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第05回2015.08.26

MIPEX 2015と移民統合指標

2000年代以降、ヨーロッパを中心に移民統合政策の国際比較が盛んになっていますが、その先駆的で代表的な取り組みが移民統合政策指数(Migrant Integration Policy Index)です。この指数がマイグレーション・ポリシー・グループ(Migration Policy Group)によって初めて用いられ、国際比較の調査結果が公表されたのが2004年で、EUの15カ国(西欧諸国)が参加しました。2回目となる2007年にはEUの25カ国とノルウェー、スイスさらにカナダが参加しました。そして、2011年に3回目の調査結果が公表された時には、ブルガリアとルーマニアさらにアメリカも加わり、欧州29カ国(うちEU27カ国)と北米2カ国が参加しました。

そして、今年6月30日に、4回目の調査結果(MIPEX 2015)が公表されました。第3回目の参加国にアイスランド、トルコ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国そして日本が加わり、38か国となりました。具体的には、8つの政策分野(労働市場、家族呼び寄せ、教育、保健、政治参加、長期滞在、国籍取得、反差別)について、167の政策指標を設け、数値化しています。その結果、総合的な評価では、スウェーデンが1位(78点)となり、ポルトガルが2位(75点)、ニュージーランドが3位(70点)となりました。4位以下10位まで、フィンランド、ノルウェー、カナダ、ベルギー、オーストラリア、アメリカ、ドイツとなっています。ちなみに、日本はスロベニア、ギリシャと並んで27位(44点)です(最下位はトルコで25点)。

今回の調査結果で、前回と比較して注目されたのは、オランダとイギリスが大きく点数を落としたことでした。オランダは、68点から60点への減少で、今回参加国で最も大きく点数を落としました(順位は5位から11位へ降下)。その理由としては、移民に課された統合試験に合格するための公的支援が削減され、試験も有料となったこと、移民の就労や家族呼び寄せの制限が強化されたことなどがあります。イギリスの点数も63点から57点へと減少しました(順位は12位から15位へ降下)。家族呼び寄せそして長期滞在や国籍取得の制限強化などが影響したようです。

一方、前回から点数を伸ばした国もありますが、10点増加したデンマーク(49点から59点、14位から13位へ上昇)が突出しています。また、欧州最大の移民受け入れ国となったドイツも3点増加し、順位も12位から10位に上昇していることも注目に値します。

今回の日本の調査結果を政策分野別に見てみると、比較的評価の高いのが労働市場(65点、15位)、家族呼び寄せ(61点、20位)、保健(51点、16位)の3分野で、残る5分野は、教育(21点、29位)、政治参加(31点、23位)、長期滞在(59点、20位)、国籍取得(37点、23位)、反差別(22点、37位)となっています。近年、ヘイトスピーチ問題が日本でも大きく取り上げられていますが、反差別政策の評価が特に低いことが注目に値します。

なお、MIPEXの調査に対して、法律や制度がよくても実際に機能しているかどうかは別問題であるという指摘がこれまでありましたが、今回の調査では、政策を評価する指標だけでなく、政策の成果(アウトカム)の指標を用い、政策の受益者に関するデータも集めて、各国の政策をより総合的に評価することに努めています。

MIPEX 2015がブリュッセルで発表された2日後に、OECDとEUによって、移民統合に関する指標を使った調査結果がパリで発表されました。前者が移民統合政策の評価を目的にしているのに対して、後者は移民統合がどれだけ進んでいるかを測る調査です。具体的には、労働市場、教育、社会包摂(所得、住居、保健)、市民参加(civic engagement)、共生社会(social cohesion)の分野で27の指標が用いられています。実は、OECDは、2012年12月に、移民統合の指標を使った最初の調査結果を公表しました。取り上げた分野は、所得、住居、保健、教育、労働市場、職種、市民参加、差別です。また、EUも、2013年3月に、移民統合の指標を使った最初の調査結果を公表しました。取り上げた分野は、雇用、教育、社会包摂、アクティブ・シティズンシップです。今回は、両者が協力して、より包括的な調査を行った画期的な報告書といえます。

今回の調査では、大半の分野で、移民のほうが本国生まれの人よりも、より低い結果が出る傾向があり、特にEUにおいてその傾向が顕著であることが明らかになりました。調査結果で特に注目されたのは、移民の子どもが、特にEUにおいて、教育の躓きによって、就職も難しいという困難を抱えていることです。また、移住した親よりも、その国に生まれた子のほうが労働市場で成功しているとしても、差別をより感じるという結果も出ています。なお、日本は雇用と教育に関する一部のデータを提供しているだけなので、残念ながら大半の分析の対象とはなっていません。

移民の統合は、人のグローバルな移動が広がる中、先進国共通の課題となり、政府関係者、研究者、市民社会等が参加する国際的な調査研究のコミュニティが形成されつつあります。日本政府も、早急に移民統合(多文化共生)に関する態勢整備に取り組み、こうしたコミュニティに参画することが求められます。

MIPEX 2015
http://www.mipex.eu/

Indicators of Immigrant Integration 2015
http://www.oecd.org/migration/indicators-of-immigrant-integration-2015-settling-in-9789264234024-en.htm