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第89回2014.08.27

企業と多文化共生

企業や経済団体が多文化共生に初めて言及したのは、経団連が2004年に策定した「外国人受け入れ問題に関する提言」でした。「多様性のダイナミズムを活かし、国民一人ひとりの"付加価値創造力"を高めていく、そのプロセスに外国人がもつ力を活かすための総合的な受け入れ施策」を提言し、多文化共生の社会の形成を唱えました。

企業による外国人の雇用に関しては、多文化共生社会づくり推進共同宣言(2004年)を行った東海三県一市(愛知県、岐阜県、三重県、名古屋市)が、2008年に「外国人労働者の適正雇用と日本社会への適応を促進するための憲章」を策定しました。この憲章は、外国人を雇用する企業に労働関係法令の遵守と多文化共生社会づくりへの貢献を求めるものです。

一方、2000年代に一気に広がったCSR(企業の社会的責任)の一環として、三井物産が2005年に在日ブラジル人(特に児童生徒)支援活動に乗り出しました。CSRとしては、愛知県が2008年に設置した「日本語学習支援基金」も注目に値します。これは、外国人児童生徒の日本語学習を支援するために、県内企業の協力を得て、立ち上げたものです。

近年、外国人雇用とCSRに関して、新たな展開が起きています。外国人雇用については、経団連提言が唱えた「多様性のダイナミズム」を多くの企業が追及し、ダイバーシティ経営に取り組むようになりました。経済産業省は2012年に「ダイバーシティ経営企業100選」事業を始めました。また、人口減少、特に生産年齢人口の減少が急速に進む中、労働力確保のため、女性に加えて、外国人を活用する政府の取り組みも今年、始まろうとしています。

そうした中、外国人留学生の採用を2008年から積極的に進め、現在、女性採用比率5割、外国人3割という多様性(ダイバーシティ)戦略を進めているローソンは、2014年7月、コンビニ各店舗に人材紹介する専門会社を設立しました。日本語ができない外国人も積極的に受け入れ、日本語の指導も行うといいます。

一方、CSRとの関連では、経済的価値と社会的価値の同時実現を求めるCSV(共通価値の創造)が企業の中で広がりつつあります。CSVを多文化共生にあてはめたのが、ベネッセのグループ会社であるラーンズ(本社:岡山市)が2012年4月にリリースした多言語生活情報「いろはにっぽん生活応援パック」です。自治体や企業を支援することをめざして、全国700近くの自治体と在住外国人の調査をもとに開発しました。

今後、ダイバーシティ経営を進める企業や多文化共生の視点を企業が増えていくでしょう。グローバル人材を求める企業とダイバーシティとモビリティ(流動性)の推進に大きく踏み出しつつある大学の連携は近年、急速に進みつつありますが、多文化共生を進める自治体も加わった三者の連携で、日本社会をより多様で世界に開かれた社会に変革する推進力が生まれるかもしれません。

経団連「外国人受入れ問題に関する提言」
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/029/

東海三県一市「外国人労働者の適正雇用と日本社会への適応を促進するための憲章」
http://www.pref.aichi.jp/0000009997.html

三井物産:ブラジルとの取り組み
http://www.mitsui.com/jp/ja/csr/contribution/brazil/

愛知県「日本語学習支援基金」
http://www.pref.aichi.jp/0000017043.html

経済産業省:ダイバーシティ経営企業100選
http://www.diversity100sen.go.jp/index.html

ラーンズ:いろはにっぽん
http://www.learn-s.co.jp/shop/irohanippon/index.aspx