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第84回2014.03.26

第三国定住難民

2014年1月、2010年度から2014年度までの5年間パイロットケースとして取り組むことになっていた第三国定住難民の受け入れを、2015年度以降も継続する旨の閣議了解がなされました。

難民の第三国定住とは、難民キャンプなどで一時的な庇護を受けている難民が、受入れに合意した第三国において定住することを指します。日本では、2008年12月の閣議了解に基づき、アジアで初めて、2010年度から第三国定住による難民の受入れをパイロットケースとしてスタートしました。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、2012年末時点で、迫害、紛争、暴力、人権侵害などにより、世界中で4,520万人が避難を余儀なくされ、そのうち1,540万人が難民です(その他は国内避難民と庇護申請者)。難民の第三国定住は、難民問題に関する負担を国際社会において適正に分担する観点から重視されている取り組みで、現在、アメリカやカナダ、オーストラリアなど27か国が計約8万人を受け入れています。

日本では、第三国定住難民の受け入れを始めるまでに、インドシナ難民や難民条約に基づき受け入れる難民(条約難民)を受け入れてきました。インドシナ難民は、1970年代後半、ベトナム、ラオス、カンボジアに新しい政治体制が発足し、国外へ脱出した人々です。日本にも漁船などに乗って脱出した難民(ボートピープル)が多数到着し、1978年から受入れが終了した2005年までの間に、約11,000人を超えるインドシナ難民を受け入れました。このインドシナ難民問題をきっかけに、日本は、1981年に難民条約に加入し、条約難民の受入れを開始しました。これ以降、2013年までに622人の条約難民を受け入れています。また、同じく2013年までに、難民認定はされなかったものの、人道的配慮から在留が認められた外国人は、2,257人となっています。

2010年度からパイロットケースとしてスタートした第三国定住による難民の受入れは、タイの難民キャンプに滞在するミャンマー難民を、5年間、毎年約30人ずつ家族単位で日本に受け入れ、日本社会への定着を支援していく取組です。現地で国際移住機関(IOM)による出国前研修を経て来日した難民は、政府が用意した宿泊施設に滞在し、生活援助費の支給を受けつつ、約6か月の定住支援プログラムを受けます。具体的には、日本語教育や社会生活適応指導、職業相談・職業紹介など、日本で自立生活を営むために必要な支援を受けます。定住支援プログラム終了後、日本語教育、職業相談、生活指導などのサポートを受けながら、地域社会での生活を始めます。

これまでこのプログラムのもと来日したのは、5家族27名(2010年度)、4家族18名(2011年度)、4家族18名(2013年度)の計13家族63名で、三重県鈴鹿市、千葉県東金市、埼玉県三郷市等で定住生活を始めました。受け入れ難民数が当初の計画を大きく下回り、特に2012年度の受け入れ数がゼロであることからも推測されるように、受け入れは必ずしもスムーズにいっていないのが現状ですが、難民の第三国定住の国際的意義を鑑み、政府は事業の継続を決定しました。上述のとおり、2015年度以降、本事業を継続するとともに、新たにマレーシアに一時滞在するミャンマー難民も受入れ対象とし、既に受け入れたミャンマー難民がタイの難民キャンプから家族を呼び寄せることもできるようになります。

2014年2月、笹川平和財団が主催する第三国定住難民の受け入れをテーマにしたシンポジウムが東京で開かれました。同財団では、2011年度から国内外で難民受け入れについて調査研究を実施し、国や自治体、国際機関、民間団体、研究者等多様な関係者が参加する円卓会議を開き、今後の第三国定住のあり方に関する提言をとりまとめました。主な提言内容は、2020年以降の年間500人(10自治体で各50名)の難民受け入れ、自治体主導の定住支援プログラムの実施、難民政策を所管する専門部局の設置です。

この提言からは、自治体が主体的に難民受け入れに取り組むことへの期待が高いことがわかりますが、過去4年間のパイロット事業の実績を踏まえると、毎年50名の難民受け入れに手を挙げる自治体が10現れる可能性は、今のところ低いように思われます。

今回の事業継続の閣議了解は、内閣官房が設けた「第三国定住に関する有識者会議」の報告書(2014年1月)を受けたものですが、そこには、第三国定住の意義として、国際社会への貢献を挙げるとともに、受入れ地域にとっては難民の存在が地域活性化に資することや労働力としての貢献が期待されていること、そして難民受け入れを通じて「多文化共生社会の構築に向けたモデル」となる可能性を指摘しています。

これは、難民の受け入れ推進が外国人全般の受け入れに資する可能性を指摘したものですが、他方で、外国人全般の受け入れ推進が難民の受け入れに資するとも言えます。実は、第三国定住に取り組んでいる主要国は、いずれも移民の受け入れで実績のある国です。今後、日本における第三国定住難民の受け入れ事業を進めていくには、国や自治体の外国人受け入れの取り組みとの連携が欠かせないのではないでしょうか。

<参考文献>
内閣官房「難民対策連絡調整会議」
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nanmin/index.html

第三国定住に関する有識者会議報告書(2014年1月)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nanmin/yusikishakaigi/pdf/houkoku.pdf

笹川平和財団:難民受入政策の調査と提言
http://www.spf.org/projects/project_8851.html
http://www.spf.org/event/article_9441.html

UNHCR: Resettlement
http://www.unhcr.org/pages/4a16b1676.html