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第82回2014.01.22

東京・オリンピック・多文化共生

2013年9月に、2020年のオリンピック・パラリンピック大会が東京で開催されることが決定しました。1964年に次いで、2回目の開催となります。

1回目のオリンピックは、日本が高度経済成長期の真っただ中で、東京都も人口増加を続け、世界初の1000万都市(1962年到達)になった時期の開催となりました。一方、2020年の東京都は人口が1335万人でピークに達し、それ以降は人口減少が始まり、そして高齢化が加速していきます(1964年に4%、2020年に24%)。1964年のオリンピック開催に向けて、首都高速道路や新幹線など大規模なインフラ整備に力が注がれましたが、2020年のオリンピック開催に向けては、ハードよりソフトに力を入れることが望ましいでしょう。1964年の東京が「成長都市」として、経済大国への道を突き進む日本をリードしたとすれば、2020年の東京は「成熟都市」として、生活の質を重視した成熟社会に向けて日本そして世界をリードすることが期待されているのではないでしょうか。

東京都では、オリンピック・パラリンピックという世界最大の国際イベント開催に向けて、案内表示の多言語化など外国人観光客向けの取り組みや障害者も暮らしやすいユニバーサルデザインのまちづくりが進むでしょう。その際、「多文化共生(多様性)」の観点も取り入れて、国籍や民族、性別、年齢などが異なる多様な住民が共に暮らす都市をめざすことこそ、成熟都市にふさわしいでしょう。

日本は2003年に小泉首相(当時)が観光立国懇談会を主宰して以来、観光立国に力を入れてきました。それから10年目となる2013年に外国人旅行者1000万人を達成しましたが、2020年のオリンピック開催が大きな追い風となり、観光への関心がさらに高まっています。観光立国の基本理念は「住んでよし、訪れてよしの国づくり」とされています。これは、住民が愛着を持つ地域は、訪問者にとっても魅力があるという趣旨ですが、「訪れたい」魅力のある地域や国で「学びたい」、「働きたい」そして「住みたい」と外国人が思うのは自然なことと言えるでしょう。そうした意味で観光と多文化共生の推進は相乗効果が期待できます。

成熟都市のオリンピック開催のモデルとされるのが2012年に3回目のオリンピックを開催したロンドンです。ロンドンの人口は約800万人で、そのうち37%が外国生まれです。ロンドン開催が決まったのは2005年7月でしたが、ロンドン市長は、開催地選考において、ロンドンには世界が詰まっている("the world in one city")とダイバーシティ(多様性)をアピールしました。そして、開催地に選ばれると、ロンドン大会を誰もが楽しめる、歴史上最もアクセスしやすい大会にすることを約束しました。ロンドン・オリンピック・パラリンピック組織委員会(LOCOG)は2008年にダイバーシティ及びインクルージョン戦略を策定し、誰もが歓迎され、尊重されていると感じられる文化を創造することを目標に掲げました。そして、ダイバーシティ及びインクルージョン・ビジネス憲章を定め、LOCOGの雇用や調達において、マイノリティが不利にならないようにすることを目指しました。また、2010年に、ロンドンで移民統合を進める欧州都市が参加する統合都市会議が開かれ、都市の多様性と平等の推進のために、政策形成、サービス提供、雇用、調達の4分野での都市の責務を謳った「統合都市憲章」が策定されています。

欧州のインターカルチュラル・シティとの交流をめざした日韓欧多文化共生都市サミットが2012年に開催されて以来、多様性を生かした地域づくりをめざす「多文化共生2.0」(第75回参照)に関心が高まりつつありますが、全国で最も外国人住民が多い東京都こそ、そうした取り組みがふさわしい自治体と言えます。来月、東京都知事選挙がありますが、2020年に向けて、多文化共生のビジョンを掲げ、世界に開かれた都市づくりをめざす知事が現れることを期待したいと思います。

ロンドン・オリンピック・パラリンピック組織委員会ダイバーシティ及びインクルージョン戦略(LOCOG Diversity and Inclusion Strategy)
http://learninglegacy.independent.gov.uk/publications/locog-diversity-and-inclusion-strategy.php


Cities of Migration: "The World in a City: The Olympic Diversity and Inclusion Strategy"
http://citiesofmigration.ca/good_idea/the-world-in-a-city-the-olympic-diversity-and-inclusion-strategy/