、防災などの分野に多文化共生の観点を取り入れ、東京都全体で様々な政策を連動させて実施していくことで、多文化共生社会づくりを進めることが望まれます。特に、外国人児童生徒教育の充実は欠かせないでしょう。

第2に、区市町村のネットワークづくりです。自治体のネットワークとしては、これまで南米系外国人の多い自治体のネットワークである外国人集住都市会議が国の政策に大きな影響力をもってきました。しかし、南米系外国人は数の面から言えば、全国の外国人住民全体の1割にすぎず、全体の中ではアジア系の外国人住民が多数を占めています。東京都には、多文化共生を進める都内区市町村がつながり、成功事例を共有し、社会に発信していくネットワークづくりが求められています。

第3に、大学や企業との連携です。日本社会は、同質性が高くまた同質性を好む社会ですが、企業と大学は、この10年位の間に、多様性(ダイバーシティ)を進める方向に舵を切りました。東京都は、全国で最も大学や企業が集中した自治体です。今後、東京都が大学や企業と連携して、多文化共生社会づくりに取り組み、全国のモデルとなることが望まれます。

東京都多文化共生推進指針
http://www.metro.tokyo.jp/INET/KEIKAKU/2016/02/70q2g100.htm

東京都総務局人権部「じんけんのとびら」
http://www.soumu.metro.tokyo.jp/10jinken/tobira/

人権啓発映像「外国人の人権-成熟した多文化共生社会の実現に向けて」
https://www.youtube.com/watch?v=l6spuxbwIXs&index=6&list=PLBuPgafouWckVRBKcEz9OA9Ye6sZzLa1H

東京都人権施策推進指針
http://www.metro.tokyo.jp/INET/KEIKAKU/2015/08/70p8p100.htm

ヒューマンライツフェスタ東京2015
http://www.tokyo-human-oct.com/

多文化共生に関する知事議会答弁(2014年6月17,18日)
http://www.soumu.metro.tokyo.jp/10jinken/tobira/tijigikai.html

東京都多文化共生推進指針の策定を発表した知事記者会見(2016年2月16日)の記録
http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/KAIKEN/TEXT/2016/160216.htm