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第86回2014.05.28

外国人労働者か移民か

2014年4月4日に、建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置を検討する閣僚会議(第2回)が開かれ、「当面の一時的な建設需要の増大への緊急かつ時限的措置」(2015~2020年)として、「即戦力となり得る外国人材の活用促進」を図ることを決定しました。

また、同日、経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議も開かれ、「内なるグローバル化」について審議が行われました。その中で、まず経済財政諮問会議の有識者議員を代表して佐々木則夫議員(東芝副会長)から「持続的成長のためのグローバル化の課題」の報告があり、続いて、産業競争力会議の長谷川閉史雇用・人材分科会主査(武田薬品工業社長)から「持続可能な成長の確保に向けた外国人材活用のあり方」の報告がありました。いずれも、外国人材の積極活用を説くもので、具体的には、高度人材の受け入れ拡大、技能実習制度の拡充、家事・介護分野の受け入れ検討が提案されました。また、外国人材政策の司令塔機能の設置が唱えられました。

一方、経済財政諮問会議では、今年1月に「選択する未来」委員会を設け、50年という長期的観点に立ち、2020年頃までに取り組むべき課題を検討しています。2月24日に開かれた第3回委員会では、目指すべき日本の未来の姿について審議し、出生率が2030年までに2.07に上昇し、2015年以降、毎年20万人の移民を受け入れると日本の人口を1億1,000万人程度で維持できることを示しました。この試算が発表されて以来、マスコミやネット上で、移民政策の是非が盛んに議論されるようになりました。同委員会のキーパーソンとして、移民政策を提唱している岩田一政委員(日本経済研究センター理事長)と人口減少が自治体にもたらす影響に警鐘を鳴らしている増田寛也委員(前岩手県知事)を挙げたいと思います。

同委員会では、5月13日に中間整理がまとめられましたが、その中では、移民は受け入れず、出生率の上昇のみによって、日本の人口を1億人に維持することが提案されました。「オープンな国づくり」を謳い、外国人材を活用しながら、あくまでもその定住化は阻止する趣旨のようです。

実は、4月4日の合同会議でも、安倍首相は外国人材を積極的に活用するが移民政策はとらないことを強調しました。外国人労働者は受け入れるが、移民政策はとらないとは、外国人労働者を期限付きで受け入れるが、一定期間が過ぎたら必ず帰国させることを指しているようです。労働力はほしいが、受入れにともなう社会的コストはできるだけ避けたいということでしょうか。

移民政策とは、外国人の出入国および在留全般に関する政策を指す場合と外国人を定住者(移民)として受け入れる政策を指す場合があります。政府が使っているのは後者のようですが、その定義に従っても、実は、政府はすでに移民政策をとっています。中国帰国者やインドシナ難民、日系人といった人たちは定住を前提に受け入れてきましたし、最近では、高度人材や留学生も同様です。特に、高度人材については、ポイント制度を採用して、永住資格の取得を優遇するなど、積極的にこうした外国人の定住促進策をとっています。従って、安倍首相を始めとして、政府関係者が一様に移民政策をとらないことを強調するのは不思議なことと言えます。

また、本来、中長期的な観点に立った外国人受入れのビジョンに基づき、外国人労働者の活用を検討すべきなのに、オリンピックの建設ニーズに応える形で、いわば緊急対策として、ビジョンなきままに外国人労働者の受入れに踏み出すことは、望ましくありません。欧米諸国では、期限を区切って受け入れたはずの外国人労働者の定住化が進んでいった例が少なくありませんが、日本はそうならないでしょうか。

いずれにしても、日本政府は、1988年から四半世紀維持してきた専門的・技術的分野の外国人労働者のみ積極的に受け入れるという、限定的な外国人受け入れ政策を見直すようです。

内閣官房:建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置について
http://www.cas.go.jp/jp/houdou/140404kensetsu.html

内閣府:経済財政諮問会議
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/index.html

内閣府:「選択する未来」委員会
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/index.html