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第66回2012.09.26

ポルトガルとスペイン

2012年9月の第4週に、ポルトガルの首都リスボンとスペインのバルセロナで、相次いでインターカルチュラル・シティ(ICC)プログラムが、それぞれ2日間の日程で開かれました。

 ポルトガルとスペインは、移民の受け入れに関する政府の取り組みが本格化したのがいずれも1990年代になってからで、西欧における移民受け入れの後発国といえます。しかし、ポルトガルは、移民統合政策の国際比較の指標では、欧米諸国の中でスウェーデンに次いで2番目に高い評価を得ています(スペインは8位)。また、インターカルチュラル・シティの取り組みでは、どちらも独特な展開を示しており、今回、両国を代表する二つの都市でプログラムが開催されました。

 まず、リスボンで開かれたセミナーのテーマは「都市の安全」で、警察関係者も多く参加しました。参加都市の様々な取り組みの発表がありましたが、特に興味深かった二つの取り組みを紹介したいと思います。

 一つは、リスボン市による「コミュニティ・ポリーシング(Community Policing)」の取り組みです。これは、警察と地域住民が協力して、地域の安全を守ることを指します。リスボン市では、市の警察がICCプログラムに高い関心を示し、今回のセミナーにも積極的に参加しました。これは、他の都市では見られない特徴のようです。警察は、治安の悪い市内の特定地域で、2010年頃から市民団体や住民組織と連携して、パトロール活動を行い、地域がかかえる様々な問題にも取り組んでいます。また、リスボン市が移民の多い地域で始めた文化祭にも、警察が全面的に協力しています。なお、2012年1月に東京で開かれた多文化共生都市サミットに参加したアントニオ・コスタ・リスボン市長は、市の積極的姿勢を示すため、市長室を市の中心部にある市役所からこの地域に移しています。

 もう一つは、ロッテルダム市(オランダ)が2001年に始めた安全指数(safety index)の取り組みです。ロッテルダム市は人口約61万人で、オランダ第二の大都市ですが、市内の64地域ごとに、1から10のスケール(7.1以上が安全な地域、3.9以下が安全でない地域)に基づいた安全指数を公表しています。これは、様々な犯罪件数など客観的データと住民の安心感といった主観的データをあわせたものです。2001年から2011年の10年の間に、15あった安全な地域が33に増え、12あった安全でない地域はゼロになったようです。なお、コペンハーゲン市(デンマーク)もロッテルダム市を参考に、2009年から安全指数を始めています。

 次に、バルセロナ市のプログラムは、バルセロナ欧州サマースクールと呼ばれました。これは、ICCプログラムに参加する欧州都市だけでなく、スペインのインターカルチュラル・シティの国内ネットワークに参加する都市の参加を前提とした名称とのことでした。現在、欧州には、インターカルチュラル・シティの国内ネットワークが、イタリア、スペイン、ウクライナ、ノルウェイ、ポルトガル(今回のセミナー時に設立)の5か国にありますが、2011年に設立されたスペインのネットワークがユニークなのは、バルセロナにあるポンペイ・ファブラ大学のイニシアティブによって生まれたこと、そして各都市の多文化共生政策を評価する指数を開発したり、施策のマニュアルづくりに取り組んでいることです。

 今回のサマースクールのテーマも多文化共生政策(intercultural policies)の実施と評価で、多文化共生という概念をいかに政策として具体化するか、そして政策をどのように評価するかについてでした。

 ヨーロッパでは、現在、さまざまな分野での政策評価に指数が用いられており、インターカルチュラル・シティでも、ICC指数が開発されています。ICC指数に関する報告では、プログラムに参加している、人口が20万以上の都市と20万未満の都市の間で、指数の結果に大きな差が見られないことなど興味深い点が紹介されましたが、現在の指数が政策のインプットの評価にとどまっていて、政策のアウトプットの評価は今後の課題であることなど、その限界も指摘されました。

 筆者は、都市の政策を共通の指数を使って国際的に比較する際(特に欧州とアジアの都市を比較する際)に、国ごとに異なる法律や政策枠組みなどの影響をどう考えるかが気になりましたが、少なくともICC指数がそれぞれの都市の政策を評価するよい出発点となることは確かだと思いました。

 なお、今回のサマースクールでは、バルセロナ市の取り組みについてあまり学ぶ機会がありませんでしたが、バルセロナ市は欧州を代表するインターカルチュラル・シティの一つとして知られています。2010年にインターカルチュラル・プランを策定しており、2011年7月に市長が交代しても、市議会の多数を占める主要政党間の合意によって、同プランが支持されたことが会議の最後に報告されました。

リスボン・セミナーのプログラム
http://www.coe.int/t/dg4/cultureheritage/culture/Cities/meetings
/Lisbon102012_en.pdf


バルセロナ欧州サマースクールのプログラム
http://www.coe.int/t/dg4/cultureheritage/culture/Cities/meetings
/Barcelona21092012_en.pdf


Spanish Network of Intercultural Cities
http://www.upf.edu/gritim-reci/en/

Intercultural Cities Index
http://www.coe.int/t/dg4/cultureheritage/culture/Cities/Index/default_en.asp

Barcelona Intercultural Plan
http://www.bcn.cat/novaciutadania/pdf/en
/PlaBCNInterculturalitatAng170510_en.pdf