メールマガジン

第07回2015.10.28

台湾の移民政策

日本の隣国である韓国では、2006年以来、外国人政策の大胆な改革が進んできたことは、拙稿「多文化共生社会に向けて」(第6、18、29回)でも紹介しましたし、現在、日本の多文化共生関係者の多くに知られるところとなっています。一方、もう一つの隣国である台湾の外国人政策については、まだあまり知られていないのではないでしょうか。

台湾の人口は約2350万人で、外国人(中国大陸出身者を含まず、以下同様)は約61万人(うち外国人労働者が約53万人)で、主な出身国はインドネシア、ベトナム、フィリピン、タイです。一方、外国出身配偶者(帰化者や中国大陸出身者を含む、以下同様)の数は約51万人(外国人5万、帰化者11万、中国大陸出身者34万)で、主な出身国は中国(65%)、ベトナム(18%)、インドネシア(6%)となっています。

台湾は、1980年代までは移民の送り出し国でしたが、1990年代以降、外国人労働者の受入れが進んだことに加え、中国大陸や東南アジアの女性と台湾男性の結婚が増え、移民の受け入れ国へと転換しました。1999年に入出国及移民法が制定され、2003年に「外国籍及び大陸配偶者生活状況調査」が行われ、2005年に外国人配偶者を支援するための基金が設立された後、2007年、内政部(内務省に相当)に入出国及移民署(2015年に移民署に改称)が設置され、台湾の移民受入れ体制が整備されました。

具体的には、まず、全国の自治体に移民署のサービスセンターが置かれました。同センターでは、出入国管理に関する様々な手続きを行うだけでなく、移民に対する多言語での相談窓口が設けられ、移民に対する生活支援が強化されました。

移民署では、2008年に、「新家郷、新生活」と題した外国出身配偶者のための生活ガイド(中国語を含めた7言語)を発行しました。また、「外国人在台湾」と題した外国人のためのポータルサイトを設けました。2010年に、『移民』と題した隔月刊誌を発行し、2011年に、国連が国際移住者デーに定めた12月18日を移民の日としました。そして、2012年には、全国新住民火炬(トーチ)計画を始めました。これは、内政部と教育部(教育省)が連携して取り組んでいるプログラムで、全国の外国人の多い学校を重点校に指定し、多元文化教育や家庭訪問、母語学習プログラム、ボランティア養成などを推進する取り組みです。

以上は、移民署を中心とした国の動きですが、この間、自治体の取り組みも進んでいます。筆者は今年9月に台湾の三つの主要都市を訪問したので、以下簡単に報告したいと思います。

まず、台湾の首都である台北市(人口270万人)です。台北市には5万8000人の外国人が住んでいます。一方、外国出身配偶者は5万7000人となっています。台北市は2005年そして2006年に全国に先駆けて「新移民会館」をつくりました。新移民とは、1990年代以降台湾にやってきた外国人、特に外国人配偶者を指します。新移民会館では、移民の相談にのったり、移民が集まって軽食をとりながら親睦をはかったり、中国語を学んだりする場となっています。南港新移民会館と萬華新移民会館があり、私は後者を訪問しました。入口の直ぐ脇に乳幼児のプレイルームがあり、託児スタッフも常駐しているのが印象的でした。

台北市が設けた移民サポートの拠点としては、新移民婦女及家庭サービスセンターもあります。こちらは、2014年に設立されたもので、民間団体に委託しています。結婚移民女性やその家族をサポートするため、法律や心理など専門的な相談が行われています。こちらにも、乳幼児のプレイルームやキッチンがありました。今回、訪問はできませんでしたが、台北市には新移民コミュニティサービスの拠点が市内の東西南北4地域に置かれ、新移民の家庭を訪問して、サポートする体制も整えられています。

さらに、台北市では、2007年に、こちらも全国に先駆けて、多元文化資料センターを市立図書館に設置しました。ここでは、新移民の言語に対応して、8カ国語の書籍や雑誌などがそろえてあります。様々な講座を開くための多目的室やパソコンルームもあります。このセンターの設置にあたっては、アメリカやカナダなどの図書館の多言語サービスを参考にしたそうです。

次に台湾南部の中心都市である高雄市(人口280万人)です。高雄市には5万4000人の外国人が住んでいます。一方、外国出身配偶者は5万9000人です。高雄市では、2005年に新移民に関するワーキンググループが設けられましたが、2014年には、全国に先駆けて新移民事務専門室を設置し、新移民に関する窓口の一本化を図りました。高雄市には、市内5区に新移民家庭サービスセンターが置かれ、市内19区に新移民コミュニティサービスの拠点が置かれています。私は、旗山区にあるサービスセンターを訪問しました。2006年に設置された同センターは高雄市旗山社会福利サービスセンターの中にあり、市が直営しています。

高雄市では、移民署第1サービスセンターも訪問しました(高雄市、台南市、台中市のみ市内2か所にサービスセンターあり)。センター内の壁には、手書きで様々な情報が書かれた模造紙が貼られており、センターの訪問者に少しでも温かい印象を与えようとしていることが印象的でした。なお、センターでは、高雄市内にある16の大学と協定を結んで、学生のインターンを受け入りたり、多元文化の尊重に関するキャンペーンを行ったり、センター職員が大学に出向いて、留学生のビザ手続きを行っています。

最後に台湾の古都、台南市(人口190万人)です。台南市には5万3000人の外国人が住んでいます。一方、外国出身配偶者は3万2000人です。台南市では移民署第一サービスセンターを訪問しました。このセンターを訪問して何よりも驚いたのは、建物が美しい二階建ての歴史的建造物であったことでした。また、センターを案内してくれたのは英語の堪能な若い男性職員でしたが、センターの仕事への熱意を感じました。

なお、台湾では、近年、新移民に代わって新住民という用語が用いられることが多くなっています。これは、移民が台湾社会の一員となっている観点から用いられているようです。前述の『移民』でも、移民が台湾社会に貢献している実例の紹介に力を注いでおり、政府や自治体の移民を歓迎する姿勢を各所で感じました。

中華民国内政部移民署
http://www.immigration.gov.tw/mp.asp?mp=1

外国人在台湾(日本語を含む7言語)
http://iff.immigration.gov.tw/iffwelcome.asp

全国新住民火炬(トーチ)計画
http://www.immigration.gov.tw/mp.asp?mp=tp

移民署台北市サービスセンター
http://www.immigration.gov.tw/mp.asp?mp=s002

台北市新移民専区(日本語版あり)
http://nitj.taipei/mp.asp?mp=102167

台北市新移民婦女及家庭サービスセンター
http://niwfs.eden.org.tw/

移民署高雄市第1サービスセンター
https://www.immigration.gov.tw/mp.asp?mp=s017

高雄市旗山新移民家庭サービスセンター・フェイスブックページ
https://www.facebook.com/csnewinhabitant

移民署台南市第1サービスセンター(建物の画像あり)
https://www.immigration.gov.tw/mp.asp?mp=s015