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第73回2013.04.24

ドイツ・ベルリン・ノイケルン

外国人受入れに関して、ヨーロッパの中でよく日本と比較されてきたのがドイツです。どちらも血統主義の国籍法を持ち、「単一民族国家」としての意識が強い国と見られてきました。しかし、1970年代以降、外国人労働者の定住化が進んだドイツは、1998年10月の社民党(SPD)・緑の党連立政権(ゲアハルト・シュレーダー首相)の成立を機に、帰化の居住要件を緩和し、出生地主義を取り入れた国籍法に改め、2004年には初めて「統合の推進」を掲げ、「統合コース(integrationskurs)」の導入を定めた移住法を制定しました(2005年1月施行)。2005年にスタートした統合コースはドイツ語(600時間)とドイツの法秩序・文化・歴史を学ぶオリエンテーション(30時間、現在は45時間)からなります。統合コースを所管するのは、新たに内務省に設置された連邦移住難民庁(BAMF)です。

 2005年11月にキリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟(CDU/CSU)と社民党の大連立政権(アンゲラ・メルケル首相)が成立しました。2006年6月には、2005年に実施したマイクロセンサス(小規模国勢調査)の結果が公表され、外国人と外国出身のドイツ国民をあわせた「移民の背景を有する人」がドイツの総人口の19%(うち外国人は9%)を占めることが初めて明らかになりました。そして、2006年7月、メルケル首相は統合サミット(Integrationsgipfel)を主宰しました。統合サミットは連邦政府、州政府、自治体や市民団体、移民組織など統合政策の関係者を集めたもので、これ以降、2007年、2008年、2010年、2012年と開かれています。

 これまでのサミットの成果として、第2回サミット(2007年)で採択された全国統合計画があります。全国統合計画は、連邦政府、州政府、地方自治体及び市民社会の統合への取り組みを初めて共通の基盤の上に置くことを目指したもので、公的機関及び民間団体による統合のための施策が取りまとめられました。そして、第5回サミット(2012年)では、統合に関する全国行動計画が採択されました。行動計画では、公的機関及び民間団体が共通の目的のもとそれぞれ具体的施策と期間を区切った達成目標を掲げました。

 2013年2月に、私はベルリンを訪問する機会を得て、統合政策関係機関を訪問しました。まず、国レベルでは、移住・難民・統合担当官事務所を訪問し、前述の全国統合計画や全国行動計画策定の背景や経緯について伺いました。同事務所と内務省の二つの組織がドイツ政府の統合政策を統括しているのがドイツの移民受け入れ体制の特徴の一つと言えます。また、移民女性に関する取り組みを進める家族・高齢者・女性・若者省も訪問しました。移民女性とりわけ母親に着目するのは、最近の欧州の統合政策の新しい流れと言えるかもしれません。

 次にドイツの都市の中でも、移民統合に積極的に取り組んでいることで知られる首都ベルリン市政府を訪問しました。ベルリン市の人口は約350万人で、移民の背景を有する市民は25%近い(うち外国人は約14%)とみられています。ドイツは16の州(Land)から構成される連邦国家ですが、ベルリン市は州としての権限を認められており、ドイツの都市の中でも特に大きな影響力を有しています。1981年に外国人問題担当官を設けたベルリン市は、移民統合に向けた独自の取り組みの歴史があり、移民の都市として、文化的多様性を市の特徴として積極的にアピールしてきました。もちろん、ベルリン市の移民受け入れに課題がないわけではなく、移民の失業や移民の子どもの低学力等の問題があります。

 そんな課題が最も深刻とされるのが、ベルリン市の12区の一つであるノイケルン区です。インターカルチュラル・シティ・プログラムのメンバーでもあるノイケルン区を、私は一日かけて視察する機会を得ました。まず、250人の子どもが通う、ノイケルン区で最も大きな幼稚園を訪問しました。子どもたちの国籍は30カ国に及びますが、ドイツ人の子どもはほとんどいないとのことでした。続いて、小学生と中学生が通う公立学校を訪問しました。ここも、9割以上が移民の背景を有する子どもたちで、2年前からルーマニア人(その大半がロマと呼ばれる少数民族)の子どもを約90名受け入れており、2名のルーマニア人スタッフが教えている取り出し教室を見学しました。最後に、ドイツの成人学校でおこなわれているドイツ語教室を見学しました。ユーロ危機後は南ヨーロッパからの移民が多いとのことで、当日も半数がそうした生徒でした。

 ベルリン滞在中には、緑の党の共同党首で、トルコ系移民2世でもあるジェム・エズデミル氏と緑の党のシンクタンクであるハインリッヒ・ベル財団で移民政策を担当するメコネン・メスゲーナ氏にもお会いしました。エズデミル氏はドイツ初の移民の背景を有する党首であり、ドイツのオバマとしても知られています。一方、メスゲーナ氏は自身もアフリカ北東部のエリトリア出身の移民ですが、ベルリンが様々な問題を抱えながら、移民にとってドイツで最も魅力的な都市であることを強調していたのが印象的でした。


ドイツ内務省:移住と統合
http://www.bmi.bund.de/EN/Themen/MigrationIntegration/migrationintegration_node.html

ベルリン市統合・移住担当官
http://www.berlin.de/lb/intmig/index.en.html

ジェム・エズデミル氏の公式ウェブサイト(ドイツ語)
http://www.oezdemir.de/index.html