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第78回2013.09.25

タンペレ・オスロ・ベルゲン

2013年9月に、北欧の三都市を訪問しました。最初に訪問したのは、フィンランドで首都ヘルシンキに次いで人口の多い都市タンペレです。欧州関係者の間では、欧州共通移民政策の確立に向けて最初の一歩を踏み出し、「タンペレ・アジェンダ」や「タンペレ・プログラム」を採択した1999年の欧州理事会の開催地としても知られています。タンペレでは、第72回の拙稿で紹介したユーロシティーズの第6回統合都市会議(Integrating Cities Conference)が開かれました。この会議は2日間の日程で開かれ、全体会、ワークショップ、ネットワーキングセッション、タンペレ市内の視察が盛り込まれていました。

 視察プログラムでは、移民の多い公立小学校を訪問し、世界最高水準にあるフィンランドの学校教育の実践を垣間見ることができましたが、会議の議論の中では、以下の二点が印象に残りました。一つは、欧州委員会の内務総局(移民政策を所管)の局長と参加都市の副市長(市議会議員)らの間で行われたディスカッションです。自治体からは、EU市民(特に東欧市民)の受け入れが欧州委員会から自治体への支援の対象となっていないことや、欧州委員会が非正規滞在者の問題を取り上げないことへの不満が出されました。

 もう一つは、欧州都市ネットワーク間の協力をテーマにしたワークショップです。参加したパネリストは、ユーロシティーズに加え、欧州評議会のインターカルチュラル・シティ、ユネスコのイニシアティブで始まった欧州反人種主義都市連合、カナダの財団が主宰するシティーズ・オブ・マイグレーションなどの代表者でした。討論の中で興味深かったのは、インターネットを使ってグローバルなネットワークを志向するシティーズ・オブ・マイグレーションのパネリストから、欧州都市のネットワークが「内向き(insular)」ではないかと批判的コメントがあったことでした。

 会議では、2012年に始まったインプリメンタリング(ImpleMentoring)プロジェクトの中間報告もありました。政策と実践の間のギャップを埋めることを目的に都市間の相互サポートを推進するこのプロジェクトは、参加する14都市が助言都市(メンター)と実施都市に分かれ、4つのテーマ(市民の意識向上、市のサービス提供における多様性、多様な地域における参加、移民の諮問機関を通じた政治参加)ごとに、新たなツールキットを作成します。都市が都市に助言(例えば、ダブリンがロッテルダムに助言)する興味深いプロジェクトです。

 タンペレの会議を終え、次に訪問したのが、ノルウェーの首都オスロです。人口約500万人のノルウェーはヨーロッパの小国ですが、1969年に北海油田が発見されて以来、油田やガス田の開発が進み、現在、経済的にも社会的にも最も豊かな国とみられています。平和外交や国際協力に積極的に取り組み、人道大国として知られるノルウェーは難民の受け入れにも積極的ですが、この10年余り、外国人労働者の受け入れも急速に進みつつあり、現在、移民の比率は全人口の約13%となっています。

 その首都オスロは世界で最も豊かで成長を続ける都市の一つです。現在の人口は約63万人で、その約3割が移民です。オスロでは、市立の中学校と高校を訪問し、ヘイトスピーチに関して、ノルウェー反人種主義センターやノルウェー・ヒューマニスト協会等関係者にインタビューし、ノルウェーの経済団体が実施するグローバル・フューチャーという、若い移民を対象とした人材育成プログラムについて話を伺いました。

 オスロは、欧州評議会が進めるインターカルチュラル・シティ・プログラムの移民統合政策の指標(インターカルチュラル・シティ・インデックス)で、スイスのヌーシャテル州と並んで、最も高い評価を得た都市でもあります。その背景には高い経済力があることは間違いありませんが、2001年にオスロ・エクストラ・ラージュ(OXLO)と呼ばれるキャンペーンを始めて以来、着実に移民受け入れの取り組みを進めてきていることを感じました。特に50年後を見据えて、最新設備を備えた学校校舎を建てていることが印象に残りました。ただし、オスロは歴代政権の中心を担ってきた労働党の移民政策を批判する青年によるテロ事件が2011年7月に起きた地でもあり、2013年9月の総選挙で、移民受け入れに批判的な進歩党が初めて政権入りすることとなり、今後も国政の影響を大きく受けることになりそうです。

 最後に訪問したのが、ノルウェー第2の都市ベルゲンです。フィヨルドで有名な観光都市でもあります。人口27万人のベルゲンは、その約15%が移民です。ベルゲンでは、ベルゲン市の副市長や人事担当者にインタビューし、スタッフの3割を世界各国からの移民が占めている老人ホームや移民のためのノルウェー語学校を訪問しました。まだオスロほど移民が多いわけではありませんが、近年、急速に移民が増えつつあり、市の職員としてマイノリティを積極的に雇用することを含め、態勢整備を急いでいる様子がわかりました。その取り組みの中では、今年8月、若い難民と地元の若者が共に生活する宿舎を全国に先駆けて開設したことが特に印象的でした。

 なお、筆者は、今回の滞在中、タンペレの会議のワークショップとオスロのノルウェー都市・地方研究所で、日本の自治体の多文化共生の取り組みについて報告しました。

ユーロシティーズ
http://www.eurocities.eu/

第6回統合都市会議
http://www.integratingcities.eu/integrating-cities/Events/Tampere-2013

Etela-Hervanta Comprehensive School in Tampere
http://etelahervannankoulu.yhdistysavain.fi/(フィンランド語)

インターカルチュラル・シティーズ・プログラム
http://www.coe.int/t/dg4/cultureheritage/culture/Cities/Default_en.asp

欧州反人種主義都市連合(ECCAR)
http://www.eccar.info/

シティーズ・オブ・マイグレーション
http://citiesofmigration.ca/

インプリメンタリング・プロジェクト: ロッテルダム (助言:ダブリン)
https://vimeo.com/74808344

インプリメンタリング・プロジェクト: コペンハーゲン(助言:マンチェスター)
https://vimeo.com/74812961

インプリメンタリング・プロジェクト:ジェノバとミラン(助言:オスロとアテネ)
https://vimeo.com/74812960

インプリメンタリング・プロジェクト: リガ(助言:ジョノバ)
https://vimeo.com/74820059

オスロ市役所:移民のための情報
http://www.oslo.kommune.no/english/immigrants/

Jordal School (オスロ市)
http://www.jordal.gs.oslo.no/(ノルウェー語)

Bjornholt School (オスロ市)
http://www.bjornholt.sk.oslo.no/(ノルウェー語)

ノルウェー反人種主義センター
http://www.antirasistisk-senter.no/english.109478.no.html

ノルウェー・ヒューマニスト協会
http://www.human.no/Servicemeny/English/

ベルゲン市役所
http://www.nygardskole.no/english

Nygard language school (ベルゲン市)
http://www.nygardskole.no/(ノルウェー語)