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第92回2014.11.26

外国人集住都市会議と多文化共生2.0

2014年11月10日に外国人集住都市会議が東京都千代田区で開かれました。外国人集住都市会議は2001年5月に浜松市など南米系日系人の多い13市町が結成した組織で、現在、滋賀県長浜市が座長都市を務め、26都市が参加しています(9, 19, 44, 56, 68回参照)。

26都市の中から13首長が参加した今回の会議は、2部構成で行われました。第1部では、会議の三つの地域ブロックごとに、まずブロックリーダー都市の首長がブロックで行った調査研究に基づいた提言を発表し、その後、ブロックメンバーの各首長がそれぞれの都市の取り組みを報告し、さらに提言をめぐって、関係府省庁担当者との討論を行いました。テーマは、三重・滋賀・岡山ブロックが「外国人住民とともに構築する地域コミュニティ-地域における雇用の安定と日本語の習得について」、長野・岐阜・愛知ブロックが「外国人の子どもの教育について-義務教育及びその前後を含めた支援の必要性について」、そして群馬・静岡ブロックが「多文化共生社会における防災のあり方-共に助けあえる地域づくりにむけて」でした。

後半の第2部では、葉梨康弘法務副大臣兼内閣府副大臣、佐々木則夫経団連副会長(東芝副会長)、藤井勇治長浜市長そして鈴木康友浜松市長の4人をパネリストに迎え、「人口減少時代の多文化共生政策」をテーマにパネル討論が行われました。外国人集住都市会議では、2010年の会議から政府関係者(関係府省庁の副大臣や前大臣)を招き、政治レベルの討論を行うようになりましたが、今回初めて、経済界を代表する企業役員も招いての討論となりました。

パネル討論では、政府が今年になって新たな外国人労働者の受け入れについて集中的に議論を進め、外国人材の活用を打ち出したのに対して、多文化共生政策に関する議論が進んでいないことについてどう考えるか、そして国、自治体、経済界などが連携して、多文化共生政策を推進するにはどうしたらよいか、話し合いました。

第2部の後、鈴木浜松市長から外国人集住都市会議の新たなあり方についての報告がありました。会議は来年4月に組織再編することが打ち出されましたが、主な変更点は以下の2点です。第1に、会議の構成都市を南米系外国人の多い都市に限定せず、多文化共生に取り組んでいる都市に広げること、第2に、会議の目的として、外国人住民にかかわる課題の解決に向けて国に働きかけるだけでなく、外国人住民の存在を積極的にとらえ、多様性を生かしたまちづくりに取り組んでいくことです。会議の最後に発表された「ながはま宣言」でも、「諸課題の解決とともに、外国人住民の持つ多様性を生かしたまちづくりという観点を、今後における当会議の主要なテーマとする」ことが打ち出されて、幕を閉じました。

こうした新しい方向性が打ち出された背景には、在住外国人の量的そして質的な変化があります。まず、日系人を中心とする南米系外国人の数がリーマンショック以後、大きく減少した一方で、政府が外国人材の活用を打ち出したことによって、今後、アジアを中心とした外国人の増加が予想されることです。また、1990年代に来日し、定住した外国人の第2世代の中から地域社会で活躍する人材が現れるようになったことです。そして、政府が外国人材の活用を打ち出した背景には、少子高齢化と人口減少そしてグローバル化の進展という21世紀前半の大きな潮流があることは言うまでもありません。

外国人の存在を積極的にとらえ、多様性を生かしたまちづくりを進めるという観点は、2008年にスタートした欧州評議会のインターカルチュラル・シティ・プログラムで打ち出され、日本でも欧州のインターカルチュラル・シティとの政策交流を目的とした2012年の日韓欧多文化共生都市サミットに参加した浜松市が、2013年に多文化共生都市(インターカルチュラル・シティ)ビジョンを策定するなどして、少しずつ関心が高まりつつあります(58, 68, 75, 80回参照)。

2006年の総務省の多文化共生推進プランの策定以来、全国の自治体に多文化共生の取り組みが広がっていきました。しかし、そうした取り組みの多くは、外国人支援を中心とするものでした。一方、多様性を生かしたまちづくりという観点は、これまでの多文化共生の取り組みをさらに進展させたものであり、これを私は、多文化共生2.0(バージョンアップした多文化共生)と呼んでいます。今回、外国人集住都市会議が多文化共生2.0を取り入れたことによって、こうした観点が全国に広がっていくことが予想されます。