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第81回2013.12.25

アメリカにおける移民統合

アメリカにおける最も優れた移民統合の取り組みの表彰式が、2013年12月にワシントンDCで開かれました。これは、アメリカの移民政策関連のシンクタンクとして世界的に有名な移民政策研究所(ワシントンDC)の移民統合政策全国センターが毎年行っている事業で、2009年に始まり、今年で5年めとなります。

アメリカは世界で最も多くの移民を受け入れている移民大国ですが、他の受入れ国と異なり、統合政策を所管する国の組織がなく、移民政策の論議においても、出入国政策に偏りがちで、統合政策への関心はあまり高いとは言えませんでした。そうした中で、移民政策研究所は移民統合政策全国センターを設立し、統合政策の調査や研究に重点を置き、優れた移民統合の取り組みの表彰を始めました。

移民統合の賞の名称は、イー・プルーリバス・ユーナム(E Pluribus Unum) 賞といいます。"E Pluribus Unum" とは、ラテン語で「多数から一つへ」を意味し、アメリカの国章にも記されているアメリカの事実上のモットーです。

今年の賞は、以下の3つの団体が受賞し、それぞれ5万ドルの賞金を手にしました。

1)カルロス・ロザリオ国際公立チャーター・スクール(ワシントンDC)
 同校はアメリカ初の成人を対象としたチャーター・スクール(保護者、教師、地域団体などが運営する公立学校)です。仕事に直結した英語教育と実務研修に力を入れています。1970年に草の根の市民団体としてスタートし、1998年にチャーター・スクールとなった同校は、これまで6万人を超える移民や難民が英語を学び、高校卒業資格の他、料理や保健、ITサポートなど様々な資格を取得するのを支援してきました。午前、午後、夕方の三つのコースがあり、毎年3千人の成人生徒が学んでいます。

2)マサチューセッツ移民難民アドボカシー連合(MIRA)
 MIRAは、移民と難民の権利擁護の活動(アドボカシー)を進めるアメリカ北東部で最も活発な市民団体の連合です。数百万人単位で非合法移民の合法化を進める移民改革規制法の成立を受けて、マサチューセッツ州ボストン市に1987年に設立されました。MIRAは同時期に生まれたニューヨーク州、カリフォルニア州、テキサス州やイリノイ州の同様な連合と全国的なネットワークを形成し、連邦政府に対するアドボカシーも始めました。これまで、マサチューセッツ州政府の移民統合政策づくりに中心的役割を果たしてきましたが、2011年には新アメリカ人統合研究所を設立し、州政府や基礎自治体、移民・難民コミュニティ、企業やNPOと連携して、移民統合に関する研究や政策提言を行っています。

3)地域発展センター(NDC)
 NDCは、ミネソタ州のミネアポリス市とセントポール市(両市あわせてツインシティと呼ばれる)の低所得地域の再活性化を起業支援によって進める非営利組織です。1993年以来、25の地域で4250人(内1500人が移民)の研修を行い、小規模ビジネスに対する相談事業や資金援助を行ってきました。現在、NDCの支援を受けている450のビジネスの中には、トルティーヤ工場、タクシー会社、理髪店やエチオピア料理店が含まれます。NDCが運営する6つのインキュベータ・オフィスには120の小規模ビジネスが拠点を置いています。

一方、カリフォルニア州オークランド市に拠点を置き、8つの州とワシントンDCで910万人が加入する健康保険を提供するカイザー・ペルマネンテが「企業リーダーシップ賞」を受賞しました。移民が保健医療で不利益を受けないように、患者の言語や文化のニーズに応えた保健医療システムを整備してきました。特に保健医療の通訳を担うスタッフや英語以外の言語を話す医師の育成に力をいれました。

受賞した団体の活動を知ると、アメリカは市民社会が主役となって移民の受け入れを進めていることがよくわかります。

移民政策研究所のイー・プルーリバス・ユーナム賞
http://www.migrationinformation.org/integrationawards/index.cfm

カルロス・ロザリオ国際公立チャーター・スクール
http://www.carlosrosario.org

マサチューセッツ移民難民アドボカシー連合
http://www.miracoalition.org/

地域発展センター
http://www.ndc-mn.org

カイザー・ペルマネンテ
https://healthy.kaiserpermanente.org/html/kaiser/index.shtml