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第95回2015.02.25

東日本大震災の教訓

東日本大震災から間もなく4年となりますが、宮城県国際化協会(MIA)と仙台国際交流協会(SIRA)という二つの地域国際化協会が大震災時の外国人被災者支援の経験を振り返り、総括した報告書「東日本大震災からの学び―大災害時、県・政令市の地域国際化協会の協働と補完を再考する」が、今月刊行されました。大震災時の外国人支援の最前線で活動した関係者の振り返り自体が貴重ですが、宮城県と仙台市の協会職員が合同で報告書を作成したことはさらに意義あることといえます。なぜなら、都道府県と都道府県庁所在地の市は、ある種の競合関係にあり、連携・協働することは困難な場合が多いからです。

報告書を読むと、SIRAは仙台市内の外国人留学生や短期滞在者への多言語での情報提供に主にかかわり、MIAは津波による壊滅的被害を受けた宮城県沿岸部の日本人配偶者等に対する物心両面での支援に主にかかわったことがわかります(3章)。対象となる外国人が異なれば、支援のあり方が異なるのは当然のことですが、両者の間にはもう一つ違いがありました。それは、全国から支援にやってきた各種団体との関係であり、SIRAは受け入れを進めましたが、MIAは基本的に受け入れませんでした(2章)。

東日本大震災時の外部団体の活動については、両協会とともに報告書を作成したJ・F・モリス宮城学院女子大学教授が、外部団体の支援の多くが被災者不在の支援になっていたと報告しています(序章)。また、総務省の「多文化共生の推進に関する研究会」による報告書「災害時のより円滑な外国人住民対応に向けて」(2012年12月)についても、自立と社会参画の道筋が示されておらず、被災地の団体と外部団体の協力のあり方への言及がないと述べています(1章)。

こうした指摘の根底には、近年策定された被災者支援の国際的な指針の中に示されている、被災者の自助力と地域の共助力の強化という基本理念があります。そして、災害時における外国人支援の基本は、本人の自助力を高めること、及び本人と周囲の社会(家族、職場、学校、地域社会など)との関係性を修復することを通して地域の共助力を高めることであるとモリス氏は強調しています(1章)。そうした観点から、総務省の報告書が多言語情報の発信に重きを置き、定住外国人の日本語学習機会の保障の意義に言及していないことも指摘しています。

今回の報告書には、両協会の活動記録やモリス氏の論考の他、関係者の座談会、気仙沼市の事例、セーフティネットとしての日本語教室の実践、被災した外国人住民の声などが含まれ、幅広い観点から東日本大震災時の外国人支援のあり方を振り返る内容となっています。

報告書では平時に顔の見える関係をつくっていることが、災害時の連携・協働につながることが強調されていますが、こうした報告書を共同で刊行することはそうした関係づくりに向けた大きな一歩に違いありません。両協会の関係がさらに深まり、広域自治体と基礎自治体の連携・協働モデルとして、全国の多文化共生をリードする存在となることを期待したいと思います。

宮城県国際化協会
http://mia-miyagi.jp/

仙台国際交流協会
http://www.sira.or.jp/japanese/

報告書「東日本大震災からの学び」は下記URLに掲載予定。
http://mia-miyagi.jp/archive.html
http://www.sira.or.jp/japanese/activity/pub.html