メールマガジン

第61回2012.04.25

イギリス

今月からイギリスに滞在し、オックスフォード大学で欧州の移民政策について研究をしています。これから一年間、主にヨーロッパにおける多文化共生の動向について報告をしようと思います。初回は、イギリスの移民受け入れの現状について紹介いたします。

 イギリスの人口は約6200万人で、外国人の比率は7.3%(約450万人)、外国生まれの人は11.6%(約710万人)となります。EU域外の外国人は約4%、EU域外の外国生まれの人は8%弱になります。

 イギリスは、19世紀以来、アイルランド人や東欧からのユダヤ系移民を受け入れてきた歴史がありますが、大規模な移民の受入れが進んだのは第2次大戦後のことです(1951年の外国生まれの人の比率は4.2%)。戦後間もない1948年に、旧植民地出身者に対してイギリス市民としての権利が認められ、特に南アジアやカリブ出身者が急増しました。1950年代には移民の増加による軋轢が生じ、1958年にはロンドン西部のノッティングヒルで大規模な人種暴動が起きました。その結果、1962年に旧植民地出身者の入国が規制されるとともに(1968年に規制強化、1971年に優遇廃止)、1965年には人種主義を禁止する人種関係法が初めて制定され(1968年、1976年に改定)、移民の入国制限と民族的少数者(エスニックマイノリティ)への差別禁止を組み合わせた戦後英国の移民政策が確立します。

 1979年にサッチャー保守党政権が誕生しますが、基本的な政策は引き継がれました。1980年代を通じて、移民の入国規制が強化される一方で、民族的少数者の権利を保障する取り組みが進められます。1990年代になると、東欧から庇護申請者を中心とする移民が急増すとともに、社会から隔離された移民コミュニティの問題が関心を集めます。

 1997年にブレア首相率いる労働党政権が誕生すると、労働許可要件が緩和され、2002年に高度人材受け入れプログラム(ポイント制度)が始まるなど、積極的な移民政策(「選択的受け入れ」)が推進されます。また、2004年にEUに新たに加入した東欧8か国からの労働移動には制限がないため、東欧出身の移民も増加しました。一方、2000年代を通じて移民の増加や受け入れのあり方、特に多文化主義への批判も高まります。2005年2月には出入国管理5か年計画が策定され、特に同年7月のロンドン同時多発テロ以降、移民政策の見直しが加速しました。そして、5か年計画に基づいて、複雑な出入国管理制度を簡素化し、審査基準を明確化するため、外国人労働者と留学生に対するポイント制度が、2008年から順次導入されました。このポイント制度は、入国する外国人を「高技能労働者」「技能労働者」「低技能労働者」「学生」「一時的労働者/青年交流参加者」の5つ(「低技能労働者」枠は実施せず)に分類し、それぞれ評価項目の配点を公表し、当該外国人の評価を点数化するものです。

 2010年5月に、キャメロン首相率いる保守・自民連立政権が誕生しました。新政権は、移民の受け入れ数に上限を設け、大幅に減らすことに力点を置いています。統合政策については、今年の2月になってようやく、コミュニティ・地方自治省が「統合のための条件を創る」と題した報告書を発表し、地域主導によるアプローチをとることを強調しています。

 最後に、イギリスの統合政策の特徴に触れておきたいと思います。2010年の移民統合政策指標(MIPEX)による評価では、欧州と北米合わせた31か国中、ドイツと並ぶ11位となっています。分野別にみると、特に反差別の取り組みが、カナダ、アメリカ、スウェーデンに次ぐ第4位と高く評価されています。次いで、教育の取り組みも第7位で比較的高い評価となっています。

 私は、まだイギリスに来て一か月も経っていませんが、会ったイギリス人に移民政策の研究をしていると話すと、複雑な表情を浮かべる人が少なくありません。それだけ、イギリスにとって重い課題なのかもしれません。今回は主に国の取り組みをまとめたものですが、イギリス滞在中に自治体の視察なども行い、できるだけ多面的にとらえていきたいと思います。


参考文献:
Data and Resources, The Migration Observatory at the University of Oxford
http://migrationobservatory.ox.ac.uk/data-and-resources

United Kingdom, Migration Information Source, Migration Policy Institute
http://www.migrationinformation.org/Resources/

United Kingdom, MIPEX, Migration Policy Group
http://www.mipex.eu/uk

Department of Communities and Local Governments, "Creating the Conditions for Integration," 2012