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第94回2015.01.28

世界の移民問題10大ニュースと外国人材ポイント制度

アメリカ・ワシントンDCにある移民政策のシンクタンク、移民政策研究所(Migration Policy Institute)が、世界の移民問題に関する2014年の10大ニュースを昨年12月に発表しました。

1位:紛争や迫害によって避難を余儀なくされた人が戦後最大の5100万人を超過
2位:オバマ大統領が500万人の非合法移民の合法化を含む移民制度改革に着手
3位:国境管理と人道的保護のジレンマを抱える欧米の移民政策
4位:エボラ感染の拡大阻止のために強化された世界の国境管理
5位:子どもの越境という新たな国境管理の課題を抱えるアメリカ南西部
6位:シリアやイラクのイスラム過激派の戦闘に加わった自国民の帰国を憂慮する欧米
7位:中東や東南アジアで働く外国人労働者の搾取問題が顕在化
8位:移民の送り出し国から中継・受け入れ国へと変貌を遂げるメキシコ
9位:伝統的な外国人材ポイント制度の終焉
10位:中国の新潮流―国内移住を制限する戸籍制度の改革と富裕層の海外移住

国境管理のニュースが多いことが目を引きますが、私が一番興味をもったのは9位の外国人材ポイント制度のニュースです。なぜなら、日本も2012年に導入した制度でもあるからです。以下、ポイント制度に関する記事の内容を紹介したいと思います。

ポイント制度とは、学歴や職歴、技能、言語能力などをポイントに換算して合計し、一定のポイントに達した優秀な外国人材の入国を認める制度です。一定のポイントに達すれば受け入れ企業がなくても入国が可能となります。外国人を雇う企業の存在を前提とした、いわば労働市場の「需要」に基づく受け入れ制度に対して、ポイント制度は「供給」に基づく制度と言えます。

ポイント制度を世界で初めて採用したのはカナダで1967年のことでした。その後、オーストラリアが1979年に導入し、ニュージーランドが1991年に続きました。2000年代になると、高度人材の国際的な争奪戦が本格化し、ポイント制度は多くの国が採用するようになりました。イギリスが2002年に導入し、その後の5年間に、チェコ、香港、シンガポール、デンマークが続きました。

次第に広がりを見せたポイント制度でしたが、2000年代になると、カナダやイギリス、デンマークで、ポイント制度を使って入国した外国人に仕事がない、あるいは低賃金の仕事に就いていることが明らかになりました。そして、2010年にイギリスとチェコが受け入れ企業の決まっていない外国人のポイント制度による受け入れをやめました。また、カナダとオーストラリアもニュージーランドに倣って、受け入れ企業の決まっていない外国人の受け入れを縮小しました。

一方、近年、ポイント制度を始めた国もありますが、従来のポイント制度(供給型)と受け入れ企業の存在を前提とする制度(需要型)のハイブリッド型といえます。オランダは2009年に一定の学歴と職歴を持つ外国人に求職活動のための滞在を一年間認める制度を始め、オーストリアも2011年に同様に半年間の滞在を認める制度を始めました。どちらも、入国後に受け入れ企業が見つかると長期滞在が可能となります。一方、オーストリアでは、従来の受け入れ企業の存在を前提にしつつ、ポイントによる学歴や職歴などの審査を加えた制度も2011年に始めました。日本が2012年に導入したポイント制度もこの第2のハイブリッド型といえます。さらに、第3のハイブリッド型が、入国した外国人材の永住許可の申請時にポイントによる審査を行う制度で、韓国が2011年に始めました。

カナダでは、2015年1月から、「エクスプレス・エントリー」と呼ばれる優秀な移民選抜の新しい手続きが始まりました。以前は、移民(永住)ビザを申請した順に審査が行われ、ビザの発給まで一年以上かかりましたが、これからは、候補者のプールの中でポイントの高い外国人が優先的に審査を受け、ビザの発給は6か月以下でなされる予定です。そして、受け入れ企業が決まっていると高ポイントになり、有利になります。

カナダは半世紀近く前に世界に先駆けてポイント制度を始め、同制度は移民国家カナダの象徴的な取り組みと見られてきました。そのカナダがポイント制度を改革し、一つの時代が終わりを告げようとしています。外国人材の積極活用を打ち出した日本は、こうした移民政策の国際的潮流を見据えて、新たな制度設計に取り組む必要があるでしょう。

Migration Policy Institute: Top 10 of Migration Issues of 2014
http://migrationpolicy.org/programs/migration-information-source/top-10-migration-issues-2014

Citizenship and Immigration Canada: Express Entry
http://www.cic.gc.ca/english/immigrate/skilled/index.asp