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第83回2014.02.26

PISAと外国人生徒

2013年12月に、OECDが2012年に実施した生徒の学習到達度調査(PISA)の結果が公表されました。PISAは、15歳児を対象に、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について行う学習到達度調査であり、2000年以来、3年に一回実施されています。第5回となる今回の調査には日本を含めた65カ国・地域が参加しました。日本では、調査結果の発表のたびに大きく報道され、政府の教育政策にも少なからぬ影響を及ぼしてきましたが、今回は、前回調査から3分野とも順位を上げたことが話題となりました。

日本のPISAの報道では取り上げられませんが、実は、PISAは教育における公正(equity)の実現のために、生徒の社会的背景と学力の関係の分析に力を入れ、特に移民の子ども(外国生まれまたは外国生まれの両親から生まれた子ども)の学力向上に強い関心を示しています。2003年の調査結果をもとに、2006年には移民の子どもの学力に関する報告書(注1)を刊行しました。2003年調査に参加した41カ国・地域から、調査対象の生徒に占める移民の割合が3%以上あった17カ国・地域を選んで、移民の子どもとネイティブの子どもの学力を比較しました。その結果、移民の子どもとネイティブの子どもの間に学力差がない国(カナダ、オーストラリアなど)とある国(欧州諸国)に分かれること、また学力差がある国の中でも、移民1世より2世のほうがネイティブとの学力差が小さい国(スウェーデンなど)と大きい国(ドイツなど)に分かれることが明らかになりました。

OECDは2008年に加盟国の移民教育政策評価に関する調査プロジェクト(参加国:オランダ、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、アイルランド、オーストリア)を立ち上げ、移民の子どもの教育成果を教育へのアクセス、就学、学力の3つの観点から評価することとしました。そして、2010年に報告書(注2)を刊行し、学力格差の要因として言語や社会経済的背景による障壁を指摘し、学校や地域における移民の集中への対応などを提言しました。

また、2012年には、2009年度の調査結果を分析した報告書(注3)を刊行しました。2006年と2010年の報告書は教育局が作成しましたが、今回は教育局と雇用労働社会局が組んで作成しました。移民の子どもの多くが社会経済的に不利な条件の学校に通っていることから、個々の学校に不利な条件が集中しないようにすることを提言しています。

なお、OECDはEUと組んで、2010年には移民の子どもの労働市場への参加をテーマにした報告書(注4)も刊行しています。学力同様、移民とネイティブの就業率や失業率に格差のない国(米国、カナダ等)とある国(欧州諸国)に分かれることが示され、格差をもたらす要因を分析しています。

日本は今のところ十分なデータが集まっておらず、分析の対象に含まれていません。昨年12月に発表された各国の調査結果の概要を示す一覧でも、生徒の社会的背景の4つの項目の1つが移民ですが、日本は空欄になっています。

日本の外国人児童生徒の大半は、戦後しばらく、旧植民地出身者の子孫である在日コリアンでしたが、1990年代以降、ニューカマーと呼ばれるアジアや南米からの外国人が増え、日本語指導が必要な児童生徒が急増していきました。日本語指導に関わる教員の加配や「第二言語としての日本語(JSL)」の開発など様々な対策が取られてきましたが、全国の学校の教育内容を規定する学習指導要領には、外国人児童生徒の存在がまったく言及されておらず、外国人児童生徒教育の基本指針も示されてきませんでした。拙稿(第76回)で触れたように、ようやく今年4月から、全国で一定の質が担保された日本語指導を受けることができるように、日本語指導を「特別の教育課程」に位置づけ、学校教育の一環として行うことになりました。PISAの報告書が提言する教育政策全体の中での移民の子どもの教育の位置付けに向けて、大きな前進と言えます。

日本の外国人人口の比率は2%にも届かず、OECD加盟国の中でも際立って少ないといえます。しかし、既にその絶対数は相当な規模にあります。また、人口減少・少子高齢化とグローバル化の中、中長期的には増加が見込まれます。日本もPISAの分析結果を参考に、外国人の子どもに関するデータを集め、現状を分析すべき段階にあると言えるのではないでしょうか。

注1 OECD (2006), Where Immigrant Students Succeed: A Comparative Review of Performance and Engagement in PISA 2003, OECD Publishing.(邦訳:『移民の子どもと学力-社会的背景が学習にどんな影響を与えるのか』明石書店、2007年)

注2 OECD (2010), Closing the Gap for Immigrant Students: Policies, Practice and Performance, OECD Publishing. (邦訳:『移民の子どもと格差-学力を支える教育政策と実践』明石書店、2010年)

注3 OECD (2012), Untapped Skills: Realising the Potential of Immigrant Students, OECD Publishing.

注4 OECD (2010), Equal Opportunities?: The Labour Market Integration of the Children of Immigrants, OECD Publishing.

OECD: PISA 2012 Results
http://www.oecd.org/pisa/keyfindings/pisa-2012-results.htm

PISA IN FOCUS, 11 「学校制度は移民の生徒の増加にどのように対応しているのか?」
http://www.oecd.org/pisa/pisaproducts/pisainfocus/pisa in focus No. 11 (JPN)_final.pdf

PISA IN FOCUS, 22  「移民の生徒は、不利な条件の学校でどのような成績を収めているのだろうか?」
http://www.oecd.org/pisa/pisaproducts/pisainfocus/PISA_in_Focus_no22(jpn)_final.pdf