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第76回2013.07.24

文部科学省の取り組み

2013年6月に教育振興基本計画が策定されました。教育基本法(2006年)に示された理念の実現と日本の教育振興に関する施策の総合的・計画的な推進を図るために策定されたもので、今回は第2期(2013~2017年度)の計画となります。

 今回の計画では、自立・協働・創造のための生涯学習社会の構築をめざし、教育行政の4つの基本的方向性として、「社会を生き抜く力の養成」「未来への飛躍を実現する人材の養成」「学びのセーフティネットの構築」「絆づくりと活力あるコミュニティの形成」を掲げています。「社会を生き抜く力の養成」の中で、主に初等中等教育段階の児童生徒を対象とした取り組みとして、7つの基本施策があります。その中の一つが「特別なニーズに対応した教育の推進」であり、以下のような記述があります。(下線は筆者による。以下も同様。)

海外で学ぶ子どもや帰国児童生徒,外国人の子どもに対する教育の充実
 海外で学ぶ子どもたちの教育環境の整備・充実を図るため,在外教育施設に対して,引き続き質の高い教員の派遣や教材整備等を行う。また,帰国・外国人児童生徒等に対するきめ細かな指導・支援体制を整備するため,個々の実態を踏まえた日本語指導の在り方の検討,教員や支援員の確保及びその資質の向上等に取り組む。このほか,高等学校における受入れ状況を把握し,編入学機会の拡大を図る。さらに,不登校・不就学の定住外国人の子どもに対して日本語等の指導や学習習慣の確保を図るための場を外国人集住都市等に設け,主に公立学校への円滑な転入ができるようにする。

 第1期(2008~2012年度)の計画にも「特別なニーズに対応した教育」の項目があり、そこには、以下のように記述されていました。

外国人児童生徒等の教育及び海外子女教育の推進
 小・中・高等学校等における外国人児童生徒等の受入体制の整備や指導の推進のため,母語の話せる支援員を含む外国人児童生徒等の指導に当たる人材の確保や資質の向上,指導方法の研究及び改善を行うとともに,関係府省との連携を図りながら,地方公共団体における先進的なモデル事業例の情報提供など就学の促進等の取組を推進する。また,在外教育施設に在籍する児童生徒への教育を推進する。

 第2回計画を第1回計画と比較すると、いずれも海外の日本人の教育と国内の外国人の教育にかかわる課題が併記されています。第2回計画では、第1回計画策定後のリーマンショックにより深刻化した不就学問題や高校における受け入れに言及しています。

 今回の基本計画では、4つの基本的方向性を実現するための共通理念の一つに「教育における多様性の尊重」を掲げ、「価値観,性別,世代,国籍などの差違を超えて全ての人々が協働するための教育」(25-26頁)を謳ってはいるものの、外国人児童生徒教育の位置づけは小さく、多文化共生への言及もありません。文部科学省が2011年3月に策定した「外国人児童生徒受入れの手引き」では、明確に多文化共生の観点が打ち出されていました。

 一方、2013年5月末には、文科省の「日本語指導が必要な児童生徒を対象とした指導の在り方に関する検討会議」(2012年4月設置)が審議のまとめを公表しました。同会議は、2010年11月に同省に設置された「日本語指導が必要な児童生徒の教育の充実のための検討会」が行った、学校の教育課程に日本語指導を位置付けるにあたっての論点整理を受けて、設置されたものです。

 今回の検討会議では、全国で一定の質が担保された日本語指導を受けることができるように、そして日本語指導が必要な児童生徒が学校において主体的に学び、希望する進路を選択できる機会を保障することをめざして、日本語指導を「特別の教育課程」に位置づけ、学校教育の一環として行うことを審議のまとめとして示しています。

 これまで、一部の外国人の多い自治体を除くと、日本語指導が担当教員のやる気次第になっていたような状況から、学校教育の中で正規に位置づけられたことは大きな前進と言えます。但し、日本語教育の専門性を有する教員が日本語指導を担当する仕組みづくりについては言及されておらず、今後早急に検討する必要があると言えます。現状では、そうした専門性を有しない教員が日本語指導にあたっている場合が少なくないからです。ちなみに、移民国家の代表例であるアメリカでは、拙稿(第45回)で紹介したように、移民の児童生徒の英語教育を担当するのは、通常の教員免許に加え、ESL(第二言語としての英語)やバイリンガル教育の免許も持った教員となります。

教育振興基本計画
http://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/index.htm

外国人児童生徒受入れの手引き
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/1304668.htm

日本語指導が必要な児童生徒を対象とした指導の在り方に関する検討会議
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/kaigi/1321199.htm